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米国における最近のIT重点分野に関する調査

5. まとめと提案

 この最終章では、調査結果と主な分析について総括する。基本的な結論は表形式でまとめてある。3つのイニシアチブのテーマを中心に第2〜4章で検証した調査結果と分析内容について、マトリクスの形式で要約してある。評価は、第1章で提案した基準に従って行った。

評価基準 イニシアチブ
表5.1  米国の3つのイニシアチブに関する本調査のまとめ
電子図書館/電子政府 バイオテクノロジー インフラとツール
ITのテクノロジー融合または技術革新の加速化 緩やか。コンテンツ/メディア業界の研究開発パートナーが重要な鍵。影響は、ビデオ、オーディオ・ストリーミング、検索エンジンなどのマルチメディア・テクノロジーで最も顕著。ヒューマン・インターフェイスの改善。 当初はゆっくり、しだいにペースが上がる。ヒトゲノム研究がコンピュータ、ネットワーク、データベース、生物学の研究を統合する。ポスト・ゲノムの取り組みで出現するテクノロジーが、各専門分野の境界を解消する。 当初緩やか、しだいにスピードアップ。融合は、コンピューティング・パワーが不可欠となる科学分野で最も顕著。インターネット・ブラウザの主要な技術革新は、科学コミュニティに端を発する。次のステップはブロードバンド、GlobeGrid。
社会資本の形成と利用 影響大。コンソーシアムの調整が重要な要因。公共図書館へのリンク。大学院生の訓練が優先課題。テクノロジー主体からライフ・サイクル全体に至るまで段階的な研究が重要な要素。 当面、緩やか。生物学、コンピュータ科学、エンジニア間の相互作用の面で最大の影響が出る。共通する領域でのトレーニングは困難も伴うが、将来的な分野の成長にとっては重大。 非常に大きい。インフラ/ツールの開発には、あらゆる種類の協力関係が不可欠。高性能コンピューティング/通信ネットワークが、人間創造性を支援する。セキュリティ、プライバシー、信頼性の課題。
規模/範囲の経済の実現 緩やか。DLI-Iが科学と工学の境界を越えるテストベッドを作成。フェーズ2は適用範囲が広がる。バイオテクノロジー・データベースに影響がある。電子政府の研究は、様々な機関のミッションにわたり行政機能に有益。 当面、緩やか。バイオ/ITの支配的傾向は続く。ゲノムから、プロテオミクス、フィジオミクスに至るバイオインフォマティクスの連続性が、これ以外の協調作業のモードとなる。 規模と範囲の両面で非常に強い。共有/拡張可能な資源が強調されてきた。数多くのツールが多様な分野とアプリケーションでの応用性を実証した。
国内外/地域の資源の有効利用 国内資源の有効利用は強化される。DLI-IIでは海外との協力関係に着手。行政のあらゆるレベルで電子政府の影響が大きい。 領域全般にわたる高度な有効利用。米国主導のHGPには、海外コミュニティも参加。地方政府は連邦政府に続き、積極的な研究開発プロジェクトを開始した。 高度な有効利用。主要なセンターはいずれも強力な海外パートナーシップを持つ。Internet2ではグローバル・リンクを提供。インターネット委員会が標準(IPv6など)やインターネット管理を統括。
産業界と社会とのつながり 強い。産業界は研究開発のパートナーとして、技術革新に貢献する(Googleなど)。DLI-Iの社会への影響は限られるが、社会の多様なアプリケーションに貢献。電子政府は社会のニーズに直接影響する。 いずれの領域にもつながりは非常に強い。産業界は研究開発パートナーであると同時に、迅速な技術移転の役割も果たす。新しい原動力となるベンチャー・キャピタル市場で非常に活発。医療、振興のテクノロジー/ビジネスに貢献。社会的には幅広く重要な意義を持つ。ナノテクノロジーと緊密にリンク。 非常に強い。産業界は研究開発のパートナーとなる(例:Abilene)。当初は科学技術が中心。NII、NGI、現在進行中のイニシアチブはすべて社会的な研究/アプリケーションが対象。

最後に、表5.1の分析に基づいて、この調査結果と分析の内容から日本の将来になると思われる部分を取り上げ、一連の提案としてまとめる。

  1. 政府の立法・行政部門に影響を与え得る様々な政策開発・提言組織を確立すること。米国には、そのような組織が数多く存在し、研究機関や産業界を代弁する役割を果たしている。それらは、独立した声であり、強力な唱道者でもある。こうした機関の調査報告は、トップ・レベルの政策立案者の真剣な検討対象となっている。

  2. 長期的な研究投資として、海外から優秀な人材を招き入れる。このためには、高等教育機関や研究機関における国際化が必要となる。また、政策の大きな変更や研究資金やインフラ整備が必要になる可能性もある。米国は世界中からの優秀な頭脳の流入による利得を得ている。人材は、労働力を提供するだけに限らず、多様性、創造力、健全な競争を促進する点で最も貴重な資源と言える。

  3. 民間セクターの資金を研究開発に活用する。例えば、非営利組織(財団など)などからの支援。これには、税制上の優遇措置など法整備が必要になる場合がある。米国型モデルは、歴史的/文化的背景の違いから踏襲しにくい面がある。しかし、独自の文化と工業力に適合した日本型モデルは整備するに値する。

  4. 適切な環境と報奨制度を整備することにより、学際的な研究を育成する。これは常に「言うは行うより易し」ではある。実は、多くの技術分野おいて学際的な研究は日本の強みと言える。IT技術と生物学などとの間では学際的交流の有効性は証明されており、学際的研究を有効に実現できることは今後も重要である。

  5. 機関横断的なプログラム・イニシアチブを強化する。米国における情報技術研究開発国家調整局(NCO)、バイオテクノロジー・イニシアチブ、新しいナノテクノロジー・イニシアチブ(NNCO)などをモデルとする。多くの場合、複数機関が連携して新規研究活動支援の予算枠の拡大を目指して予算編成プロセスでの協力を図ることで実現される。成功の鍵は、各参加機関の間で、ミッション、資源、専門知識における相互補完能力があることを明瞭に述べ、実際に示せるかどうかに依存する。

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