米国における最近のIT重点分野に関する調査
4.3 将来のビジョン − 次の研究開発課題
インターネットは、今後、どのように発展していくのだろうか。次のIT技術革新として、何が予想され、何を期待できるのか。次のIT R&Dプログラムはどこに向かって進むのか。研究者、ビジネス・リーダー、政策立案者、そして一般の市民が、等しく同じ疑問を抱いている。本質的に、誰にとっても、未来に対するビジョンなしには、情報化/ネットワーク化された社会の進路を見通すことは不可能である。そのようなビジョンの表現方法として、情報技術研究開発に関する関係省庁間のワーキング・グループによる大統領宛ての2001年の報告書で提案されたビジョンほど、率直で説得力に富んだものは見当たらないだろう
[I5]。このビジョンは、インフラストラクチャとツールの開発だけでなくIT研究全体に対する長期的な投資の詳細計画として提示された、10件の研究課題を特徴としている。もし、投資から最大の収穫を得たいと考えるのであれば、この将来ビジョンは、研究、インフラストラクチャ、そしてツールを結び付ける強力な論拠となるだろう。以下に、このビジョンの要約を示す。
課題1 次世代コンピューティングとデータ・ストレージ技術。研究ニーズは次の通り。
- 先進的なコンピューティング(従来型でないアーキテクチャ、構成要素など)
- 斬新なシステム・ソフトウェア技術(オペレーティング・システム、新しいプログラミング・ツール)
- デバイス、コンポーネント、ネットワークの接続性を統合するシステム・アーキテクチャ
課題2 シリコンCMOSの限界を乗り越える。研究ニーズは次の通り。
- 生物学、情報科学、マイクロ・エレクトロメカニカル・システムの交差領域に相当する新しい研究のサポート
- 光通信学、オプトエレクトロニクス、信号処理、生産の統合技術の進展
- 革命的なコンピューティング・コンセプト(量子演算、分子演算)、素材、設計方法論
課題3 21世紀に向けたセキュリティの高い多目的の拡張可能なネットワーク。研究ニーズは次の通り。
- 以下の基礎研究:光ネットワーク、ネットワーク力学とシミュレーション、耐障害性、ワイヤレス/ブロードバンド通信、ネットワークのセキュリティと信頼性の管理
- 先進ネットワーク・アプリケーション(データ共有ネットワーク、共同作業用ツール)
課題4 科学/工学で米国の強さを支える先進的なIT。研究ニーズは次の通り。
- 科学分野を対象とした複雑な対話型モデリング・システムを構築し、理解し、評価するための新しいアプローチ
- 科学者間の対話/共同作業を可能にする、処理能力の高い相互運用可能なコンピューティング・システム、ストレージ、ネットワーク、ソフトウェア、インターフェイス
- 分散した学際的研究チームのサポート
課題5 クリティカルなシステムの継続的な信頼性のある安全な運用。研究ニーズは次の通り。
- 高信頼性システムに関する基礎研究;スケーラブルな障害防止策、障害検知、障害解析、障害復旧
- 総合、アプリケーション・ベース、ドメイン・ベース、そしてリスク・ベースの保証を合体させたハードウェア、ソフトウェア、システム・ツールの開発
課題6 世界で通用するソフトウェアを作成する。研究ニーズは次の通り。
- ソフトウェアとシステムの設計(言語、オペレーティング・システム、先進的なフレームワークとミドルウェアの基盤)のための先端科学
- ソフトウェア工学のプロセスを自動化する。ソフトウェアと関連する物理的システムを指定、解析、テスト、検証する手法を含む。
課題7 人的能力とすべての人材開発をサポートする。研究ニーズは次の通り。
- 人間とコンピュータとネットワークの相互作用のための先進的機能(言語技術、口語、聴覚、そして多モードのインターフェイス、データベースとのリアルタイムなインターフェイス)
- リモート・コラボレーション、知識と経験を共有するための新しい人間中心の技術;人間と機械の対話を評価するためのモデルと測定法
課題8 知識の世界の管理と拡張を可能にする。研究ニーズは次の通り。
- 最新のデータ・ストレージと管理技術。収集、索引付け、統合、検索、複雑なマルチメディア・データの保管用のツールを含む
- 要素技術と、動的で、拡張可能で、フレキシブルな情報環境の統合
- 新しい検索技術、大幅に改良された抜粋機能と要約機能、メタデータ技術、超大規模データ・マイニング技術、アプリケーション・プラットフォーム
課題9 世界一のIT労働力に関する教育と開発をサポートする。研究ニーズは次の通り。
- 認知的発達について、およびグループ学習・個人学習についての新しい知識;学習に関わる情報技術の効果
- 自習、共同学習、遠隔学習のための最新のソフトウェア
- IT分野の職業における特定集団間格差の原因となるバリアと障害の除去
課題10 ITの恩恵を最大にするITの社会的効果を理解する。研究ニーズは次の通り。
- 距離と人々、グループ、コンピューティング・アプリケーション、通信ネットワークとインフラストラクチャの間の相互作用に関する新しい知識
- デジタル社会における人間の学習、労働、生活に対するITの影響を理解する
- どのような技術やツールそしてアプリケーションが効果的に社会に利益(学習、保健衛生など)を与えるかに関する理解の深まり
明らかに、新しい挑戦課題およびそれに関連する研究課題は多い。また、アプローチをもっと革新的かつ積極的なものにしない限り、こうした課題に対する端的な解決策に到達できるかどうか、怪しいものである。第2章と第3章における議論の中ですでに指摘したように、研究開発の経験、インフラストラクチャ、そしてツールを、国境を越えて探し求め、かつ共有することで、このような新しい機会が生み出される可能性もある。次の最終章では、このような共同作業を日本と米国の間でどのように進めることが可能であるかについて、若干の提案を行う。