FGCSプロジェクトの評価に関する報告
Wolfgang Bibel
Technical University Darmstadt
Germany
1992年6月4日
め)このような規模のプロジェクトでは社会的な意見は重要であるが、技術的な評価
という意味ではこの点にあまり留意する必要はないと思う。少しわき道にそれるが、
FGCSプロジェクトは、アメリカおよび世界各地において以前ほど好意的に報道され
ているわけではない。これは、このプロジェクトに対する期待が誇張されていた結果
であり、また広い意味での複雑な政治的理由によるものである。過剰な期待には、当
初のFGCSレポートに政治的な理由から知識工学の夢が語られていたが、これがこの
ブロジェクトの最終目標と誤解されることとなったという事実も含まれる。
3.経済学者の評価方法では、このプロジェクトの成果によってもたらされる経済的なイ
ンパクトの大きさによって成功の度合いを計ることになる。この方法は、期待される
インパクトが現れるまでに何年もかかる基礎研究プロジェクトでは、やはり意味を持
たないものである。現時点における経済的なインパクトはたぶんほとんどゼロに近い
ため、この点からはこのプロジェクトは完全な失敗と評価しなければならないだろう。
しかし、長い目で見れば、たぶん(そしてかなりの確率で)非常に大きな経済的な効
果を持つこととなるであろう。
4.私が採用するのは科学者としての視点である。この視点では、この計画の本当の効果
は何であるかを評価する。つまり、この計画の効果と、この計画を遂行しなかった場
合の状態を比較する。その効果として私が理解しているものの中には、科学的な成果、
技術的な進歩、構築されたシステムやマシンなど、このプロジェクトがもたらしたす
べての変化だけでなく、日本や国際的な研究コミュニティ、またこの点において世界
全体で引き起こされた変化が含まれる。このような評価に加えて、私は、このプロジェ
クトの状態の何かを変化させることによって、本当の効果を改善できるかどうかにつ
いても熟考している。
3 プロジェクトの本当の効果
このプロジェクトは、かなり異なる種類の成果および効果を生み出した。主な効果の1つ
は、政治的社会的な性格のものである。その他は、インフラストラクチャに関するものであ
る。そしてもちろん、出版物、システム、マシンなどの形式の科学的な成果もある。これ以
降、この順序でこれらのすべてについて議論したい。
私の知る限り、1981年のFGCS会議は、日本で開かれた会議のうち、高いレベルの国
際的な知名度を得て世界的な注目を集めた最初のものであった。世界は初めて、日本が将来
の鍵を握る技術の1つにおいてリードを奪うのではないかという感触を持った。明らかに、
これらの感触は深刻な憂慮と重なっていた。人々の中には、技術的な戦争とまで過剰に反応
し、また発言する人もいた。今日、ある人々は再び過剰に反応している。彼らは、自分たち
の恐れが実現しなかったのを見て、このプロジェクトが失敗したものと理解している。
差し引きして、私は、政治的な本当の効果としては成功だったと判断している。日本は、
世界をリードするビジョンを持っていることを証明した。一方、日本の行動は賢明であり、
その成果を国際社会に対して無償で提供した。つまり、自分自身の利益のためだけでなく、
人類の利益のためのリーダーとしての役割を果たした。しかし、この視点は、政治的には確
固たる意見として定着したものではないことに注意する必要がある。将来、政治的な進展を
誤れば、この肯定的な状況は簡単に壊され得るものである。
社会的には、日本がイニシアティブをとった効果として、情報処理技術が人類の福祉の
ために重要であることを世界中が認識した。FGCSブロジエクトの直接的な結果として、
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