第五世代プロジェクトで開発されたマシンの写真館




 ここでは、第五世代コンピュータ・プロジェクトで研究開発が行なわれた計算 機の写真を掲示しています。第五世代コンピュータ・プロジェクトでは、
論理型言語を高速に実行できる1000台規模の大規模並列マシンの開発を目指しました。ハードウェアとしてどのような機能、構成を備えたものを作るかは、
その上で実行されるソフトウェアがどのような機能を必要とするかを知り、ハードウェアとソフトウェアの適切な役割分担を見出すことが重要です。

前期:論理型(推論)コンピュータのハードウェア、ソフトウェアの基礎研究

 本プロジェクトでは、ソフトウェアの研究を先行させる方針を取り、まず、当時、実用化されていた論理型言語PROLOGを基盤として、これを高速に実行する
逐次型マシンのアーキテクチャを研究開発しました。その一つをビットマップディスプレイとマウスをインタフェースとしてもつパーソナルコンピュータとし、
この上で、論理型言語で記述したOS(SIMPOS)や言語処理系を開発しました。このマシンは、Personal Sequential Inference Machine - I (PSI-I)と
呼ばれました。PSI-Iは、このプロジェクトのために、100台が製造され、PROLOGにObject指向のモジュール化機能を付加したシステム記述言語ESPを備え、
論理型言語により、各種のAIの応用ソフトウェアが試作され、論理型言語処理系やプログラミングの土台となる技術が開発されました。

PSI-Iの経験を基に、そのCPUをVLSI化したPSI-IIが開発され、高速化、小型化が、メモリーの大容量化が達成され、各種のエキスパートシステムなど、
より本格的な論理型ソフトウェアの研究が蓄積していきました。ソフトウェア開発ツールとして、PSI-IIは200台が製造され配布されました。その他、高速化に
重点を置いたCHIの試作や、当時、並列マシンのモデルとして注目されていたReduction ModelやDataflow Modelの実験用のマシンや、知識ベースエンジンの
中核として注目されていた関係データベースマシンの実験機が試作されました。

中期:並列推論言語処理系、並列OSなど並列推論ソフトウェア開発環境の開発、および逐次型の知的ソフトウェアの研究開発

 中期の半ばには、いろいろな応用分野における知的プログラムや知識ベース、推論プログラムなどの試作研究開発のため、PSI-Iを100台のほか、
性能を向上させたPSI-IIも200台を製造し配布しました。そのOS、SIPMOSも安定し、論理型言語の特徴を生かした自然言語理解システム、設計支援システム、
検証システムなどの各種エキスパートシステムが開発されました。これらの代表的なシステムは、国際会議FGCS88で、デモされました。

 後期に向けての並列処理の言語やOSの研究も開始されました。AIにおける探索処理のような非定型的な並列処理の研究はコンピュータの歴史の上でも
あまり例がなく、その実現技術は未踏技術でした。本プロジェクトでは、従来のハードウェアから作って行くやり方をとらず、並列言語、OSなどソフトウェア優先の
の方針をとりました。 まず、中核言語として、KL1の仕様を決定し、これを元に要素プロセッサのアーキテクチャを決め、それからプロジェクト間結合の
アーキテクチャをきめてゆきました。並列言語やOSの開発には、これらの開発環境が必要です。実際にプログラムを書き実験しながらアイデアを評価して
ゆくための安定した土台、これが、Multi-PSIです。

 Multi-PSIはPSI-IIのCPUを64台、8X8の碁盤の目状に結合したもので、この上で、KL1の処理系をファームウェアとソフトウェアで作り上げました。多くの困難を
克服し、小規模ながら並列論理型言語KL1と並列OS,PIMOSは完成し、世界初の並列推論コンピュータシステムが完成し、FGCS88では、 簡単な並列応用システムをデモすることができました。これにより、後期の1000台規模の並列推論マシンの開発見通しが立ちました。


 また、後期のPIM開発に向けた要素プロセッサの開発も開始されました。Multi-PSIと同様のアーキテクチャを持ち、高性能化したPIM(PIM/m)も試作される
こととなりました。 この小型化、高性能化された要素プロセッサに逐次型言語のファームウェアを入れ、これをUNIXワークステーションにBackend Prosessorとして接続したPSI-IIIも開発されました。PSI-IIIは、並列言語KL1のシミュレータを搭載し、KL1プログラムの開発環境として主に使用されました。

 

  後期: 1000台規模の要素プロセッサからなる並列推論マシン(PIM)の開発、及び異なるアーキテクチャのPIMの 研究開発

 後期には、1000台規模の並列推論マシンの開発と、そのような大規模なマシンの性能をアピールするAIや記号処理の応用ソフトウェアの開発が行われました。
PIMについては、その要素プロジェクトのアーキテクチャは、KL1を効率よく実行するという明確な目標がありました。しかし、当時は、プロセッサのアーキテクチャ
として、コンパイラとマシンへの負担のかけ方により、RISCとCISCという選択がありました。(今のintel chipはCISC)要素プロセッサ間を接続するネットワーク・
アーキテクチャに関してはいろいろなものが提案されていました。Multi-PSIのような碁盤の目型や、8台程度の要素プロセッサを共有記憶に結合したクラスタと
いう単位を構成し、これをいくつも結合するものなどです。このようなネットワークアーキテクチャは、実際に規模の大きなレベルで実験されたことがなく、未知の
領域でした。本プロジェクトで、プロジェクトのアーキテクチャやネットワークのアーキテクチャについて、いくつかのものを実験してみることとし、5種類のPIMを
試作しました。しかし、実際の大規模な応用プログラムを搭載し、デモするものは、信頼性の高い製造をする必要があります。

 PIM/mは、碁盤目型ネットワークをもち、最大構成256PE、PIM/pはクラスタ型で、最大構成512PEとしました。その他のPIMについては、下記の仕様を
ごらんください。シンプルなネットワークを持つPIM/mは、負荷分散の制御が容易であることから、256PEのセット2式と128のセット1式が作られ、並列応用
ソフトウェアによく使われました。後期の並列応用ソフトウェア開発は、256PEといえども、1人の研究者が独占するため、マシン不足に悩みました。

 また、当時、国内でもエキスパートシステムの研究や自然言語、音声、画像などの認識の研究は盛んでしたが、512PEや256PEのPIMをフルに稼動させる
負荷を発生させる知識処理の応用プログラムはありませんでした。そこで、急遽、海外にそのような記号処理や知的処理の応用を探しました。それらの中で
人ゲノムのホモロジー検索や定理証明は計算量が多く、PIMが有効に活用されました。何百台もあるPIMの要素プロセッサをフルに稼動させるための負荷分散
についてはいろいろな工夫が必要で興味ある研究テーマでした。PIMの稼動状態を監視するためのモニタリングのた めのツールも作られました。