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1.2  研究調査活動

 

1.2  研究調査活動

1.2.1 委員会

 今年度は3回の委員会を開催した。委員会では、外部講師、及び委員から、以下に示すテーマについて、研究動向、研究成果を発表して頂き、議論を行った。
[第1回(9月27日)]

(1)高野教授講演「連想に基づく情報空間との対話技術」
 連想計算(文書群同士、単語群同士、文書群と単語群間の類似性関連計算)を用いて、キーワードではなく、文書(群)を入力して類似の文書を検索したり、文書(群)の内容把握を助ける特徴語グラフを出力したりできるシステムDualDAVIとその汎用連想計算エンジンGETA)を紹介し、そのデモを行った。
(2)加藤委員講演「DEXA紹介、感性情報処理のビジネス応用」
 DEXA2002(データベースとエキスパートシステムの応用に関する会議)とそれと同時開催されたEC-Webなどの会議の報告、および、感性情報処理のビジネス応用として、個人の好みなど感性情報を匿名とするレコメンデーションシステム、顔画像のモニタリングによって顧客を特定しその顧客の感性データベース情報に基づき顧客好みの商品を紹介するシステムを紹介した。
DEXA2002の詳細は付属資料に示し、感性情報処理のビジネス応用についての概要は、1.3.7、1.3.8に示し、その詳細は、3.7、3.8に示す。
[第2回(10月25日)]
(1)中臺講師講演「アクティブオーディションを利用したヒューマンロボットインタラクションの高度化」
[北野共生システムプロジェクトの紹介]
 共生系の概念を適用した研究として、生命現象の理解を目的とするシステムバイオロジー、および知能の実現を目的とする共生系知能の研究を実施している。
[ロボットの視聴覚の研究]
 日常的環境(人と音声で、音源が見えなくても、雑音下)でも使えるロボットを目指し、@視聴覚の統合による人物追跡、Aアクティブ方向通過型フィルタによる音源分離、B複数の音響モデルを利用した音声認識、に取り組んでいる。
@視聴覚の統合による人物追跡では、両耳間の位相差・強度差、倍音構造に注目した音源分離による音認識、リアルタイムな複数の顔の検出による顔認識、およびステレオビジョンからのストリーム(時系列イベント)を統合処理することにより人物追跡を実現し、二人の話者が同時に発話した時に、話者の切り替えを抽出することに成功した。
 Aアクティブ方向通過型フィルタによる音源分離では、聴覚中心窩ベースの通過帯域制御により、3人の話者が同時に発話した時、それぞれの話者の発話に分離することに成功した。
 B複数の音響モデルを利用した音声認識では、@、Aの技術に音声認識システム(特定話者で150語を認識)を追加して、ロボットからの質問に3人が同時に答える実験を行った結果、3人の答えを認識することができた。
 本内容の概要を1.3.12に示し、詳細を3.12に示す。
(2)長尾委員講演「セマンティック・トランスコーディングとSemantic Web 」
 情報をさらに高度に活用し再利用するために、コンテンツに意味的内容(アノテーション)を付与し、それを活用することによって、コンテンツをコンテンツ利用者の好み・環境に応じて加工(トランスコーディング)することができるようにした。
 アノテーションとしては、言語的アノテーション(文書構造、文・句・品詞情報、語義属性)、およびマルチメディアアノテーション(アルチメディアに対するトランススクリプト、動画に対するシーン分割、音声・映像のオブジェクト記述、MPEG7情報、言語的アノテーション)をコンテンツから自動生成し、人がそれに修正・追加することができるようにした。
 トランスコーディングでは、多言語翻訳、テキスト要約、音声化、画像変換、ビデオ要約、ビデオフォーマット変換等ができるようにした。
 Semantic Webは、意味的情報の枠組みだけであるが、本システムは具体的に意味的情報の活用方法を示したことに意義がある。
本内容の概要を1.3.6に示し、詳細を3.6に示す。
[第3回(11月29日)]
(1)田中教授講演「Meme Media and Meme Pools for Re-editing and Redistributing Intellectual Assets」
 遺伝子が進化していくと同様に、社会において、知識を広め、進化させていくには、Meme(文化遺伝子:情報、知識、知恵という意味)を外在化、再編集する「Meme Media」、Memeを出版し、再利用し、再配布する「Meme Pool」、Memeをビジネス活動と結びつける「Meme Market」、およびMemeを組織化する「Meme Management」が必要である。
 Meme MediaとしてIntelligentPad、IntelligentBoxを開発した。IntelligentPadは、Padと呼ぶドキュメントを貼り合わせ、スロットと呼ぶ外部インタフェースを介してドキュメントを機能合成し、複雑な合成ドキュメントを再編集できるシステムである。IntelligentBoxは、その三次元版である。Meme Poolとして、再利用し、再配布ができるPiazza Server &Clientを開発し、Meme Marketとして、課金の仕組みを考えた。
 現在は、Memeが増えなかったこと、スロット情報などがわかりにくくて貼り合わせがむずかしかったことを踏まえて、WebコンテンツをMemeにし、再編集、再流通させるシステムを開発している。
(2)山名委員講演「WWWサーチエンジンの最新技術 ― Googleを例にとって ―」
 インターネットの全世界のWebページ数は年々増加の一途を辿り、2002年5月時点で70億ページと推定される。これに伴い、サーチ エンジンのカバー率は10%近くまで下がったが、サーチエンジンGoogleのおかげで35%位まで持ち直している。
 サーチエンジンの技術課題は、いかに効率よくWebページを収集し、高速にインデックスを作成し、効果的に検索結果のランキングを行うかである。
 収集は、重要ページから収集する戦略がとられPageRank、BackLinkの高い順等から判断して収集され、WebページのFreshnessを上げるようにWebページ更新を行い、分散処理で高速化をはかる工夫がなされている。
 インデックス作成はソフトウェアパイプライニング方式で高速処理されている。
 ランキングは、有用な情報を含むAuthority、AuthorityページへのリンクをもつHubから求めるHITS法、ページAからページBにリンクがあるとき、BがAに一票投じていると考え、Aの重要度によって一票の重みを変えるPageRank法(Googleの手法)がある。
 Googleは、2002年8月現在、15000台のPCで30億ページを収集し、1.5億/日の検索要求をこなしている。最近の動向として、Google Search APIを公開したり、Google ToolBarに分散コンピューティング機能を追加したり、モバイル端末に力を入れたりしている。

本内容の概要を1.3.4に示し、詳細を3.4に示す。

1.2.2 米国政府支援研究開発の調査

 牧村幹事が、米国政府の情報技術研究開発政策の柱である「ネットワーキング及び情報技術研究開発」(NITRD:Networking and Information Technology Research and Productivity)の七つの研究領域の一つである「ソフトウェアの設計と生産性」(SDP:Software Design and Productivity)についての調査を行った。
その概要を以下に示し、詳細を2章に示す。
SDPは、1999年のPITAC(ITに関する大統領諮問委員会)の提言により発足し、ソフトウェア生産性の劇的向上を目指し、基礎的な問題にチャレンジしようとするものである。これに向けて、どのようなソフトウェア研究をすべきかについて、2001年4月にワークショップを開催して議論された。その結果、SDPが目指す方向性が以下のように示された。

@有用な抽象化を含むモデリング

特定領域のモデル記述
設計の意図の反映
多面的ソフトウェア
科学・工学に基づいた手法

Aオープンな協調開発環境

Webベースのオープンで協調できる開発プラットホーム
コンポーネント等のソフトウェアの宝庫

B既存ソフトウェアを生かす仕組み

システムを徐々に現代化する仕組み
新しいものと古いものとを統合する仕組み

 この方向性で研究が進められているSDPの研究テーマを列挙する。
また、SDPが目指す方向を向いている注目すべき最近の技術、システムとして、Simulink、Ptolemy、MDA/UML2、BPEL4WS、アスペクト指向、軽い形式的枠組み、Semantic Web、オープンソースソフトプロセス、エクストリーム・プログラミング、デザイン・パターン、Webサービス、アプリケーションインテグレーション技術、CBS(COTS-Based Systems Initiative)を紹介する。

1.2.3 各委員による研究調査

 人間主体の知的情報処理、ヒューマン・インタフェースに於ける各委員が専門とするそれぞれの分野について、各委員が以下のテーマについて研究調査活動を行った。

國藤委員:アウェアネス技術の動向
大須賀委員:次世代Webとエージェント
新田委員:IT技術の法への応用
山名委員:WWWサーチエンジンの最新技術
杉本委員:ディジタルライブラリとメタデータ
長尾委員:セマンティック・トランスコーディング
加藤委員:多感覚情報のデータベース化と情報サービスへの応用
加藤委員:感性のモデル化技術とEコマースへの応用
宮田委員:テレイマージョンとビジュアルデータマイニング
平田委員:昨今の音楽情報処理における研究プロジェクトについて
児島委員:次世代音声認識の手法と実用化の動向

 これらの研究調査の概要を1.3に、詳細を3章に示す。

1.2.4 海外調査

 加藤委員がフランスで開催されたDEXA(International Conference on Database and Expert Systems Applications)2002, DaWak(International Conference on Data Warehousing and Knowledge Discovery)2002, ECWeb(International Conference on electronic Commerce and Web Technologies)2002, EGOV(International Conference on Electronic Government)2002に出席し、研究動向調査を行った。
その報告を付属資料に示す。

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