21世紀にかけての工業経済から情報経済への転換に対応すべく、各国では情報通信環境を整備し「情報社会」の実現に取り組んでいる。ここでは、情報技術先進国ないしは情報先進国を目指す各国の情報化ビジョンについて調査した。
1990年代に入ってからのクリントン=ゴア政権の一連の情報政策は、これまで軍事・宇宙技術開発中心に進められてきた科学技術研究を産業応用に転換することで産業競争力強化を推し進めてきた。
情報スーパーハイウェア構想で情報技術基盤整備を掲げ、HPCC計画等により科学技術分野を支援し、民間も戦略的な情報技術投資を積極的に行っており、現在の好調な経済状態を支えている。さらに今年に入ってPITAC報告やIT2ビジョンでは基礎的研究開発を重視して中長期的な発展を保証しようとしている。
以降では情報化政策の流れを概観する。
●1991年(〜1996)HPC法&HPCC計画(当時上院議員のゴア現副大統領が提案)
近年の情報政策の起点であり米情報政策の根幹をなすものとなった。
高性能コンピューティングシステム、研究・教育ネットワーク、先進ソフトウェア技術とアルゴリズム、基礎研究と人材育成、情報基盤技術とアプリケーションといったプロジェクトが実行された。
●1992年NII構想(ゴア大統領がまとめ役)・・・一連の科学技術政策を打ち出す。
クリントン=ゴア政権が発足し就任直後の2月にNIIイニシアティブ、9月にNIIアジェンダを発表。
●1994年GII構想 ・・・ 各国NIIを連結してのグローバル情報基盤を提案。
3月にGII構想を国際電気通信連合ITU総会で発表(ゴア副大統領)。
秋にはGIIアジェンダ発表(HPCC・IT委員会情報基盤タスクフォース(IITF))
●1996年 NGI 構想
10月構想発表、97年2月NGI構築支援を表明(大統領一般教書演説)、98年度予算に計上(要求額は、CIC計画のLSN2.8億ドルのうち1億ドルがNGI予算)。
目標:1. 先端ネットワーク技術の試験研究、2. 次世代ネットワークのテストベッド、3. 革新的アプリケーション、の3つ。
●1997年CIC計画・・・96年度でHPC法案が失効。成功を収めたHPCC計画の継承計画。
高性能コンピューター通信、大規模ネットワーク、高信頼性システム、人間との親和性を考慮したコンピュータシステム、人材育成 といったプロジェクトが実施された。
●1997年7月Global EC構想(ゴア副大統領)
電子商取引に関して、「5つの原則」、「検討すべき9分野に対する提言」を示す。
●1998年2月NGI実行計画書発表・・・NGIの3つの目標を詳細化。
(情報技術政策ビジョン)
●1999年2月 IT2ドラフト発表。
重点項目として、長期的な情報技術研究、科学・工学・国家のための先進コンピューティング、情報革命の経済的・社会的影響に関する研究の3つが示されている。
EU(欧州連合)による情報化への取り組みの経緯は、おおよそ以下の通り。
・1993年 欧州委員会「成長・競争力・雇用に関する白書」で、情報通信インフラの重要性を指摘。
・1994年 タスクフォース・レポート「ヨーロッパとグローバル情報社会」を発表。
・1996年 計画「欧州におけるグローバル情報社会へのアクションプラン」を発表。
・1997年 同 改訂
今後アクションが必要な領域として、ビジネス環境の改善、将来への投資、人間の尊重、グローバルな課題への対応が指摘された。
(1)政府の電子化 − Interchange of Data between Administrations(IDA)プログラム
●1995年 IDAプログラム開始(EU内の政府系機関でデータ交換促進)
欧州の各国のカウンターパート機関をネットワーク化し、情報を共有するというプログラム。技術面ではテレマティクスプログラムの研究成果が取り入れられている。
(2)電子商取引 − “A European Initiative in Electronic Commerce”, 1997
●1997年 「電子商取引に関する欧州イニシアティブ」発表(欧州委員会)
今後世界的な発展が期待される電子商取引の為に、「グローバル市場にアクセスするためのインフラ、技術、サービス」、「望ましい規制枠組みの開発」、「望ましいビジネス環境の創出」に関して提案。
(3)研究・技術開発 − フレームワークプログラム(1984年〜)
フレームワークプログラムは、持続的経済成長、産業競争力強化、雇用創出、社会変化への対応に向けて、1984年に総合的研究開発政策としてスタートしたEUレベルでの研究開発プログラムである。EU自身が助成金を拠出する。(EUの共同研究開発プログラムとしては、この他にEUREKA等EUが支援し各国が推進するタイプがある。)
●1994〜1998年 第4次フレームワークプログラム
情報化関連テーマとして、「テレマティクス」、「ACTS」、「Esprit」を実施。
●1998〜2002年 第5次フレームワークプログラム
情通関連は「ユーザフレンドリーな情報社会(IST)」(予算:3,600百万ユーロ)
・IST( User-friendly information society)・・・ 一般的プロジェクト公募に基づく助成。
ISTは、利用者(ユーザ)に重点をおき、情報の利用促進や教育に着眼している。
重点活動分野としては次のものが挙げられている。
- 市民のためのシステムとサービス(Systems and services for the citizen)
- 新しい業務方法と電子商取引(New methods of work and electronic commerce)
- マルチメディア関連(Multimedia content and tools)
- 重要技術とインフラ基盤(Essential technologies and infrastructures)
1991年に「IT2000:インテリジェントアイランド構想」を策定し、情報化国家をビジョンとして掲げている。グローバルなハブの開発、生活の質の改善、個人の可能性の発展を目標に掲げ、情報通信インフラ整備、マルチメディア・アプリケーションの開発・利用促進、研究開発拠点の整備、情報通信産業の誘致・育成といった施策を推進してきた。
(1)シンガポール・ワン計画(1996年〜)・・・IT2000実現加速のための具体策
シンガポール全土に広帯域の通信インフラを整備し、対話型マルチメディアのアプリケーションとサービスを家庭、学校、オフィスに提供しようというもの。
●通信インフラ:ATMスイッチング技術に基づくバックボーンネットワーク。
・アクセス回線:ATM(155Mbps)、ADSL(5Mbps)、CATV(30Mbps)の3種類。
●サービス提供:年々増加中。1998年7月時点で合計123のサイトがサービスを提供。
・ニュース・オン・ディマンド、データベース検索サービス、オンラインショッピング、遠隔教育、行政サービス等がある。
(2)電子商取引−電子商取引ホットベッド・プログラム(1996〜 国家コンピュータ庁)
・電子商取引の利用を活発化し、シンガポールを電子商取引のハブにすることが狙い。
・1997年 電子商取引政策委員会を設置。1998年4月には「電子商取引の政策枠組み」を発表。同9月には、「電子商取引基本計画」で、具体的目標として、2003年までに、「取引の50%以上の電子化」、「電子商取引高40憶シンガポールドル達成」を述べている。
(3)ベンチャー振興策 − TIP(テクノロジー・インキュベーター・プログラム)
・1998-2000年間に1億800万Singaporeドルを予算化し、ハイテク企業を支援する。
・研究開発費等のコストを2年間、最大85%補助(最大30万Singaporeドル/1企業年)。
1991年、マハティール首相は、マレーシアを2020年までに先進国にするという国家目標「ビジョン2020」を打ち出した。今後30年間にわたり年平均7%の経済成長を実現させ、GDPの9倍増、所得4倍増を達成するというものである。その一環として、情報通信産業を戦略的に育成することを推進しており、それを実現するための開発計画がマルチメディア・スーパー・コリド(MSC)である。
●マルチメディア・スーパー・コリド(MSC:Multimedia Super Corridor)
MSC計画の中核が、「マルチメディア特区」である。MSCで活動する企業に対しては、申請に基づく審査により「MSCステータス」を与え、最大100%の免税等各種の優遇措置をとることによって、アジアの「シリコンバレー」を目指している。
応用開発としては「フラグシップアプリケーション」があり、次の2つに分類される。
1. 「マルチメディア開発」政府主導。公共セクター、国民が活用。以下の4項目。
電子政府、多目的カード、スマートスクール、遠隔医療
2. 「マルチメディア環境」民間企業活力を利用。民間企業活性化を図る。以下の3項目。
研究開発クラスター、ワールドワイド製造ウェブ、ボーダレス・マーケティング・センター
1997年末「成長のための投資」と題する計画を発表した(ジョン・ハワード首相)。その中には、将来ビジョンとして次の点が掲げられている。
計画では今後5年間に12億6,000万ドルを投入し、投資、輸出貿易、新らしい高成長産業の革新などを促進していくことを表明しており、以下の課題への取り組みが示されている。
1. 事業革新の奨励
2. 投資の促進
3. 貿易収支の改善
4. 金融センターとしての成長
5. 情報化時代
インドは、情報技術産業を強化し、10年のうちにインドを世界最大のソフトウェア生産国/輸出国とするための政策を展開している。
●1998年5月「情報技術・ソフトウェア開発タスクフォース」を設置。
国家情報政策の立案に着手した。検討内容はWeb上に公開し、インド内外の専門家からの助言を得ながら進めるという開かれた政策立案過程をとっている。
●1998年7月「情報技術アクションプラン」発表。主にソフトウェア&関連サービス対象。
下記の3つの基本目標を掲げ、それに関連した108つの具体的提言を述べている。
1. 情報インフラの加速:世界第一級の情報インフラ構築を加速。
2. ITEX-50目標:2008年までにITソフト&サービス輸出額500億ドル達成。
3. 2008年にすべての人に利用できるIT。
●1998年10月「情報技術アクションプラン(パートII)」発表。ハードウェアに焦点。
1. SBIT(Soft Bonded IT Unit)の導入:製造施設を無料、無担保で利用できる企業。免税等の特典があり、輸出が奨励されている。
2. SBITゾーンの整備:複数のSBITが共用するインフラ・施設。
●1999年4月(予定)「情報技術アクションプラン(パート3)」長期情報技術政策。
1992年、通信部と商工部が統合され、情報通信部が新設された。金大中政権発足後は、情報産業がIMF体制克服のための産業効率化における「戦略産業」であると位置づけ、情報化政策を強化推進している。
・1995年 韓国情報基盤イニシアティブ開始
・1996年 情報化促進基本計画策定
・1997年 情報化促進アクションプラン
●情報化基本計画
・3つのフェーズから構成。各フェーズ目標が規定されている。
・第1フェーズ(〜2000年):優先度の高い10のタスクとして下記が掲げられている。
●韓国情報基盤KII構築 − 韓国政府の重要政策として推進している。
2010年までに韓国政府情報基盤(KII-G。ATMベースの光ケーブルネットワーク)と韓国公用情報基盤(KII-P)を完成させる。
現状:(1998年の白書「21世紀の情報社会の構築」より)
●情報社会に向けてのビジョン
1999年3月現在、「情報社会に向けての韓国のビジョン」がインターネットに掲載されている。内容は、「生産性の向上」、「よりより情報化環境の構築」などに関するもの。