日本の第五世代コンピュータ・プロジェクトの成功
に関するレポート

Philip Treleaven

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 日本国外でのFGCSプロジェクトのインパクトは、情報技術を始めとする分野の政
府の出資する研究の実施方法を変えたことである。FGCS国際会議以前の欧州の状況は
以下のような状況であった。

 1.産業と大学の間の交流がたとえ同じ国内であってもほとんどなかった。

 2.産業には新しいコンセプトはほとんどなく、大学における研究は本当に純粋な
  理論研究しかしていなかった。

 3.同じ欧州の中でも、国が違えば企業と大学の交流はほとんどなかった。

 4.たいていの研究者は技術面のリーダーシップは、アメリカをあてにしていた。

 FGCS国際会議は、出席した各国の代表に多大なインパクトを与えた。彼らの下した
2つの結論は、第1には、日本の政府が産業技術研究を組織するよりよい方法をとって
いるということ、第2には、FGCSプロジェクトが日本を世界のコンピュータ分野のリー
ダーにできるであろうというものであった。このプロジェクトに呼応する形で、ECで
はESPRITプロジェクトが始まり、各国が同様の国家プロジェクトを打ち立て、情報技
術の研究に資金を供出するようになった。例えば、イギリスはALVEYプロジェクトを
立ち上げている。さらに、FGCSプロジェクトは欧州に以下のようなインパクトを与え
た。

 1.precompetitiveな共同研究開発が政府の出資するプロジェクトの標準となった。

 2.実際、研究はますます応用指向を強めており、製品開発に向かって研究成果を利用
  する大企業と共同で行われている。

 3.企業と大学の強い絆が作られた。

 4.ECでは、このような研究プログラムにより研究コミュニティが作られた。ロンド
  ン大学は、現在、英国国内の企業よりもPHILIPS(蘭)、SIEMENS(独)、THOM-
  SON(仏)といった海外の企業と密接な関係にある。

 さらに、特にECの手によって同様の共同研究プログラムが数多く立ち上げられるこ
ととなった。

 このように、FGCSプロジェクトの欧州における研究の組織作りの手法に関する業
績は、いくら強調してもし過ぎることはないのである。

 FGCSプロジェクトの第3の成果は、このプロジェクトの計画そのものである。私は
初期の計画案を読んだ時のこと、また、その時に未来のコンピュータの研究のための道
案内図を手にしているかのように感じたことを未だに覚えている。

 私はFGCSプロジェクトの最も重要な面は何かとか、日本が研究を組織立てる際の
最も重要な点は何かと問われた場合、計画の立て方自体がもっとも価値があるものだと
答えている。すなわち、日本の指導的立場にある主要な専門家を集め、世界の最も優秀
な人達から利用可能な情報をできる限り集め、この情報を付き合わせ、未来像のコンセ
ンサスを打ち立て、その計画を広めた、特に日本の産業界に広めたことに価値があるの


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