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2. 米国政府が支援する情報技術研究開発の動向

 

2.1  はじめに

2.1.1  米国連邦政府研究開発予算の動向

 全米科学振興協会(AAAS)がまとめたレポート[2]によれば、2002年度の米国連邦政府の研究開発予算総額は、前年度比12.7%増という大きな伸びを示し、1,032億ドルとなった。初めて1,000億ドルの大台を超える大規模予算である。これは、同時多発テロに伴う緊急テロ対策支出金などの影響もあり、2001年春の大統領予算教書による要求からもかなり上積みされた額になっている。続いての2003年度は、2002年3月4日に提出された大統領予算教書によれば、伸びの大きかった2002年度に対しても8.6%増の1,120億ドルを要求しており、引き続き大きな伸びを示す予定である(図 2.1-1)。しかし、その内容は、防衛、健康、対テロ防衛を最優先として、それ以外のほとんどの国家ミッションに対する研究開発予算はむしろ減少する。
 図 2.1-1に見られるように、冷戦終結後、防衛予算は減少し、その後しばらくは横ばいが続いた結果、クリントン政権最後の2001年度には、防衛予算と非防衛予算がほぼ拮抗していた。
 ところがブッシュ大統領最初の予算年度である2002年度は、選挙公約の「国防力の強化」の反映の上に、対テロ緊急支出で、防衛R&D支出は再び大きく増大した。近年の米国R&D政策は、ブッシュ政権となって、大きく「ミサイルと医薬(missiles and medicine)」の性格を強めている。2003年度も再び、国家ミッションの中で防衛R&Dと健康R&Dに高い優先度を置く。DOD(Depart of Defense: 米国国防総省)とNIH(National Institute of Health: 国立衛生研究所)の2つが、ブッシュ大統領の最優先R&D投資先となっている(図 2.1-2)。
 図 2.1-1では、防衛R&Dも非防衛R&Dも伴に大きく伸びているが、非防衛R&D予算の大きな伸びは、NIHの伸びによるものである。NIH予算を、1998年度のレベルから2003年度までに倍増するという計画があり、これを達成するためにも最終年度の2003年度に大きな伸びが必要となっている。


R&D予算は、2001、2002、2003年度と大きな伸びが続いている。
図 2.1-1 米国連邦政府R&D予算の動向


図 2.1-2 2003年度予算教書におけるR&D予算の主要エージェンシー比率

 図 2.1-3に示すように、非防衛R&D予算の中で、NIHのR&Dは着実に伸びてきているが、それ以外の非防衛R&Dは伸び悩んでいる。2003年度要求では、NIHを除いた非防衛R&D全体としては、0.2%減少し、NIHとそれ以外がほぼ同一レベルとなる。
 結局、連邦政府R&D予算のおおまかな構成は、全体の約半分が防衛R&Dであり、残りのうちのまた半分が健康R&D、その残りが一般のR&D予算ということになる(図2.1-4)。


図 2.1-4 米国連邦政府R&D予算の構成比率(防衛R&D、非防衛R&D)


図 2.1-3 非防衛R&D予算の推移動向


表 2.1-1 省庁間連携研究開発イニシアチブの予算
  2001年度 2002年度 2003年度 2002-03年度の推移
実績
(百万ドル)
推定
(百万ドル)
要求
(百万ドル)
金額
(百万ドル)
増率
ナノテクノロジー
(Nanotechnology)
466 604 710 106 17.5%
ネットワーキングおよび
情報技術研究開発
(NITRD)
1,768 1,844 1,890 46 2.5%
気候変動研究
(Climate Change Research)
0 0 40 40 N/A
米国地球変動研究
(USGCRP)
1,728 1,670 1,714 44 2.6%

 

2.1.2  研究開発投資効率の改善

 上述のような、非防衛・非NIHについては全体としてフラットな連邦政府R&D予算の中で、省庁間にまたがるイニシアチブは重視されており、そのR&D予算は順調に増加している(表 2.1-1)。
 これは、ブッシュ政権の、連邦政府R&D投資の効率改善策の一環でもある。この1年にわたり、OSTP(Office of Science and Technology Policy、科学技術政策局)とOMB(Office of Management and Budget、行政管理予算局)は、連邦政府機関や科学コミュニティとともに、連邦政府R&Dの最優先領域を識別する作業を行ってきた。その結果は、例えば情報技術のような、国家にとって重要な領域、ナノテクノロジーのように、多くの分野にわたって新たなブレークスルーを提供することが期待される新興の領域、その他には、(表 2.1-1にはないが)対テロリズムR&Dのように、新たに認識されたニーズを扱うもの、などである。
 これらの省庁間連携イニシアチブのうち、ナノテクノロジーとNITRDは、よく調整された戦略的な計画と実行を保証するために、NSFの支援の下に、個別の調整組織(coordination office)を持っている。両イニシアチブは、2003年に向けた詳細な研究提案を記述した統一的な計画を、それぞれ作ることになっている。対テロリズムR&Dと気候変動R&Dについては、新しい組織の設立と省庁間調整の強化を行いつつある。政府は、よりよい省庁間連携によって将来役に立つ重要なニーズが得られるような領域選択の検討を、今後も続ける予定である。
 また、2004年度予算割り当てでの適用を目標に、R&D投資判定基準を開発中である。多くのR&D、特に基礎研究では、結果が数年後あるいは数十年後にしか明白にならないかもしれないので、R&Dの効率の評価には特別の配慮を必要とするが、それにもかかわらず、政府は、プロジェクトのマイルストーン達成の判定基準の適用も含めて、R&D間での投資対象決定のための基盤の改善を試みる。
 この判定基準はまだ開発中であるが、すでにいくつかの基本原理については、明らかにされ、一部適用されている。その結果、2003年度予算において、いくつかの研究プログラムの省庁間移動なども行われている。基本原理としては、例えば以下のような項目が挙げられている。

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