【前へ】

第1章 政府支援研究開発における費用算入システム
Cost allocation systems of federally-funded R&D activities

1.1 調査対象となるシステム

 本調査は、以下の3つのシステムを調査対象とする。1)FAR(Federal Acquisition Regulation連邦調達規則)に基づく研究開発政府調達*($25.9B/FY1999、調達総額$173B/1998)、2)政府省庁のニーズと合致する小規模企業の研究開発活動を資金援助するSBIR(Small Business Innovation Research Program、$1.05B/FY1998)、及び3)企業(もしくは営利・非営利のコンソーシアム)の研究開発提案に応じて各省庁が部分的に費用負担するATP(Advanced Technology Program、$204M/1999)である。

(*本報告書で言う「調達」とは、英語でProcurementまたはAcquisitionの訳語であるが、日本語で言う「調達」が持つ「既製品・消耗品の買い入れ」という語感よりもはるかに広い概念である。「政府による物品・サービスの購入およびサービス提供の委託」といった語感である。研究開発活動の「調達」もFederal Acquisition Regulation (連邦「調達」規則と訳出)において独立の章(FAR35 Research And Development Contract)として論じられている。)

<Cost coverage scheme of the three R&D funding systems>

 SBIRやATPは「研究開発の支援」を主目的としているが、政府調達の基本的性格は「政府のニーズを満たす調達契約」である。



1.1.1 政府調達、SBIR、ATPの費用負担スキーム

これら3つのシステムの費用負担は以下のようになっている。

(直接費用、間接費用の定義は後述。)
 
政府調達
SBIR
ATP
負担対象費用
「直接費用」+「間接費用」
=総費用
「直接費用」+「間接費用」
=総費用
「直接費用」
負担制限
基本的に無し。
制限あり(上限・期間)
制限あり(負担割合、期間)
  • 政府調達:支払対象費用は「直接費用」+「間接費用」の合計。
  • SBIR:支援対象費用は「直接費用」+「間接費用」の合計。但し上限金額と負担期間の制限がある。「第1期」では上限$100kを最長6ヶ月に渡り負担。「第2期」においては上限$750kを最長2年間に渡り負担。
  • ATP:支援対象費用は原則「直接費用」。但し企業規模・タイプにより費用負担項目・割合の制限が異なる。単一中小規模企業(売上高<$2.9B)の場合、企業が間接費用の全額を負担、政府は直接費用のうち上限$2Mを最長3年間に渡り負担。単一大規模企業(売上高>$2.9B)の場合、企業が総費用の最低60%を負担、政府は直接費用のうち上限$2Mを最長3年間に渡り負担。ジョイントベンチャーの場合、企業は年間総費用の最低50%を負担、政府は上記条件の下で、直接費用を上限無く、最長5年にわたり負担。



1.1.2 契約の種類

 政府調達、SBIR、ATPでは以下のような6つの契約形態が可能である。

契約形態
適する内容
1. Cost-reimbursement
 (費用払戻し契約)
研究開発の政府調達に最も適し、通常はこの契約形態を選択。
2. Fixed-price incentive
 (固定価格及出来高払契約)
費用削減度合や成果に対応するインセンティブを契約上設けることが望ましく、実際上可能である場合。
3. Cost-plus-incentive-fee
 (費用及出来高払契約)
費用削減度合や成果に対応するインセンティブを契約上設けることが望ましく、実際上可能である場合。
4. Short-duration fixed-price
 (短期固定価格契約)
契約者の成果を、事前に短い期間ごとに細分化することが可能な場合。
5. Fixed-price
 (固定価格契約)
研究の目的/定義が事前に明確であり、価格の交渉に際しての費用の推定が高度に確からしい場合。または費用分担契約による研究開発契約に続く契約で、当該研究開発契約が「製造」の必要性をその内容に含んでいる場合。
6. Cost sharing
 (費用分担契約)
ATPやSBIRで採用される契約形態。1. Cost-reimbursement(費用払戻し契約)の1種である。契約請負者は利益金を受けず、合意によって合法的費用の一定部分のみを払い戻される。



1.1.3 費用捕捉のスキーム:GAAP/CAS/FAR

 上記のように、3種のシステムは費用負担の構造が互いに異なるものの、費用を捕捉する上で用いられる基準は連邦政府共通の費用原則(Federal cost principles)、すなわちGAAP(一般に受け入れられている会計原則)に基づくCAS(Cost Accounting Standards、費用会計基準)である。CASはFAR(連邦調達規則)の一部が1992年にCASB(Cost Accounting Standards Board)によって改定された部分にあたる。CASはそのほとんどはGAAPと互換性があるものの、より政府の利益を保護する内容となっている。
 連邦政府の公会計制度は、CASを通じてGAAPに準拠しているわけだが、GAAP(一般に受け入れられている会計原則)とは、本来は私的経済活動を念頭においた財務会計原則である。1930年代の大恐慌の経験にかんがみ、一般投資家に対して、「真実と公平性」を具備した、企業の財務状況の共通尺度を整備・提供する目的で発達してきたものである。また、GAAPとは、その全てが当初から明示的に条文化されてきたものではなく、「実践されている会計手法を定義づける、過去からの因習、規則、手続等の総称」(Statement 4、Accounting Principles Board1958-1972)であり、暗黙的に広く一般に受容された合意である。GAAPは財務会計に関する最も広い視野にたった原則であり、CASはその一部であると言えよう。

GAAP: Generally Accepted Accounting Principles (一般に受け入れられている会計原則)
FASB: Financial Accounting Standard Board (財務会計基準審議会)
FAR: Federal Acquisition Regulation (連邦調達規則)
CAS: Cost Accounting Standards (費用会計基準)

【次へ】