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知識情報処理技術による高レベルでコンパクトな記述

従来の知識情報処理応用システムの研究開発では、特定の応用に対する技術開 発のみが行なわれることが多く、ある特定の問題にしか適用できない技術の開 発に重点が置かれがちであった。このような技術は他の分野に応用しにくいだ けではなく、選んだ対象領域の周辺においてすら、問題がわずかに異なるだけ で適用が困難な場合も多かった。また、応用に関わるすべての問題を解決しよ うとするため、必要な開発項目が多くなり、高度なシステムの開発には困難を 極めた。

これに比べ、第五世代コンピュータ・プロジェクトにおいては、並列論理型と いう一貫した枠組の中で研究開発を行なって来たため、応用システム実現の ための要素システムとして、基礎的な知識情報処理技術の研究開発成果を順次 取り込むことができた。これによって、応用システムでは非常に高いレベルの アルゴリズム設計とソフトウェア記述に集中することができ、従来開発が困難 だった高度な機能を持つシステムを、短期間で開発することができた。

たとえば、法的推論システムの扱う法律の分野では、その体系知識 (法令文) が完全でないため、過去の運用実績 (判例) を補わなければ実問題が解決でき ない。そのため、法的推論システムの実現には、法令文の論理的記述とそれを 用いた演繹的推論、判例の自然な記述と類比による推論という、二種類の知識 情報処理技術が必要である。このような複雑な問題解決システムであるにも関 わらず、推論モジュールの第1版は約4,500行と、従来技術に比べてひと桁以上 コンパクトな記述となり、開発工数も9人月程度で済んでいる。このようなコ ンパクトな記述と短期間での開発を可能にしたのは、プロジェクト内で開発し た要素技術に基づき並列推論マシンPIM上に実現した、効率的で汎用性の高い 要素システムの利用によるものである。法令文の処理には並列自動定理証明器 MGTP を利用して理論的裏付けのある論証モジュールを構築し、後者の判例の 処理には、事例ベース推論や類推などの高次推論技術と、自然言語処理にも共 通する知識表現技術を応用し、並列処理による効率的な類比検索モジュールを 構築している。