わが国IT開発拠点の中国移転に関する調査
本調査はソフトウェア分野における日本企業による中国での事業展開に焦点を当て、その目的・現状・課題・今後の展開などの分析を通じて、日中間のソフトウェア分野における関係の現状と将来、日本のとるべき方向性・対策を検討するものである。
経済産業研究所 上席研究員 関志雄は、日本と中国の全般的な産業構造を対米輸出データの分析によって検討し、日本は「失われた10年」を経ても、アジア諸国の中で依然として最も高付加価値型の輸出構造を有しており、一方中国は未だ雁の行列の後ろを飛んでいると指摘している。
http://www.rieti.go.jp/users/china-tr/jp/020502newkeizai.htm
この主張によれば、日本と中国の産業構造に関してはいまだに大きな格差が存在することになるが、ソフトウェア分野についても同様な見解が成立するであろうか。ソフトウェア分野においては中国はもとより日本においても産業の国際的競争力が弱く、ソフトウェア製品の対米輸出は限りなくゼロに近いと考えられる。一方、両国の国内市場と言う観点で考えると、市場自体の大きさは中国の方が(現時点では潜在的とは言え)日本を凌駕する。また、ソフトウェア産業は、他の産業に見られるような特殊な生産設備は不要で人的資源が基本であるという特徴がある。ソフトウェア人材は主にソフトウェア開発関連人材(アーキテクト、プロジェクトマネジメント、スペシャリストなど)とセールス・マーケティング関連人材(マーケティングセールス、コンサルタントなど)に分けられるが、前者は一般的に先進国と途上国間の格差が小さく、教育で比較的容易に埋めることができる。セールス・マーケティング関連人材はその育成にやや時間がかかるが、この点においても日本と中国の差異は急速に縮まりつつある。このような状況から、ソフトウェア分野において日本が先端的、中国が後発的という図式が当てはまるかどうかについては疑問の余地がある。
日本の情報機器ベンダーや大手のソフトウェアユーザ企業においては、コスト低減を主目的として既に中国への業務委託が相当程度に進展している。この現象の当面の状況は、高付加価値型を有する日本のソフトウェア産業が後発の中国へ技術主導の展開を図っていると言うよりは、むしろ画一的なサービスメニューしか無い市場でコスト削減だけが差別性の源泉になっており、日本の各企業は中国の低賃金労働力に依存することで短期的な打開策を講じていると考えることができる。結果的に中国が日本のソフトウェア産業界の市場で一定の競争力を有するに至っており、既に中小のソフトウェアハウスの市場が狭められている。
この傾向がさらに広がると同時に、その延長線上に研究開発分野などの付加価値の高い領域においても中国との関係が深まる傾向が見え、ソフトウェア分野における我が国産業の空洞化に対する懸念を持つ人々が増え、さらには遠からず中国が日本を逆転する可能性を指摘する声もある。
こうした背景にもとづいて、本調査では日本企業の中国への進出の現状・課題・今後の展開、日本のソフトウェア産業の危機感の内容、必要な対策などを、文献調査および日本と中国の関係者へのインタビュー調査によって明らかにすることを目的としている。