平成7年度 委託研究ソフトウェアの中間報告

(3) 帰納的な並列記号処理のためのプログラミング環境の開発

研究代表者:佐藤 泰介 教授
      東京工業大学 大学院 情報理工学研究科


[中間報告]

1) 研究進捗状況
今年度の目標を達成するためには、図式プログラムの編集系、翻訳 系、ライブラリ、ランタイムシステム、トレーサなどのサブシステ ムを設計/実装する必要がある。現時点で、簡単なサンプルプログ ラムを、編集、翻訳、実行できる最低限の機能をもったプロトタイ プが稼働している。今年度の主たる課題である編集系に関しては、 プロトタイプの使い勝手を評価しながら、ユーザインタフェース部 分の修正を繰り返している。ライブラリとトレーサについては、ま だ作業があまり進んでいない。

一方分布意味論を基盤とした帰納的な並列記号処理の理論研究にお いては、従来の単純な独立な分布の積により表される基礎分布から 事象相互の関係を採り入れた基礎分布への拡張を目指し、研究を進 めている。

2) 現在までの主な成果
図式プログラムの編集系に関しては、プロトタイプがほぼ完成して いる。ただし、現段階では、図式テンプレートライブラリの利用を 支援していないので、比較的単純な図式を組み合わせてプログラム を構築する必要がある。そのために規模の大きなプログラムの構築 を行うには、まだ問題が残る。また、編集系のユーザインタフェー スについても改善すべき点がいくつか見つかっている。翻訳系につ いては、編集系で作成した図式プログラムを、klic のプログラム に変換する部分がほぼ完成している。ただし、他のサブシステムが 利用する情報(図式の形、大きさ、色など)を klic のプログラムに コメントとして付加する部分がまだ未完成である。

理論研究での事象相互の関係を採り入れた基礎分布への拡張につい ては有力な候補としてボルツマン分布を取り上げ、そのプログラム への組み込みを図っている。現在ゲームを題材としてボルツマン分 布を組み込んだ論理プログラムの学習の実験を準備中である。

3) 今後の研究概要
今年度の残りの期間では、主として、図式テンプレートライブラリ の設計および図式テンプレートに対応した編集系の設計と実装に取 り組む。そして、さまざまな言語機能を図式テンプレートとして表 現する実験を行う予定である。この図式テンプレートという概念は、 通常のプログラミング言語のライブラリ関数に相当する概念である。 メタレベルのライブラリに相当するテンプレートを用意することに より、オブジェクト指向や関数型のプログラミングパラダイムなど を、図式テンプレートとして提供しうるのではないかと予想してい る。この予想が妥当なものかどうかによって、システム全体の設計 が大幅に変わる可能性があるので、当面は、この予想の検証に全力 を傾けたい。

論理プログラムに於けるボルツマン分布の学習についてはその結合 係数がもともとのスピンの相互作用モデルとは異なり非対称なので 大域的収束には色々問題が予想される。実験を通じて収束の know-howを集めて行きたい。

4) 今年度目標成果(イメージ)
編集系を用いて図式の形でプログラムを入力し、翻訳系が生成した コードを klic を用いて実行可能であるようなシステムを構築する。 対象とするプログラムのサイズは、トイではないが大規模でもない ものを想定している。時間が限られているので、ライブラリおよび トレーサの完成度についてはあまり期待できないが、簡単なプロト タイプくらいは作成する予定である。

ゲームを記述する論理プログラムへのボルツマン分布の組み込みと 学習にある程度メドがついた段階で強化学習などマルコフ的枠組の に於ける記号処理へと分布意味論の応用を試みる予定である。



www-admin@icot.or.jp