第T編「情報先進国の情報化政策の動向」で見てきたように、IT技術の強化が近年の経済発展に結び付いている国があり、また、そうでない国がある。OECDの報告書にもあるように、わが国はIT技術の潜在力は高いが、現状では、必ずしもそれがIT産業や産業全体の競争力の強化に結び付いているとは言えない。
IT技術の強化が近年の経済発展に結び付いている国では、インフラ整備、人材育成、将来に向けた中長期R&Dなどが戦略的に押し進められてきている。特に、1990年代前半からIT技術を競争力強化の鍵として位置付けてきた米国では、基礎研究が実り、ベンチャー企業が生まれ、新産業が創出され、さらに既存産業を含めた産業構造に変革が及んでいる(eマーケットプレイスによる調達、企業経営全体の変革を目指したeビジネスなど)。
1990年代の米国は、1960年台から始まったインターネット技術など過去のIT技術への投資の成果を収穫してきたと言える。そして、将来に及ぶ持続的なIT技術の発展と収穫に向けて、今、中長期的な基礎研究への投資を従来以上に強化している。
一方、わが国では、IT技術において、個別には強い部分もあるが、全体的には、産業競争力を高めるようなインパクトのある適用が不十分であったと言える。近年、急速に成熟したIT技術を産業の現場に適用して、競争力を高め、また社会の効率を高め、先行した国々にキャッチアップすることが喫緊の課題である。同時に、後追いを脱却するために、中長期的視野での研究開発も並行して行なっておく必要がある。このように、わが国は短期的なキャッチアップと中長期的な並走ないし先行の両面を押し進めなくて行かなくてはならない。
このような問題意識に基づき、本調査研究では、昨年度に引き続き、わが国の情報技術研究開発(IT R&D)に係る重点分野の選択指針を検討する。昨年度の成果である「情報技術を分類する新しい構成領域と基軸」を土台に、研究・開発の活動・成果を商業化・企業化に繋ぎ、産業競争力の向上、ひいては安全な社会と経済発展を図っていくために必要な研究開発推進上の視点・ポイントを明らかにする。