全米科学振興協会(AAAS)がまとめた米国連邦政府の研究開発予算に関するレポート[1]によると、2001年度の研究開発関連予算総額は909億ドルで、前年度と比べて9.1%の伸びを示し、過去最高額となった。研究開発予算の内訳を見ると、過去20年間は国防関係予算額が非国防関係予算額を常に上回っていたが、2001年度になって初めて両者が同等となった(国防関係予算は堅実な伸びを示したが、非国防関係予算の伸びがそれを上回ったことによる)。ほとんどすべての連邦政府機関において、2001年度の研究開発予算は2000年度予算と2001年度大統領予算教書での要求額を上回っている。全米科学財団(NSF)については大統領要求額が非常に大きかったためこれを下回ったが、それでも2000年度予算額に対して13.2%という平均の伸び率を大幅に上回る増額を獲得している。
最近の米国連邦政府支援による研究開発の特徴は長期的、基礎的研究の重視と言うことができる。AAASによると、2001年度大統領予算教書における基礎研究関連予算の要求額は203億ドルであったが、米国議会はこれをさらに増額し、最終的な予算額は212億ドル(前年度比+11.8%)となった。基礎研究重視の考えは、産業界、学界の会員で構成される米国競争力協議会が作成した2001年版報告“Strengths,
Vulnerabilities and Long-Term Priorities”でも強く主張されており、本報告書では政府による先端的研究への投資を増やし、過去に無視されてきた基礎的研究分野へもバランス良く投資するよう求めている。このように、米国では長期的、基礎的研究開発に対する国家支援の重要性が政府、産業界、学界において再認識されており、質、量ともに圧倒的パワーを持っている国研や大学の研究者がますます力を発揮できる環境にあると言える。
情報技術(IT)に関連する研究開発について見てみると、上記の研究開発予算の増加や、基礎研究重視の傾向がさらにはっきりと顕われる。2001年度のIT R&Dプログラム(2000年度以前のHPCCプログラムとIT2イニシアチブが統合されたもの)の予算は24%の大幅な増額となり、21億ドルとなった。また、大統領情報技術諮問委員会(PITAC)の勧告により長期的、基礎的、革新的研究支援を実現するために設けられたIT2イニシアチブが、その名を変えて2000年度から具体的にスタートしたITR(IT
Research)イニシアチブの予算は、2000年度の0.9億ドルから2001年度は2.15億ドルへと大幅な増加を示している。
NSFがまとめているITRイニシアチブは、上記の0.9億ドルの予算に基づく最初の助成対象案件が2000年9月13日に発表された。さらに2001年度の2.15億ドルの助成対象案件は現在公募中である。米国政府支援のIT研究開発の概要についてはBlue
Bookに記載され、公表されているが、そこで紹介されている研究はすでに成果として現れているものであり、いわば過去の研究テーマと言えなくもない。今後どのような研究が行われようとしているのかを知るには、ITRの研究テーマを調査するのがより適切であろう。
本編では、まず米国政府支援によるIT研究開発プログラムに関する最近の組織上の変更(主として前述のPITACの勧告に基づく)について紹介する。その次にNSFのITRに関するホームページ[2]で公表されている、2000年度に採択されたITRイニシアチブの研究テーマを紹介し(Blue
Book 2001の中で当ワーキンググループのテーマに最も関係するHCI&IMの部分については、付属資料2, 3として添付する)、さらに、3年目を迎えたDLIフェーズ2(Digital
Library Initiative, Phase 2)の状況についてBlue Book 2001に記載された内容をベースに紹介する。
[1] “Congressional Action on Research and Development in the FY 2001 Budget” http://www.aaas.org/spp/dspp/rd/pubs.htm