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第4章 米国の連邦政府R&D計画における省庁間の役割分担と連携の仕組み

第4章 米国の連邦政府R&D計画における省庁間の
役割分担と連携の仕組み

 米国連邦政府による科学技術への研究開発投資の規模は、世界最大である。こうした投資は、過去50年間、米国の経済、国家安全保障、そして国民の福祉に計り知れないメリットをもたらしてきた。米国政府による研究開発投資の戦略は、民間部門から十分な資金援助が得られない研究活動を対象として複数の政府機関を通じた助成を行う、という点で一貫している。たとえば、リスクの高い新興分野、長期的な取り組みを必要とする研究、前例がなくコストが高い最先端のインフラストラクチャや設備、新しい知識の発見と水平展開を目的とした学術研究プログラムといった活動が助成の対象となってきた。このような省庁連携型のプログラムの最大の特徴は、複数の連邦政府機関の間で対話と連携が展開され、すべての機関が科学技術研究ポートフォリオ全体の作成と維持に参加してきたことである。このアプローチには、連邦政府資金によるすべてのプログラムと同様に、明らかな長所と短所がある。しかし、このシステムが国家目標の達成に貢献してきたことは疑いのない事実である。特に、近年の省庁横断プログラム・イニシアチブは、連邦政府の研究開発ポートフォリオに多大な影響を及ぼしてきた。その結果として、優先順位の変化、基幹インフラストラクチャの構築、新興分野の研究の加速、無駄や重複の減少といったメリットも実現されている。残念なことに、利害が競合する省庁間の連携では、人材と施設の両面で資源を調整することが、難題として各機関の前に立ち塞がるのが常である。しかし、連携が効果的に作用すれば、コストを上回るメリットが期待できることは明らかである。

4.1 目的と範囲

 本報告書は、前回のAITEC調査報告書の続編として、米国において複数の政府機関が合同で実施している近年のプログラム・イニシアチブを支える連携プロセスについて、包括的に調査した結果をまとめたものである。本調査の目的は、そのような連携プロセスが、なぜ有益であり、どのような形で効果を発揮するのかを、省庁間プログラムの運営/管理面に注目しながら検証することである。次に、今回の調査で取り上げる主な問題の一部を示す。

- 省庁間の機関横断的なイニシアチブはどのように構想され、形成されるか。

- 参加機関は共同プログラムの定義と開発にどのような役割を果たすか。

- 複数の省庁や機関にまたがるプログラムとプロジェクトはどのように運営されるか。

- 参加機関の間で資源と責任がどのように委譲されるか。

- 複数の機関による財政支援の中に身を置く研究者や研究施設の側では、省庁間プログラムをどのように見ているか。

- プロジェクトとイニシアチブ全般の成否をどのように評価すべきか。

- 予算管理機関 (例:連邦議会や行政府の担当部局) はどのような役割を果たすか。

- 省庁間の調整を担当する部局や、プログラム・マネージャの草の根的な活動の役割は何か。

 本調査では、こうした問題について、マクロ・レベルとミクロ・レベルの2つの視点から考察する。

 まずマクロ・レベルでは、人材、資金、プロジェクトがどのように各種のプログラムや機関の境界を越えて流れているか、つまり、省庁間の壁がどのような形で取り除かれているのか、という点に注目する。

 ミクロ・レベルでは、省庁合同体制の下で、特定のプログラム要素やイニシアチブが、どのような場面でどのように機能しているか、そしてどのような形で調整と連携のプロセスに (それぞれが独自のあり方で) 貢献しているかに注目する。この2つの相補的な観点を組み合わせることで、全体として、研究と技術革新を支える1つの特異なプロセスである省庁間連携という仕組みの内部的な働きを、より明瞭な形で表現することが可能になる。

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