FGCSプロジェクトの評価に関する報告

Wolfgang Bibel
Technical University Darmstadt
Germany

1992年6月4日

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アメリカ(MCCなど)、ヨーロッバ(ECRC,SICS,ESPRIT,Alveyなど)およびそ
の他の地域に主要な研究機関やプロジェクトが存在する。これらの研究機関やプロジェクト
は、すべて情報処理技術の発展に寄与している。

 FGCSプロジェクトの大きな成果および成功の1つに、日本の情報処理技術の研究およ
び開発のインフラストラクチャに及ぼした効果がある。非常に賢明な構成により、日本の企
業および大学の数百人にものぼる若い研究者たちが、実際に最先端の情報処理技術を学ぶこ
とができた。これは、ICOTと企業および大学とのつながり、さらに研究者は研究機関か
らICOTに出向して一定期間留まった後に、その研究機関に戻るというICOTの方針によ
るものである。これらの研究者たちは、単なる教育で得られる以上のものを学び得るばかり
でなく、国際貢献の場に触れることができた。そして、現在はそれぞれの研究機関で、この
交流を継続する可能性を享受している。このプロジェクト以前は、日本は、国際的な研究社
会に参加するうえで問題を抱えていた。したがって、私は、この効果は、将来、科学的にも
また経済的にも情報技術において日本がリーダーになり続けるために非常に重要なものである
と考える。ドイツ人として、私は、我国がこの点、特にマシンの設計とアーキテクチャの分
野で同じような賢明な行動をとることを期待する。

 このブロジェクトは、日本のインフラストラクチャを変革したばかりでなく、国際的な
研究コミュニティのインフラストラクチャも変革した。かつて欧米の科学者たちは日本の科
学者を仲間として真剣に考慮したことはなかった。現在日本の情報技術の科学者たちは、他
の欧米の科学者と同様に対等のパートナーと見なされている。日本の科学者たちは、その成
果を以前よりも活発に国際的なジャーナルや会議に発表している。逆に、日本のジャーナル
(第五世代コンピュータシステムジャーナルなど)や日本の会議(FGCSなど)は、世界中
の科学者たちから、科学的な成果を発表する名誉ある場と考えられている。1997年に日本
がもう一度、最も影響と規模の大きい情報技術に関する会議IJCAIを開催するという事実
は、世界中が日本の研究者たちとの関係の重大さを認識していることを示すものである。

 最後に、そして最も重要なことであるが、私は、この傑出したプロジェクトの科学的な
成果から本当に深い感銘を受けた。我々の分野で初めて、ハードウェアとソフトウェアに対
して単一の言語KL1を通した統一的アプローチが存在するようになったのである。

 一方、PIMの枠組みで構築されたすべてのマシンは、KL1プログラムの実行という特
殊な目的で設計されており、このことがその実行を非常に効率的なものにしている。一方、
ソフトウェアはすべてKL1上で構築されている。このことは多くの理由から非常に優れた
成果であり、以下にそのいくつかを述べる。

 KL1は論理型言語(の1種)であることを思い出してほしい。論理型以外の計算処理の
世界では、2つの理由からロジックは計算のための有効な手段としては無視されている。
それは、状態依存ソフトウェア(オペレーティングシステムなど)に対する不適合性が疑
われていること、およびその非効率性である。FGCSプロジェクトは、この2つの心配が
間違っていることを証明してみせた。まず最初に、PIMマシンのオペレーティングシステ
ムのカーネルはKL1で実現されたものの1つである。そして、オペレーティングシステム
の残りの部分はPIMOSと呼ばれる大規模なソフトウェアシステムとして構築されており、
これはその中に包含するオペレーティングシステムの機能を使用してすべてKL1で書かれ
ている(約133K行のコード)。PIMOSが証明したように、ロジックは、状態に依存する
システムに対処するための形式として十分に使用可能なものである。2番目に、アプリケー
ションソフトウェアシステム(MGTPおよびその他多く)が顕著な方法で証明したように、
KL1の処理系は非常に効率的である。

 KL1上に構築された基本ソフトウェアの1つに知識べース管理システムKappa-Pがあ
り、Kappa-P上には知識表現言語Quixoteが構築されている。KL1のような論理型言語


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