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わが国IT開発拠点の中国移転に関する調査

5. インタビュー調査

 以下のような項目に関してインタビュー調査を実施した。なお、調査項目の詳細は付録のインタビュー調査票を参照されたい。

 a. 日本と中国との提携関係の概要

日本と中国の提携関係の形態、双方の事業目的、対象業務、対象技術分野、マーケットなど。

 b. 日本と中国のソフトウェア産業構造

日中のソフトウェア産業の特徴、双方の技術者の特徴など。

 c. 日本と中国の提携の今後の展開

今後の事業規模の見通し、対象業務の変化の見込み、事業拡大のための条件など。

 d. 日本のソフトウェア産業の発展に向けて

日中のソフトウェア産業の発展のための施策など。

5.1 国内調査

(1) 訪問先:A社(ソフトウェア開発・コンサルティング業及び派遣業)

日時:2002/10/22 15:00-17:00

~外国人技術者活用のパイオニアとして幾多の苦い経験から得たシニカルで現実的な中国観~

a. 日本と中国の提携関係の概要

● 国際化を志向して7年程度会社を経営している。中国、インド、韓国の技術者に現地で会社を興すことを薦め、自社とこれら相手先企業との間で相互に投資し合う枠組み。日本の企業を介してお互いが経営に関与しあうことになる。

● 仕事は主に日本国内で受注し、日本に滞在する中国、インド、韓国の技術者がブリッジSEとなり、現地企業あるいは現地企業から日本に派遣されたエンジニアがプロジェクトを遂行する。稀に中国、インド、韓国人が経営する会社が受注したプロジェクトを日本企業が支援することもある。

● この形態に落着くまでには失敗もあった。現在は中国、インド、韓国それぞれ1社だが、中国に関しては日本側が投資した全額が使われずに会社が興され、訴訟問題にまで発展したことがある。勝訴したが投資資金は回収できなかった。

● 現在の経営環境は良くない。多くの日本企業から発注時に「中国人技術者への発注はダメ」との前提条件がつくことが多い。理由は、日本企業が中国人技術者について否定的な経験をしたため。プロジェクト途中で所在が分からなくなる、佳境に入ったところで突然ベースアップを要求する、仕様書に書かれていることを最低限実施するだけ、などのトラブルが少なからず発生した。

● 現在、提携関係にある中国企業の経営者はこうした過去の経験から信頼関係が築けると判断した人間だ。

b.日本と中国のソフトウェア産業構造

● 産業構造という前に、中国人技術者には以下の特徴がある。

・ 金銭に対する強いこだわり(儲かりさえすればよい。海賊版も多い)
・ 強い上昇志向(とまり木としての日本。在日中国人技術者の1/3は渡米希望、1/3が日本定住希望、1/3は迷っている。少なくとも日本定住希望者しか相手にできない)
・ 中国の政変への不安感
・ 中国人技術者同士でも信頼関係が十分ではない。
・ 会社へのロイヤリティ欠如

● 日本人は仕様や意見を明確に言わない。あいまいなままプロジェクトが進行することが多い。

c.日本と中国の提携の今後の展開

● 合弁企業は育たないだろう。上記の中国人技術者の気質からして、いったん仕事や日本語を覚えた中国人技術者はより高い報酬を求めて日本に行ってしまうことが多く、その結果離職率が高くて会社組織が維持できない。

● 日本の企業が中国へ進出して設立した現地法人で中国人技術者を雇って開発したものであれば、日本が保証したも同じなので、日本市場においても製品として売れるであろう。

● 中国の品質にばらつきがなくなれば、空洞化を論じる必要が出てくるかもしれないが、そこへいくまでまだ5年かかる。

● 米国でビジネスルールを勉強した中国人技術者は日本にとって脅威だ。技術力があり、ある程度日本の商慣習のもとでも対応できるメンタリティを持っている。日本人が強烈な個性と上昇志向を有する中国人技術者を日本流に育てるのは簡単ではない。

● 政治体制と経済体制で矛盾を抱える中国にはいずれ政治的な問題が発生するだろう。

● ソフトウェア開発について、グローバルには日本と中国の関係はうまく行かないと思う。ソフトウェアに関する限り中国は大きな脅威にまで成長しない。

d. 日本のソフトウェア産業の発展に向けて

● 日本には金融・保険業界などの膨大な潜在的需要もあり、中国の力が支配的になることも無いので日本のソフトウェア産業が空洞化することはないだろう。

● 中国やインド、韓国が力をつけていることは確か。それに対抗する経営努力をしない会社は淘汰されるだろう。日本も国内の馴れ合い、系列的商取引の世界から脱却しなければならない。

● 中国やインドとのプロジェクトを実施する際には日本側が開発した成果に対する知財権をあらかじめ確立しておく必要がある。

(2) 訪問先:B社(パッケージ開発・販売業)

日時:2002/10/23 9:30-10:30

~パッケージ開発中心にした中国人技術者活用の仕組み~

a. 日本と中国の提携関係の概要

● 3~4年前から中国に進出。元々中国人スタッフがいたこと、コスト面でも将来的に必要であろうこと、をにらんで上海の大学とタイアップして拠点を作った。

● 安い労働力として雇ったが、優秀なので、研究開発にも携わらせるようになり2002年7月より大連に子会社を設立。スタートさせた。

● 中国にある42万人情報処理学科人口のうち優秀な人材を採用すればかなりのエリートを掴むことができる。全員ではないが、上海で雇う前に半年ほど日本で研修を行い、文化や環境を学ばせる。

● 上海:80名 南京:20名 主に日本向け製品の一部を生産

● 大連:10名 主に中国語バージョンの製品開発(ひとりを除き現地採用)

● 大連は中国の他の地方に比較して日本語リテラシーが高いことが立地条件の重要な点

● 現在、国内の社内には4~5人の中国人がいる。(常時その程度いる)

● インドとの提携も一度はやってみたが、仕様以前でつまづいた。生活習慣の相違や日本で教育した後本国へ帰す当社のカルチャー(一緒にやっていく)にあわず、だめだった。他アジアとの提携は未経験である。

b.日本と中国のソフトウェア産業構造

● 中国のソフトウェア産業の6割~8割は日本の下請けであり、北京においてはソフトウェア輸出ランキングのトップ5がすべて日本の企業の子会社である。この子会社は親会社である日本の企業のために自社の仕事をしている。

● 中国では、パッケージ市場がないので、当面はハードウエアメーカとタイアップして販売する方策しかない。

● 中国のソフトウェア会社に委託するとトラブルが発生することがあるが、日本で教育した中国人を中国に送りこんで監視させる体制をとればトラブルは防げる。

● 中国の拠点には、日本製品の中国語バージョン化を委託。決められた仕様どおりに作りこむことはできるが、独自に日本の市場環境、顧客のニーズを踏まえてパッケージを開発するスキルはない。

● 日本は、企業を起こすという意識がまだまだ低い。中国の大学の先生は起業することに対する意欲が強く、それをサポートすることが自分の役目であると認識している。大学の企業化と解釈できるが、金儲け主義というよりは開発に対する理解があると考えることもできる。

c.日本と中国の提携の今後の展開

● 中国をひとつの大きな国として捉えては失敗する。省、市単位で権限等があり、ハイテク化にも差があるので、見極めが必要となる。

● 多少のノウハウ流出の危険性を考えても、優秀な人材を育てることに注力すべきである。

● 中国に特化したものは向こうで開発するという切り分けや業務分担も必要である。

● 現在、既に中国のソフトウェア会社が日本に拠点を置き、日本人技術者は作業するだけという逆転の状態も起きている。

● 雇用状況の実態として、中国人技術者を雇うときの契約は重要なものとなる。日本の大手が一気に進出している今、大量採用をかけると給与水準があがってしまい、3~4年前に採用した人より給与が高くなってしまうという現実がある。これは転職を招くことになり非常に危険であるので、契約時にある程度の年月を継続して勤務することをうたう必要性もある。

d.日本のソフトウェア産業の発展に向けて

● 日本サイドでの企画力が今後ますます問われるようになるであろう。望ましい関係としては、日本サイドで上流工程を押さえることである。前述したが、日本人顧客のニーズを捉えて製品化するということは、日本でしかできないことである。

● 将来的には研究開発を中国に任せることもありえる。現に今も米国で先端的な研究開発を行っている。

● 下請け企業でもそれぞれに強みがあるはずなので、それを生かす企業努力は必要。100%下請けだけの会社はいずれ仕事自体が全て中国へ移行していき、衰退してしまうだろう。

● ハード製造にせよ、ソフト製造にせよ、中国において製品を製造しつつ、市場としても捕らえていることは確かなので、空洞化はしないし、させないようにしていきたい。今後、日本が中国に進出するにあたって役立つ製品も開発していきたい。そういったことをするために大連に研究開発拠点を開いた。しかし、空洞化を完全に防ぐ施策を考えるのは非常に困難である。

● 今後中国が政治的・経済的に混乱することが予測されるが、それ自体に影響されることはないと思っている。

● 中国で一度やってみたが、うまくいかないので、国内で下請けを探している事実もある。また納期までが短い開発に関しては国内でやらざるを得ない部分もある。

(3) 訪問先:C社(ソフトウェア受託開発及びパッケージ開発)

日時:2002/10/31 10:00-12:00

~細やかなコミュニケーションではぐくんだ信頼感と優秀な人材のコラボレーションが生み出す安価な労働力~

a.日本と中国の提携関係の概要

● 1998年10月に当社が出資して武漢に子会社を設立

● 武漢の子会社の社長は大学在学中に日本のソフトウェア会社に研修で来日。日本の大学に在学した後、日本企業に3年在籍、その後、中国へ帰り起業。

● 当社とは研修で来日したときからのつきあい=信頼感あり

● 武漢の子会社では、従業員は30名全員中国人

● 進出の目的は「安価な労働力」と「優秀な人材」。Windows系ユーティリティ開発をする上で入手しにくい分野や情報があり、日本で対応できる人材を探したが見つけられなかった。もし、発見できたとしても高価であったろう。中国人技術者であれば、豊富な時間をかけて試行錯誤しても安価で済む上、優秀である。

● ただし、ロイヤリティに対する意識は低く、他のプログラムを丸写しするようなこともあり、設立当初は教育が必要であった。

● 市場としての中国には魅力がない。知名度を上げるという意味では製品を売ってもよいと思ってはいるが、日本で1万円程度の商品でも、中国で違法コピーされずに販売しようとすると500円程度にしかならず採算上全く利益にはならない。ハードウェアにバンドルする戦略も形式上はあるが一本あたり数十円では力が入らない。

● 中国では、中国向け製品ではなく、日本向け「Windows系ユーティリティ」「コンシューマ向けパッケージの開発製造」をしている。会社としては構造解析関連パッケージも販売しているが、この開発を中国へ委託することはない。日本での開発でもコスト上の採算が取れていること、ノウハウの流出が心配なこと、が理由。

● 日本側で仕様を確実に決定できるため、受託開発よりパッケージの方が圧倒的にやりやすく、現在もパッケージ開発のみ委託している。パッケージ開発においてですら、1か月に一度は顔を合わせておかないとズレが出る。

● 委託開発の中国への委託も関心はあるが難しい。短納期の間に仕様決定、一定の品質維持を実現することが困難。技術の変化が激しいこともこれを助長している。発注者が機密維持を理由に中国への発注を嫌う傾向もある。

● 1998年に設立後、4年たったが、商習慣の違いを教育しながら順調に推移してきた。信頼関係の継続には月に一度程度の中国訪問がポイント。日本側も中国からの納品物のチェックに慣れた。毎月の中国訪問はパッケージ開発委託を発案した役員が対応しており、彼は中国語もマスターした。(このくらいの情熱が必要)

● 中国でテストしても日本の環境では動作しないことが間々ある。日本のパソコンにはさまざまなソフトがインストールされていることが多く、ソフトウェア同士の干渉などによって期待された動きにならないことが多い。

● 中国で開発しているパッケージの売上が当社の売上の5分の1程度を占める。

● 単価は30万~50万円/1人月

b. 日本と中国のソフトウェア産業構造

● 中国国内では、中国の銀行オンライン向け開発や教育系のソフトウェア開発をしている会社もあると聞く。また武漢にある会社の中にも日本に基地をおいて進出しようとしているところもあるらしい。

● 技術者の平均年齢は24~26歳くらいではないか。新卒ではないが、若い。

● 技術力的には何かに突出して秀でているというよりは、考える時間が豊富に取れる上、優秀であるので、オールマイティ的なところがある。しかし、完成されたプログラムを見る限り、他からコピーした部分があるなど、決して洗練された成果物とは言えず、ある意味「動けばいい」という考え方がある。またプログラムの拡張性に関しても無関心であり、まだまだ成熟の余地がある。

● 企画力に関しては、日本の文化・環境・実情にまだ理解が浅いので、弱いと言わざるを得ない。逆に中国国内市場に対する企画力・営業力と言う意味では日本国内向けとはまったく次元の異なる対応が要求され当然中国人技術者の方が強い。

● 責任感においては、リーダーに関してはリーダーとしての地位や手当てを与えること、その他の技術者に関してはモチベーションの維持やプライドを与えることによって「突然仕事を放り出してやめる」という事態は起きていない。

c. 日本と中国の提携の今後の展開

● 今後は、コストとのバランスを見ながら、受託開発の依頼も模索していくが、機密保持、著作権問題など、解決すべき問題点は多い。

● 受託開発においては、日本は仕様に甘いところが多々あり、発注者の仕様をそのまま中国側へ投げることができない。日本側の発注者能力も今後問われるだろうが、当社が発注者と中国の間に入ってアレンジやフォローをしながら開発していく形も考慮中である。ただし、工期が長く必要になることもあり、改善の余地あり。

● 日本に中国人技術者を連れてきて開発すると、コスト・言語・習慣・環境などあらゆる面でマイナスなので、全く考えていない。

● 上海や北京の技術者の価格が高騰中であり、また日本のソフトウェア会社も低価格になりつつあることから、両者の格差がだんだんと少なくなってきているようではある。人件費の安価さの持続は今後も期待するところである。

● 機密保持の面で中国への委託を良しとしない日本の発注者もおり、今後は発注側の能力向上と十分なケアが、持続的な中国への発注にとって不可欠である。

● 日本のソフトウェア産業の空洞化に関しては、あまり可能性はないと思う。日本側が日本の文化の中で国内をマーケットに仕事をしているうちは、中国の日本市場への理解度の低さという面があるため、空洞化はしない。

● 中国でゼロからパッケージを作ることは日本の環境・実情を理解できていない部分もあり無理なことであっても、製品にしっかりしたベースがあれば、それをコンシューマ向けに作りこむことはできるので、そうした分野は空洞化するかもしれない。

● 北京あたりからは「技術者を日本に送り込み、仕様書を日本で固めて中国へ持ち帰り、開発する」という売り込みも出てきた。

d. 日本のソフトウェア産業の発展に向けて

● 単純な開発はコストが勝負なので中国に流れるだろうが、逆にコスト的な採算がとれなくなれば他の国や国内への還流もあるだろう。中国でのソフトウェア開発は容易ではない面も多いので、これが支配的になることはないと思う。日本のソフトウェア産業が国内市場を対象にしているかぎり、中国は大きな脅威にはならないと感ずる。

● 中国もビジネス環境が整備され、信頼できるようになれば市場になり得るだろうが、10数億とも言われる人口の果たして何%がターゲットになりうるのか不明な点も多い。

(4) 訪問先:D社(大手コンピュータ・通信機器メーカ)

日時:2002/11/1 13:30-14:30

~大企業がなせる自信に満ちた組織力の中国戦略~

a.日本と中国の提携関係の概要

● 中国の拠点としては、合弁で1社、子会社で1社(それぞれ200~300人規模)

● 委託している中国系企業は30社以上(1社50人~数百人規模)。中国の子会社が外注として使用しているのではなく、本社が直接使っている。

● 中国での開発は日本向けが主体である。(現在中国に進出している日本企業は約2万社)

● 中国での開発は、1995年ごろから。委託開発が主で業務アプリが主体。下流工程が主だが、徐々に上流工程への移行も考えている。

● 中国進出の目的は、コスト減。当社で8割を占める業務アプリは顧客のそばでの開発が基本であるため、仕様を固めて中国へ持ち込むようにしている。仕様書を中国人技術者にうまく伝えることは大変なことではあるが、それを補ってもなおコストは安い。

● 当社では、オフショアで開発することを前提として考え、固定要員形式で人を確保して製造工程を出すことでコスト減を図っている。

● 日本の環境を知っている中国人技術者がいるプロジェクトはうまく推移するが、その他の人間(たとえば新人や新しい企業など)が育ち、サブリーダーになって仕事がまかせられるまでは4~5年かかる。全く新しいところとの提携は、初めのうちはあらゆる面で難しいことは確かである。

b.日本と中国のソフトウェア産業構造

● 中国市場は大きいので、現在使っている中国企業を今後の展開に活用できないか、ということは常に考えている。

● ただ、中国市場は現在「公官庁向け」が主であって、「製造・流通」はまだまだマーケットとしては規模も小さいので、業務のノウハウが日本とマッチングしていない。今後、「製造・流通」分野も規模が拡大してくれば、ソフト産業も発展し、市場としてうまみがでてくると思う。

● 中国人技術者の優れている点は、「意欲」と「向上心」である。技術力は人それぞれまちまちであって、画一的にいいとも悪いとも言えないのではないか。中国の会社は金銭で「意欲」と「向上心」を引き出すマネジメントをしていると思う。

● 責任感という点では、仕事をやめてしまう人は全体の10%くらいではないか。(年齢的にも若く23~24歳くらい)26~27歳くらいになってリーダーになってくると、責任範囲も広がり、仕事が楽しくなるので、退職することは少ない。

● ソフト開発産業が始まってまだ10年くらいの中国においては、人手不足のため、新人にも仕事をやらせざるを得ないところがあり、卒業前から試用期間として就職予定の会社で働くことが多い。新人によってもできるできないで給与差がある。

c.日本と中国の提携の今後の展開

● SIは競争が激しい分野であるので、コストが下げられる中国は欠かせない。今後は下流工程だけでなく、企画・設計も含んだ上流工程も委託するようにしていきたい。

● 以前はプロジェクトを動かすために、頻繁に出張しなければならなかったが、現在は中国側で当社のやり方がわかってきたこともあって、そういうコストは落ち着いてきた。

● ただ、将来的には中国の東岸のコストも上がってくると思われるので、西に目を向けることも考えている。西安にも分室を作ったところである(ある程度の規模の人員が確保できることを前提にすると西安あたりが現時点では限界)。また、中国以外(たとえばベトナムなど)にも目を向ける必要があるかもしれない。ただ、無尽蔵とも言える人員を供給できるのは、中国以外になく、日本にとっては中国は重要である。

● 現在、中国には開発のための研究所は設置していない。研究という意味では、アメリカ、ヨーロッパとの関係が大きい。

● インドは中国と比べて 1.コストが高い 2.日本語によるコミュニケーションが難しい 3.契約に基づき仕事をする などの差がある。

● 中国におけるソフト産業自体がまだ若いので、ソフト開発という個人の能力に依存するような産業における会社の占める位置(雇用関係)は未成熟である。

● 今後も中国におけるコスト安が持続するよう希望している。大連市も人件費を高騰させない約束を口にしているほど、日本を上顧客として考えている。中国の東側も、日本がコスト安を求めて、西へ移行していってしまうことで大切な地場産業であるソフトウェア産業が空洞化することを恐れている。

● 日本側の発注者能力の向上は業務効率化という意味で日本にとってもメリットがある。日本側としても、コミュニケーションの改善を図り、仕様書を正確に書き、中国側で働く人々に隅々にまで仕事内容を浸透させるように働きたい。大規模プロジェクトの場合など、まずプロトタイプを作成し、顧客にある程度のOKをもらって技術的仕様を固めてから中国へ発注するなどの工夫をしている。

● 空洞化の点では、コスト安を狙って顧客本体が中国へ拠点を移転してしまい、現地の企業と直接取引きするようになる方が憂慮される。逆に、欧米などで開発されたシステムが手を加えることなく、そのまま日本で流用できるようになり、日本での開発が必要なくなるなどの面も考えられる。

● 下請代金支払遅延等防止法が施行され、正式な書面交付なしには発注ができなくなった。これは今の日本の商習慣(オンザジョブで仕様を随時変更していく)には合わない部分もあるが、これが浸透すればグローバル化という意味合いにおいては有益であろう(海外への発注がしやすくなる)。逆に、この法律を遵守するのが面倒で中国へ直接発注してしまう企業も出るかもしれない。

d.日本のソフトウェア産業の発展に向けて

● 下請けの保護より、日本の商習慣を改善して海外にも通用するものにしていかないと、グローバル化に力がついていかないであろう。

● 当社ではCMM(Capability Maturity Model:ソフトウェアプロセス改善モデルの一つ。米国カーネギーメロン大学のソフトウェア工学研究所が提唱している)を導入し、広げていこうとしている。

(5) 訪問先:E社(M&A仲介コンサルタント業)

日時:2002/11/19 10:00-11:00

~保守的な日本商習慣と国境にこだわらない技術者の国際的飛躍とがちぐはぐに織り成すM&Aの現状~

a.日本と中国とのM&Aの概要

● 当社と中国との関係はここ1年くらいである。

● 中小企業が中国に進出するのは、優秀な技術力と安価で豊富な労働力が目当てである。特に北京は優秀な人材が豊富であるので、大手企業も多数進出している。しかし、中小では、言語の問題が壁となってうまくいかないところもある。

● ソフトウェア産業界においては、あまり中国の中小企業の買収は薦めない。中国の会社を買っても人材がやめてしまう、契約で縛ってもあまり効力を発揮しない、などの問題がある。

● 少し前までは、日本でも人材が足りずに中国人技術者やインド人技術者を登用していたが、ここ1年くらいのIT不況で社内の日本人を使って仕事をするようになりつつあるようだ。

● アメリカが日本の製造業を買収して、中国に移管するケースも出てきている(アメリカがお金を出して日本の優秀な技術を買う → 中国に工場を作って安価で豊富な労働力を使って「安くていいもの」を生産 → アメリカに供給)。
日本の大手の下請け企業でも大手からの仕事が徐々に減少してきているため、活路を中国に求めているところがある。自分の技術が残れば、外資であろうと、技術者を中国へ送ろうと構わないと思う経営者も多い。外資は買収しても基本的にマネジメントと日本のマーケットは日本にまかせるので、抵抗がないようだ。(米国の投資グループには中国系やユダヤ系も多く、必ずしも米国の国益を意識しているわけではない)

● 日本の中小企業で資金はないが、マーケットと技術力のあるところは中国の大手同業社と50%ずつ資本を出し合って会社を作り、そこが日本の会社を支配する形が出てきている。中国で安く製造したものを日本の会社を通して安価に売る、あるいは、日本の技術を利用して中国市場でも売る。

● 日本の国内だけではM&Aが成り立たないが、米中に目を向けると成り立ってくる。

b.日本と中国のM&A構造

● 日米中の商習慣の違いをクリアするのは、その場その場で解決していくしかないであろう。中国も徐々に良くなってきているようだ。

● 中国企業とつきあうことで、日本のハイテク技術の流出を懸念することは、ある程度は仕方がないことだと割り切ることだ。恐れているばかりでは意味がない。その場その場で企業が対応していくしかない。つきあううち、逆に中国の方が秀でてくる部分もあるであろうから、そこを捕らえて利用するくらいの気持ちでいかないとだめである。いずれ中国は日本のお客となるであろうから。

● 最近の中国の企業で、日本の40~50代の技術者や管理職をヘッドハンティングしている例もある。

● 日本企業は意思決定が遅すぎる。買収関連の話ではスピードが必要であるのに、リスクなく、安全にできるかの根回しに時間を取られすぎ、後からきたアメリカに先を越されてしまうケースもある。これは失敗したときに責任をとらなければならない日本文化が影響しているのではないか。脱却するには、政府が云々するのではなく、経営者の意識改革しかない。中国はまだM&Aが充実していないが、投資や賭け事が好きで決定も早いと思う。

● 中国人は日本人がその人間の背景や肩書きに弱いこと、アメリカ人はそうしたことに興味がないこと、を知って使い分けている。中国人同士はお互いの肩書きなどを信用しないので、仲間意識が強く、何事も仲間内で処理しようとする傾向がある。韓国も血縁関係を重要視し、親しくなるまでビジネスをしない。

● 中国の発展している都市を見ると、全部海岸線に沿っている。海岸線の多さが豊かさを示す指標になるのかもしれない。(日本はぐるり海岸線に囲まれている)

c.日本と中国の今後の展開

● 中国のベンチャーキャピタルが日本のソフト企業を買収するケースは今後増えていくであろう。

● 中国の大学は優秀なSEを養成し、日本語教育を施して日本へ送っている、あるいは、送りたいと思っている。

● 中国の市場展開は北京、上海あたりは早いのではないか。既に市場として機能しつつあると思う。内陸はまだまだである。宅急便や宅配、クリーニングなどのサービス業は既に北京に進出しており、十分市場として展開できている。上海ではファッション、音楽などの浸透率が早いようだ。

● 中国の政治的な不安定さを危惧する人もいるが、中国も豊かさを望むであろうから、心配はいらないと思う。中国人の中には「中国はアジアの中のアメリカになる」という発言もあった。そうなると日本からは技術や人材が流れていくようになり、日本はおのずと中国市場に乗り出すことになる。(アメリカは繁栄したが、そこに大量の移民を送り込んだ本国イギリスが衰退した。日本もイギリス化する?)

d.日本のソフトウェア産業の発展に向けて

● 日本は空洞化云々を議論していないで、今のうちに中国の弱い部分にどんどん進出していき、中国市場を押さえていってしまった方がいいのではないか。
国際協調があたりまえに存在した上で、日本は変なプライド(中国と提携したことを隠そうとするような)を捨て、持ち得る技術を国際的に生かしていくように考えることが必要である。

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