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第3章 米国の知的所有権の先行取得と商業化促進政策
およびその成果について

 

  特許、著作権、ノウハウといった知的財産権(IPR)が一国の産業全体に大きなインパクトを与えるようになった。特に米国は情報技術/インターネット及びバイオテクノロジー関連のIPRを国際的比較優位の源泉、通商の切り札として最重要視しており、「技術貿易中心の時代」を自ら創出し、制覇しようとしている。
 そこで米国は他国に先駆けて上記戦略分野における中長期的研究開発を支援、先端的知的財産の先行的形成を進めると共に、国家戦略としてのプロパテント政策に基づき、IPRの先行的取得・蓄積を進めている。さらにはそれらIPRの積極的商業化を通じた経済的価値への転換、国富の増大を企図している。
 こうしたIPR政策の背景には、国の支援によって創出されたIPRを、積極的に民間の手に委ね、市場原理に基づいてその商業化の果実を最大化しようとする価値観が存在しているように思われる。
 本章では、上記の問題認識に立脚し、米国政府が支援する研究開発プロジェクトによるIPR創出、取得、管理、商業化のルール、現実の成果等について、その実態を調査した結果を報告する。この調査は、MUSE社に調査委託して実施した。調査にあたっては、特に、IPRの国から民間への移転を促進してきた具体的施策、その効果、そして国家予算によって私企業の発展を支える同政策の思想的背景などを調査の焦点とした。

 3.1 はじめに

 (1)調査項目
 次の6項目を調査した。

 @IPR創出のメカニズム
 米国政府による中長期的視野に立脚した研究開発支援によるIPRシーズの創出メカニズム、およびそれを支えるプロパテント政策と法制の全体像。

AIPRの帰属と取得のスキーム
 米国政府が支援する研究開発プロジェクト(担い手はGOGO、GOCO、大学、産業)におけるIPRの取扱い:1)IPR帰属のルール、2)IPR取得時の費用負担スキーム(例ATP、SBIR、国研、大学等)

BIPRの創出状況
 米国政府が支援する研究開発プロジェクトの成果としてのIPR創出状況(研究主体別、管轄省庁別、IPR種類別等)

CIPRの商業化メカニズム
 米国政府が支援する研究開発プロジェクトで創出された IPRの商業化メカニズム(技術の移転/流通/マーケティングのシステム)

DIPR商業化の経済効果
 IPRの商業的活用の経済効果(商業的活用の状況と、それが創出した経済的価値)

E思想的背景
 こうした国家予算によるIPRの中長期的創出・先行取得および商業化促進を支える思想的背景

 (2)本章の構成
 本章は次のような論理構成になっている。まずIPR創出を促進する政策・体制の構造が明らかにされ(1)、次にその体制下でIPが創出され、権利として所有されていく際の帰属と費用負担のあり方(2)が記述される。このような仕組み(1&2)で生み出されているIPRの実際の創出状況(3)が続き、そのIPRをいかに商業化して経済的価値を生じさせていくか(4)が述べられる。そして、商業化の成果としての経済的効果(5)が算出される。最後にこうしたIPRの創出・活用による国富の拡大政策を支える思想(6)を抽出する。

 

(3)調査対象の範囲
 本章において、IPRの範囲と、IPRの取得主体に関しては以下のように範囲を定義する。
@本章で言う「IPR」の範囲:特許と著作権
一般にIPR(知的財産権)の確立・保護は複数の手段で可能であり、パテント(特許)、トレードマーク(登録商標)、コピーライト(著作権)、トレードシークレット等が考えられる。本報告書では「産業に与える経済的効果」並びに「民間への移転可能性」という文脈から、特に特許に主眼を置いて論を進める。
A本章で言う「IPR創出の主体」:GOGO、GOCO、大学、産業
政府組織(GOGO)、GOCO、大学、政府からの支援を受ける民間主体、政府からの支援を受けない民間主体の全てを含む。
 政府からの直接的財政支援を受けない民間主体をも本調査の対象に含める理由は、昨今のビジネス特許認定において、それら主体が「積極的な特許化の判断」というインタンジブル(無形)な恩恵を受けており、この種の特許がプロパテント政策上も無視できない役割を持っているからである。

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