わが国IT開発拠点の中国移転に関する調査
(1) 急激な成長を支える政策
国の政策実施は即断即決に加えて即実行。独裁体制の国家であることが奏功し非常に効率が良い。その反面、政府や地方政府の腐敗があり、人々の意欲を削ぐ面もあるが、中国ではそうした状況は珍しくない。人々はそれに対応する術も心得ている。
中国の企業には品質に対する意識が希薄であるとの指摘があるが、例えば北京市では企業のISO認証取得やCMMへの取組みに対して奨励金を出すなどの政策を実行している。
こうした国や地方政府の育成政策、発展しつつある国内市場、グローバル化がもたらした外国企業向け市場、積極性に富む人材、などで急激な成長を遂げた。
(2) 人材育成
急激なキャッチアップのために人材育成が重要な課題となっている。
- 若年層からの教育
鄧小平の政策の結果、若年層からの教育の必要性が認識されている。
- 大学での教育
大学ではきわめて実践的な知識・技術を主体に教育している。米国企業の資格制度のための授業や大学独自の資格制度などもある。こうした実用的な技術の教育の成果で、たとえばWEBアプリケーション業務で新しいツールを導入して開発する、というような作業では日本より技術力がある。
- IT関連企業内の教育
急激な社員の増大への対応のため、採用後三ヶ月間はトレーニングのみで人材の即成を実施している企業もある。労働契約は2~3年の時限があるので流動性は避けられず、教育等で投資したが退職されたという例は良くある。これを織り込んだマネジメントが重要。
中国は人材不足の状況を不利な点としてのみ考えず、逆にビジネスの芽と考える力強さを持っている。人材育成法についてのコンサルティングや教材、教育カリキュラムの提供などの教育市場が生まれ、これらに対応する企業を通してIT産業発展の要因ともなっている。IT関連企業が学校を作るようなことまで実施できる仕組みになっており、日本を市場と考え、日本人技術者を対象とした教育ビジネスを検討している企業もある。
(3) 未熟な産業基盤
急激な市場経済化が進められているが、国営企業、民間企業ともに十分にビジネスインフラが整っておらず、ルールを守らない企業も多い。さらに、中国におけるソフト産業がまだ若いので、ソフト開発という個人の能力に依存する産業における会社の占める位置(特に雇用関係)は未成熟である。たとえば、中国人技術者は「意欲」と「向上心」に優れているが、反面、仕様書以外のことに手をつけてはいけないような形態の仕事に満足できず、自分の能力が発揮できる職場に転職していく行動として現れ、しばしば「無責任」と言われてしまう。こういう人材をプラスの方向に向かわせるマネジメントが要求されており、会社の求心力強化のために作業環境改善や従業員に対するストックオプションなどの施策を講ずる企業も出始めている。
ソフトウェア分野では80年代から産業化が始まり、成功した企業は最初は会計システムの開発を手がけたところが多い。自前のERPを開発してもいるが、多くは会計システムをベースにしてインベントリなど付け加えただけで必ずしもユーザのニーズに合ったものとは言えない。ERPなどのソフトウェアは文化的な背景もあり外国製のものを使う訳に行かず、問題となっている。
またIT関連企業の形態として日本などの大手企業と中国側とで合弁で設立した会社が多いが、合弁双方の経営方針の相違と管理問題によって解散に追い込まれた企業も少なくない。
(4) 独自技術・製品開発への課題
一般的に言って中国には独自技術が無い。企業は自分の製品、独自技術を育成しなければならず、政府も独自技術開発の必要性を強く意識している。紅旗Linuxの開発もこの一環(Microsoft社のWindowsを使わないことが決まっている軍事分野では紅旗Linuxが使用されている)。データベースなど自前の技術がまだ十分に育っていない分野もある。
(5) 市場としての中国
中国のソフトウェア企業は自らの国を最大のターゲットを考えている。広大で未発達な内陸部、不安定なビジネスインフラなどを抱えて、いつ市場が具体的なものになるかは不明であるものの、e-Homeなどの先進的な分野においても自国をターゲット市場と考えている中国企業があり、市場化への動きは沿海部については相当早いことが予想される。
こうした動きにつれてソフトウェア産業の発展の可能性は特に高い。企業の数が急激に増えつつあり、また市場経済に入って管理レベルが高くなりつつあることも企業向けソフトウェアの大きな需要につながっている。今後5年くらいはニーズが増え、マーケットが大きくなるだろう。さらに良い材料は情報技術分野のテクノロジートランスファーが車の生産などに比較して簡単であり、しかも製造業のように大規模コストのかかる産業集積を必ずしも必要としない点である。