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2.2 IT R&Dプログラム

 米国連邦政府の情報技術関連研究開発は2000年度までHPCC R&Dプログラム(High Performance Computing and Communications[HPCC] R&D Program)と呼ばれていたが、2001年度からは21世紀情報技術研究(IT2)イニシアチブを取り込んだ形で再出発し、その名称もIT R&Dプログラム(IT R&D Programs)と変わった。この結果、プログラムの内容、組織、参加エージェンシーにおいてかなりの変更が加えられている。
 本章ではIT R&Dプログラムに含まれるプログラム・コンポーネント・エリアと政府組織について、昨年度からの変更点を含めて簡単に説明する。

 

2.2.1 プログラム・コンポーネント・エリア(Program Component Area:PCA)

 IT R&Dプログラムの研究領域は以下の6つのプログラム・コンポーネント・エリア(PCA)からなっている。2001年度より、大統領情報技術諮問委員会(PITAC)からの提言によりPCAのフレームワークに変更が加えられ、コンポーネント・エリアの数は従来の5 PCAから6 PCAに増加している(図2.2-1, 2.2-2)。

(1) HECC(ハイエンドコンピューティング・コンピュテーション)
 
全体としては2000年度以前の内容から変わっていないが、HECCは新たに以下の2つのPCAに細分化され、各々に独立して予算が割当てられるようになった。

(2) HCI&IM(ヒューマン・コンピュータ・インターフェイスと情報管理
 2000年度まではHuCS(人間中心システム)と呼ばれていたPCAである。本報告書で扱っている人間主体の知的情報技術に関する研究開発項目は、ほぼこのPCAに含まれる。
 HCI&IMでは人間−コンピュータ・インタフェース技術を発展させ、コンピューティング装置や情報リソースを管理し活用する能力を高めるテクノロジの研究開発を行っており、扱っている主な研究テーマはロボット工学、遠隔/自律エージェント、コラボレーション技術、可視化技術、バーチャルリアリティ、知識データベース、デジタル図書館、情報エージェント、言語認識、インテリジェントシステム、多言語翻訳などである。

(3) LSN(大規模ネットワーク)
 LSNでは基本ネットワーキング技術に関する長期的な研究を行っており、下記のNGIおよびSIIの2つのイニシアチブを含んでいる。SIIは1999年のPITACレポートにより優先課題として指摘され、2001年度から新たに加わったイニシアチブである。

(4) SDP(ソフトウェア設計と生産性)
 本PCAは、1999年のPITACレポートで最優先項目として指摘された、ソフトウェア需要に対する開発能力の不足と、ソフトウェアの設計、テストおよび維持管理の困難化といった緊急の課題に対処するために2001年度から新たに設立された。SDPでは有用で安全性/信頼性の高いソフトウェアを効率良く開発するための理論的基礎研究、技術やツールに関する研究開発が行われる。

(5) HCSS(高信頼ソフトウェアとシステム)
 
2000年度まではHCS(高信頼システム)と呼ばれていたPCAである。その研究内容に大きな変化は見られないが、上記のSDPの新設と同様に、ソフトウェアの重要性を考慮して名称が変更されたものと思われる。HCSSではコンピュータシステムに求められる信頼性、安全性、セキュリティ、可用性を実現するための技術の研究開発を行っており、テーマとしてはネットワークとデータのセキュリティ、暗号化、情報の生存性、システムの耐久性などが含まれる。

(6) SEW(社会、経済、および労働力の面から見たIT労働力開発の意味)
 SEWは、2000年度までETHR(教育訓練と人的資源)と呼ばれていたPCAの後継であり、ETHRの内容がさらに拡大されている。SEWではITが社会システムに与える影響、IT技術者の需要増加に対処するための技術者育成、デジタルデバイド等に関する研究が行われている。

 

2.2.2 IT R&Dプログラムの計画・執行組織

IT R&Dプログラムの計画および執行に関係する組織について以下に説明する。(図2.2-3, 2.2-4)

(1) 科学技術政策局(Office of Science and Technology Policy:OSTP)
 ホワイトハウス内に置かれ、米国政府のR&D投資に関して大統領への助言を行うとともに、大統領直轄の国家科学技術委員会の活動を監督する。大統領科学技術担当補佐官がOSTPの長官を兼ねる。

(2) 国家科学技術委員会(National Science and Technology Council:NSTC)
 大統領が議長を務め、委員は各省の長官レベルで構成される。NSTCは連邦政府の科学技術投資のための国家目標の確立およびエージェンシー間に渡るR&D戦略の確立を目的としている。

(3) IT R&Dのシニア・プリンシパル・グループ(Senior Principals Group for IT R&D)
 2000年度までは技術委員会(Committee on Technology:CT)と呼ばれていた委員会組織である。OSTP長官が議長を務め、メンバーはIT R&Dに資金援助を行っているエージェンシーの上級官吏で構成される。シニア・プリンシパル・グループは、NSTCと協力してR&Dプログラムの優先順位の設定支援と、米国政府のIT R&Dポートフォリオと関係機関のミッションおよび能力のバランス調整を行い、進捗を管理する。

(4) エージェンシー間・ワーキング・グループ(Interagency Working Group on IT R&D:IWG/IT R&D)
 
2000年度まではCIC研究開発小委員会(Subcommittee on Computing, Information and Communications R&D)と呼ばれていた。IWG/IT R&Dはシニア・プリンシパル・グループの内部的な審議組織で、実施エージェンシーの政策、計画、予算に関する助言を行う。
 本ワーキング・グループは計画、予算策定、実施およびレビューなどを含む複数のエージェンシーが関係するIT研究活動の調整を行い、連邦議会、OMB(行政管理予算局)、OSTP、学会、および産業界との間の調整を行うほか、PITACへの技術的支援を行う。
 IWG/IT R&Dに参加している主なエージェンシーは以下の11である(前年度と比べてED(教育省)、VA(復員軍人省)が削除され、OSD(国防長官事務局)が追加された)。

・DARPA :米国防省高等研究計画局(Defense Advanced Research Projects Agency)
        [国防省(Department of Defense)]
・DOE :エネルギー省(Department of Energy)
・EPA :米国環境保護庁(Environmental Protection Agency)
・NASA :米国航空宇宙局(National Aeronautics and Space Administration)
・NIH :米国国立衛生研究所(National Institutes of Health)
        [保険社会福祉省(Department of Health and Human Services)]
・NIST :米国国立標準技術院(National Institute of Standards and Technology)
        [商務省(Department of Commerce)]
・NOAA :米国海洋大気局(National Oceanic and Atmospheric Administration)
        [商務省(Department of Commerce)]
・NSA :米国国家安全保障局(National Security Agency)
        [国防省(Department of Defense)]
・NSF :全米科学財団(National Science Foundation)
・AHRQ :米国健康医療研究品質局(Agency for Healthcare Research and Quality)
        [保険社会福祉省(Department of Health and Human Services)]
・OSD :国防長官事務局(Office of the Secretary of Defense)
        [国防省(Department of Defense)]

(5) コーディネート・グループ(Coordinating Groups)
 
2000年度まではワーキング・グループと呼ばれていた。6つのPCAにそれぞれ対応した6つのコーディネート・グループからなり、IWG/IT R&Dの管轄下に置かれている。6つのコーディネート・グループは各々の専門領域におけるR&Dの目標と実施に関する調整を行う。LSNコーディネートグループ(LSNCG)はさらに4つのサブ・グループ(チームと呼ばれる)に分けられる。

(6) 連邦政府情報サービス/アプリケーション協議会
   (Federal Information Services and Applications Council:FISAC)
 FISACはIT R&Dプログラムの成果として得られた技術をエージェンシーの業務や米国政府のシステムに適用するための支援を行う。

(7) CIC国家調整室
(National Coordination Office for Computing, Information and Communication:NCO/CIC)
 NCO/CICは関連エージェンシーの計画、予算策定、評価資材の準備、R&D情報および文書の集中管理など、IT R&Dプログラム全体に対する支援を行う。

 


図2.2-1 IT R&Dプログラムの計画・執行組織(2001年度)

 

 


図2.2-2 <参考> HPCC R&Dプログラムの計画・執行組織(1997〜2000年度)

 

 


図2.2-3 IT R&Dプログラムに関連する政府組織(2001年度)

 

 


図2.2-4 <参考> HPCC R&Dプログラムに関連する政府組織(1997〜2000年度)

 

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