日本が21世紀の知識社会[NONAKA90]をリードするには、個人およびグループの創造性を支援する計算機技術の開発 −知識創造環境の構築− が必要である。人間の創造的思考プロセスは発散的思考、収束的思考、アイデア結晶化、評価・検証からなる。最新の AI 技術、ネットワーク技術、仮想現実感技術、マルチメディア技術等を用い、各々のフェーズで働く発想支援グループウェアを構築する。これは従来のAI研究が押し進めてきた方向性(演繹、帰納、発想、類推など、人間の推論メカニズムを有する計算機を構築するというもの)と補完関係にある。人間に似た推論メカニズムを有するという意味で計算機を知的にするのでなく、ユーザの創造性を触発するためにインタラクティブにユーザと情報のやりとりができる環境の構築という意味で、計算機を知的増幅器にすることを目指す。そのための基盤研究として、発明・発見や創造的設計のプロセスで創造的思考がどのように誕生するか、人間のもつ形式知や暗黙知が創造性の誕生に果たす役割は何か、などを認知科学的あるいは脳生理学的に探究し、得られた知見を最大限に利用したネットワーク上の知的触媒としての発想支援グループウェアを構築する必要がある。我々の日常生活の場あるいは創造的活動を生業とする人の発明・発見活動の場を観察分析すると同時に、研究開発した発想支援グループウェアを研究開発マネジメント、コンカレントエンジニアリング、時代感性に即した商品開発、創造的教育開発、SFX制作などの、日本が世界に対して遅れていると言われている領域での支援システム構築にトライすることが期待される。
来るべき21世紀は競争と集中の時代から、協調と分散の時代にシフトすると言われている。このような時代においては、異なる価値観の人々が時間・空間を越える創造的問題解決(調整)を行うための知的ツールである発想支援グループウェアの構築が期待される。21世紀のオフィスの生産性向上のためには、時間・空間を越える調整機能あるいは分散環境での協調問題解決機能をもつ発想支援グループウェアの導入が必要である。発想支援グループウェアの研究開発は、定量的・記号的な情報処理の世界から定性的・感性的な情報処理の世界に広がりつつある。定性的情報処理の世界は顧客の不平・不満や潜在意識の顕在化、感性情報のキャッチ、ブレインストーミングによる問題意識の発掘、グループ意思決定、ソフトウェアの要求獲得、問題の定式化支援、自由きままな情報探索、戦略的マーケティング等の未来社会の設計に避けて通れない諸問題の解決に寄与しうると言える。発想支援グループウェアの構築は何らかの創造的問題解決活動、研究開発、知的生産活動、創造的マネジメント活動に携わっている人間にとって、コンピュータが誕生して以来の究極の夢であり、一朝一夕で実現しない究極の夢であることも、誰もが重々承知している。しかしながら、最近の情報処理技術の急激な発展に支えられ、人工知能技術、ネットワーク技術、マルチメディア技術、インタフェース技術、人工現実感技術等のエッセンスを駆使して、コンピュータが人間の創造的な問題解決活動を支援する発想支援システムという一大研究領域の研究開発[FUJITSU 91、 JSAI93、 KUNIFUJI92、 KUNIFUJI93、 SICE94、 SICE95a、 SICE95b、 JSAI96、 JSAI97]が、着実に前進しつつある。
人間の創造的問題解決プロセスのモデルには、川喜田二郎のW型問題解決学、ワラスの4段階説、パースの三分論モデル、およびブルーナー・市川亀久彌・デボノ・ヴェルトハイマー等の思考の二分論モデルがある。ここに我々は発想支援システムの研究開発を行うにあたって、近い将来において実現可能なあらゆる技術を駆使して、人間の創造的問題解決プロセスを支援することを念頭におき、「発散的思考、収束的思考、アイデア結晶化(狭義の発想)、評価・検証」からなるモデルを提案した。我々が発想支援システムと呼ぶのは、「発散的思考、収束的思考、アイデア結晶化」までの人間の創造的問題解決プロセスを支援するコンピュータシステムのことである。また我々が思考支援システムというのは、最後の評価・検証まで、すなわち「発散的思考、収束的思考、アイデア結晶化(狭義の発想)、評価・検証」までの創造的問題解決の全プロセスを支援するコンピュータシステムを構築することである。また創造活動において、創造者の置かれている環境とのインタラクションの重要性が様々な識者から指摘される。その意味で、最も広義の創造性支援システムは「思考支援システム+(創造的)環境」の構築として定義されよう。
人間の思考・発想のプロセスが、上記プロセスからなり、かつそれらにおいて感性情報処理、記号情報処理が相互に寄与していることに着目し、実際にそのようなシステム構築の事例・構想を、ここ数年間に渡って調査した。その結果、国内の代表的システムの研究者を一堂に会したシンポジウムの開催[FUJITSU91、 KUNIFUJI92、 KUNIFUJI93、 SICE94、 SICE95a、 SICE95b、 JSAI96、 JSAI97]や学会誌の特集[JSAI93]がされるようになってきた。その際最も興味深かったのは、日本においては(KJ法を中心とするボトムアップ的な)収束的思考支援ツールに優れたものが多く、逆に欧米においては発散的思考支援ツールに斬新なものが多かったという事実である。ここ数年の研究開発動向を要約すると、コンピュータの得意なことはコンピュータに、人間の得意なことは人間にまかす工学的アプローチが最も将来性のある研究開発戦略であることを実証した。発想支援グループウェアを構築しようとする場合、発想のアウトプットを直接生成するツールの構築は計算量の壁からいっても困難であり、発想のプロセスを支援するツールの構築とその知識システムや設計支援システムとの統合が有望である。
マイケル・ポライニは知識を形式知と暗黙知に分け、源泉知から変換知への変換過程を次のように分類している。形式知を形式知や暗黙知に変換する過程をそれぞれ連結、内面化と呼び、暗黙知を形式知や暗黙知に変換する過程をそれぞれ分節化、共同と呼んでいる。従来の計算機(あるいは人工知能)で生まれた技術はこのカテゴリーでは連結のための技術であり、ニューロネットワークの技術は内面化の技術の一つである。発想支援グループウェアの技術はこのカテゴリーでは、まさに分節化や共同を支援する技術であり、欧米においてはアウェアネス等の支援あるいは暗黙知の支援として研究が行われている。そこにおいては、マルチメディアグループウェア研究の一つとして、仮想現実感技術をも利用して、そこにその人が実際に存在するかのような、その人の持つ雰囲気、本音あるいは暗黙の気配が感性 (あるいは暗黙知) として伝わる創発メディア環境をいかに構築するかが課題である。そのためにサイバースペース、バーチャルラボラトリ、バーチャルメトロポリタン等の様々なビッグプロジェクトが進行中である。
他方、日本においてはより方法論指向の強い小規模の研究開発グループが散在するだけである。
東大) 堀研究室:分節化をいかに支援するかから、頭の中にある曖昧模糊としたイメージを二次元の空間配置として表示する Articulation Assistant を中心に、各種分節化支援システムを構築。
阪大) 宗森研究室:Mac 上に開発された初めての KJ 法支援グループウェア郡元を中心に、学生を用いた各種評価実験がユニークである。
富士通研) 杉山グループ:SUN 上に構築された本格的な自動描画ツール D-Abductor の周辺に、連想キーワード提示機能、共有画面等の機能を付与した発散的思考支援、収束的思考支援の両機能をもつ創発メディア環境を構築。
北陸先端大) 國藤研究室:知識獲得の上流工程支援を目的に研究開発されたグループ意思決定支援システム GRAPE の上流工程に、データマイング機能やバネモデル等の各種発散的思考支援、収束的思考支援の両機能を付与した体系的発想支援グループウェアの研究開発を続行中。
北大) 田中研究室:Smalltalk のモデルビューコントローラをヒントに、全てのメディアを紙のパッドのメタファーで合成可能としたシンセティックメディア・システムIntelligent Pad を北大ベンチャーラボで産学共同開発中。
わが国の人口一人当たりのノーベル賞受賞者数の少なさ、原理特許の輸出入比のアンバランス、あるいは独創的科学技術の発明・発見の少なさ等から、日本国民の独創性は乏しいという指摘が、多くの識者によってなされている。この指摘の裏返しとして、日本の組織、小集団組織、チームの生産性の良さも QC、TQ 運動として知られている。すなわち、小集団やチームでの改善運動、企業での特許活動等に見られる小さな創造性の能力の高さでは優れていると言う指摘もある。また日本人の社会の一様性、排他性、日本の教育の画一性、平均主義が諸悪の根源であるとの分析もある。このような風土は明治維新以来の国家戦略に基づき形成され、「追いつき追い越す」目標 (国家、企業等) が明確であり得た時代には国策にマッチした。しかしながら、日本の先端科学技術が世界のフロントランナーとなり、「追いつき追い越す」目標を喪失し、自ら独創的な規範を創造し、世界に対してデファクトスタンダードを投げかけなければいけないた現在においては、従来のような研究開発戦略に安穏とする訳にいかない。
21世紀知識社会に対して、日本が世界に対して創造的科学技術立国するためにも、日本型組織の知的生産性向上支援ノウハウを見直すべきである。形式知のみならず暗黙知までも文化として伝承する日本的ノウハウの良さをツール化し、協調と分散の21世紀にふさわしい知識創造環境を、発想支援グループウェア体系として構築し、世界に対して日本が誇れるコラボレーションのノウハウを提供する歴史的必然性がある。
著者らの調査によると、KJ法を中心とする収束的思考支援ツールの研究開発においては、日本が優れているものが多いが、それ以外の発散的思考支援ツールにつながる研究開発のシーズや、アウェアネスや暗黙知を支援するグループウェアは圧倒的に欧米の方が優れている。これらは日常的にデベートする文化と、常に根回しを要求される文化とのコミュニケーション努力の差であろう。そこでアメリカ、イギリス、ドイツ等の CSCW あるいはグループウェアの研究開発先行国の調査を行う必要がある。
コンピュータの究極の進化形態は、人間の知的生産のツールである発想支援グループウェアである。我が国が協調と分散の時代である21世紀のリーディング国家になるには、新しい集団問題解決のツールである発想支援グループウェアの研究開発プロジェクトを、今直ぐにでも立ち上げなければならない。
<参考文献>
近年エージェントという言葉を、雑誌、新聞、テレビといったマスコミを通じて、比較的良く耳にするようになってきている。これらは、パーソナルメディア及びインターネットといった、次世代を担うテクノロジーに支えられた生活環境の中で、上手に人間の仕事を手伝ってくれるような「知的」ソフトウェアの代名詞として使われている。しかしながら、現状におけるエージェントテクノロジーは、非常に未熟な段階にある。現在私たちが耳にするエージェントという言葉によって代表されるソフトウェアは、「知的」な側面よりも、ユーザインタフェースの改善やプロトコルと呼ばれる計算機間で使われる言葉の定義に重きを置いているのが実情である。
このような技術的側面は、これまでの計算機応用においても十分に重視されてきたものであり、取り立ててエージェントと呼ぶ必要性は感じられない。どのように「知的」であれば良いのか、ユーザーが本当に期待する「知的」ソフトウェアとは何なのか、ネットワーク環境に多くのエージェントがいるとどのような問題が生じるのか、また本当にそれは期待するような効果をもたらすものなのかなどといった本質的な問題に関しては、ほとんど議論されてきておらず、これからの研究に期待されるところが大きい。「エージェント」の時代は、インターネット及び携帯型端末などの技術基盤が普及しつつある今こそ、真の意味での始まりを向かえたところなのである。
ところで、通常エージェントと言われて、何を思い浮かべるだろうか。私たちが直ぐに思い浮かべることができるのは、旅行代理店 (travel agency)に代表されるように、「何かを代行してくれる者 (代理人)」という意味であろう。このように、ソフトウェアエージェントというのは、ユーザのさまざまな目標を代理人として達成してくれるソフトウェアのことであり、また、マルチエージェントシステムというのは、まさに人間に代わって何かをしてくれるソフトウェアの代理人の集まり (agency)である。
人間の場合と同じように、ソフトウェアエージェントにも、おのずと要求事項と満たすことのできる事項の間でのトレードオフが存在する。重要なことは、それぞれのシステムが満たさなければいけない事項を最大限に満足するようにエージェントの社会 (agency)を考えることである。例えば、実時間性を要求されるシステムにおいて、各エージェントがあまりわがまま勝手に動くようでは困ってしまう。このような場合には、エージェントを組織の体系の中にきっちり押し込めてしまうのも一つの方法かもしれない。また、各エージェントが最適な解を求められなくても、一定の与えられた時間内で最良の解を見つけるよう設定する必要もあるだろう。一方で、最近話題になっているようなパーソナルメディアにおいては、それぞれのユーザーの趣味や個性を理解した上で、インターネット上に存在する別のエージェントたちと協調作業することが要請されるだろう。このような場合には、むしろ、エージェントのパーソナリティというものが重要なものになってくると考えられる。
分散人工知能
マルチエージェントシステムの研究は、もともと分散人工知能の一つの分野として誕生してきた。分散人工知能という研究分野は、1980年代に入ってすぐ北米において誕生したが、そのもともとの研究対象の一つは、航空管制システムに代表されるように、局所的にしか管制能力を持たないシステムを、空間的に分散させたまま、複数統合することによって、より広い範囲をカバーできるようなシステムを構築しようというものである。
1980年初頭という時期は、計算機科学において、ネットワークによって結合された分散計算システムが、世の中に普及し始める時期にほぼ一致する。つまり、分散人工知能という研究分野は、計算機がより安く小型になることを見越して、当然のごとく成立してきたということができる。分散人工知能におけるエージェントは、どちらかというと、システムの一構成要素、分散システムでいうノードのような位置付けにあった。いいかえるとエージェントはシステムの部品あるいはモジュールの単位として捕えられていたといっても良いであろう。ここでの問題点は、モジュールをどのように結合させれば、効率的な仕事ができるか、あるいは、どのようなモジュールに分割すれば、よりうまく仕事ができるかといったようなことであり、そのような問題に対して、人工知能的な方法がどのように適用できるか、ということが主な研究の関心となっていた。
分散人工知能とマルチエージェントシステム
Alan BondとLes Gassserが1988年にまとめた分散人工知能に関する代表的な論文集[2]に書かれた巻頭言によると、「分散人工知能には大きく分けて分散問題解決とマルチエージェントシステムがある」、としている。分散問題解決は、システムが担う仕事の分割とエージェントに対する配分の問題、および分散しているエージェントの間の結合関係の問題を扱うものである。これらも結局は複数のエージェントを扱う研究であり、マルチエージェントシステムの一部という見方もできるだろう。今となっては、その方がむしろ一般的かもしれない。当時は分散人工知能という大きい枠があったので、BondとGassserはこの二つを区別したというのが実情であろう。
さて、分散人工知能において、これら二つの研究分野の大きな違いは、マルチエージェントシステムがエージェントを中心としてエージェントの社会を考える研究であるのに対し、分散問題解決は、特定の問題を解決するシステムがあったときに、その解決方法としてエージェントを利用することが中心課題であるという点である。ある意味では、分散問題解決の方が、より具体的な問題意識に基づく研究であるかもしれない。マルチエージェントシステムの方は、それに対してより一般的かつ抽象的な対象を相手にしてきた点で、具体性に乏しい点が大きな欠点であった。最近こうした傾向は少しずつ改善されてきているが、これからマルチエージェントシステムの研究を目指す研究者は、少なくともある程度の具体性を念頭において、研究を行うべきであろう。
組織としてのマルチエージェントシステム
BondとGasserによると、私たちが問題にしているマルチエージェントの研究分野は、少なくとも5つの範疇に分類できるとしている。計画立案、コミュニケーション、エージェントの能力、組織構造、及び他のエージェントのモデル化である。このような研究に関心を持つ研究者は、エージェントにより焦点を当てることにより、そのコミュニティとしてのシステムについて考えようとする立場を取っている。
分散人工知能以前の人工知能においては、単体として存在するエージェントの知性について考えようとしてきた。これに対して、マルチエージェントシステムの研究者は、「コミュニティの一員として」のエージェントの知性、つまり社会性というものに焦点を当て始めたのである。マルチエージェントシステムの研究における組織観は、初期の分散人工知能の研究に多く見られたように、閉じたシステム (closed systems)ではなく開かれたシステム (open systems) (注1)である。エージェントそのものに焦点が当たっているために、それが属する組織は複数に及ぶことも可能だし、一つの組織構成自身が変化しうるものである。このような組織観は、私たちが人間社会において普段実感しているコミュニティに近いものである。現実的に、私たちが日常生活で体験している経済原理をインターネットの世界に持ち込もうとする研究は、今や一つの大きな分野を形成する方向にある。
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注1)これはOpen
Systems Foundation (OSF) でいうところのオープンシステムではなく、Carl E.
HewittとPeter de Jongが[5]の中で述べているようなものである。
上述したようなシステムは、常に決まりきった仕事だけをこなしていれば良い組織構造とは異なるため、特定の仕事に関しては、非常に効率が悪くなってしまう可能性を秘めている。しかし、一方で、常に変化する要求に応じて、組織形態を変化させることができるという柔軟性を持っている。どちらの形態をより好ましいと見るかは、トレードオフの問題である。私たちはしかし、柔軟にエージェント間の関係を作り出すことができるマルチエージェントシステムの持つ性質は、インターネットの発達によって、私たち人間のパートナーとしてエージェントを考えた場合、よりその重要性を増すものと考えられる。Osawaは動的環境な環境の変化に適応して組織を再編する手法を提案し、評価している[30]。
3.2.2.1 マルチエージェントシステムにおける標準問題
分散人工知能はその誕生から既に15年の歳月が流れている。しかしながら、分散システムにおける、分散人工知能やマルチエージェントシステム研究の貢献を公平に評価しようとした時、少なくとも一つの大きな障壁が存在している。それは、先にあげたような応用分野が、比較的大きくて複雑なものであり、十分に一般化された問題領域がなかなか見当たらず、これまで開発されてきた解法、方法論の有効性、そして一般性をはかることが困難であり、しかも、追試が困難であるために議論がかみあわず、さまざまなモデルが提案されるが評価することが不可能になっている、といったことである。
これらの反省から、誰もが理解でき、類似の実験状況の設定が容易な「標準問題」が必要であるという認識が生まれつつある。標準問題と呼べるためには、その問題が十分に現実における一般的かつ重要な課題を表現しており、現実的に存在する諸問題を直接調べる代わりに、標準問題によって調査することが可能でなければならない。さらに、多くの研究者が、その問題に取り組むことによって、彼らの研究を比較検討がなされているようなものでなければならない。これまでの、分散人工知能あるいはマルチエージェントシステムの研究の歴史の中で、このような問題は、非常に限られている。標準問題と呼んで差し支えないようなものは「タイルワールド」、「追跡問題」、および「囚人のジレンマ」などであろう[10]。また、最近ロボットやソフトウェアエージェントのチームにサッカーの試合行なわせようという新しい試み(RoboCup[12])が提案されている。これなどは実時間マルチエージェントシステムの標準的な評価基盤[11]となることが予想される。
タイルワールドは、PollackとRinguetteによって1990年に提案されたものであり、エージェントのアーキテクチャが、予測困難な動的環境において動作するエージェントにどのような影響を与えるかを考えるための問題である[9]。追跡問題は、Rand CorporationのBendaらによって1985年に提案されたものであり、共通の大域目標を持つ複数エージェントの集団において目標を効率良く達成するためには、各エージェントが個々の局所的な戦略と大域目標達成のための戦略の関係を考えるための問題である[1]。また、囚人のジレンマは、元々ゲーム理論において提案されたものであり、特にマルチエージェントシステム固有の問題ではないが、エージェント間の利害関係が完全には一致しないような状況におけるエージェントの行動パターンを調べるための問題である。
3.2.2.2 インターネットとマルチエージェントシステム
今やインターネットのようなコンピュータネットワーク発達によって、世界はいたるところ身近なものとして感じられるようになってきた。また、シャープのザウルス、ソニーのマジックリンク、HPのHP2000Xのように、計算機もより小型、軽量化し、持ち運ぶことが可能なモデム内臓型の高性能なパーソナルコンピュータが安価に手に入るようになってきた。こうした計算機を駆使することによって、私たちはより迅速に多くの情報を送りだしたり入手したりすることが可能になってきた。先頃の関西大震災においても、情報交換のメディアとして、携帯電話をモデムに接続したパーソナルコンピュータとコンピュータネットワークが、被災地において、被災民が必要とするより正確な情報を入手するために大活躍していた。また、私たちはWWW (World Wide Web)という情報源のネットワークから、NCSA MosaicやNetscape Navigatorといったインタフェースを介して、映像や音声などを含むような情報を容易に取り出すようなことができるようになってきている。
情報公害
一方で、情報公害ということも叫ばれ始めている。これは、情報が多すぎることによって、何が自分にとって重要な情報か見極めることが非常に困難になり、かつ本当に必要な情報を検索するためには多くの時間を必要とするという問題である。ある情報の本当の価値を見い出すことができなければ、情報量的には0に等しい。また、情報検索に多くの時間を費やすことは、実際にその情報を活用すべき仕事をする時間がなくなることであり、私たちは、このことによってある種のジレンマに陥ることになる。そのために一層多くのストレスを抱えることにもなりかねない。
私たちが本当に必要とする情報を取捨選択してくれるようなエージェント、または必要ならば、持ち主である人間に代わって世界中を駆け巡り、他のエージェントと情報交換を行うことによって、その持ち主にとって、本当に有益な情報を集めてくるようなエージェントは、情報公害を少しでも緩和するという意味でも、今後ますます重要な意味を持ってくるであろう。そのようなエージェントから構成されるマルチエージェントシステムでは、コミュニケーションやインタラクション、そして人間とエージェントの間のインタフェースに関する研究が重要な鍵を握ると考えられる。
エージェント間コミュニケーション
エージェントが共同で仕事を行ったり、有限の資源を分けあったりする場合には、エージェント間のコミュニケーションあるいはインタラクションが重要になる。このため、エージェント間で情報を伝達するためのプロトコルあるいは共通の言語を設定する必要がある。このための技術として、KIF (Knowledge Interchange Format)やKQML (Knowledge Query and Manipulation Language)と呼ばれるものが知られている。これらは特定のタスクの遂行のためのエージェント間のコミュニケーションを形式的に定義したものになっている。
また、エージェントの行動する環境が複雑になり、エージェントの行為や推論もそれに合わせて複雑になると、エージェント間で伝達すべき情報内容も多様になってくるであろう。そのような場合に相手の意図を把握するためには、相手の信念などの心的状態を推論する必要が出てくる。つまり、相手のモデルを自分の内部に作る技術が必要になってくる。このことに関連して、プラン認識という技術が知られている。これは、相手の (言語行為を含む)行動から、相手が遂行しようとしているプランを推論し、それに基づいて相手の行動の裏にある意図を読み取ろうとする技術である。これは、さらにエージェントが知的になり、人間と会話するようになると必須の技術となる。
エージェントの設計・プログラミング環境
エージェント通信によって分散情報サービスを行う枠組みが提案されている。個人用の情報処理環境とネットワークをベースにしたメッセージ通信および分散処理を実現する枠組みとしてテレスクリプト(Telescript)と呼ばれる技術が開発されている[24]。この枠組みでは、リモートプログラミング(remote programming)と呼ばれる手法が採用されている。テレスクリプトでは、テレスクリプト言語と呼ばれるプログラミング言語を用いて記述されたプログラムをエージェントと呼び、これがプレース(place)と呼ばれる分散環境上の処理システム上を移動し、実行されることによって、さまざまな分散情報サービスが実現される。つまり、ある個人のエージェント(クライアントエージェント)がユーザプレースと呼ばれる処理環境からネットワークを介して、サービスプレースと呼ばれる、ある情報サービス用の処理環境に転送され、実行される。
テレスクリプトのようにある程度閉じた環境では、その設計手法は固定されてくるが、より大規模でオープンな環境になると、設計方法論が決まらず実用システムを開発するのが困難になる。単純なものから積み上げて大規模なものを作っていこうとするのは確実であるが、タスクが複雑になるにつれて設計も複雑になり、単調に積み上げていくのが困難になるのは目にみえている。設計の当初から、スケーラビリティのことを十分に考慮しておくことが肝要であろう。
汎用的なエージェント通信言語・共通オントロジー
エージェント通信のための言語やオントロジーを決定することは非常に重要である。ただし、タスクが決まらないとそもそもどのような情報を交換すべきかが決まらない場合が多い。タスクに依存しない言語やオントロジーを設計することは困難である。重要なのは、新しいタスクが与えられたときに、部分的に仕様を変更することで対処できるような柔軟性を持たせることである。純粋に汎用的なものを設計するのは不可能だろうが、柔軟性を持たせるやり方はいくつか考えられるだろう。
エージェントの信頼性・安全性
エージェントに権限を委譲してタスクを実行させる場合にどのくらい信頼できるか、また、エージェントが情報交換するときに、プライバシーが保護できるか、などの問題は深刻である。現在は、あらかじめ何らかの制限を与えることで対処しているが、制限を与えることが困難であったり、エージェントの行為が状況に大きく依存するときに、臨機応変に対処して欲しい場合などに、どのようにユーザのコントロールを維持していくかは今後も多くの研究を要するだろう。これは、人間とエージェントがどのように協調して社会を構成していくかという問題に絡んでくるだろう。
知識コミュニティ
奈良先端科学技術大学院大学の西田豊明らは知識コミュニティプロジェクトを推進している[26]。知識コミュニティ(knowledgeable community)とは、知識の創出・流通・共有・利用・体系化のための人間とエージェントの共同作業の枠組みである。この枠組みでは、知識メディアと呼ばれる人間とエージェントの両方及び相互のコミュニケーションで利用可能な知識のあり方や、ハイパーメディエータと呼ばれる人間やエージェントが知識メディアに基づいてコミュニケートするための媒介、そして既存の情報源をボトムアップに構造化していく新しいオントロジー開発方法論に焦点を当てている。
まとめると、マルチエージェントシステムはネットワーク社会のようなオープンシステムをよりインテリジェントにするための最も有望な手法である。依然としてさまざまな問題を内包しているのは事実であるが、着実に発展してきていると思われる。本節で解説したようなエージェントインタラクションに関する技術は、複数のエージェントが一つのシステムを構成するための最も基本的な技術であり、今後も多くの研究成果が発表されるだろう。また、さまざまな応用システムが考案され、われわれの日常生活に大きく関わってくるに違いない。
3.2.2.3 インタフェースエージェント
エージェントは、インターネット内に構築されるマルチエージェントの社会と人間の社会との間を結ぶ役割も果たさなければならない。これまでのヒューマンインタフェースのような、どちらかというと一方的に、ユーザあるいはシステムが主導権を握るものとは異なり、人間とコンピュータの間でインタラクションの主導権が必要に応じて移り変わるスタイルが重要になってきている。このような能動性のあるインタフェースは、インタフェースエージェントと呼ばれている。インタフェースエージェントの具体例には、電子メールの仕分けなどをユーザーの代わりに行ってくれるメールエージェントや、インターネットを通じてユーザーの必要な情報を取りに行ってくれるSoftbot (software robot)などがある[15]。Softbotは、インターネットにおけるさまざまなユーティリティ(ftp, telnet, mail, archie, gopher, netfindなど)を用いてユーザをサポートするエージェントである。また、MITのMaesらによって、電子メールの管理に関してユーザをサポートするエージェントMaximsが開発されている[19、17]。Maximsは、メールを消去するとか、あるフォルダにしまうなどのように、ユーザが行う行動を予測して、予測の確信度が高いときはそれを行い、ある閾値より低い場合は、ユーザに確認をとる。
双方向的なインタラクションを考慮した場合、人間がインタフェースエージェントに自分の要求を伝えたり、エージェントが人間になんらかの結果を知らせるための、人間とエージェント間のインタラクションについて考える必要がある。もちろん、プログラミング言語や特別に設計されたグラフィカルインタフェースを用いて、エージェントに要求を伝達する場合も考えられるが、人間とエージェントのインタラクションの一つの理想的な形態は、人間同士の対面の会話スタイルであろう。つまり、人間が発信する言語的あるいは非言語的な情報 (ジェスチャや顔の表情など)をエージェントが受け付け、またエージェントもそれと同様の (つまり人間にとって自然な)形態で情報を伝達することである。このようなエージェントは、ある種の人格を持ったパートナーとして存在することができるだろう。
このようなインタフェースエージェントの一つの実現方法として擬人化エージェントとよばれるものがある。会話型インタフェースには、機械に向かって話しかけるというユーザの心理的抵抗感や、応答の遅れなどによって、ユーザがシステムの状態を把握できなくなるという問題が生じる。そこで、ビジュアルなモダリティを用いて、システムの状態をわかりやすくしたり、ユーザの発話を促進したりすることができる。
ユーザの心理的抵抗感を軽減する一つの手段として、システムの擬人化がある。Appleのマルチメディアデータベース検索システムGuidesでは擬人化された案内役のキャラクターが表情などを使って、ユーザとの対話を円滑にしている[14]。同様に、擬人化されたキャラクターの表情を使って、ユーザにシステムの状態を伝達するシステムに、東芝の開発したTOSBURG II[27]、電総研で試作されたアクティブ・インターフェース[16]、そして後述するSony CSLのTalkmanがある。これらのキャラクターをすべてエージェントと呼べるかどうかは疑問であるが、ユーザの発話などからその意図を認識し、適切な応答を生成するシステムと、キャラクターの表情や動作などの擬人的表現が統合されているシステムは、擬人化エージェントと呼んで構わないだろう。
また、Sony CSLのTalkmanは、人間と自然なインタラクションを行うエージェントを目指して試作された、人間的な顔を持ち音声言語で対話するシステムである[22、23]。さらにSonyCSLでは、人間同士の会話に参加する社会的エージェントと呼ばれるシステムを開発している[21]。このエージェントはTalkmanと同様に顔を持ち、カメラの目と2人の人間の会話を聞き取る耳を持つ。エージェントが社会的であるためには、自発性と協調性を持って人間社会に参加する必要がある。そのため、エージェントは2人の会話の中に何らかの誤解や事実誤認が含まれていたときに、それを検出して適切なタイミングで人間に知らせることを試みる。誤解の検出は、2人のプランを別々に展開し、その展開の仕方の違いを調べることによって行なわれる。エージェントは、視覚を使って人間の体の動きを見たり、話の間合いを窺いながら、発話のタイミングを決めている。
エージェント社会と人間社会の接点としての、人間とエージェントとのインタラクションを、ここでは人間とエージェントが一緒になって作り出す社会におけるインタラクションとして考える。それを社会的インタラクション(social interaction)と呼ぶ。社会的インタラクションは「複数の人間と複数のエージェントを含む環境での多対多のインタラクション」であり、CSCWやネットワーク化された教育、コンピュータ・エンターテインメントなどの応用において自律エージェントの設計を考察するためのテストベッドとなるものである。
ここで、社会的とは、対等な権利と責任を持って社会に参加できることであると定義する。対等に参加できるということは、他者と比べて参加する機会が特に制限されることがないということである。ただし、自分だけの効用に従って行動することができないという社会的制約も存在する。
また、自律性はエージェントの必要条件である。これは、動的な環境に適応するためには自律的でなければならないからである。このとき、社会性を持たない自律エージェントは害になる可能性がある。これは、自律エージェントが自分の効用だけに従い、社会的制約を考慮しない場合は、他のエージェントにとって著しく不都合な行動を行う可能性があるということである。つまり、社会的であるとは、自分の分をわきまえて行動するということを含意している。
最後に、これまでのヒューマンインタフェースの多くが、コンピュータ上に設計された情報世界における人間とコンピュータの対話をサポートしてきたものであったのに対し、人間が実世界において直面するさまざまな状況を認識して、その状況において有益な情報を提供して人間をサポートするようなインタフェースを、実世界指向インタフェース(real-world-oriented interface)と呼ぶ[25]。つまり、実世界指向とは、人間が日常的に直面する実世界の状況にコンピュータを適合させようというアイディアである。
コンピュータが小型化し、それを身に付けるなどして、常に携帯するようになると、人間が今どんな場所で何をしているのか、これから何をしようとしているのか、に依存して情報を提供してくれるシステムが望ましくなる[28]。
エージェント指向インタフェースに実世界指向のアイディアとその技術を統合することによって、実世界状況を認識しユーザの意図を暗黙的に理解して、情報世界を動き回って適切な情報を検索するシステム、あるいは実世界状況に依存したタスクをユーザに代わって遂行するシステムが考えられる。これを、実世界エージェント(real world agent)と呼ぶ[29]。実世界指向技術との統合による実世界エージェントは、情報世界が身近になりエージェントの必要性が高まってくることは疑いないことであるから、今後ますますこのような方向の研究が進むであろう。
3.2.2.4 エンターテインメントとマルチエージェントシステム
今後のマルチエージェントの研究にとって重要な応用となり得るものは、まだある。それは、マルチエージェントゲームのようなエンターテインメントに対する応用である。スウェーデンの王立研究所であるSICS (Swedish Institute of Computer Science) で開発されたDIVE (Distributed-Interactive Virtual Environment) というソフトウェアは、3次元共有空間を提供しており、私たちはその上で、グラフィカルインタフェースを利用してマルチユーザーアプリケーションを開発したり、実験することができる。
これはもちろん、マルチエージェントシステム研究だけのためのソフトウェアではないが、このような研究ツールを利用して、実際の空間とリンクしたマルチエージェントシステムの研究を行うのに適している。このようなシステムを利用すれば、マルチエージェントおよびマルチユーザ参加型のエンターテインメントシステムという具体的な対象に焦点を当てて、マルチエージェントシステムの研究ができることだろう。特に今や私たちの生活に深く入り込んでいるコンピュータゲームのような具体的な応用を素材として、エージェントのパーソナリティを議論し、その上で、エージェントのコミュニティを議論することは非常に有意義な研究となるに違いない。
CMUのJoseph Batesらのグループが推進しているOzプロジェクトは、エンターテインメント的な研究であるが、非常におもしろい試みをしているものとして注目できる。それは、アニメーションエージェントの単純な動きが、人間のエージェントに対する感情移入にどのような影響を与えるか、という問題を探るものである。
さらに、Stanford大学のBarbara Hays-Rothらは、Joseph Batesらが開発したアニメーションシステムを彼女たちの開発したエージェントアーキテクチャと融合することによって、エージェントの即興 (improvisation)が、子供の教育あるいは心理的発達に及ぼす影響を考察しようとしている。BatesやHays-Rothらの研究は、エンターテインメントを単に「遊び」としてのみ位置づけるのではなく、心理学者ユング (Jung)の言うような人間の心に隠された「満たされない感情」に対する洞察も含めた上で、人間社会と機械文明の共生に、マルチエージェントアニメーションが、どのように貢献できるのかを探るという意味でも興味が持たれる研究である。
以下ではマルチエージェントシステムの基礎理論の発展、他の研究分野との関係といったた観点から、今後の展望について簡単に述べる。
3.2.3.1 協調アーキテクチャの適応進化
これまでのマルチエージェントシステムの研究を概観すると、2つの流れが支配的であると思われる。一つは、協調アーキテクチャの構築に関するシステム論であり、もう一つは、協調的行為のベースとなる知識と信念あるいは合理性に関する理論である。協調アーキテクチャの構築に関して常に関心を集めているのは、状況依存性と実時間(リアルタイム)性を向上させるための方法論である。理論的な問題としては、分散環境においては共有されるべき知識が完全ではないという前提の上で、特定のタスクに関してエージェントが共有すべき焦点などを、どのようにして局所的に決定すべきか、というような問題が重要なトピックスとして認識されつつある。
システム論、理論を問わず関心を集めはじめているのは、市場原理を導入したマルチエージェントシステムの構築である。ゲーム理論にもとづいた合理的エージェントの考えをさらに発展させて、「売り」と「買い」によってエージェント間の合意を導こうという考え方は、1980年代半ばに一時かなりホットな話題となっていたが、当時は技術的背景、特にインターネットなどのインフラストラクチャの整備が今ほど整っていなかったため、空論に終っていた。近年の急速なインターネットの普及やWWWマネージャなどインターフェースの充実によって、実用価値が急速に向上していることが、再びこのような方法論が脚光を浴びることとなった大きな要因になっている。
市場原理を用いたシステムでは、ゲーム理論、契約ネットプロトコル、経済理論などが基板技術となる。ここ数年は、このような方向でマルチエージェントシステムの基礎理論を構築し、かつアプリケーションを模索する研究が盛んに行われていくであろう。
このような背景の中、まだ実用的技術としては確立していなが、近い将来に間違いなく重要となってくる研究テーマの一つは、適応的な、もしくは進化的なシステムであろう。インターネットの発達にともない、マルチエージェントアプリケーションの有用性は次第に高まるであろうと予測される。インターネットの中では、多くの設計者によって作られたエージェントが共存することになるだろう。しかも、インターネットでは、標準化委員会で長いこと検討した標準使用に則って新しいエージェントを構築するよりも、その利点を活かし、迅速に新しいアプリケーションを世の中に送りだし、自然淘汰的に良いアプリケーションが生き残っていくという形態が、多様なニーズに対応するためには好ましいと思われる。
そのような環境で動作するエージェントは、まさに適応型エージェントでなければならない。そうすると、必然的に本章でこれまで述べてきたような理由によって、進化的性質を持つマルチエージェントシステムを構築していかなければならなくなる。この分野に関しては、今後多くの実際のアプリケーションによって、その意義が問われていく必要があり、議論の余地がまだ多く残されている。また、従来的な技術とのトレードオフの問題も大いに検討されるべきであろう。それでもなお、これまでになかった新しいマルチエージェント応用のあり方を模索する上では、これらが非常に楽しみに分野であると思われる。
<参考文献>