FGCSプロジェクトの評価に関する報告

Wolfgang Bibel
Technical University Darmstadt
Germany

1992年6月4日

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 なかには、並列ロジックに基づくアプローチを、このようにプロジェクトの遅い段階で
評価するのは間違いであるという人もいる。一方、この議論には指摘すべき点がある。それ
は、単に魅力的なアプリケーションからのみ強い印象を受けるという理由で、計算機科学界
の人々が、これまでこのアプローチの詳細な点にほとんど興味を示さなかったことである。
一方、マシンと基本ソフトウェアを完成させなければ、採用したアプローチの正しさをどう
やって証明できるであろうか。私は、これは視野の狭い議論だと思う。このような長い期間
の目標を定めてブロジェクトを遂行し、それを比較的長い期間にわたって変更せずに保つの
は、日本的な方法の大きな長所である。

 もう1つ問題となる可能性のある点は、特にKL1を効率的に実行するためにのみ構築さ
れた、PIMマシンの特殊化した性質である。同じような目的のためならば、汎用目的の並
列マシン(この会議の招待講演で発表されたJ-machineなど)も同じように役に立つので
はあるまいか。これは良い質問であるが、現時点では十分に満足のいく方法で答えることは
できない。将来、正確にこの項目に焦点を当てた実験で得られた結果でのみ議論が可能であ
る。特殊化が差を生まないとしたら、それは私にとって驚きであり、私は差が生じると信じ
ている。特に論理型言語(手続き型言語や関数型言語ではない)の実装では、必要な論理演
算を実行するために特殊化されたハードウェアを使用するのは非常に重大なことである。現
在は、マシン開発の進歩がまだこの利点を先へ押しやっているようである。特殊化されたマ
シンが動作可能になるまでに、すでに汎用マシンが性能上で非常に高度化しており、特殊化
されていない不利を十分に補うことができるほどになっている。しかし、私は、最終的には
プログラミングのスタイル(論理型、関数型、手続き型)に専用のマシンが、特にロジック
プログラミングの場合には重要になると確信している。したがって、FGCSプロジェクト
で遂行された実験は、将来のロジックベースのマシン設計にとって非常に重要なものとなる
であろう。この評価を判断する場合には、信頼性の高いソフトウェアの迅速な作成に関する
ロジックの価値について、すでに前の項で私が説明したことを心に留めておかなければなら
ない。なぜなら、マシンの比較を行う際に、多くの人はソフトウェアの作成にかかる工数と
いう意味での投資を忘れているからである。

 KL1の選択に関しては、これが純粋な形式での論理型言語ではないという点を考察しな
ければならない。この指摘は事実であるが、しかし私は、KL1が、この特定言語の設計を
現時点で達成するための最善の妥協点であると信じている。この点については、将来のプロ
ジェクトでは新しいより改善されたアプローチがとられるものと期待している。しかし、将
来の科学的な進歩によってその成果がいくつかの点で改善されるのは、いつの時代でもすべ
てのプロジェクトの運命である。

5 将来の見通し

FGCSプロジェクトの傑出した成功を考えると、高い価値を持つICOTのインフラストラ
クチャや、現在達成されているマシンおよびソフトウェアに関する基盤を廃棄してしまうの
は労力の無駄であると考える。言い替えれば、私は、ICOTが、限定された期間(たとえ
ば5年)だけ何らかの形で存続するよう強くお勧めする。そして、以下の作業を遂行すべき
である。

  ・その本質的な機能について、マシンとソフトウェアシステムを評価する。

  ・多様なアプリケーションで成果を利用する。

  ・システムの保守管理を行う。


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