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第2章 政府業績結果法の役割
The role of GPRA

2.1 その使命と歴史的経緯

2.1.1 その使命

 1993年政府業績評価法(GPRA)は、クリントン政権(ゴア副大統領がリード役)の行政改革推進母体、National Performance Review(国家業績評価)タスクフォースの核となる法制である。(NPRは現在、「上意下達」ではなく「省庁との対等の協力関係」を印象付けるような表現であるNational Partnership for Reinventing Governmentと名を変えている。中味は同じである。)GPRAの意義はNPR全体の文脈の中で評価されねばならない。
 公式的には、NPR/GPRAの使命は「21世紀に向けて、政府をより上手に、より安く、米国民の望む仕事をやり遂げること」と表明されている。
 実質的にNPRの背後にある真の目的とは、

  1. 各省庁が自己の「業績」や「結果」に基づく予算立案と執行を行なう環境を整備すること。
  2. 「顧客(国民と産業界)の満足」を最重要の優先事項、業績/結果の評価尺度とすること。
  3. 政府のサービスの質を低下させずに経費/予算を削減し、よって均衡財政を実現すること。

また、これらの目的を達成する方策として、

  1. 産業界のベストプラクティスを積極的に公会計や調達制度に取り入れ、市場原理を働かせること。
  2. 「顧客」や「市場」との接点を持つ前線の官吏へ「権限」と「説明責任」の双方を委譲すること。
  3. 業務効率を改善すると共に効果的サービスを提供していくため、情報技術を積極的に活用すること。


2.1.2 業績に基づく予算編成:「Performance Budgeting」

「Performance Budgeting」とは、ミッションに導かれた、結果重視の予算編成を意味し、まさにNPRの使命を体現するコンセプトである。クリントン大統領は政府の予算に対する責任説明の尺度・体制(Accountability System)を、これまでの「プロセス、手続き、誰がいくらもらうのか」から「予算をどれだけ使うと何が達成でき、実際にどこまで達成されたのか(Performance& Result)」へ根本的にシフトさせることの重要性を強調した。(ゴア副大統領による方針宣言文書は下記)

Performance Budgeting実現へ向けた3つの方策
"MISSION DRIVEN, RESULTS ORIENTED BUDGETING" (Accompanying Report of the National Performance Review Office of the Vice President, Washington, DC), September 1993
1. 「結果」への説明責任を強化せよ
政治的リーダーシップの下に政策の優先順位を定義し、何を達成することが求められ、その結果がどのように評価されるのかを各担当官と政府の間でしっかり合意すること。
2. 前線担当官へ権限委譲せよ
一旦政策実行の決定をしたら、前線の担当官へ必要な資源を供給し、期待される目的達成の為に権限を委譲し、過剰に詳細を極める規制・規則・制限から解放すること。
2-1 各担当官が資源を有効かつ効果的に使用するために、こと細かく設定された歳出内容の費用項目・制限項目、報告書の書式指定等は著しく削減されなければならない。また、予算執行の単位や費目は、政策を実行するプロジェクト単位によりよく合致するように設定され、費用はそのプロジェクト単位で捕捉されなければならない(組織横断的プロジェクトは一体として費用把握せよ)。
2-2 より多くの予算を、1年単位でなく、複数年もしくは年限を切らない予算として計上すべきである。また、たとえ1年単位の予算であっても、未消化部分の50%までは次年度に繰越を認め、例年繰り返される年度末の不必要な予算消化が解消すべきである。
3. 予算編成プロセスを簡素化・合理化・改良し、1)担当官がより多くの時間をプロジェクトそのものに割けるように、2)担当官がより有効に資源を使用できるよう、各政策の優先順位やそれに対する財政支援レベルをタイムリーに情報提供し、それらを通じて3)予算資源、政策ミッション、その数値目標、そして結果がしっかりとリンクするようにする。大統領は2年制予算を提案し、議会は2年制の予算編成を採用すべきである。


2.1.3 NPRの時代背景

 NPRが立ち上がった1993年は、その前年に連邦政府予算が赤字のピーク($300B超)に達し、累積財政赤字が$5,000Bに到達しようか、という状況であった。1993年には、連邦予算総額の1
4%が累積赤字の利息支払であった。歳出削減のプレッシャーは日に日に増すばかりであった。このような状況の下で、「政府サービスの質の低下を招かずに(願わくば向上させつつ)コスト
を削減すること」が大命題として浮上してきたのである。


2.1.4 NPRのフレームワーク及びマインドセット

連邦政府にとって「顧客」とは、政府から直接に何らかのサービスを受ける国民及び企業である。


2.1.5 NPRの先駆者達

 クリントン政権のNPR以前にも、米国には「業績重視の予算を推進するプラン」が4つも存在した。しかし、今回のNPRはその中でも最も長期に継続しており、達成度も最も高いと考えられる。(個々のプランの詳細は英語版報告書p.39を参照)これら先達とNPRの違いは、予算立案、予算決議、業績をより明確にリンクさせ、現実に実施できる具体的メカニズム(後述)を作り上げたことにある、といわれている。

  1. 1949年、第1期フーバー委員会(共和党)による行政改革(肥大化していた第2次大戦直後の連邦政府のダウンサイジングを企図)
  2. 1965年 ジョンソン大統領(民主党)によるPlanning-Programming-Budgeting-System (PPBS)
  3. 1973年 ニクソン大統領(共和党)によるManagement by Objectives (MBO)
  4. 1977年 カーター大統領(民主党)による Zero-Base Budgeting (ZBB)


2.1.6 NPRの経緯

 現在に至るまで、NPRは数々の法律、報告書、イベントを生み出してきている。
 2000年3月末には、1993年のNPR立ち上げ以来、最初の年次業績報告書(FY1999)が提出期限を迎える。その報告書がどのように予算決定プロセスに活用されていくのか、その後の展開に要注目である。

<NPR年表 1993-2000> (斜体字は報告書名)

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