米国における最近のIT重点分野に関する調査
3.5 将来のビジョン
一般社会の多くの人々は、何十億ドルも注ぎ込んで人間の遺伝子の最初のドラフトを完成させたヒトゲノム計画を、生物学者による月ロケット打ち上げであると思っている。もし革新的な技術(すなわち、自動化されたDNAシーケンサー)の助けがなかったら、この計画が発射台から飛び立つことは決してなかっただろうという事実を完全に理解している人は、(プロジェクトに参加したメンバーを除けば)ごくわずかしか存在しない。しかし、ポストゲノム時代におけるコンピューティングと情報技術の必要性は、現在では、非常によく認識されている。生物学者による宇宙船エンデバー号に向かってさらに前進するための次の一手は何だろうか。バイオテクノロジーと情報技術の結合は、どの領域で発展しようとしているのか。次に、ここで検討してみる価値がある2つの接点を示す。
- システム生物学。これは、ある生命体を対象として、その要素を同定し、1つのモデル・システムの中で研究し、さまざまなレベル(DNA、タンパク質、タンパク質相互作用、情報経路、情報ネットワークといったレベル)で情報を収集し、この情報を総合して、その機能的な相互関係を探求する。すべてのコンピューティング・ツールが、生物学のツールとなる。ゲノミクスから、プロテオミクス、細胞情報、組織情報、器官全体、そしてフィジオミクスまでの生物情報学の系列全体が、システム生物学の出発点となる。バイオテクノロジーに対するシステム生物学の説明については、たとえば、2000年9月の量子システム・バイオテクノロジーに関するNSFのワークショップの報告書を参照のこと。(www.wtec.org)
- 有機体/分子コンピューティング。10年前、生物の基本要素をコンピューティングに使用する方法を探求していた研究が、コンピュータ科学における難問として知られていた課題を、遂に、DNAによるソリューションによって解決するに至った。今では、科学者は、これまでシリコンを使って実行してきた演算を実行する基本的な回路とスイッチを、分子を組み合わせて作成するようになった。従来のシリコン・チップが物理的な限界に急速に近づくのを尻目に、研究者は、生物学と化学の領域で次の微小な素材を捜し求めている。そして、ナノ回路とナノテクノロジーという新しい世界に取り組むために、周到な準備が進められている。バイオテクノロジーをナノテクノロジーに結び付ける研究の説明については、たとえば、『"米国のナノテクノロジー・プロジェクト"
- 次代の産業革命への道』("National Nanotechnology Initiative" - Leading to
the Next Industrial Revolution)[B6]を参照のこと。