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(6) NGIと次世代インターネット研究法:1997年〜

 NGI(Next Generation Internet)は1996年10月に構想が発表された。そして、1997年2月に行われた大統領一般教書演説において、NGI構築の支援が表明され、98年度予算に計上された。98年度予算要求額は、CIC計画のLSN2.8億ドルのうち、1億ドルがNGIの予算であった。

NGIプロジェクトの目標としては、@先端ネットワーク技術の試験研究、A次世代ネットワークのテストベッド、B革新的アプリケーション、の3つが掲げられた。1998年2月に発表されたNGI実行計画書(Implementation Plan)では、上記3点の目標を下記のように細分化している。

目標@:先端ネットワーク技術の試験研究
  ●Network Growth Engineering
    −Planning and Simulation
−Monitoring, Control, Analysis, and Display
−Integration
−Data Delivery
−Managing Lead User Infrastructure
  ●End-to-End Quality of Service
    −Baseline Quality of Service Architecture
−Drill Down Technologies
−Security.
−Cryptographic Technology and Applications
−Security Criteria, Test Methods, and Testing

目標A:次世代ネットワークのテストベッド

  ●GOAL 2.1: HIGH PERFORMANCE CONNECTIVITY
    −Infrastructure Subgoal
−Common Bearer Services Subgoal
−Application Feedback Subgoal
−Interconnection Subgoal
−Site Selection Subgoal
−Network Management Subgoal
−Information Distribution and Training Subgoal
  ●GOAL 2.2: NEXT GENERATION NETWORK TECHNOLOGIES AND ULTRAHIGH PERFORMANCE CONNECTIVITY
目標B:革新的アプリケーション
    −APPLICATION SELECTION AND COORDINATION
 −NGI Applications Selection Process
    −NGI funded Agency Missions
    −NGI Affinity Groups
    −Federal Information Services Applications Council
    −Broader Communities
 −Funding
 −Prioritization Schemata
−NGI Criteria
−Applications Support Function
−Applications Affinity Groups
 −Disciplinary Affinity Groups
 −Technology Affinity Groups
−CANDIDATE APPLICATIONS
 −Potential Applications
 −Initial Candidate Applications

 NGI研究チームの実施体制は、図表2-7に示す通りである。NGI研究チームは、LSNワーキンググループの監督下で認められた計画の第一義的責任を負っている。
 NGI研究チームの活動は、下記のように規定されている。

 また、NGI研究チームに参加している省庁は、DARPA、NIST、NASA、NSF、DODである。なお、HPCC及びITに係る大統領諮問委員会は、NGIも諮問委員会の対象とするため、HPCC、IT及びNGIに係る大統領諮問委員会と改名された。

 

図表2-7 NGI研究チーム発足後(98年度)の実施体制

(Bluebook98を参考に作成)

 NGI研究チームが発足した約1年後、NGI研究法が成立した(1998年10月28日成立)。この法律はNGI研究のみを対象とした法律ではなく、失効したHPC法に若干の改訂を加え、NGI研究に関する規定を追加した、いわばHPC法のバージョンアップ版である。

 NGIの2000年度予算は、下表のようにDARPAが1,000万ドル減で要求する以外は全て99年度と同額の要求であり、総計1億ドルである。

図表2-8 NGI予算の推移(単位:百万ドル)
機関名 FY1998 FY1999 FY2000
DOD/DARPA 42 50 40
NSF 23 25 25
DOE 15 15
NASA 10 10 10
NIST 5 5 5
NLM/NIH 5 5 5
合計 85 110 100

 

 NGIの監督は、大統領直属情報技術諮問委員会PITACが担当しており、NGIプロジェクトの評価も行っている。
 NGI法に基づき、2000年4月にPITACによる中間評価がまとめられた。各分野ごとの進捗が評価されている。NGIテストベッドは当初計画を上回る勢いでサイトが接続されている。NGIアプリケーションについては、100以上のアプリケーションが開発されつつあるが、NGIの特徴である高速ネットワーク、QoSを必要とするアプリケーションは少ない。研究の成果として技術移転も活発であり、10を超えるスタートアップ企業が誕生している様子である。

 

(7) IT2: 1999年〜

1997年2月に設置された大統領情報技術諮問委員会(PITAC)は、情報技術政策のビジョン策定を行ってきた。1998年8月には、その中間報告が発表された。この中間報告を受けた形で1999年1月に「21世紀に向けた情報技術:IT2」という題名の報告書が提出された。この報告書によれば、「2000年度大統領予算教書において、クリントン=ゴア政権は、情報技術研究投資の大幅な強化を表明している」とある。特にHPCC計画とは別枠予算として366百万ドルを投じた連邦政府の情報技術研究における新計画は、IT2と呼ばれている。1999年2月には、IT2のドラフトをまとめた。このドラフトでは、下記の3つの重点項目が提言されている。

 IT2に参加する機関は、全米科学財団(NSF)、国防総省(DOD)、エネルギー省(DOE)、航空宇宙局(NASA)、国立衛生研究所(NIH)、国立海洋大気管理局(NOAA)である。なお、DODは高等研究計画局(DARPA)を含んでいる。
 これらの機関に対する2000年度予算案は図表2-9の通りである。

図表2-9 2000年度 IT2予算案(単位:百万ドル)
機関名 重点項目 合計
(IT2-1) (IT2-2) (IT2-3)
DOD 100 100
DOE 6 62 2 70
NASA 18 19 1 38
NIH 2 2 2 6
NOAA 2 4 6
NSF 100 36 10 146
合計 228 123 15 366

 

 なお、PITACの最終報告は、1999年2月24日に行われている。この最終報告では、様々な角度からHPCC計画を分析し提言を行っているが、そのうち、情報化政策に係る科学技術研究プロジェクトの体制に関わる提言を下記に示す。

 1999年に2000年度版ブルーブックが公表された(web上の公開は1999年5月)。タイトルは、「次の1000年に向けた情報技術フロンティア」とある。CIC計画は、99年版ブルーブックから、HPCC R&D計画と名称が変更されている。これはプロジェクトとは別組織であった連邦ネットワーク会議(FNC)をプロジェクトと並列な組織とし、名称を連邦情報サービス・アプリケーション会議(FISAC:Federal Information Services and Applications Council)と組織変更を行ったことによるものと思われる。
 2000年度における、HPCC R&D計画の実施体制は、下記に示す通りである。

図表2-10 2000年度の実施体制

(Bluebook2000より引用)

 HPCC計画が開始されてから現在までの予算推移を図表2-11に示す。

図表2-11 HPCC計画(CIC計画)予算の推移と参加機関数(単位:百万ドル)
会計年度 参加機関数 予算 計画当初から
参加の8機関
が占める予算
備考
FY 91 8 489.4 489.4

FY 92 8 655 655

FY 93 8 795 783

FY 94 10 938 925 HPCC計画にIITAが追加
NSAが参加
FY 95 10 1129 1019 AHCPR、VAが参加
FY 96 12 1043 949 HPCC計画からCIC計画へ
FY 97 12 1009 931

FY 98 12 1074 998

FY 99 10 795 764 CIC計画からHPCC R&D計画へ
VAとEDが不参加
FY 2000 10 911 830

 

 また、1999年度と2000年度のHPCC R&D計画予算を、ほぼ予算の全てを占める三つのプログラム・コンポーネント分野にまとめたものを次表に示す。なお1999年度のHCSはその年度の大統領府の予算に含まれたため、1998年度の予算を用いている。

図表2-12 1999−2000年度HPCC計画一覧(単位:百万ドル)

 

(8) 情報技術研究開発(IT R&D): 2000年〜

2000年2月には、米国の2001年度予算案が発表され、その中で情報技術研究開発計画が示されている。
 予算案の中でクリントン大統領は、1999年から起こした21世紀基礎研究ファンド(21st Century Research Fund)を強調しており、その要求額は428億9,500万ドルになっている。これは研究開発費予算全体(853億3,300万ドル)の50%であり、非軍事研究としては過去最大の前年比増額(29億ドル)要求となっている。このファンドの狙いは、NIH、NSF、DOEでの基礎研究を中心に、コンピュータ、通信、エネルギー、環境等分野で、基礎と応用の相互に関連する領域の研究開発を組み合わせて、成果を増幅するようなバランスの取れた資源の投資を行うことである。
 この21世紀基礎研究ファンドをベースに、科学技術イニシアティブが構成されている。主な特徴は、@基礎研究の強化と連邦政府研究ポートフォリオのバランス、A大学ベースの基礎研究の強化、BNSTCによるマルチエージェンシ研究イニシアティブの推進である。このBで強調されているのが、新たに加わったナノテクノロジ、バイオベースのクリーンエネルギーとともに情報技術への支援増加である。
 この情報技術については、過去10年間にわたって実施されてきたHPCC計画(NGIを含む)と、2000年度予算から盛り込まれたIT2計画を合併して、情報技術研究開発(Information Technology Research and Development)という新しい計画名称になっている。これはHPCC計画とIT2計画の差異についての理解・認識に混乱があったことを是正するためと国家経済会議の上級スタッフは述べている。この計画ではIT2計画に8億2,300万ドル、NGIに8,900万ドルを含む総額で23億1,500万ドル(35%増)の予算を要求している。特にIT2計画の額は対前年比で166%の増額となっており、科学技術イニシアティブの中でも、二番目の伸び率である。

図表2-13 NSTCイニシアティブ予算要求額(単位:百万ドル)
予算項目 FY1999 FY2000 FY2001 増分(%)
情報技術研究開発(IT R&D)
  情報技術イニシアティブ(IT2
  次世代インターネット(NGI)
1,301

105
1,721
309
86
2,315
823
89
35
166
3
ナノテクノロジ研究 247 270 495 83
クリーンエネルギ(生物ベース製品とバイオエネルギ) 195 196 289 47
重要インフラ防衛研究開発 450 461 606 31
大量破壊兵器配備研究開発 320 473 501 6
省庁連携教育研究イニシアティブ 30 38 50 32
気候変動技術イニシアティブ 1,021 1,099 1,432 30
新世代乗用車パートナシップ 235 226 255 13
エコシステム課題のための総合科学 630 657 747 14
地球規模変化の研究計画 1,657 1,701 1,740 2
合 計 6,086 6,842 8,430 23
(注)上位5項目が情報技術分野に関連する。

 IT R&Dの政府機関別の予算額内訳を下表に示す。NSFやDODの増額が目立つ。

 

図表2-14 IT R&D予算要求額(単位:百万ドル)

政府機関 FY2000 FY2001 増分(%)
DOC(NOAA,NIST) 36 44 22
DOD(DARPA,NSA,URI) 282 397 41
DOE 517 667 29
EPA 4 4 0
DHHS(NIH,AHRQ) 191 233 22
NAS 174 230 32
NSF 517 740 43
合計 1,721 2,315 35

 

 IT R&Dの2001年度の重点分野としては、以下の11テーマがあがっている。

    @ 最先端コンピューティング開発チーム
    A 最先端コンピュータモデリングとシミュレーション用インフラ(NSF)
    B より信頼性の高いソフトウェア
    C データの格納、管理、保存(NASA)
    D インテリジェントマシンとロボットネットワーク(NASA)
    E ユビキタスコンピューティングと無線ネットワーク(DARPA、NSF)
    F 情報のセキュリティとプライバシーの管理・保証(DOD、NIST)
    G 未来世代コンピュータ
    H 広帯域光ネットワーク(DARPA)
    I 社会、経済、労働力への情報技術の関わり合い(NSF)
    J 新世代研究者の教育と訓練(NSF、DOE、NIH)

 これらの今後の計画の中では、NSFによるITR(Information Technology Research)イニシアティブが注目される。ITの基礎的・長期的研究を助成するものであるが、2000年度12,600万ドルの予算実績に対し、2001年度は160%増の32,700万ドルを要求している。

 

(9) ネットワーキング及び情報技術研究開発(NITRD)法案

 2001年度予算教書とは別に、IT2計画の強化継続策として、5年間というスパンで計画的に情報技術分野への政府支援を行うことを目的とした「ネットワーキング及び情報技術研究開発法(NITRD法:Networking and Information Technology Research and Development Act)案が、第106議会下院本会議に上程され、2000年2月15日下院を通過し上院に送付された。
 この法案は下院科学委員会が提案したもので、1991年のHPC法を修正し、NSF、NASA、DOE、NIST、NOAA、EPA、NIHの研究開発支出を2000年度から2004年度までの5年間についてあらかじめ認可しようというものである。この法案の内容は次のようなものである。

(NITRD-1) 承認された予算のうちの一定額を、@情報技術研究センタへのグラントを含むネットワーキングと情報技術に関わる長期的基礎研究 A大規模研究設備の開発に関わるグラント B情報技術インターシップのグラントに振り分ける。
(NITRD-2) 2001年度と2002年度について、次世代インターネット計画に参加している機関の予算承認を行う。
(NITRD-3) HPCに関わる諮問委員会に対し、@HPC、ネットワーキング、情報技術研究開発計画について、定期的な評価の実施を要請し、A調査結果やリコメンデーションについて、特定の議会の委員会に対して少なくとも2年に1回の報告を求める。
(NITRD-4) NSFに対し、米国で輸出規制がかかっている暗号技術について、外国における入手可能性について比較し、議会に対して報告するよう求める。

 下院で承認された予算認可案を次表に示す。

図表2-15「ネットワーキング及び情報技術研究開発法」案の予算認可案(単位:百万ドル)

  FY2000 FY2001 FY2002 FY2003 FY2004
  NSF 580 699.3 728.15 801.55 838.5
研究設備(注1) 70 70 80 80 85
NASA 164.4 201 208 224 231
DOE 60 54.3 56.15 65.55 67.5
NIST 9 9.5 10.5 16 17
NOAA 13.5 13.9 14.3 14.8 15.2
EPA 4.2 4.3 4.5 4.6 4.7
NIH 223 233 242 250 250
HPCC(注2) 1,124.1 1,285.3 1,343.6 1,456.5 1,508.9
  DOE 25 15 15
NSF 25 25 25
NIH 7.5 0 0
NASA 7.5 10 10
NIST 7.5 5.5 5.5
NGI(注3) 72.5 55.5 55.5
NITRD計 1,196.6 1,340.8 1,399.1 1,456.5 1,508.9

 

 なおNIHについては、HPC法の205Aセクションとして今回新たに追加されたもので、バイオ医療及び行動科学研究での計算技術とソフトウェアツールの進歩と応用拡大が目的となっている。
 一方上院では、NITRD法案と、国防以外の連邦政府全体の研究開発費を一括して大幅に増大させようとする「連邦投資法案」を組み合わせた「連邦研究投資法案・次世代インターネット2000法案」(S.2046)が、ウィリアム・フリスト議員によって提出された。連邦研究投資法案の部分においては、非国防予算支出を連邦裁量予算の6.8%から10%(約800億ドル程度)に引き上げていくという意欲的な目標が掲げられている。

 

(10) クリントン政権からブッシュ政権へ

 以上のようにクリントン=ゴア時代の大きな柱であったIT政策であるが、ブッシュ政権に変わり、IT政策は変化する様子である。これまでのところ、目立った取り組みがなされていないが、財政赤字解消、減税の中でIT政策、ITR&Dがどのようになっていくか注目される。

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