2. 米国政府が支援する情報技術研究開発の動向
本節では、情報技術に関連する米国政府支援の研究開発動向の概要を簡単に説明した。
ブッシュ大統領の2003年度予算要求では、防衛R&D、健康R&Dの予算は大幅に増大し、連邦政府研究予算の4分の3以上を占める。一方、それ以外の国家ミッションのほとんどに対する予算はむしろ減少する。そのような中でも情報技術の研究開発は、重点分野の1つとして、なんとか着実に伸びていると言える。重点分野である省庁間連携イニシアチブを見ても、NITRDは、比較的新しいNNI(国家ナノテクノロジ・イニシアチブ)などに比べると、伸び率は小さいが、投入規模では最大を保っている。
ブッシュ政権の政策方針として、「減税」、「小さな政府」があり、情報技術の研究開発においても、産業界でできることは産業界にまかせ、政府は産業界では困難な基礎研究を支援するという方向は、さらに進むものと思われる。産業・科学技術はもちろん、あらゆる面でリーダーであり続けたい米国にとって、他国より一歩先んじるための基礎研究および優れた技術者の育成は、きわめて重要である。その点では、NSFの2003年度計画に向けた方針説明は、その辺のところを良く説明しているので、以下に引用しておく[9]。
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NSFの支援で開発されたこのロボットは、9月11日に続くワールドトレードセンターでの捜索と救助活動の、重要メンバーだった。救助隊員や犬たちが近寄れないつぶれた建物の場所に入ることができた(写真提供: 南フロリダ大学)。 図 2.4-1 靴箱サイズのロボット |
1990年代における生産性の成長は、包括的な基礎研究と教育の活動の経済的恩恵を、十分に明らかにした。この成長は、新しい知識によって力を与えられ、技術革新によって後押しされたものである。新製品、新プロセス、および新産業などすべてが、研究の急速な進歩に依存している。高度に競争的な世界経済の中では、科学技術の継続的進歩は、米国の継続的なリーダーシップに通じる最も大切な道である。
9月11日の事件(同時多発テロ)とそれに続く炭疽菌攻撃は、科学技術に強い国家であれば、危機や国家を取り巻く環境変化に対して、迅速かつ効率的に対応することができることを証明した。
科学技術分野の全範囲にわたる基盤的研究は、研究と革新を可能とする高度に技術を身につけた労働力と相まって、例外的ニーズが生じたときに、国家が引き出すことのできる知識資本を提供するものである。研究の最前線に重点を置いた知識の蓄積の成長は、そのような対応の可能な選択肢を増大させる。才能のある高度の技術を身につけた科学技術労働力は、不測のニーズを満足させるための新たな技術開発を加速する。
参考文献
[1] | 調査資料「重点分野に関する調査 ―米国におけるITと応用分野の融合領域の研究開発に関する調査I―(電子図書館、バイオテクノロジー、インフラストラクチャ)」, AITEC H13年度報告書. |
[2] | A Preview of AAAS Report XXVII: Research and Development FY 2003, http://www.aaas.org/spp/dspp/rd/prev03p.htm |
[3] | BlueBook 2002: "Networking and Information Technology Research and
Development", http://www.itrd.gov/pubs/blue02/index.html, BlueBook2002
AITEC編集日本語版「ネットワーキング及び情報技術研究開発」, http://www.icot.or.jp/FTS/Ronbun/BlueBook2002-J.pdf |
[4] | NGIホームページ"About NGI", http://www.ngi.gov/ |
[5] | Analytical Perspectives, "8 Research and Development" (pdf), http://www.ostp.gov/html/ap08.pdf |
[6] | ITR - Information Technology Research, http://www.itr.nsf.gov/ |
[7] | Information Technology Research: Investing in Our Future, http://www.itrd.gov/ac/report/, PITACレポート 情報テクノロジに関する調査報告: 未来への投資, AITEC H10年度報告書「わが国が行う情報技術の研究開発のあり方に関する調査研究 (その3)」付属資料8. |
[8] | Information Technology for the Twenty-first Century: A Bold Investment in Americaユs Future, working draft, http://www.itrd.gov/archive/it2/initiative.pdf (Jan. 1999), IT2構想 21世紀のための情報技術: 米国の将来に対する大胆な投資, AITEC H10年度報告書「わが国が行う情報技術の研究開発のあり方に関する調査研究(その3)」付属資料9. |
[9] | NSF Summary of FY2003 Budget Request to Congress, http://www.nsf.gov/bfa/bud/fy2003/start.htm |
[10] | NSF Announces $156 Million in Awards for Information Technology Research, NSF Press Release, http://www.nsf.gov/od/lpa/news/press/01/pr0174.htm (Sep. 2001). |
[11] | DLI2 Home - Information Technology Research (ITR) Projects, http://www.dli2.nsf.gov/itrprojects.html |
[12] | Information Technology Research (ITR) Program Solicitation, http://www.nsf.gov/cgi-bin/getpub?nsf01149 |
[13] | AAAS Report XXVII: Research & Development FY 2003, http://www.aaas.org/spp/dspp/rd/03pch23.htm |
[14] | Interagency Working Group on Information Technology R&D Organization Map, http://www.itrd.gov/iwg/orgchart.html |