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5.3 米国のIT 構想−未来への投資−

(1)連邦政府のIT関連予算

 2000年度予算の一部として、クリントン大統領とゴア副大統領は、$366million(約440億円)の情報技術研究計画を提案した。これにより、情報技術研究への米国政府の投資は28パーセント増加する。

 この情報技術研究計画はIT 構想と呼ばれ、コンピューティング分野と通信分野のこれまでの計画を基にしている。既存の計画には、HPCC (High Performance Computing and Communications) 計画や、1998年に認可されたNGI (Next Generation Internet) 計画、DOE (エネルギー省、Department of Energy)のASCI (Accelerated Strategic Computing Initiative)などがある。

また、増額された$366million(約440億円)の内訳は、以下の通りである。

DoD (国防総省、Department of Defense)、
DOE(エネルギー省、Department of Energy)、
NASA (米国航空宇宙局、National Aeronautics and Space Administration)、
NIH (米国国立衛生研究所、National Institutes of Health)、
NOAA (米国海洋大気局、National Oceanic and Atmospheric Administration)
NSF (全米科学財団、National Science Foundation)

DoDDARPA (米国防総省高等研究計画局、Defense Advanced Research Projects Agency)を含む。

 資金の約60パーセントは大学をベースにした研究の支援に当てられ、これによって高度の情報技術スキルを持った労働者に対する需要の増大を喚起する。

(2)IT 構想がもたらす恩恵

(a)情報技術産業は米国の経済成長の源

 過去における政府の研究の成果(たとえば、インターネットや最初のグラフィカル・ウェブ・ブラウザ、先進マイクロプロセッサ)は、情報技術産業において米国のリーダーシップの向上に役だった。情報技術産業は今や米国の経済成長の1/3をもたらすようになり、そこで働く740万人の給与は民間部門平均より60パーセント以上高い。米国の経済の全部門が世界市場での競争に勝ち抜くために情報技術を使っており、ビジネス間のエレクトロニック・コマース(電子商取引)は米国だけを見ても、2003年までに1兆3,000億ドルに達すると予想されている。

(b)情報技術はわれわれの生活の質を改善する

情報技術はわれわれの生活のしかた、労働のしかた、学習のしかた、他者とのコミュニケーションのしかたを変えている。情報技術の進歩により、子供たちの教育のしかたを改善したり、障害を持つ人たちがより自立した生活を営めるようにしたり、農村地域に住む国民のための医療についても遠隔医療によって質を改善できる。
情報技術分野での米国のリーダーシップは、国家の安全にとっても不可欠である。

(c)情報技術は科学・工学分野の問題に挑戦する

 情報技術とわが国(米国)における科学・工学の「黄金時代」との間には、相互に強化し合う関係がある。スーパーコンピュータやシミュレーション、ネットワークの進歩は、自然界を覗く新しい窓を穿ち、科学的発見のためのツールとしてのコンピューティングの価値を理論や実験と同じレベルにまで高めている。同時に、気候変動の影響の予測、効率が高くよりクリーンなエネルギー・システムの設計、物質の基本的性質に関する新たな理解など、科学分野の問題に挑戦することにより、情報技術の最先端領域が切り開かれる。

(3) IT 構想の3つの柱

(a)基礎情報技術研究

 1960年代に始まった政府の基礎情報技術研究に対する投資は、今日のインターネットをもたらした。 これと同じように、コンピューティング分野と通信分野のブレークスルーを目指す。

(b)科学・工学・国家のための先進コンピューティング

 この活動は、救命薬品の開発時間の短縮、よりクリーンで効率がより高いエンジンの設計、ハリケーンやトルネード、長期的気候変動の予測精度の向上、科学的発見のスピードアップなどの応用分野を支援する。

(c)情報革命の倫理的・経済的・社会的影響に関する研究と情報技術労働者の育成

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