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2.2 全体構造

2.2.1 NPR・Performance Budgetingの実行メカニズム

 NPRは、以下のように計画、実施、業績フィードバックの仕組みを作り上げた。


2.2.2 計画(Planning)

1993年政府業績結果法は、各省庁が「戦略計画(Strategic Plan)」と「年間業績計画(Performance Plan)」の二つを提出することを義務付けている。

戦略計画 (Strategic Plan)
行政管理予算庁(OMB、実質的に大統領)に5年ごとに提出、3年ごとに見直しが義務付けられる。
本計画は以下の事項を明記していなければならない。
  1. 当該省庁の包括的ミッションステートメント
  2. 全般的目的と目標:実現すべきアウトプット、当該省庁の主たる機能や業務内容
  3. 目的・目標を達成するための方策: 業務プロセス、及び必要とされる資源(スキル、技術、人材、資本、情報等)
  4. 業績関連の目的・目標(年間業績計画に記載)と本戦略計画の全般的目的・目標がどのようにリンクしているのか
  5. 全般的目的・目標の達成に重大な影響を及ぼす可能性のある、コントロール不能の外部制約
  6. 全般的目的・目標の評価基準と再評価のスケジュール

年間業績計画 (Performance Plan)
行政管理予算庁(OMB)と議会に対し、予算案提出(1月か2月)に合わせ毎年提出が義務付けられる。
本計画は以下の事項を明記していなければならない。
  1. 各プログラム毎に達成すべき業績目標
  2. より客観的に計測可能なように数値化された業績目標 (下記のSubsection (b)に該当し、免除される場合を除く)
  3. ごく簡単に記述された業務プロセス、及び必要とされる資源(スキル、技術、人材、資本、情報等)
  4. 業績を測定する具体的尺度
  5. 実績と業績計画を比較する(達成度測定)ための尺度
  6. 測定された数値の信憑性、正確性を確保・証明するための方策

Subsection (b): もしも業績目標を客観的、定量的、測定可能な形式で表現できない場合、業績計画は定性的表現で、1)達成失敗のケース(達成度が最低の場合のプロジェクト状況)、2)成功したプロジェクトの状況、を記述していなければならない。


2.2.3 実施(Implementation)

2.2.3.1 Reinvention Laboratory(刷新の実験室)

 Performance Budgetingを実施するにあたり、その実行部隊としてReinvention Laboratory(刷新の実験室)なるチームが各省庁の前線の職場に設けられた。1998年現在でその数は325を越えたとされる。これらの「実験室」は、民間企業のQCサークルにも似たチーム指向のボトムアップ戦術であるが、QCサークルに無い強力な武器が存在する。それが各省庁規則やFARからの必要に応じた「Waiver(免除)」の権利(本サマリーP.30−P.32参照)である。

 NPRは、このReinvention Labを「官僚制の波間に浮かぶ革新のための橋頭堡」と呼んでそれへの期待を表明した。このLabは「NPRタスクフォースの先兵として、全く新しい仕事のやり方、情報共有の仕方、失敗と成功の省庁横断的相互学習の方策を積極的に試してみるための組織である。」
 しかし、1999年の全省庁レベルでのGPRA展開(FY1999からの年間業績計画提出開始)とともに、このLabの役割も終わっているといえる。1998年末以降、Reinvention Labのホームページの更新も一切行なわれていない。すなわち、Reinvention Labは、FY1999年の全面展開へ向けての、緻密に計算されたパイロットプロジェクトとして位置付けることができる。背後にはAndersen Consulting等、優秀なOC(組織変革)エージェント・コンサルティング集団が存在していた。


2.2.3.2 High Impact Agencies

 Relenvention Labよりももう1ランク上のレベルでのNPR実施の仕組みは、1998年に決定されたHigh Impact Agenciesである。ここでは、特に国民(G to C)と産業界(G to B)に直接関わる度合いが最も高い32の省庁・組織をHigh Impact Agenciesと認知し、特に強力にNPR運動を展開するターゲットとして設定した。


2.2.3.3 Performance-Based Organizations(PBO: 業績指向組織)の認定

PBOは、1996年に創設されたNPRの連邦政府の予算及び業務遂行をマネージする概念である。議会が、省庁から申請のあった特定の部署をPBOとして認定すると、その部署の長は連邦調達規則や人事規則からの広範な免除を受けることができる(逸脱が裁量で認められるようになる)。その代償として、その部署は厳しい業績評価を受けることになる。しかしながら、議会はこれまでこの制度をあまり重要視しておらず、FY2000以前のPBO申請は無視されつづけていた。ようやく2000年度から少し動きが出てきた。

<FY2000のPBO申請済み政府組織(議会承認待ち)>


2.2.3.4 Information Technology Management Reform Act of1996
     (ITMRA:情報技術管理改革法)

 情報技術の調達をより組織的・効果的に行なうことを企図したITMRAの要点は以下のようにまとめられる。

  1. 調達権限をGSA(総務庁)からOMB(行政管理予算庁)へ移行することにより、情報技術を国家予算と連動した形で、より組織的・全政府的に足並みをそろえて導入することを意図している。
  2. 行政管理予算庁の長が業績/結果重視の業務管理を行なうことに責任を負うことになった。
  3. 行政管理予算庁の長は、各省庁にCIO(Chief Information Officer)を任命し、ITの調達と管理を専門に行なわせることとした。
  4. 議会は、各省庁が情報技術関連運営/維持費用を最低年間5%削減し、業務効率は逆に5%向上させるよう要望を表明した。
  5. 連邦調達規則委員会(FAR Council)は、情報技術調達のプロセスの簡素化、効率化を通じて、リスク管理や継続的調達、情報技術の進歩に合わせたタイムリーな導入を約束した。
  6. 各省庁の長は、「Modular Contracting(モジュール単位で切り分けた調達)」の推進の義務を負った。
  7. 連邦調達政策行政官(Administrator of Federal Procurement Policy、OMB内の組織)は、各省庁による新たな情報技術調達を試験的に運用するパイロットプログラムを実施しなければならない。
  8. 連邦調達政策行政官は成果報酬型の調達パイロットプログラムを実施することが許されるようになった。すなわち、最大2省庁に関し、民間の契約請負者が連邦政府に情報技術導入の代案を提供し、その民間業者はその代案の実施によって従前の方法よりもどれだけコスト削減を実現したか、を基準に報酬が支払われるという仕組みである。
  9. 連邦調達政策行政官は、連邦政府の代表者と情報技術産業の代表者からなるワーキングパネルを設置し、上記のパイロットプログラムの計画策定を行なわなければならない。


2.2.4 業績評価

 GPRAに定められたごとく、各省庁は業務に直結した数値目標の進捗状況を、年度業績報告書を通じてOMBと議会に提出することが義務付けられている。それに加え、以下の顧客満足度指標も用いられている。

2.2.4.1 各省庁の顧客満足度基準

大統領令12862号(1993年9月)により各省庁は以下のアクションをとらねばならない。

大統領令 12862: Setting Customer Service Standards.
The White House, 11 Sept. 1993

Section 1. Customer Service Standards.
NPRの基本原則を実行に移すためには、連邦政府は顧客指向でなくてはならない。国民に対するサービスの質は民間/産業界における最高のレベルを目指さねばならない。ここでいう「顧客」とは、政府機関/省庁から直接サービスを受ける個人または組織を意味する。「民間/産業界における最高のレベル」とは、当該政府サービスと類似/同等のサービスを提供する民間組織によって市場の顧客に提供されている最高の品質レベルを意味する。
国民に直接サービスを提供するHigh Impact Agenciesは、以下のアクションを取らなければならない。
  1. 各省庁毎に誰が顧客なのか、誰が顧客であるべきなのかを特定せよ。
  2. 顧客が求めているサービスの種類と品質レベルを特定するために1994年3月8日までに顧客調査を実施・完了せよ
  3. 顧客に対しサービスの基準と測定された実績を公表せよ。
  4. 民間の手による同様/類似のサービスで最高のものと、当該政府サービスを比較せよ。(Benchmark)
  5. 前線の担当官に調査を実施し、民間最高レベルと同等のサービス提供を妨げている原因、および最高レベル提供のためのアイデアに関する意見を収集せよ。
  6. 顧客にサービス提供者や提供方法に関する選択権を与えよ。
  7. 情報、サービス、苦情受付のシステムが顧客から容易にアクセスできるようにせよ。
  8. 各担当官に顧客の苦情に対処するための手段・資源を提供せよ。


2.2.4.2 American Customer Satisfaction Initiative(ACSI)

 民間とのシームレスなベンチマーキングをさらに徹底するため、連邦政府はミシガンビジネススクールによって開発された顧客満足度指標を採用、1994年から民間企業と全く同列の基準によって各省庁のサービスに対する顧客満足度を測定し始めた。
(www.acsi.asq.org/results.htmlにて、個別企業/政府組織別の調査結果を閲覧可能。)

<1994-1999産業/セクター別ACSI総合指数>

 ACSIの導入と関連して、民間のベストプラクティスの評価も積極的に行なわれている。フェデラルエクスプレス等、個々の企業名を指摘し、その効率と効果の高さを分析、評価し、各省庁の手本とすべく公表している。日本であればさしずめ「A社」「B社」とするところか。

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