わが国IT開発拠点の中国移転に関する調査
前章で述べた日本および中国のソフトウェア産業に関する見解を基に分析すると、日本と中国のソフトウェア産業の関係に関する議論は次のような論点に整理することができる。
論点1:日本と中国の関係のシナリオ
中国の経済的・技術的発展が新たな市場を生み日本の経済・ソフトウェア産業界にプラスの効果をもたらすとの見方がある一方で、中国の台頭によって日本のソフトウェア産業界は市場を失い空洞化が一層進展するとの観測もある。
論点2:中国市場の可能性
日本のソフトウェア産業は中国の経済発展による市場拡大で恩恵を受けることができるとの期待があるが、別の見方として、中国の市場や商慣行はまだ十分に国際的なレベルに到達しておらず、また物価の面からも市場としての中国には当分期待が持てないとの悲観的見解もある。
論点3:低コスト労働力の永続性
中国の競争力の源泉の一つである低賃金労働力は今後も継続するとの考え方が一般的であるが、既に北京や上海などではこの傾向は正しくないとの主張がある。低コスト労働力を求めて中国内陸部にさらに事業展開する傾向が進み、さらにはベトナムなどへの移転の可能性を指摘する声もある。
論点4:ソフトウェア分野の研究開発力
現時点では日本から中国に委託している領域は比較的仕様が定まった部分の開発が主体であり日中間の技術レベルには一定の差があるとの認識がある。しかし、既に研究開発を中国に委託している企業もあり、膨大な人口と優秀な頭脳で中国は遠からず日本の技術力を凌駕するとの予測もある。
論点5:中国企業による日本進出
日本と中国の関係の多くは現時点では日本企業による中国への事業展開あるいは日本企業による中国人技術者の雇用である。しかし、中国資本による日本のベンチャーのM&Aや中国企業の日本進出傾向も加速している。
論点6:日本のソフトウェア産業の高付加価値型への展開
日本のソフトウェア産業では高付加価値型サービスで各企業がその力を競うような方向は残念ながら見られず、受託開発を中心として人件費コスト削減が唯一の競争力の源泉となっている。本質的にはこうした産業形態を改めてより高度で独自のサービスを各企業が展開する方向に向かわなければならない。それが実現可能か否かが問題である。
これらの点を検証するために、日本および中国のソフトウェア産業関係者にインタビュー調査を実施した。その内容を次章に整理する。