【前へ】

3.2 IPR創出のメカニズム

 3.2.1 中長期的R&D支援とプロパテント政策

 米国におけるIPRの先行取得と商業化促進政策のベースとなるのは、1)IPRのシーズである技術そのものの創出を促す中長期的研究開発支援のスキームと、2)それら技術の排他的所有権を早期に確立して国際的産業競争力の源泉として活用をもくろむ「プロパテント政策」である。

 

 

3.2.2 中長期R&D支援の基本方針

 NSTC(米国国立科学技術評議会)による FY2001における中長期研究開発支援の重点分野は次の11分野である。1)情報技術(IT)、2)気象観測・モデル化、3)炭化排気物削減、4)伝染病対策、5)テロリスト対策、6)航空の安全・効率・環境対策、7)植物遺伝子関連の情報解析と技術開発、8)食品安全、9)生態系保全、10)教育、11)ナノテクノロジー。
 クリントン政権はIT研究開発を中心として、「短期的成果(省益)に傾斜しがちな各省分離型でなく、中長期的成果を重視する省庁横断型R&Dを積極推進する方針」を標榜し、国家的支援を増強してきた。それはPITAC(大統領情報技術諮問委員会)の示した問題認識にも如実に現われている。

 


 

 上記の問題意識の下、IT関連R&D予算はFY2001にさらに増強された(下表)。

 



(ちなみに、バイオメディカル研究に関するNIHへのFY2001予算は$18.8B、$1B増額。FY2002への
予算案は過去最高の$2.8B増の$23.1B。ITの10倍。)

 3.2.3 支援体制

 FY2000予算におけるIT研究開発費増強の呼称であった「IT2イニシャチブ」と、省庁横断型中長期IT研究開発の中心プログラムである「HPCC R&Dプログラム」は、FY2001予算において統合され、「IT R&Dプログラム」となった。

 

<米国政府のIT-R&D支援体制>

 

 (*注:上記7つの個別分野の詳細は、AITEC編集・翻訳版 「米国の2001年度版Bluebook「21世紀のIT革命」(http://www.icot.or.jp/FTS/Ronbun/Bluebook2001-J.PDF)参照。
また、 FY1999、FY2000予算における米国政府による情報技術関連の長期的研究開発の仕組みと資源配分の経緯は以下の報告書に詳しい。
JETRO 米国における新情報処理関連の研究開発動向調査報告書 平成11年3月 http://www.rwcp.or.jp/misc/h11/H10JETRO/
JETRO 米国における新情報処理関連の研究開発動向調査報告書 平成12年3月 http://www.rwcp.or.jp/misc/h12/H11JETRO/

  「IT R&D」(IT2+HPCC+ASCI)が中長期研究開発の中心に位置することに変わりはないが、それ以外にも、ハイリスク研究開発の母体としてDOCのNIST傘下のATPや、SBAのSBIRがある。だが、SBIRは基礎研究でなく製品開発支援という性格も強い。これらのR&D支援スキーム毎に、費用負担の構造も異なる。

 

2000年MUSE報告書「米国の政府支援研究開発における予算算入費目の範囲と会計原則の合理的運用に関する実態調査」より抜粋  

 3.2.4 新政権への移行に伴う不確実性

 ブッシュ新政権は本年2月末、議会へのFY2002予算提案の中で教育・福祉の強化、財政赤字解消を最重要項目とし、予算縮小と減税への青写真を示した。そこに情報技術R&Dへの言及は全く無い。IT R&Dの仕掛人でもあるPITACは新政権の下で本年6月1日までの存続延長が決まった。だが前政権の「売り物」として拡張を続けたR&D支援に対し、政治的に厳しい態度がかいま見える。

【次へ】