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2. 米国政府が支援する情報技術研究開発の動向

2.3  ヒューマンコンピュータインタフェースおよび情報管理領域

 NITRDのヒューマンコンピュータインタフェースおよび情報管理(HCI&IM: Human-Computer Interaction and Information Management)プログラムコンポーネント領域(PCA)では、ヒューマンコンピュータインタフェース技術を発展させ、コンピューティング装置や情報資源を管理し活用する能力を高めるための高度な技術の研究開発を行う。HCI & IMでは、幅広い研究テーマを扱うことにより、生体臨床医学、商業、危機管理、教育、法執行、図書館学、製造、国防、学問、気候分析など多くの分野で新たなITの可能性を生み出している。
 NITRDの省庁別・研究分野(PCA)別の予算配分を見ると、HCI&IMの研究開発予算は、NSFが最も多く(37.5%)、次がNIHで(26.7%)、この2つの機関でHCI&IM全体の予算の6割を超える(計64.2%)(表 2.3-1)。
 2001年度までのBlueBookでは、各プログラムコンポーネント領域の具体的な研究開発事例のトピックが紹介されていたが、ブッシュ政権下となって初めての2002年度のBlueBookでは、具体的事例の紹介はなく、一般的解説のみとなっている。
以下の節では、HCI&IMに関連する代表的なプログラムとして、NSFのITR(Information Technology Research)と、NSFがリーダーシップを取る省庁間連携プログラムであるデジタルライブラリ・イニシアチブ(Digital Library Initiative)について紹介する。
 他の省庁では、HCI&IMの研究もその省庁のミッションと何らかの関係のある形で行われることが多い。例えばNIH関連のHCI&IM関連研究としては、以下のようなプロジェクトが、過去に紹介されている(BlueBook 2000)。

表 2.3-1 2002年度NITRDの省庁別・研究分野別予算要求額
省庁 HEC
I&A
HEC
R&D
HCI&IM
(HCI&IM内比率)
LSN SDP HCSS SEW 合計 総額
比率
NSF 249.7 65.1 104.8 (37.5%) 98 39.7 46.1 39.1 642.5 32.6%
DARPA 55.5 42.7 38.2 (13.7%) 49.2 44.6 32.9   263.1 13.4%
NIH 55.1 13.7 74.6 (26.7%) 81.1 6 10.1 11.4 252 12.8%
NASA 36.1 26 27.8 (9.94%) 14.4 22.4 47.1 7 180.8 9.2%
DOE/
OS
98.3 31.5 16.4 (5.9%) 25.9     4

176.1 8.9%
NSA 33.6       1.9   46.6

  82.1 4.2%
NIST 3.5 6.2 3.2 (1.1%) 2 7.5     22.4 1.1%
NOAA 13.3 1.8 0.5 (0.2%) 2.7 1.5  

19.8 1.0%
AHRQ 9.2 6.7             15.9  
ODUSD
(S&T)
  2 2 (0.7%) 4.2 1 1 61.5 10.2 0.5%
EPA 1.8 1.8               0.0%
小計 513.3 216.4 279.7 (100%) 287.3 115.7 192.8 56.5 1,666.7 84.6%
                     
DOE/
NNSA
133.8 37     35.5 41.1     303.9 15.4%
合計 647.1 253.4 279.7 (100%) 322.8 156.8 192.8 118 1,970.6 100.0%
                     
比率 32.8% 12.9% 14.2%   16.4% 8.0% 9.8% 6.0% 100.0%  
(単位: 百万ドル)[2]

 

2.3.1  ITR(Information Technology Research)プログラム

表 2.3-2 NSF Funding by Priority Area
NSFの2003年度重点領域
(Priority Area)
2002年度計画 2003年度要求 増加率
環境における生物複雑性
(Biocomplexity in the Environment)
58.10 79.20 36.3%
情報技術研究
(ITR: Information Technology Research)
277.52 285.83 3.0%
ナノスケール科学技術
(Nanoscale Science and Engineering)
198.71 221.25 11.3%
21世紀労働力のための学習
(Learning for the 21st Century Workforce)
144.82 184.69 27.5%
数理科学
(Mathematical Sciences)
30.00 60.09 100.3%
社会・行動・経済学的科学
(Social, Behavioral and Economic Sciences)
0.00 10.00 NA
合計 709.15 841.06 18.6%
(単位: 百万ドル)[9]

 NSFのITRプログラム[6]は、1999年2月のPITACレポートによる勧告[7]と、それを受けた「21世紀情報技術(IT2)」イニシアチブ[8]の直接の流れを汲むプログラムである。
 PITACは、1999年のレポートにおいて、米国は情報技術研究において「深刻に投資が不足している」と断言した。今日の情報経済の繁栄を導いたようなハイリスクの長期研究投資を、収益確立前に企業が引き受けることはないであろうから「長期のハイリスク研究」に対する新たなファンディング無しには、ITにおける米国の優位が脅かされるだろうと委員会は指摘した。それを受けて政府は、2000年に「21世紀に向けての情報技術」IT2計画として、従来からの研究とは別枠で、基礎研究に366百万ドルの研究開発投資を追加した。その目玉として開始されたのが、NSFのこのITRプログラムである。
 現在、ITRは、NSFで最も大きな重点プログラムとなっている(表 2.3-2)。
 ITRプログラムは、ハイリスクの長期的基礎研究への助成を目的としており、NITRDのすべてのPCA(Program Component Area)の範囲をカバーしている。ITRのメインゴールは、国家のIT知識ベースの拡大と、IT労働力の拡大である。
 ITRは初年度(2000年度)は、ITの基礎研究と教育に焦点を置いて、2000年9月に210件の助成プロジェクトが発表された。2年度目(2001年度)はそれに加えて、ITを科学および工学のチャレンジ全般に適用しようとする研究と教育に焦点を当て、309件の新規プロジェクトが採択されている。
 現在公募・採択作業が進行中の2002年度プロジェクトでは、ITと他の分野との間のインタフェース領域の発展に着目し、学際的領域における研究と教育へ焦点が当てられる。
 このプログラムでは、ITを解明、拡張、そして探求するような、研究・教育における、革新的プロジェクトを支援する。

表 2.3-3 ITRの2001年度の採択プロジェクト
プロジェクト規模 件数 総額 年額
大規模 8件
5百万ドル超〜15百万ドル以下
3百万ドル未満
中規模 113件
500千ドル超〜5百万ドル以下
1百万ドル未満
小規模 188件 500千ドル以下 ---

2.3.1.1  2001年度ITRのトピック

2.3.1.1.1  概要

 NSFは2001年9月25日に、第2年度目にあたる2001年度の採択プログラムを発表した。2000件を超えるプロジェクト提案の中から、309件が採択されており、規模の内訳は表2.3-3の通りである[10]。
 NSF長官のRita Colwellは、PITAC会合でのITR採択プロジェクト報告に際して次のように述べている。

NSFは、これらの大胆なITRプロジェクトの推進役であることを誇りに思う。長期のハイリスク研究を通して、我々は、全体として国民の利益になるような、広範な積極的結果を期待している。我々の目標は、科学者や技術者が最終的に産業に応用されるような種類の発見を助けるようなソフトウェアとITサービスの開発を支援することである。

2.3.1.1.2  2001年度のITR研究推進領域

 ITRプログラムの主要な目標は、国家のIT知識ベースの拡大と、IT労働力の強化である。2001年度の重点領域としては、以下の5つを挙げている。

(1) システムの設計と実装(ヒューマンコンピュータインタフェースを含む)(SY)。
(2) ITと相互に影響し合う人々および社会グループ
(経済的および労働人口的意味を含む)(PE)。
(3) 情報管理(コンテンツ/データの分析と情報処理学を含む)(IM)。
(4) 科学および工学アプリケーション
(シミュレーションおよび先端的計算を含む)(AP)。
(5) スケーラブル情報基盤
(セキュリティ、テザーフリーコンピューティング[1] 、遠隔没入型仮想現実を含む)(SI)。

 各分類の先頭に示してある英文名頭文字から取った2文字(SY、PE、IM、AP、およびSI)は、各技術領域を識別するために使われ、2001年度のプロポーザルのタイトルは、この2文字を付けて、"ITR/XX:"の形式で始まらなければならない。技術領域にまたがる場合は、例えば、次のようなタイトル形式となる。
    "ITR/SY+PE:"

2.3.1.1.3  2001年度のITRプロジェクトのトピック

 NSFでは、2001年度のITR採択プロジェクトの発表にあたり、いくつかの事例[10]を紹介している。

(1) カリフォルニア大学バークレー校のITRプロジェクトは、エネルギー、災害対策、および教育等に関連した複雑な問題を解決することを目的とした、「社会的規模」の情報システムを開発する。
(2) カンザス大学では、なぜ海水のレベルが過去100年間上昇し続けてきているのかを突き止める助けとするために、極地域に、アイスシート(氷板)、大洋、および大気の間の相互作用に関するリアルタイムデータの収集と解析のための、レーダーセンサーを設置する。
(3) カーネギーメロン大学、ライス大学、およびオールドドミニオン大学のコンピュータ科学やその他の分野の研究者たちは、航空力学、エネルギー、環境、地球物理学、医学、およびその他の応用に関連した物理プロセスからのデータをたえず収集活用するために、オンラインシミュレーションのためのソフトウェアを開発する。
(4) Survivors of the Shoah Visual History Foundationは、ホロコースト(ナチスのユダヤ人大虐殺)の生存者と目撃者の116,000時間を超えるインタビューのデジタル化ビデオを保管している非営利組織である。ITR助成が、このマルチメディアコンテンツの目録を作るための音声認識ソフトウェアに当てられる。その多言語性の局面は特に研究的チャレンジとなる。言語間にまたがる新たな検索能力は、「データに関するデータ」として定義されるメタデータに対して広範な意味を持つことになる。
(5) ニューヨークのクラークソン大学は、個体物理学研究に対して先端IT技術を適用する。それには、シリコンチップに取って代わるために原子レベルのプロセスを利用する超高速量子コンピュータ開発を手助けする若手科学者の教育も含まれる。
(6) オレゴン州立大は、海洋と大気に関する大量のデータを処理するための研究活動を行う。6つの大学、1つの国研、および民間企業からの、コンピュータ科学者、海洋学者、および土木技術者を含むチームが、天気予報、海洋事象、地下水、および地球物理学を支援するため、モジュラーソフトウェア(規格部品化されたソフトウェア)を開発する。
(7) ブラウン大学とノースカロライナ大学チャペルヒル校によって進められているプロジェクトでは、外科医をトレーニングするために、「テレイマージョン(遠隔没入)」技術が開発される。実物大の3次元グラフィックスで高忠実度の手術を再現し、訓練生が学習のために作業を中断したり、前に戻って作業を反復したりすることを可能にする。3次元グラフィックスによる手術の再現の様子を図2.3-1に示す。


図 2.3-1 3次元グラフィックスによる手術の再現

 ここで述べた2001年度採択ITRプロジェクト例の情報を表 2.3-4と表 2.3-5に示す。

表 2.3-4 2001年度採択ITRプロジェクト(本節で紹介したもののみ)(その1)

 

Award Number
Title
開始
終了
助成タイプ
総額(予想)
研究機関
(1) 0122599 ITR/SI:
Societal Scale Information Systems: Technologies,
Design and Applications
社会的規模の情報システム: 技術、設計、および
アプリケーション
10-01-01
10-31-06
Continuing
Grant
$7,127,606
LARGE
カリフォ
ルニア
大学バー
クレー校
(2) 122520 ITR/SI+AP:
A Mobile Sensor Web for Polar Ice Sheet
Measurements
極地域のアイスシート(氷板)計測のための
モバイルセンサー網
09-30-01
09-29-06
Continuing
Grant
$5,490,000
LARGE
カンザス
大学
(3) 121667 ITR/AP COLLABORATIVE RESEARCH:
Real Time Optimization for Data Assimilation and
Control of Large Scale Dynamic Simulations
大規模な動的シミュレーションにおけるデータ処理
同化とコントロールのための実時間最適化
ほかの参加大学:
ライス大学(NSF#121360)$550,000、
オールドドミニオン大学(NSF#121207)$805,000
09-30-01
08-30-06
Standard
Grant
$1,145,000
MEDIUM
(GROUP
カーネ
ギーメロ
(4) 122466 ITR Large:
MALACH: Multilingual Access to Large spoken
ArChives
MALACH: 大規模な話し言葉アーカイブへの多言語
アクセス
09-30-01
08-30-06
Continuing
Grant
$7,500,000
LARGE
Suv
of the
Shoah
Vis
His F

 

Award Number
Title
開始
終了
助成タイプ
総額(予想)
研究機関
表 2.3-5 2001年度採択ITRプロジェクト(本節で紹介したもののみ)(その2)
(5) 121146 ITR/SY:
Center for Modeling of Quantum Dynamics,
Relaxation and Decoherence in Solid-State
Physics for Information-Technology
Applications
IT適用に向けた、固体物理学における量子力学、
緩和、および非コヒーレント性のモデル化のための
センター
08-31-01
09-29-08
Continuing
Grant
$1,600,000
MATERIALS
THEORY
クラーク
ソン大学
(6) 121542 ITR/AP:
Collaborative Research: Modular Ocean Data
Assimilation
モジュラー海洋データアシミレーション(海洋
データの同化処理のフトウェア部品による構築)
ほかの参加大学:
ラトガー大学(NSF#121506)$762,500
カリフルニア大学サンディエゴ校
(NSF#121332)$240,000
イリノイ大学アーバナシャンペーン校
(NSF#121449)$500,000
アリゾナ州立大学(NSF#121315)$845,000
コロラド大学ボールダー校
(NSF#121176)$149,717
01-01-02
01-31-07
Continuing
Grant
$2,370,339
MEDIUM
(GROUP)
オレゴン
州立大学
(7) 0121657 ITR/SY:
Electronic Books for the Tele-immersion Age: A
New Paradigm for Teaching Surgical Procedures
遠隔没入(型仮想現実)時代の電子ブック:
手術手順教育のための新しいパラダイム
09-01-01
08-31-04
Standard
Grant
$1,750,000
MEDIUM
(GROUP)
ブラウン
大学

2.3.1.2  ITRにおけるデジタルライブラリ関連プロジェクト

表 2.3-6 ITRプログラムのデジタルライブラリ関連プロジェクト一覧(その1)
  Award Number
Title
開始
終了
助成タイプ
総額(予想)
研究機関
01 0114011 ITR/IM (IDM):
Developing A Collaborative Information and
Knowledge Management Infrastructure
協同的な情報・知識管理インフラストラクチャ
09-01-01
06-30-04
2年
10か月
Standard
Grant
$224,998
'01-S
アリゾナ
大学
02 ITR:(NSFデータベース中にエントリ発見不可)
A Multilingual Gazatteer System for Integrating
Spatial and Cultural Resources
空間的および文化的資源のための他言語ガゼッタ
システム
09-01-01
08-31-02
1年
助成タイプ不明
$99,346
'01-S
カリフォ
ルニア大
学バーク
レー校
03 0114435 ITR/IM:
Digitizing the Burney Collection of Early English
Newspapers
英国の初期の新聞のBurneyコレクションを
デジタル化する
08-15-01
06-30-02
10.5か月
Standard
Grant
$400,000
'01-S
カリフォ
ルニア大
学リバー
サイド校
04 0114436 ITR/IM:
Creating a Latin American Union Catalogue and
Bibliography to 1850
1850年までのラテンアメリカの連合国のカタログと
参考図書一覧を作成する
10-01-01
06-30-02
9か月
Standard
Grant
$99,751
'01-S
カリフォ
ルニア大
学リバー
サイド校
05 0121631 ITR/PE:
AVENUE: Adaptable Voice Translation for Minority
Languages
AVENUE: 少数民族言語のための適応可能な音声翻訳
09-15-01
09-30-06
5年
0.5か月
Continuing
Grant
$2,500,000
'01-M
カーネ
ギーメロ
ン大学
06 0121641 ITR/IM:
Capturing, Coordinating and Remembering Human
Experience
人間の経験を捕捉、調整し記憶する
10-01-01
08-31-05
3年
11か月
Continuing
Grant
$2,000,000
'01-M
カーネ
ギーメロ
ン大学

表 2.3-7 ITRプログラムのデジタルライブラリ関連プロジェクト一覧(その2)
  Award Number
Title
開始
終了
助成タイプ
総額(予想)
研究機関
07 0113878 ITR/IM:
The Million Book Project
100万冊の本プロジェクト
08-15-01
06-30-02
10.5か月
Standard
Grant
$500,000
'01-S
カーネ
ギーメロ
ン大学
08 0121239 ITR/AP+IM:
Computational Tools for Modeling, Visualizing and
Analyzing Historic and Archaeological Sites
歴史的、考古学的遺跡のモデル化、可視化、および
分析のための計算ツール
09-15-01
09-30-05
4年
0.5か月
Continuing
Grant
$2,000,544
'01-M
コロンビ
ア大学
09 0121764 ITR/PE:
A Live Performance Simulation System: Virtual
Vaudeville
生演奏(ライブパフォーマンス)シミュレーション
システム: 仮想ボードビル
※ボードビル: 歌・踊り・コメディー等からなる
ショー
09-15-01
08-31-04
2年
11.5か月
Continuing
Grant
$900,000
'01-M
ジョージ
ア大学
10 0081944 ITR:
An Active, Personalized, Adaptive, Multi-format
Biological Information Delivery System
能動的な、個人化された、適応的な、複数様式の
生物学情報提供システム
09-01-00
09-30-03
3年
1か月
Continuing
Grant
$494,297
'00-S
インディ
アナ大学
11 0121285 ITR/IM+PE+SY:
Summer Workshops on Human Language
Technology: Integrating Research and Education
言語技術に関する夏期ワークショップ(複数): 研究と
教育を統合する
10-01-01
09-30-06
5年
Continuing
Grant
$1,750,000
'01-M
ジョンズ
ホプキン
ス大学

表 2.3-8 ITRプログラムのデジタルライブラリ関連プロジェクト一覧(その3)
  Award Number
Title
開始
終了
助成タイプ
総額(予想)
研究機関
12 0114391 ITR/SY (CISE):
Geometrical Image Representation
幾何学的なイメージ表現
※イメージ圧縮方式研究。イメージ検索効率向上
09-01-01
09-30-04
3年
1か月
Continuing
Grant
$449,973
'01-S
ニュー
ヨーク大
13 0121446 ITR/IM:
3D Shape-Based Retrieval and Its Applications
3次元形状に基づく検索とその応用
09-15-01
07-31-04
2年
10.5か月
Standard
Grant
$500,000
'01-S
プリンス
トン大学
14 0113427 ITR:
Solving the Puzzle of the Forma Urbis Romae
古代ローマの巨大な大理石の地図「the Forma Urbis
Romae」のパズルを解く
※残りの断片を組み入れるのに、コンピュータに
よる形状マッチングアルゴリズムを用いる
10-01-01
09-30-04
3年
Continuing
Grant
$449,995
'01-S
スタン
フォード
大学
15 0122466 ITR Large:
MALACH: Multilingual Access to Large
spoken ArChives
MALACH: 「話し言葉」の大規模アーカイブへの
多言語アクセス
10-01-01
08-31-06
4年
11か月
Continuing
Grant
$7,500,000
'01-L
Survivors
of the
Shoah
Visual
History
Foundation
16 0113007 ITR/AP(CISE):
Capturing and Modeling Physics from Images
イメージから物理を捕捉しモデル化する
※写真やビデオを解析し実世界の現象の物理的
特性を捕捉・モデル化する
09-15-01
09-30-04
3年
0.5か月
Continuing
Grant
$463,532
'01-S
ワシント
ン大学

 ITRプログラムで、デジタルライブラリ関連のプロジェクトが採択されるようになった。DLI2(Digital Library Initiative, Phase 2)のホームページから「Special Project ITR」を開くと、そのプロジェクト一覧を見ることができる(表 2.3-6、表 2.3-7、表 2.3-8)[11]。内訳は、2000年度採択のプロジェクトが1件、残りは2001年度採択のプロジェクトで15件ある。プロジェクト概要を見ると、従来DLI2で扱われていた領域に該当しており、これはDLI2(1988-2003)の完了時期が近づいたので、今後のデジタルライブラリ関連研究はITRで扱う方針となったものと思われる。2001年度には、DLI2プロジェクトの新規募集は行われていない。

2.3.1.3  2002年度ITRプログラム

 ITRの2002年度プロジェクトは、現在、公募・審査中であり、今回も9月に採択プロジェクトが発表される予定である[12]。今回の重点領域は、学際領域、いわゆる複数分野の融合領域である。以下の3つの領域について募集を行っている。これらの複数にまたがるものも推奨される。

(1) ソフトウェアとハードウェアのシステム(software and hardware systems)。
(2) 個人の能力の拡大と社会の変革
(augmenting individuals and transforming society)。
(3)  ITによる科学のフロンティアの前進
(advancement of the frontiers of science via information technology)。

 以下に、各領域の要件概要を簡単に説明する。詳細については参考文献[12]を参照されたい。

2.3.1.3.1  ソフトウェアとハードウェアのシステム

 この領域の提案は、研究および教育のための新しい複合(複雑)システムを創出するのを助けるものでなければならない。例えば、

 これらの問題には、グリッドコンピューティング、仮想現実感/テレプレゼンス、ハイブリッドおよび組み込みシステム、ハイパーフォマンスネットワーキングとミドルウェアアプリケーションなどが含まれる。

2.3.1.3.2  個人の能力の拡大と社会の変革

 この重点領域は、どうすれば、より多くの人がより多くの仕事にITを使うことができるようになるかを研究する。
 さまざまな活動、職業、および社会的コンテキストにおいて、人間のパフォーマンスと体験を増大させるために、人間の肉体的、精神的、および感覚的な能力を拡大するなど、一般に、この分野への提案は、新しい方法で情報技術を効果的に使って、我々自身や社会の能力を向上させる研究である。
 例えば、次のような研究が該当する。

2.3.1.3.3  ITによる科学のフロンティアの前進

 この重点領域は、ITと科学・工学の接点における研究教育活動を支援する。プロジェクトは理論でも実験に基づくものでもよく、以下のことが推奨される。

2.3.2  デジタルライブラリ・イニシアチブ
(電子図書館構想、Digital Library Initiative)

 この世は今や、まさに情報社会、インターネット社会となりつつある。インターネット上を行き交い、あるいはインターネット上に蓄えられるデジタル化された電子情報は、多様化をきわめるとともに、ますますその重要性が増大しつつある。デジタルライブラリの研究は、従来の図書館の枠を超えて、インターネット上のデジタル情報資源の利用と管理の全般にわたる基盤技術として、きわめて重要である。
 1994年にスタートした電子図書館構想(DLI: Digital Library Initiative)は、だれでもがアクセス可能な人類の知識の電子貯蔵庫の夢を実現する上で、直面せざるを得ない概念、構造、および計算機能に対する課題に取り組んでいる。当初のDLI計画(DLI-1: Digital Library Initiative, Phase 1、1994-1998)は、6つの大学の6つのプロジェクトからなる、コンピュータサイエンス指向のこぢんまりとしたものであったにもかかわらず、参加した研究者たちの共同研究の成果は、LycosおよびGoogleの検索エンジンやGo2Netのような商用の副産物を生み出し、多くの研究者の注目を浴び、デジタル情報資源の大いなる可能性を際立たせた。
 1999年度に開始されたDLIフェーズ2(DLI-2、1998-2003)では、DLI-1の成功を受け、プロジェクト数も大幅に増大するとともに、より広範な研究活動へと広がりを見せている。これらの研究では、今日のますます増大する計算能力と帯域幅容量を使って、大規模な分散型の電子コレクションを、広域的な知識ネットワークを通して、アクセス・相互運用可能にし、かつ役立つものにするという目標の実現をはかっている。
 このプロジェクトも最終段階となり、この1年間、新規プロジェクトはまったく追加されていない。2001年度には、2.3.1.2節で述べたように、代わりにITRプログラムの方で、デジタルライブラリ関連のプロジェクトが採択されている。現在公募・選考作業中の2002年度ITRプロジェクトにおいても、重点領域の項目の中で「デジタルライブラリ」に言及されており、今後、デジタルライブラリ関連の研究はITRの中で行われていくものと思われる。
 デジタルライブラリ・イニシアチブの歴史的経緯や、成果のインパクト等については、本年度AITEC報告書の別冊[1]に報告があるので、詳細はそちらを参照頂きたい。

 


[1]"tether free" computing: 無線など、線につながれていない環境でのコンピューティング。

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