3.6.1 技術移転政策
政府支援研究開発の成果は、国防目的等の例外を除き、民間への技術移転を促進し商業化を図ることが義務付けられている。また研究開発主体には、その商業化の意志を前提として技術成果の所有(IPR)が認められている。
<連邦政府支援R&Dによる技術の民間移転政策の経緯>
●1862年 Morrill 法: 農業と機械工業の分野で民間への技術移転を目的とした大学の設置を推進。後のLand grant universities
の原型となる。
●1914年 Smith-Lever法: 連邦、州、群政府が共同でCooperative Agricultural Extension Serviceを創設、国費による研究成果を一般市民に広めるサービスを開始。これ以来、農業省は研究開発予算の約半分を民間への技術移転に割いている。
これ以降1970年代まで、連邦政府予算による研究開発成果の民間移転を支えた思想は「ユニバーサルアクセス」(誰でも自由に無料で政府の技術資産にアクセスし、活用できるべきだ)であり、それを保証する「Title
in Government(所有権は政府に)Policy」であった。一方、民間企業は、当然ながら技術の排他的な使用権を好む。そのためこの時代には連邦政府の技術が民間によって商業化される、ということはほとんど無かった。
●1980年 Stevenson‐Wydler Technology Transfer Innovation法: 連邦政府予算によるR&Dの成果を州、その他の地方政府や民間セクターに移転することを義務付け。各省庁はその国研に「研究と技術成果の現実適用」をつかさどるORTAs(Office
of Research and Technology Applications)を設置し、R&D予算の一定割合を常に技術移転に費やすことを義務付けられた。
●1980年 Bayh-Dole法: 「Title in Contractor(知的所有権はコントラクターに)Policy」が 小規模事業者と大学に適用された。これによって政府予算を受けて生じた大学技術を民間移転する法的基盤が整い、以後リサーチ大学は一斉に技術移転機関を設置し始める。GOCO研は、DOEの根強い反対で対象から除外された。各省庁に多くの裁量の余地が残された。
●1983年 レーガン大統領の「政府特許政策メモランダム」: B-D法の対象を拡大するため、各省庁に対しIPR付与の対象を小規模企業や大学等非営利団体に限定せず、営利非営利問わず全ての主体に拡大するよう要請。DOEはこれを拒否。
●1984年 DOEはドール共和党上院議員に対しFTTA法案を断念するよう依頼。法律でなく、自省の裁量の範囲内で解決することを提案。ドール議員はこれを拒否。
●1986年 Federal Technology Transfer法(FTTA): S-W法の修正法。これまで認められていなかった国研と大学や民間企業との共同研究スキーム(CRADA)を承認。しかしながら本法がカバーするのはGOGO(国研)のみ。GOCOは対象からはずされた。
●1987年 DOE、GOCO研を運営する営利企業にIPRを付与することを拒否。
●1989年 National Competitiveness Technology Transfer法(NCTTA): FTTAの対象範囲をGOCO研にまで拡大する。しかしながら、事実上、GOCO研の取り扱いは各省庁によりばらつきがある。
●1989年 DOEは、NCTTAに対抗し、DOEが事実上Bayh-Dole法とFTTAの適用除外となる法案を提出。却下される。
●1989年 Bigham‐Dominici法: 各省庁にCRADAの提案に対する審査期間を30日以内に終了することを義務付け。そして提案を却下した場合は10日以内に議会にその理由を提出することを義務付け。DOEによる事実上のCRADA審査の引き延ばし作戦に対応。
●1994年 Federal Technology Transfer法改正: CRADAのパートナーである非政府主体に、IPRか排他的ライセンスを自動的に認める。
2000年 Technology Transfer Commercialization法(TTCA):連邦省庁所属のIPをより広く民間へライセンス可能に。特許化可能な技術のみならず、ソフトウエアもライセンスできることになる。さらに各省庁は歳入庁(OMB)に対し技術移転に関する年次報告を行うことが義務付けられた。
3.6.2 国研における商業化メカニズム
国研における技術移転メカニズムは大きく5つである:1)ライセンシング、2)共同研究(CRADA)、3)研究施設の貸与、4) Work for Others Program、5)国研出身者のベンチャースピンオフや民間企業への就職等(移転メカニズムの詳細はAppendix C 国研による技術移転メカニズム一覧参照)。
![]() |
国研はGOGO+GOCOで全米約700超存在し、それらをメンバーとするThe Federal Laboratory
Consortium for Technology Transfer (FLC、国立研究所技術移転コンソーシアム) が1986年のFTTAで正式発足、国研の技術移転活動のまとめ役となっている。
3.6.3 大学における商業化メカニズム
既存技術のライセンシング中心のTLOのみならず、VCと連携しながらのインキュベーションや、技術移転先&投資先ベンチャーのエクイティで報酬を受けるメカニズムも定着しつつある。
新たな動きとして注目されるのは、ビジネスメソッドやノウハウなど、Intangible(無形)な資産がその価値を高めている。特許制度がそうした資産への保護を拡大する一方、大学の技術移転のメカニズムは過去20年間、tangible(有形)な技術資産を中心に発達してきた。その限界を感じたTLOは、創造性に富む無形資産を引き出す新たな技術移転(事業創造)メカニズムを模索している(Tech
Partners, The Ohio State University 談)。
3.6.4 民間の手による新たな商業化メカニズム