2.3 IT R&DにおけるHCI&IM領域の研究開発
HCI&IM(Human-Computer Interface and Information Management、ヒューマン・コンピュータ・インタフェースおよび情報管理)では、ヒューマン・コンピュータ・インタフェース技術を発展させ、コンピューティング装置や情報リソースを管理し活用する能力を高める高度なテクノロジの研究開発を行う。
HCI & IMでは、幅広い研究テーマを扱うことにより、生体臨床医学、商業、危機管理、教育、法執行、図書館学、製造、国防、学問、気候分析など多くの分野で新たなITの可能性を生み出している。
Blue Book 2001では、多くの研究開発事例が紹介されているが、特に2001会計年度の研究開発のトピックとして、以下のものを挙げている。
(下記のカッコ内は、本報告書内の参照章節を示す。)
(1) 遠隔/自律システム:
- 宇宙船用の自律型スーパーコンピュータの開発を目指すNASAの遠隔探査実験(REE(Remote Exploration and Experimentation))プロジェクトなどの遠隔/自律エージェント。(付2
- 4.1 遠隔探査と遠隔実験)
- DARPA (米国国防総省高等研究計画局)の移動自律ロボット・ソフトウェアなどの戦場用のロボット工学。(付2 - 4.2 将来のロボット戦場)
(2) コラボレーション、ビジュアライゼーション、バーチャルリアリティ:
- シミュレーション、3次元ビジュアライゼーション機能や、多くの遠隔地間を結び3次元イマーシブ環境下で会議、トレーニング、共同研究を行うことを目指したNSFのNational
Computational Science Alliance (Alliance) Access Gridなど。(付2 - 5.1 Access Grid)
- 高度なオンライン顕微鏡を用いて分散環境下で共同研究を進めることを可能にするDOEのDeepViewスケーラブル・システム。
(付2 - 5.3 DeepView: 分散型顕微鏡検査のための共同研究フレームワーク)
- NIST(米国商務省標準技術研究所)が製造現場向けに開発したコラボレーション機能(付2 - 5.7 製造業共同研究所 Manufacturing
collaboratory)
(3)「Webベースの知識データベース」と「データの収集/分析を行う情報エージェント」:
-
複数の政府機関が携わる電子図書館構想(フェーズ2)
(2.3.2 デジタルライブラリ・イニシアチブ)
-
NISTの数学関数デジタル図書館(DLMF)
(付2 - 6.1 数学関数のデジタル図書館)
- ユーザが臨床データの評価を行うことを可能とした健康医療研究品質局(AHRQ)のコンピュータベースのニーズに基づいて品質の測定と評価を行うシステム(CONQUEST:COmputerized
Needs-oriented QUality measurement Evaluation SysTem)など。(付2 - 6.2 治療法ガイドラインのリポジトリ)
(4) マルチモーダル・インタラクション
(人間とコンピュータ・システムとの間の多様な対話):
- 例えば、モバイル・コンピュータに話し言葉の認識機能を組み込んだDARPAのコミュニケータプログラム。(付2 - 3.1 コミュニケーター)
-
NASAのタッチ・フィードバック機能を持つシミュレーションモデルであるヒューマン・ファクター・プログラムなどの視覚装置
(付2 - 3.2 航空宇宙システムの中の人的要素)
- コンピューティング・システムの人工知能の開発に認知科学を適用しようというNSFのKCS(knowledge and cognitive systems)プログラムなどのインテリジェント・システム。(付2
- 2.2 知識および認識システム)
(5) 多言語翻訳:
-
例えば、他言語による文書を英語に翻訳しようというDARPAの翻訳情報の発見、抽出、要約(TIDES:Translingual Information
Detection, Extraction, and Summarization)計画など。
(付2 - 3.3 言語透過的な情報の検出、抽出、および要約)
以上のBlue Book 2001に紹介されている研究は、議会への予算要求等の目的もあり、成果を示すという面が強いと言えるだろう。一方、PITAC(大統領直属情報技術諮問委員会)の勧告に基づく、最近の基礎研究重視の政策を直接反映したIT
R&Dの目玉とも言えるNSFのITRプログラムは、2000年9月に初年度の助成プロジェクトが採択されたところであり、成果が出始めるのはこれからである。したがって、ITRプログラムについては、まだ、Blue
Bookでは触れていない。これは、Blue Book 2001の公表が同じく9月だったため、掲載に間に合わなかったものとも考えられる。
そこで、本章では、まずITRの概要について説明し、その後、Blue BookでもIT R&Dハイライトで取り上げられているデジタルライブラリ・イニシアチブ(Digital
Library Initiative)について説明する。IT R&D計画におけるその他の「人間主体の知的情報技術」に関連する研究については、Blue
Book 2001の「HCM&IM」研究開発テーマに関する部分を付属資料2に掲載してあるので、そちらを参照願いたい。「付属資料3.HCI&IM研究開発テーマと助成エージェンシー」では、その研究開発テーマと対応する助成エージェンシーの関係を、見やすい表形式で示した。