資料8.産業構造審議会 情報産業部会 答申


本報告書は、昭和55年6月に、通商産業大臣から「80年代の情報化及び情報産業の在り方並びにこれらに対する施策の在り方いかん。」という諮問を受け、産業構造審議会情報産業部会がとりまとめたものです。

【項目】

  • 第I部 現状と展望
    • 第1章 情報化の意義と役割
    • 第2章 わが国情報化の現状と問題点
    • 第3章 80年代情報化社会の展望
    • 第4章 80年代情報産業の展望と課題
  • 第II部 80年代に講ずべき施策
    • 第1章 情報化および情報産業施策の基本的方向
    • 第2章 情報化および情報産業の基盤の整備
    • 第3章 社会システムの開発
    • 第4章 情報関連技術開発の推進
    • 第5章 国際的展開の推進

【概要】

当情報産業部会は、「国民に活力とゆとりある社会を保証する唯一の道は情報化である」という認識のもと、21世紀を展望しつつ審議を進めました。そして、当部会の見解を「第I部 現状と展望」と「第II部 80年代に講ずべき施策」という2部構成にまとめ、「本答申で述べている諸施策を(政府が)強力に推進することをわれわれは切に希望する。」と述べています。

本報告書は、各節ごとに概要がまとめられていますので、以下に示します。


●「第I部 現状と展望 第1章 情報化の意義と役割」においては、
まず、「第1節 情報化の意義」

  1. 情報化とは、情報を物質、エネルギーに次ぐ第三の要素として認識し、その生成、加工、伝達、蓄積、利用を意識的に行おうとする活動の総体である。
  2. 情報化は単に産業面における生産性の向上、省資源、省エネルギーに寄与するばかりでなく、社会的問題の解決にも役立ち、人間の活動領域を広める効果をもつ、さらに個々人の生活を通じて国民の文化的価値意識にまで影響を与える。
  3. したがって、情報化の社会全般におよぼす影響は、産業革命にも匹敵するひろがりと深さをもっており、これへの対応いかんが人間社会の明日を決定するといっても過言ではない。
  4. わが国の情報化は、60年代から70年代にかけて産業界を中心として拠点的に展開してきた(第一次情報革命)が、現在、半導体技術の驚異的進歩、ニーズの多様化などの環境変化によりわが国の情報化は新しい段階(第二次情報革命)に入ろうとしている。今後、情報化の波は社会、家庭へと面的ひろがりをもって全般的におよんでいくと考えられる。
  5. 情報化は21世紀の日本を方向づける国民すべての課題である。世界的視野に立って、官民の叡智を結集して、実りある人間中心の情報化社会の構築に邁進することが望まれる。

とまとめられ、「第2節 国民的課題と情報化の役割」

  1. 80年代におけるわが国の課題は、
    1. 「経済大国」としての国際的貢献
    2. 「資源小国」の制約の克服
    3. 「活力」と「ゆとり」の両立
    の3つがあげられる。この国民的課題に対して情報化はきわめて大きな役割を果たすものである。
  2. 情報関連技術の国際共同開発、わが国データベースの整備による情報の内外への提供、発展途上国に対する情報化協力、情報産業の国際協力などにより、わが国は、国際的な貢献を積極的に果たしていくことができる。
  3. 情報産業は、産業構造の省資源、省エネルギー化をはかるための中核的役割を担う産業であり、情報関連技術の活用は産業、社会の様々な分野での省資源、省エネルギー化の推進を可能とする。 また、情報関連技術は技術立国の中心的担い手である。このように情報化の資源制約の克服に果たす役割りはきわめて大きい。
  4. 情報化は、生産性の向上、流通の合理化、経営の高度化を促すなど産業の活力を維持、向上させるために重要な役割を果たす。一方、医療サービスの向上、生涯教育への対応など社会的な問題の解決にも役立ち、また、家庭の情報化により、生活の質の向上などにも大きく寄与するものである。
したがって情報化は、「活力」と「ゆとり」の両立をはかることを可能とする。

とまとめられています。


●「第I部 現状と展望 第2章 わが国情報化の現状と問題点」においては、
「第1節 70年代の情報化の概要」は、

  1. 70年代のわが国の情報化は、半導体集積回路技術などコンピュータテクノロジーの著しい進歩に支えられて、産業界を中心に進展した。
  2. 一方、情報化の急速な進展に対し、既存の社会諸制度などが十分に対応しきれず、種々の摩擦的現象も生じることとなった。

「第2節 産業分野における情報化の進展」は、

  1. 70年代における製造部門の情報化は大きく進展した。一つは生産現場における自動化、無人化への進展であり、一つは生産管理、製品開発の効率的運用の進展である。設計、開発部門においては、CADシステムが導入されたがまだ一般化はみていない。
  2. 事務管理部門においては、数値情報処理を中心とした反覆的定型的業務のコンピュータ化は一般的なものとなり、また、利用形態はオンライン・バッチ処理中心からオンライン・リアルタイム処理への移行が顕著であった。さらに、オフィスコンピュータが登場し、コンピュータ利用の裾野を拡大した。
  3. 流通、販売部門では、従来の会計処理中心から、商品の数量管理、これによる自動発注システム構築への志向が高まった。さらに、物流情報システムの構築も行われた。また、POSシステム普及のための社会的基盤整備が整い、80年代への本格的普及を準備した。
  4. 70年代における中小企業は比較的情報化の遅れたグループにあげられてきた。しかし、最近の技術革新の進展によるマイクロコンピュータの普及、オフィス・コンピュータの登場などがインパクトを与え、中小企業においてもコンピュータ利用の機運が高まってきている。
  5. 農林水産業などの第一次産業も、70年代においては情報化の最も遅れた分野の一つにあげられる。とくに農業分野における情報化はこれまで、農協中心に展開されてきたが、生産管理などのより高度なコンピュータ利用はほとんど普及せず、今後の課題として残されている。

「第3節 社会分野における情報化の進展」は、

  1. 行政諸機関のコンピュータ導入は、行政事務の迅速な処理、行政の質の向上、国民へのサービスの向上などの観点から、大量データ処理業務、管理業務中心に進展し、さらにこれらのオンライン化がはかられた。
  2. 70年代の医療分野の情報化は、患者登録、窓口会計などの事務処理、薬品在庫管理、診療・ベット予約などの院内医療情報システムを中心に進展した。また、地域医療情報システムも次第に普及しつつある。しかし医療情報機器・サービスの面では実験段階にあるものが多い。
  3. 教育の情報化は、CAIに代表されるが、機器・システムが高額であったこと、プログラムの開発が十分でなかったことなどの理由からまだ一般化をみていない
  4. 70年代の交通、その他社会システムにおける情報化については、一部にかなり進んでいるものもあるが、実験段階にあるものが多い。

「第4節 生活分野における情報化の進展」は、

  1. コンピュータの利用を中心とした情報化は、生活の面においては当初、企業、行政諸機関などにおける情報化の反射効果としてあらわれた。
  2. しかし、70年代においては各種オンライン情報処理システムの進展などにより、情報化は直接生活面に便益をもたらすようになってきている。

「第5節 70年代情報化の評価と問題点」は、

  1. わが国の情報化を促進した要因としては、
    • 第1に情報関連技術の進展、
    • 第2に国民の知的水準の高さなどのわが国の社会的環境、
    • 第3に進取の気性に富んだわが国の民族的特質、
    • 第4に、わが国政府の諸施策
    があげられよう。
  2. 60年代末期からわが国で議論をよんだMIS(経営情報システム)については、その意図するところが各産業で実現したとは言いがたい。しかし、MIS構築をめざした試行錯誤がわが国のコンピュータ利用の定着に結びついた点は評価できよう。
  3. 70年代のわが国の情報化は、大企業を中心に急速に進展したことから、産業間格差および都市と地方の地域間格差を生じさせることとなった。
  4. 情報化の急速な進展はまた、これに既存の社会諸制度が十分対応しきれず、ソフトウェアの法的保護、プライバシーの保護、コンピュータ犯罪、通信回線の利用制度の問題など種々の摩擦的現象を生じさせることとなった。

とまとめられています。


●「第I部 現状と展望 第3章 80年代の情報化社会の展望」においては、
「第1節 めざすべき情報化社会の展望」は、

  1. 80年代にわれわれがめざすべき情報化社会は、「国際社会の主要な一員としての責任を果たしつつ、生き生きとした経済活動に支えられた、個性ある人間性豊かな情報化社会」である。
  2. 国際社会の主要な一員としての責任を果たすためには情報関連技術の開発、情報の整備・提供、技術交流および人材交流による情報化協力などにより、国際社会に貢献する情報化社会を構築していかなければならない。
  3. 産業活力の維持向上を可能とする情報化社会を実現するためには、産業の情報化を促進し、高次の知識集約化と高付加価値化の実現、創造的自主技術開発力の強化をはかっていかなければならない。
  4. 情報を活用することによって、個性と主体性の発揮できる人間性豊かなゆとりある情報化社会を形成し、国民福祉の向上をはかっていかなければならない。

「第2節 産業分野の展望」は、

  1. 製品の設計、加工組立など直接生産を行う製造部門では、情報化の促進による一層の知識集約化をはかるとともに、ニーズの多様化に対応するため多品種少量生産の自動化を可能とする技術開発が求められる。これらの課題を実現するためには、受注から設計、製造、製品納入までをトータル・システム化し、一貫した情報管理を行うことが必要である。
  2. サービス業や企業における間接部門である事務管理部門では、日本語処理、電子ファイリングなどの新技術をとり入れながら、日本の特質にあった快適なオフィス環境と、知識集約化された機能的なオフィス・インフォメーション・システムを構築することが望まれる。
  3. 流通販売部門では情報化の推進によって、多様化する消費者ニーズに対応しながら、流通産業の一層の機能高度化をはかることが望まれる。このためには、製造業、運輸業、金融業、卸売業、小売業を有効に結ぶ流通情報システムの確立が今後の重要な課題となろう。
  4. 中小企業の発展は、今後のわが国経済社会の発展にとって不可欠な要素である。80年代を通じて中小企業がその活力を維持向上させていくためには、情報化の推進によって、生産工程全体の省力化・自動化をはかるとともに、高度な技術を活用して、消費者ニーズに対応した製品の高級化、高品質化、高付加価値化をはかっていく必要がある。
  5. 農業・水産業などの第一次産業では、情報化の進展により装置産業化が進むと同時に、これらのシステムと貯蔵・出荷管理を行うシステムを結んだ総合システムを開発することにより、大幅に省力化および効率化がはかられるものと期待される。

「第3節 社会分野の展望」は、

  1. 行政分野においては、多様化する行政ニーズに的確に対応し、行政事務の効率化、高度化をはかっていくため、日本語情報処理システムなどを活用したオフィスオートメーションが導入される。また、地方自治体においては、漢字情報処理システムなどを活用することにより、住民票の発行などの窓口業務が効率化される。
  2. 医療分野においては、医療費の増大、病院の混雑化などの諸問題を解決していくため、コンピュータを活用した高度な医療情報システム・機器が導入され、外来患者の受け付け、カルテ管理などが行われるとともに、診療の補助および検査、検診の自動化がはかられる。
       また、通信システムを利用して遠隔地および地域間をネットワークで結ぶヘルスケア・ネットワーク・システムの開発・普及が望まれる。
  3. 交通分野においては、自動車などによる交通公害、交通事故の増大、交通渋滞の激化などの問題を解決するため、情報関連技術と通信技術を活用した中量軌道輸送システムの導入が望まれる。
       また、今後、地方都市の整備、ニュータウンの建設にともなって、交通需要にマッチした輸送手段としてCVSシステムなどの導入が期待される。
  4. 教育分野においては、コンピュータを活用したCAIの導入が期待される。CAIの導入により、生徒の能力に応じた個人指導的な教育、場所、時間を選ばない教育が可能となろう。さらに生涯教育、継続教育などの社会教育の充実のためにも、情報化の推進が必要である。

「第4節 生活分野の展望」は、

  1. ホームコンピュータが家庭に普及することにより、家庭電気製品、住宅機器などがシステム化され、ホームオートメーションによる情報化が進展し、「生活の合理化」がはかられる。
  2. 週休2日制の実施や情報化にともなう生活の合理化により、余暇時間が増大し、ホームコンピュータを利用した生涯教育などが可能となるとともに、趣味情報、ショッピング情報など多彩な情報が提供され、「生活の充実」に寄与する。
  3. また、地域・コミュニティをカバーする情報ネットワークが形成され、映像情報サービスなどの新しい情報サービスが行われることにより心の通い合うコミュニティがつくられ、「生活環境の改善」がはかられる。

とまとめられています。


●「第I部 現状と展望 第4章 80年代情報産業の展望と課題」においては、
「第1節 コンピュータ産業の展望と課題」は、

  1. コンピュータ産業は、省資源・省エネルギー型の典型的な知識集約産業であり、他産業に対する技術的波及効果も大きい。
       今後のわが国産業構造の創造的知識集約化を担う中核的産業であり、21世紀への展望を切り拓いていくリーディング・インダストリーとしての役割が期待される。
  2. コンピュータ産業は、規模からすればさほど大きい産業ではないが、その成長率は常にGNPの伸びを上回っており、今後とも引き続き高い成長が期待される。80年代においては、需要の多様化にともなって、コンピュータ産業は汎用コンピュータを頂点とした裾野の広い基幹産業として定着することが期待される。
  3. 80年代においてコンピュータ産業は、
    1. 独創的・先進的技術開発への取り組み
    2. 多様化するニーズへの的確な対応
    3. 有効競争の実現
    4. 円滑な国際的展開
    などがその主要な課題となろう。

「第2節 情報処理産業の展望と課題」は、

  1. 情報処理産業は、多様化し複雑化する情報処理ニーズにこたえ、情報処理技術の提供によって産業および社会の情報化を促進する産業である。わが国の情報化の進展にともなって、情報処理産業に対する期待は今後ますます大きくなってくる。
  2. 情報処理産業は、年々高い成長をとげているものの、1970年以降に設立された企業がその大半を占めるなど産業としての歴史が浅く、企業規模も他産業に比べて小さいなど、まだ未成熟の段階にある。
       情報処理産業の今後の発展の方向としては、ユーザニーズに直結した専門性の発揮、汎用的なソフトウェアプロダクトの開発促進、オンライン化の促進、データベースサービスの展開などが期待されている。
  3. このためには、財務体質を強化して企業基盤を整備するとともに、ソフトウェアの生産性をあげるための技術開発力の強化をはかる必要がある。
       また、情報処理産業の社会的責任体制の確立につとめ、あわせてソフトウェアに関する権利の確立、通信回線利用の自由化など、外的環境条件の整備を行う必要がある。

とまとめられています。


●「第II部 80年代に講ずべき施策 第1章 情報化および情報産業施策の基本的方向」においては、
「第1節 政策の必要性」は、

  1. 情報化を効果的に進めていくためには、民間の創意と活力を基本としつつも、政府自らがめざすべき情報化の方向を明示し、国民の理解と協力を求めながら必要な施策を展開していかなければならない。
  2. 新たな施策を展開するにあたっては、従来の施策をもう一度見直し、戦略的に重要な分野に絞って積極的果敢に施策を講じていくことが肝要である。
  3. 情報化および情報産業に対する施策は一種の社会基盤投資である。これを単に短期的財政事情などから躊躇するならば、将来に大きな禍根を残すことになる。なお、施策の展開にあたっては、安定的に財源の確保をはかる途も検討していく必要がある。

「第2節 政策の基本的方向」は、

  1. 今後の情報化および情報産業にかかる政策の基本的方向は、基盤の整備、技術開発の推進、国際的展開の三つである。
  2. 基盤の整備としては、通信回線利用の制約などの制度的制約条件の除去、ソフトウェアの流通促進などの環境の整備をはかるとともに、コンピュータ・セキュリティの確保など情報化にともなう諸問題に的確に対応しなければならない。
  3. 技術開発の推進にあたっては、長期的な展望にたち、官・学・民の役割分担を十分考慮したうえで、総合的技術開発プログラムに基づいて先進的、創造的な技術開発を行っていかなければならない。
  4. 国際的展開をはかるためには、先進国との間で技術交流、国際協力を行うとともに、発展途上国に対する情報化協力を推進するなど、世界の情報化の進展に積極的に貢献していかなければならない。

とまとめられています。


●「第II部 80年代に講ずべき施策 第2章 情報化および情報産業の基盤の整備」においては、
「第1節 通信回線利用制度の見直し」は、

  1. オンライン情報処理は、情報処理と通信の結合した高度なコンピュータ利用の一形態であり、これに公衆電気通信の秩序の維持の観点から、電信・電話と同じような種々の規制を課すことについては問題がある。
  2. したがって、オンライン情報処理に対する通信回線の利用制約は、社会経済の変化、技術の進展に即応させるよう見直し、実態にあわなくなった規制は撤廃すべきである。
  3. オンライン情報処理用の回線利用料金は、電話料金と切り離した別体系の料金とすべきであり、技術革新の成果を踏まえて、極力遠近格差を縮小した合理的なものとすべきである。
  4. 日本電信電話公社の行うデータ通信設備サービスについては、民間のサービスとの競合などの問題があるが、その多くは通信回線の利用規制に起因するところが大きい。このため通信回線利用規制の撤廃が急務であり、これによって民間側が不利とならないような環境条件の整備をはかる必要がある。

「第2節 情報処理と通信の結合への対応」は、

  1. 情報処理と通信の結合の進展にともなって、ビデオテックスやテレテキストなどの画像通信、CATVや光ファイバーを活用した広帯域画像情報システムなどの新しい情報サービスが生まれている。また、通信衛星を介した情報処理も出現している。
  2. 今後、通信ネットワークのディジタル化が進めば、音声、データ、画像などを一元的にサービスする「ディジタル総合サービス網(ISDN)」が実現し、従来の通信の概念をこえた新しいサービスが可能となろう。
  3. これらに対応するためには、種々の技術開発を進めるとともに、ディジタル通信回線網の整備をはかることが重要である。
  4. また、現在の通信関連法制は、こうした新しい情報サービスの出現に対して十分対応していない。現行の通信関連法制が、新しい情報サービスの実現を阻害したり技術開発の芽をつみとることのないよう、早急に関連法制の改正を行う必要がある。

「第3節 情報化にともなう諸問題への対応」は、

  1. コンピュータ・セキュリティを確保するためには、「電子計算機システム安全対策基準」の充実、システムダウンやエラーの発生を回避するためのガイドラインの設定、犯罪防止のための技術開発および現行法制の見直しなどを行う必要がある。
  2. プライバシーの保護のためには、まず公的機関の保有する個人情報について、法制の整備を含めた早急な対応が必要であり、民間機関の保有する個人情報については、今後なお検討すべき課題が多い。
       なお、行政情報の公開については、プライバシーや国家機密の保護などのための除外事項の取扱いなどについて慎重な配慮が必要である。
  3. マイクロコンピュータの広汎な導入にともなって、その雇用に与える影響が懸念されているが、マイクロコンピュータも技術革新の一つであり、長期的にみれば新しい産業や雇用の創出によってこの問題は吸収される。しかし、その動向については十分な調査と再教育や再訓練の場の整備が必要である。
  4. 急激な情報化の進展に対し「情報公害論」や「管理社会」の弊害など情報化に対する否定的見解も提起されている。これらについては、情報化に関する広報活動の推進、教育の充実、プライバシー保護のため制度的対応などの措置を講じ、情報化に対するパブリックアクセプタンスを形成する必要がある。
  5. 情報処理機器・システムの標準化については、今後一層重要になってくると考えられるため、政府としては、国際標準の動向に準拠しつつ、ハードウェア、ソフトウェアを含めたシステム全体としての標準化を推進する必要がある。

「第4節 ソフトウェアの流通の促進と価値の確立」は、

  1. ソフトウェアの重複開発を避け、開発コストの低減をはかるため、汎用的なソフトウェアプロダクト(汎用プログラム)の開発および流通市場の整備に対する期待が高まっている。
  2. 政府としては、ソフトウェアの価値の確立、アンバンドリングの推進、法的保護などソフトウェアの流通の基盤の整備をはかるとともに、汎用的なソフトウェアプロダクト開発の助成、流通促進のための税制などの誘導政策を一層強化していく必要がある。

「第5節 データベースサービスの整備および促進」は、

  1. 情報の氾濫と呼ばれる現象のなかで情報を的確に選択しようとするニーズを充足するため、データベースサービスへの期待が高まっているが、このような背景のもとで、情報処理産業に対してデータベース構築という困難な初期投資を乗りこえ、オンラインを最も有効な武器としてデータベースサービスに積極的に挑戦していくことが求められている。
  2. 政府としては、先行投資的性格の強いデータベースの開発および維持に対する資金面、プログラム開発面での助成を行うなど積極的な振興策をはかることが必要である。

「第6節 情報産業の基盤の整備」は、

  1. コンピュータ産業は、巨大な外国企業が世界市場をガリバー型に寡占しているという特殊な構造にあるため、市場を補完して有効競争を維持するための措置は引き続き重要である。また、今後コンピュータ産業の裾野の広がりに対応してユーザー対策が必要になってくるが、政府としてもこれに対し適切な指導を行っていくことが要請される。さらに、コンピュータ産業を支える人材を円滑に供給するため、情報関連教育を一層体系的に行うための措置をとることが必要である。
  2. 情報処理産業が、80年代においてわが国の健全な情報化を推進し、飛躍的発展をとげるためには、経営基盤の強化が何よりも重要である。
       このため、政府としては、情報処理産業の高度化に資するための資金供給の円滑化、情報処理技術者の資質向上、人材の確保などの基盤の整備をはかる必要がある。

とまとめられています。


●「第II部 80年代に講ずべき施策 第3章 社会システムの開発」においては、
「第1節 社会システムの必要性」は、

  1. 都市、交通、医療、環境などの社会問題に対しては、コンピュータテクノロジーとシステム化技術を活用し、社会ニーズに対応した幅広いサービスの提供を行う「社会システム」の開発が必要である。
  2. 80年代の生活の質的向上を求めるニーズにこたえるためには、情報系社会システムの開発導入が必要である。

「第2節 情報系社会システムの開発・普及」は、

  1. 情報系社会システムの特徴は、各地域のシステムを通信ネットワークで結合することにより全国的システムとすることが可能となることであり、これにより地震防災などのわが国の脆弱性を克服するシステムを開発することが期待できる。
  2. 情報系社会システムとしては、生活映像情報システム、医療情報システムの開発が行われているが、今後はエネルギー問題の解決のための代替エネルギー利用型コミュニティエネルギーシステムや地下街防災システムの開発を推進していくことが望まれる。
  3. 社会システムの導入と普及には、巨額の投資と長い期間が必要である。しかも、公共的性格により高い収益性は期待しにくい。このため、初期の資金回転が円滑に行われるよう公的資金による助成が必要である。

とまとめられています。


●「第II部 80年代に講ずべき施策 第4章 情報関連技術開発の推進」においては、
「第1節 研究開発体制の整備」は、

  1. かぎられた研究開発資源を効果的に活用するためには、長期を見通した総合的な技術開発プログラム・戦略を確立する必要がある。
  2. 技術立国の柱ともいうべき情報関連技術については、創意と工夫に富む技術開発、未踏先端技術への挑戦などにとくに積極的に取り組む必要があり、このためには、官・学・民の連携をはかるとともに、民間の活力の活用などの施策を講じる必要がある。
  3. 効率的に研究開発を実施していくためには、研究管理、推進体制などの整備が必要であり、ハード・ソフト両面にわたる総合的な研究開発機構の創設について検討する必要がある。また、国際協力についてもそのあり方について検討する必要がある。

「第2節 ソフトウェア関連技術の重点開発」は、

  1. ハードウェアの高性能化、低価格化の潮流のなかで情報処理コストに占めるソフトウェアコストが上昇しているため、ソフトウェアコストの低減をはかる技術開発やオフィスオートメーションの進展などコンピュータ利用の大衆化にともない操作性の容易なソフトウェアに対する開発の必要性が高まっている。
  2. このためソフトウェアの生産性を大巾に向上させるソフトウェア生産技術、増大するソフトウェア保守コストの低減をはかるソフトウェア保守技術、操作性の向上をめざした次世代コンピュータ用基本ソフトウェア技術、先進的な情報処理技術を具体的分野に応用する複合的な先進的情報処理技術、大規模ソフトウェア技術などソフトウェア関連技術の開発を推進する必要がある。

「第3節 先導的革新的技術の開発」は、

  1. 科学技術の分野では、気象予測、核融合研究、宇宙開発などにおいて、膨大な計算処理が必要となる。しかしながら、汎用コンピュータはこうした計算処理には適さない。このため政府は、ジョセフソン接合素子などの新しい素子と超並列処理方式を採用した科学技術用高速計算システムを開発することとしているが、今後一層これを促進する必要がある。
  2. 今後情報化の進展にともない、専門知識がなくともコンピュータの高度な機能を利用できるような使いやすいコンピュータが要請されると考えられる。しかしながら、従来のコンピュータではソフトウェアが複雑化、巨大化するなどの問題があり、こうした要請には必ずしも十分にこたえられない。このため、1990年代に実現が予想される新しい設計思想に基いた第5世代のコンピュータの開発に着手する必要がある。

「第4節 基礎的研究開発の充実」は、

  1. 技術先端産業の確立をはかるためには、その基盤となる基礎的な先端技術の研究開発を推進しなければならない。これら基盤技術は先端的な技術であるため、開発のリスクも大きく、民間だけでは十分な成果が期待できない。このため政府は次世代産業基盤技術開発制度を発足させたが、新機能素子など情報産業に関連の深い技術の開発を一層推進する必要がある。
  2. 光産業技術は、今後の電子工業を担う先端的技術であり、わが国が独力で世界のトップレベルの技術を切り拓きつつある数少ない技術のひとつである。しかしながら光産業技術はきわめて幅広い裾野をもっており、基礎から開発、実用化までの総合的な研究開発を進める必要がある。政府としても光応用計測制御システムなどの基礎的な分野の開発に着手しているが、今後とも一層その拡充が望まれる。
  3. センサーは、情報処理を行う場合の有力な入力手段であり、今後の情報化にはその開発が不可欠である。しかしながらセンサーは様々な種類があり、そのすべてを開発するには開発投資が膨大なものとなる。このため、とくに先端的、かつ、応用範囲の広いセンサーにつき、政府が主体となって開発を推進する必要がある。

「第5節 応用技術の研究開発」は、

  1. 悪環境下の作業や単調な作業から労働者を解放するためには、自由に動き回れる知能ロボットが必要とされる。このような知能ロボットの開発のためには、情報関連技術、機械技術、センサー技術などいずれも高度な技術を総合的に開発しなければならず、その開発対象もきわめて広汎にわたっている。このため民間にゆだねるのみではその効率的な開発は期待しがたく、政府が主体となって基礎技術の開発を進める必要がある。
  2. 社会の国際化の進展にともない、わが国の意見や資料などの大量の情報を海外に速やかに伝達するとともに、海外の情報も迅速に処理する必要性が増大している。日本語の翻訳作業には多大な労力と時間を要するが、これを解決するため、情報関連技術を駆使した自動翻訳システムを開発する必要がある。この実現は、わが国がおかれた国際環境を勘案すれば、国家的プロジェクトとして推進する必要がある。
  3. コンピュータを利用したメディカル・エレクトロニクス(ME)の出現により、従来困難であった治療が可能となっている。しかしながら、さらに高性能のME機器の開発が望まれており、このようなME機器は大規模なシステムとなることが多い。
       また、研究開発には多額の資金を要する。このため民間のみでは開発は困難であり、政府が積極的に研究開発を推進することが望まれる。

とまとめられています。


●「第II部 80年代に講ずべき施策 第5章 国際的展開の推進」においては、
「第1節 世界の情報化への積極的寄与」は、

  1. 80年代は国際情報ネットワークの本格的な形成の時代を迎えると考えられ、わが国としても対応を誤らないよう周到な検討、準備が必要である。
  2. わが国がもっている情報をデータベース化し、これを国際的に提供することは、わが国の情報に関するバーゲニングパワーの確保に資することとなる。
  3. 情報化施策にかかわる国際的な政策調整や国際標準化などについては、わが国も積極的に提言していく必要がある。

「第2節 先進国との協調体制の推進」は、

  1. 先進国との協調体制を推進するためには、情報関連技術の分野で、わが国が率先して先端的、革新的技術課題に取り組むことが基本的に重要である。
  2. 情報関連技術について情報交換、人材交流などにより積極的に国際的交流をはかるとともに、国際共同開発のあり方、体制などについて検討する必要がある。
  3. わが国情報産業は、産業協力の推進など国際協調を念頭におきつつ国際的展開をはかっていくべきである。

「第3節 発展途上国に対する情報化協力の推進」は、

  1. 発展途上国の情報化努力に対し、経済協力、技術協力の一環として、発展途上国の情報化推進の担い手たる技術者、専門家の養成に協力するとともに、社会システムの構築、現地適合化技術開発などについても積極的に協力していく必要がある。
  2. このため政府ベースの情報化協力の充実をはかるとともに、民間ベースの情報化協力を促進することも重要であり、協力体制の整備も含めその拡充強化をはかる必要がある。

とまとめられています。