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付属資料2

Blue Book 2001で取り上げられた
人間主体の知的情報処理関係研究開発テーマ

 

概要

 ヒューマン・コンピュータ・インターフェイスおよび情報管理(HCI&IM、Human Computer Interface and Information Management)の研究開発は、人間とコンピューティング・デバイス間のコミュニケーションを改善し向上させる技術を開発し、強化します。HCI&IMに対する政府の投資によって、コンピュータ・アクセスの容易性や有用性の向上がもたらされます。また、コンピューティング・システム、コンピュータ・インターフェイス、およびコミュニケーション・ネットワークに関する理解がさらに深められます。

 2001年度の研究開発分野としては、以下のようなものがあります。

 科学者、エンジニア、医師、教育者、学生、図書館司書、勤労者、連邦政府、そして一般の人々すべてが、HCI&IM技術の潜在的な受益者です。本章では、ヒューマン・コンピュータ・インターフェイスの様式の拡張や、私たちの情報資源の管理活用能力の向上に取り組んでいる連邦政府支援による広範なIT研究開発(IT R&D)の活動について説明します。

 

1.デジタル情報の管理と閲覧
      (Managing and “seeing” digital information)

1.1 電子政府プログラム(Digital Government program)

 NSF(National Science Foundation)の電子政府プログラムは、連邦政府の情報とサービスを、市民あるいは政府のいずれのプライバシーもセキュリティも危険にさらすことなしに、人々にとって、より役立ち、広く利用可能なものにするための研究および省庁間の協力活動を促進し支援します。電子政府は、コンピュータおよびITの研究者たちを、情報サービスの重大なミッションをもつ連邦機関と連携させるプロジェクトを支援します。このプログラムは、次のような研究を助成します。統計グラフィックスなどの領域におけるワークショップと計画活動; フィールド・データ収集における、分散型地図情報システム(GIS、Geographic Information System)の画像の保管および検索; 法令遵守の監査報告; 地球空間情報のオントロジーとマルチメディアのデータ・マイニング; および、沿岸域管理と意志決定など。
 IT研究開発(IT R&D)が、政府のIT利用推進を、どのように効果的に支援できるかについて、その進行中の詳細な研究の一環として、電子政府およびNASA(National Aeronautics and Space Administration)は、学術研究会議(National Research Council)のコンピュータ科学と電気通信に関する委員会(CSTB、Computer Science and Telecommunications Board)と合同で、2つのワークショップと調査報告に資金を提供しました。危機管理のためのIT研究に関するワークショップの成果は、http://www.cstb.org/からオンラインで入手できます。もう1つのワークショップは、1999年2月9日と10日に開催され、IT研究者、IT研究管理者、および大学の統計学専門家に対して、どうすれば、もっと効果的に、連邦政府統計を改良するための共同研究を行うことができるかについて、連邦政府の管理職たちとの議論の機会を提供しました。これらの議事内容に関するCSTBの公式の報告書もオンラインで入手できます。
 この他の電子政府の代表的な活動としては以下のようなものがあります。

およそ20の連邦機関の助成計画に資金援助がなされました。これらの機関の2000年度のアナウンスメントで、55件を上回る研究提案が提出されました。

 

1.2 製造アプリケーションのためのシステム・インテグレーション
      (SIMA, Systems Integration for Manufacturing Applications)

  NIST(米国商務省標準技術研究所)の製造アプリケーションのためのシステム・インテグレーション(SIMA)プログラムでは、先進的なエンジニアリング・システムと製造用ソフトウェア・システムの間のインターフェイスの開発に注力しています。それらは、広範囲におよぶ製造業全体にわたる情報のシームレスなコミュニケーションを可能にします。世界中のエンジニアが、効果的に共同作業が行え、生産者は、製品化までの時間を短縮でき、同時に製品のより効率的な製造と供給が可能になり、そして顧客は、追加の料金を支払うことなく製造業者から固有に構成された製品を選択することができるような、これらのことを可能にするような技術的インフラストラクチャを、研究者たちは、開発しています。新しい製品やプロセスを開発する科学者やエンジニアは、基礎的な信頼すべき技術データの情報源へのアクセスを必要としているという認識に立って、SIMAの研究開発は、新しい、より直感的な方法で、高く評価されたデータを整理して提供するためのアプリケーションにも注力しています。このHCI&IMの章で述べられているNISTの共同研究所(collaboratory)はすべてSIMAの活動の一環です。

 

2.知的システム(Intelligent System)

2.1 適応学習技術(Adaptive learning technology)

 DoD(米国国防総省)の研究者たちは、DoDの軍事および一般勤労者向け教育と訓練の目的に合った、地理的に分散し、コスト効率がよく、多目的で、再利用可能で、適応性のあるシステムを開発しています。それらは必要に応じていつでもどこにでも展開できる技術です。この多くの専門分野に及ぶ作業は、種々の学習者コミュニティに適用可能な現在の最新のプロトタイプよりもはるかに優れたものをめざしています。
 国防長官室(OSD)の大学研究構想(URI、University Research Initiative)が支援している適応性のある学習技術の計画には、次のような研究が含まれています。

 

2.2 知識および認識システム(KCS,Knowledge and cognitive systems)

 NSFの知識および認識システム(KCS)プログラムは、知的な方法で人間と対話可能(コンピュータ支援マシン・インテリジェンス)であるか、またはそれら自らが相互に対話可能な知的機械(自律型知的エージェント)の開発をめざした基礎的な研究を支援します。このプログラムの3つの研究項目は、人工知能に焦点を当てています。

 KCSの研究には、マシンの中における知識表現および認識過程の研究を模索する研究もあります。それらは、意志決定、言語認識、機械学習、計画、推論、および感覚認識において人間または動物の認識で知られているものをもとにモデル化されることもあります。適用分野には、設計・製造、ネットワーク管理、医学的診断、データ・マイニング、および知的学習指導があると考えます。

 

2.3知的空間(Smart Spaces)

 日用品としての高性能のハードウェアおよびソフトウェアの出現によって、コンピューティング機能の供給、用途の広がり、およびコストは変化を遂げています。至る所に存在するネットワーク・インフラストラクチャによって結合された、おびただしい数の、気軽にアクセスできるコンピューティング・デバイスへと向かうこの趨勢は、さらにコンピューティングの普及を可能にし、新しい「知的空間」の展開を呼び起こしつつあります。
 普及率の高いデバイス、ネットワーク技術、および情報検索機能が、1つの機能を果たす作業環境として統合されるとき、「知的空間」(作業者対応で、認識力が高く、そして結合されたコンピューティング環境)が出現します。将来の対話型の知的空間には、音声インターフェイス、統合マルチメディア、作業分担ごとのコンピュータ、パーソナル通信機能を備えた無線通信ネットワーキング、言語翻訳機能、大スクリーン・ディスプレイ、およびタッチ・パッドが包含されていて、指揮、分析、および設計関連のグループをサポートします。
 NISTは、個々の話し手と話の内容を識別できるセンサーベースの知覚インターフェイスの実験に重点をおいた知的空間環境を開発しています。研究者たちは、ユニークな「個人認識装置」を作るために、顔の画像、声音、およびマイクロホン配列からの指向性データによる識別を使用しながら、視覚と聴覚のデータ・ストリームを結合するために解決しなければならないセンサー融合の問題に取り組んでいます。複合個人認識装置は、知的空間環境の中のすべての個人を網羅して、より高い精度を実現し、グループの中で個々の話し手と発言とを関連付けることを可能とし、さらに、連続的な音声認識が単語を解読することも可能にするでしょう。この技術は、共同作業グループをサポートする新世代の知覚インターフェイスの基礎をもたらすことが可能です。

 

2.4 音声技術(Speech technologies)

 NISTは、DARPA(米国防省高等研究計画局)およびNSA(米国国家安全保障局)の両者と協力して、コンピュータによる音声認識技術を進展させるための一連のベンチマーク・テストを開発し、インプリメントしてきました。これには、ラジオやテレビのニュース放送で通常耳にする話し言葉でとくに制限のない語彙をほぼリアルタイムで認識する機能が含まれています。NSAのために、NISTは、電話による対話を書き取るためのテスト・プロトコルを開発し、インプリメントしました。さらに、話者認識技術の評価テストも開発しました。2000年度には新しい情報抽出評価尺度とテストの実装を行っています。2001年度には、NISTは、音声からの情報抽出、および音声ベースのユーザー対話のためのメトリクスとテストの開発の継続を計画しています。

 

3.マルチモーダル能力(Multimodal capabilities)

3.1 コミュニケーター(Communicator)

 今日、米軍のオペレータは、情報へのアクセスにおいて制限を受けています。軍のオペレータは、緊急時も通常、無線の音声または書式化されたテキスト・メッセージによって通信を行っています。兵士の迅速性と応答性の改善のために、情報へのより柔軟でタイムリー、かつ信頼できるアクセスが求められています。2001年度には、DARPAは、人々が情報を作成、アクセス、および管理して問題を解決するために、文字通りコンピュータとの対話を可能にする新しいITの可能性の研究を継続して行います。DARPAのコミュニケーター計画のめざすところは、組織的に統合された手段で、兵士が適切な情報にアクセスできるようにすることです。その手段は、軍人がケーブルでつながれていない情報装置を装備して、容易に使用できるものです。DARPAの以前の研究開発投資の成果である音声認識技術と自然言語能力の融合によって、コミュニケーターは、ユーザーがラップトップ・コンピュータ、バッテリー、キーボード、普通サイズのディスプレイ、およびブラウザへの接続時間も必要とせず、ネットワークにアクセスして情報を作成できるようにします。この重要な研究では、対話管理、文脈追跡、言語生成、入力言語の理解、および手や目を使わなくても済む対話などに挑戦します。

 

3.2 航空宇宙システムの中の人的要素(Human factors in aerospace systems)

 NASAの人的要素に関する研究開発は、航空宇宙への挑戦に向けて、先進的な人間中心の情報技術、人間とシステムの能力のモデル、人間中心コンピューティング・システムの人的要素デザインのための合理的な方法、および人的要素の専門技術を開発します。NASAのAmes研究センターの科学者やエンジニアは、これらの目標に向けて、将来の技術の航空宇宙システム環境における人間への適用に関して研究を行っています。
 視覚的なディスプレイだけを提供する仮想環境は、見ることはできても感じることのできない対話型のシミュレーションを提供するだけです。実際の物体表面から加えられる機械的圧迫感、あるいは重力変化によって生じる重量のような、容易に知覚できる物理的なものの欠如は、これらのシミュレーションとの、人間の手による相互作用の正確さおよび有効性を損なわせます。仮想環境に対する触覚インターフェイス(haptic interfaces - 適切なソフトウェアを備えた力フィードバック用ハードウェア)によって、現実的な操作に必要な触覚への機械的なフィードバック機能をシミュレーションに組み込むことができます。
 NASAとカリフォルニア大学バークレー校は、腕の大きさと指の大きさの操作用触覚インターフェイスを製作しました。2つの機械はいずれも、NASAの特許である運動学的アーキテクチャに基づいて実現したもので、握りの端点の3自由度の変換を、共通の基盤に固定された3つのモーターの回転に連係させています。それは堅い連結部とボールベアリングの関節で構成されています。この連結メカニズムによって相対的に大きな作業空間の余地が生じて、市販のケーブル駆動のシステムより堅牢で、かつ応答性がよくなっています。研究者たちは、心理物理学研究用にこれらの触覚仮想環境に動的な動きと手触りを実現しています。

触覚型ディスプレイ用として新しい運動力学を応用して小型化された連結構造(linkage)。この機械は、4Nの持続的耐荷重を持つ(パワーアンプも含めて)重量5kgのポータブルな卓上型装置です。作業空間は、アーム装置の大きさの3分の1であり、これは、手首を固定した状態で細やかな握り動作を行わせるのに十分な大きさで、全方向の指先の動きが可能です。この機械はまた、利用可能なアクチュエータ部分を縮小し、機械構造の重さを支えるために必要な人間の労力を軽減しており、部分的にも均衡がとれています。

3.3 言語透過的な情報の検出、抽出、および要約
   (TIDES: Translingual Information detection, Extraction, and summarization)
 
急成長する国際的な情報インフラストラクチャは、これまで例のない世界中の情報源への迅速なアクセスと情報の融合の機会をもたらします。しかし、人間の言語障壁は、多言語の情報への効果的なアクセスとその利用にとって、重大な障害を残したままです。米国が外国で行動する際には、明らかに戦術的に不利な立場におかれ、また、国際情報の現場においても戦略的に不利な立場になります。技術者や軍人がこの障壁を克服できるようにするため、DARPAは、2000年度と2001年度に、コンピュータベースの言語透過的な情報の検出、抽出、および要約(TIDES)のための機械翻訳およびアルゴリズムに関する研究に資金を提供しました。
 TIDES計画の目標は、英語を話す米国軍人が、対象とする言語の知識を持たなくても、リアルタイムの戦術上の要件に関係する多言語の情報にアクセス、関与し、解釈し、そして共有することができるようにすることです。これは、異なる言語間の情報検索、機械翻訳、文書の理解、情報抽出、および要約技術における進歩、さらに、これらの個別の要素よりも価値のあるエンド・ツー・エンドの能力を生み出す統合技術を必要とします。この目標が達成されると、多言語の情報源の迅速な関連付けによって、状況分析、危機管理、および戦場業務のいろいろと変化する状況を幅広く理解することができるようになります。

 

4.遠隔/自律システム(Remote/autonomous systems)

4.1 遠隔探査と遠隔実験(REE: Remote Exploration and Experimentation)

 NASAの「遠隔探査と遠隔実験」(REE)プロジェクトの目標は、宇宙空間におけるフォールトトレラントで、高信頼性、低消費電力、かつ高性能のスーパーコンピューティングで代表される新分野の科学の使命を提供することにあります。それらのスーパーコンピューティング・システムは、現在利用可能なものよりも3ないし4桁、搭載処理能力を増大したものになるでしょう。それによって、より大きなデータ収集と処理を可能にし、地上へのデータ送信の制限を緩和し、地上局のオペレーションを軽減します。搭載されるスーパーコンピューティング機能で、たとえば、火星探査機は、自律的なナビゲーション、および自律的な地質調査や実験ができるようになるでしょう。
 さらに、REEは、放射線対策の要求(これは宇宙用コンピュータを地球上用の技術から5年間も遅れさせてしまうような仕事)もなくしつつあります。REEによって、NASAは、COTS(Commercial off-the-shelf、すぐに利用できる商用ハードウェアおよびソフトウェア)のコンピューティング技術を利用することができるようになり、その技術が利用可能になって18か月後には、宇宙飛行用のコンピューティング・デバイスの準備が整うようになります。

 

4.2 将来のロボット戦場(The robotic battlefield of the future)

 将来の戦場は、タイム・クリティカルな命令を実行できるように自律的にナビゲートし、再編成し、協調できる武器や無人の戦車や通信システムが求められるでしょう。これらの多くの要素は、COTS製品で構築されるでしょう。一方、その他に、生命をヒントにしたマイクロロボットのようなものも現在開発中です。
 DARPAのモバイル自律ロボット・ソフトウェア(mobile autonomous robot software)・プロジェクトは、部分的に既知で、変化し、予測不可能な環境での自律モバイル・ロボットの動作をプログラムするため、現在はまだ利用可能となっていないソフトウェア技術を開発し移行させます。このプログラムの目標は、人間を戦闘、搬送、偵察、および監視から解放する新しいソフトウェアを提供することにあり、それによって、軍隊への危険を縮小し、人件費を低減させ、人間の生理によって生じる工学的制約を取り除き、そして軍事のハードウェアの範囲を拡大します。研究者たちは、無人戦車による自律的ナビゲーションの他、人間型ロボット、自律型車両、および人間の間の相互作用も実証したいと考えています。
 ロボットが、軍隊、産業、教育、および家庭内の状況における人間生活の中に完全に組み込まれるためには、もっと意味のある、自然な方法で人間と相互に作用することができなければなりません。DARPAは、人間とロボットが相互に対話する新しい方法を提供するために研究を助成しています。
 人間とロボットの間のギャップを埋めるために考えられる1つの手段は、ロボットに人間に類似した体を与えることです。DARPAの資金援助によってMITの研究者たちは、人間に類似した知能はこの世界との人そっくりの相互作用を要求するという前提に立ち、Cogと命名されたロボットを製作しています。それは、人体の感覚と運動力学に近似したセンサーおよびアクチュエータのセットで構成されています。Cogの計算制御は、関節レベルの制御用の小さなマイクロコントローラから視聴覚の前処理用のデジタル信号処理プロセッサのネットワークにまで及ぶ制御階層において、異なったレベルでそれぞれ動作する異なったプロセッサからなる異種混合のネットワークです。
 Cogプロジェクトの目標は、軍司令官の自然な身振りと口頭の命令を観察し、応答することができるロボットを生み出すことです。司令官は、ロボットがその命令を正確に理解するのを助けるために、動作を明確に示し、そして、視聴覚的合図を与えることができるべきです。これらの模倣学習技術を成功させるには、ロボットが環境のどの局面に注意を向けるか、また、どの行動を模写認識するかを学習しなければなりません。
 DARPAの資金援助によるMIT(マサチューセッツ工科大学)のKismetプロジェクトは、対話を正しく導く上できわめて重要な、うなずいたり、視線を合わせたりする社交的な合図を識別するための眉、まぶた、耳、および口をもった頭型ロボットの訓練をしています。
 ハイレベルで人間に類似した様式での対話の成功は励みとはなるものの、何人かの研究者たちは、ロボット設計への新しいアプローチを求めて、蟻や蜂などのような他の動物へと方向を変えています。分散型ロボット計画(distributed robotics program)に関するDARPAのソフトウェアは、地雷敷設区域を不活性化するようなミッションのための多数の簡素で限定された計算機能のロボットをコントロールするための技術を開発する研究に資金が提供しています。たとえば、DARPAが資金提供をしたある会社では、化学的追跡、あるいは侵入者などのような、人間の向きや群れを成す目標物に反応するコインサイズのロボットを開発しています。

 

5.共同作業とバーチャル・リアリティ
   (Collaboration and virtual reality)

5.1 Access Grid
(分散型研究のコラボレーションおよび遠隔会議向けハードウェア、ソフトウェア、および電気通信機能)

 NSFとDOEは、国立コンピュータ科学同盟(Alliance)のAccess Gridに参画しています。Access Gridは、全国の技術グリッドにまたがるグループ間の人の交流を支援するネットワーク化された資源の集合体です。

 

5.2 BioFutures

 DARPAは、「[Bio:Info:Micro]の境界領域における基礎研究」計画を立案しました。これは、生物学、IT、およびマイクロシステムの技術分野の研究者たちによる学際的なチームを構築し、これらの3つのおおまかに定義された領域の交差部分における基礎的研究課題を扱うことを目的としています。
 この計画のBio部分には、分子と細胞のレベルから有機体と個体群のレベルの全体の研究分野が含まれています。Info部分には、理論、アルゴリズム、モデル、およびシミュレーションの開発、および拡張性のある(スケーラブルな)並列分散型システムが含まれています。Micro部分には、センサー、物質、マイクロ流体工学、マイクロメカニックス、マイクロフォトニクス、マイクロエレクトロニクス、およびそのような要素から構成される大規模システムの開発が含まれています。DARPAは、この計画の長期的成果として、将来の国家と防衛のニーズを充たす革新的なシステムの基盤をもたらす新しい学際的な研究コミュニティ、および新しい科学と技術の出現を期待しています。

 

5.3 DeepView: 分散型顕微鏡検査のための共同研究フレームワーク

 DOEのDeepViewは、商用のソフトウェアを、共同研究フレームワークにおける科学的問題の解決能力を強化するためのユニークな計算要素(computational components)と統合した、拡張性のある(スケーラブル)システムです。この「分散された顕微鏡使用のための経路(channel)」は、ユーザーが実験に参加できるオンラインの顕微鏡のリストを提供します。これによって、専門家の意見を得たり、データを収集して処理したり、その情報を電子手帳(electronic notebook)に保存することができるようになります。ユーザーは、本来の場所にある顕微鏡、ホログラフィック顕微鏡による3次元形状の復元、および高解像度の透過型電子顕微鏡のための画像シミュレーションなどの機能にアクセスすることができます。
 研究者たちは、DeepViewを使用して低容量電離放射線照射に対する乳腺組織の反応を研究しています。過去において、研究者たちは、既知の高照射率の場合の効果から低容量照射の効果を推測してきました。放射線に対する組織の反応、そしてそれに伴うリスクというのは、遺伝子の損傷、細胞焼失、および誘発遺伝子生成物などの複合したものであると信じられています。DeepViewを使用することによって、地理的に分散した研究者たちが、放射線照射の影響をもっとよく理解するために画像収集と分析を自動化することができます。また、データを比較したりシミュレーションを行うためにデータを収集し、遠隔のデータベースに統合することができます。

DeepViewは、商用のソフトウェアを、共同研究フレームワークにおける科学的問題の解決能力を強化するためのユニークな計算要素と統合した、拡張性のある(スケーラブル)システムです。幾つかの国立施設の研究者たちが、DeepViewを使用して、この室温での鉛包含物の現場研究のような、動的なリアルタイムの共同実験を行ってきました。

5.4 遠距離での可視化(Distance visualization)

 ANL(アルゴンヌ国立研究所)とカリフォルニア大学によって、X線源や電子顕微鏡のような遠隔の科学機器から得られるデータを使用してオンラインで3次元断層撮影の画像の再構成を可能にする計算フレームワークが開発されてきました。このフレームワークは、それに続く共同分析に連携しています。高性能ネットワーキングとコンピューティング資源、並列再構成アルゴリズム、および先進的資源管理の組み合わせ、通信、ならびに共同作業用ソフトウェアを使用して、この研究チームは、先端的光源(advanced photon source)の断層撮影ビームライン(tomographic beamline)でサンプルの準リアルタイムの3次元画像化を実証しました。データ収集が始まって10分後に、ANLとその他の機関にいるプロジェクトの科学者たちのスクリーン上に、3次元画像が現れます。その後20分間、より多くのデータが得られるにつれ、画像は次第に鮮明になって行きます。この技術によって、初めて科学者たちは、実験の最中に実験のパラメータを変更する可能性を得ることができました。
 このシステムは、カリフォルニアとイリノイにある分析装置を用いてイリノイと日本のデータ源をもとに実証されてきました。エンド・ユーザーは、カリフォルニア、フロリダ、イリノイ、および日本にいるユーザーでした。この研究は、DARPA、DOE、NASA、およびNSFによって支援されています。

 

5.5 分散共同研究所プロジェクト(Distributed collaboratories project)

 科学的な共同研究所(collaboratory)環境は、ともに機能する多くのソフトウェア構成要素(components)からなっていて、遠隔の研究者たちに情報、制御機能、および臨場感(a sense of presence)を提供します。これらの構成要素としては、遠隔実験の監視と制御、マルチメディア会議とテレプレゼンス(遠隔参加)、クロス・プラットフォームの互換性、インターフェイスの一貫性と有用性、および管理調整と会議運営の機能を提供するのに必要なインフラストラクチャとツールが含まれます。DOEの分散共同研究所プロジェクトの目標は、研究者たちのホーム・サイトから、遠隔の実験設備へのアクセスを可能にし、監視と制御を行えるようにするために必要な技術を開発して展開することにあります。
 共同研究所構築の経験を通して、DOEの研究者たちは、もっとよいテレビ会議ツールの必要性を明らかにしました。既存のマルチキャストベースのツールは、コンテンツの放送や1対1の対話には有効ですが、共同研究所環境ではもっと多くの機能が必要です。共同研究を行う研究者たちは、テレビ会議セッションを開始し、他の参加者に参加を促し、そして各参加者のすべてと等しく有用な議論を行うことができなければなりません。さらに求められるツールとしては、フロア制御、カメラの遠隔制御、およびオーディオとビデオのツール自体の遠隔制御機能があります。
 DOEの研究所LBNL(Lawrence Berkeley National Laboratory, ローレンス・バークレー国立研究所)のコンピュータ科学者たちは、テレビ会議で使用されるビデオ装置のリモート・コントロール用システムを開発して配備しました。このシステムは、装置サーバーとクライアントから構成され、この組み合わせによってユーザーは、インターネットからテレビ会議カメラとビデオ・スイッチャを制御することができます。カメラ制御ツールは、欧州素粒子物理学研究所(CERN)で採用され、インターネット会議ソフトウェアにおいて使用されています。また、インターネット・エンジニアリング・タスクフォース(IETF)でもインターネット上での会議の放送で使用されてきました。

 

5.6 化学災害情報へのリアルタイムの共同研究用アクセス
   (Real-time collaborative access to chemical disaster information)

 米国海洋大気局(NOAA)のPacific Marine Environmental Laboratory(太平洋海洋環境研究所)は、危険物質を含む、化学事故やその他の災害における緊急を要する問題の解決用の、ネットワークを中核とするJavaベースの方法を探求しています。このプロジェクトの初期フェーズでは、12のデータベース源からインターネットを経由して状況に対応したデータを提供すること、および一連の規則によってデータを統合することに注力しています。これまでは、2年に一度、それもバッチ・モードのみでの処理だったのですが、この統合が成功すれば、状況の進行とともに、リアルタイムの状況を取り入れた最新のデータで更新され配布されるようになるでしょう。NOAAの研究者たちは、この機能のまわりに同期型共同研究用ツールを用意し、専門家が米国中から、データの共有されたビューを矛盾無く維持しながら、調べることができるようにすることを計画しています。この研究チームはまた、その適用性を確実なものにし、技術移転を容易にするために、EPA(Environmental Protection Agency,米国環境保護庁)とも共同作業を行っています。

 

5.7 製造業共同研究所(Manufacturing collaboratory)

 NISTは、製造環境における共同研究所環境技術を導入するための構造化された手法と訓練を製造業者、販売業者、および研究者に提供するために、製造業共同研究所機能を開発しています。この共同研究所(collaboratory)の最初の実装では、ロボットによるアーク溶接の研究を推進しました。そこでは、地理的に分散したコミュニティにまたがる(ビデオ、静止画像、オーディオ、テキスト、データベースのレコード、および画像の注釈などの)種々のデータ・フォーマットの非同期的および同期的な共同作業の支援を必要とします。この研究によって、いろいろなデータ・ストリームを時間に関する指標付けと同期させるアノーテーション(注釈付け)機能を備えた共同作業用ツールのプロトタイプがもたらされました。この仕事の次のステップは、企業環境において共同研究環境技術を評価することです。

分散共有型の仮想環境(VEs)や組み込み型の「知的(smart)」ユービキタス・デバイスの最近の発展は、我々が、人々と共同作業を行いコンピューティング・システムとインタフェースする方法に、革命を起こすことを約束します。NISTの研究者たちは、これらの技術を統合するとともに、そのような環境を評価するためのツールを開発し適用しています。アプリケーションには、NISTの「知的部屋(smart room)」とNAMT(National Advanced Manufacturing Testbed)における装置を学習し制御するのためのインターフェイスが含まれています。

5.8 製造のシミュレーションと可視化
   (Manufacturing simulation and visualization)

 シミュレーション・システムは、製造業者が設備の再設計や新工場への投資を行うのに先だって、設備のレイアウトのプロトタイプを仮想的に作ったり、材料や部品の移動経路を最適化したり、人間工学的要素を評価したりすることを可能にします。NISTの研究者たちは、プログラム可能な人間工学的モデル、人間のモデル化の新しいプログラミング、シミュレーションされる製造資源のための標準ライブラリ、分散コンピューティング環境でのシミュレーション・システムの統合、およびシミュレーション・アルゴリズムの検証などの機能を備えた、モデル化およびシミュレーション用の商用ソフトウェア・システムを拡張する方法を研究しています。研究者たちは、製造作業環境において人間の仕事をシミュレーションする上で役に立つ自然言語インターフェイスを開発しています。

 

5.9 NOAAのライブ・アクセス・サーバー(NOAA’s live access server,LAS)

 Webによる分散型共同研究のための重要な要件は、複数の分散されたデータ・セットをブラウズし、アクセスし、融合し、分析するための共通ツールとデータが利用可能であることです。この要求に応じるために、NOAAは、様々な専門分野からのいろいろなデータの提供者たちが利用するための、ライブ・アクセス・サーバ(LAS, live access server)という、強固で、拡張性のある、共同研究のためのデータ・サーバーを開発しました。現在のユーザーは以下の通りです。

  ユーザーの数が増大するにつれ、学際的なデータ共有が拡がって、新たな共同研究に結びつくことが期待されています。

 

5.10 遠隔ナノ・マニピュレータ(The tele-nanoManipulator)

 ノースカロライナ大学(UNC)チャペルヒル校では、研究者たちが、遠隔ナノ・マニピュレータ(tele-nanoManipulator)・システムを開発してきました。これは、科学者たちが、1つに統合されたシステム内で、最新のネットワークごしに遠隔の顕微鏡とグラフィックス・スーパーコンピュータを使用して、ウイルスやナノチューブやその他、ナノメータ・サイズの物体を見たり、触れたり、直接、手を加えたりすることを可能にします。遠隔ナノ・マニピュレータ(tele-nanoManipulator)は、DNA(デオキシリボ核酸)の破断強度を測定したり、遺伝子治療で使用されるアデノウイルスのキャプシドの強度を測定したり、炭素ナノチューブをもったナノメータ・サイズの回路を作ったりするのに使用されてきました。NIH(米国国立衛生研究所)、NSF、DoDの陸軍研究局(Army Research Office)、DoDの海軍研究局(Office of Naval Research)、および産業界の後援者が、UNCの遠隔ナノ・マニュピレータ・プロジェクトを支援しています。遠隔ナノ・マニュピレータ・チームはさらに、インターネット上のどこにいる研究者、教育者、および学生でも、最先端の多くの専門分野からなる科学に参加できる方法を模索しています。UNCの科学者たちは、地方のある高校への訪問の折り、学生たちがインターネットを通して、ウイルスに手をのばし「触れる」ことができるように、このシステムを使用しました。

UNC Gene Therapy Centerの研究者たちは、Tele-nanoManipulatorを使用してアデノウイルス粒子を検査してきました。これらの粒子は、遺伝子治療における媒介微生物として使用され、科学者たちは、それらが細胞表面でどのようにくっつき、動き回るのか理解しようとしています。予備実験がここに示されていますが、これは、粒子が雲母基板上を移動している様子です。雲母の一部からウイルス粒子が取り除かれています。

 

5.11 3次元の可視化(3-D visualization)

 NOAAは1999年度に、共同研究用の没入型仮想環境のテストベッドに着手しました。2000年度には、研究者たちは、大学コミュニティといっしょに、バーチャル・リアリティ環境にユーザーを「没入」させる投影(映写)型プラットフォームの1つであるImmersaDeskの新しい共同研究的利用について研究しています。これらの活動は、現在のデスクトップのVRML(Virtual Reality Modeling Language, 3次元の視覚環境を作るためのソフトウェア)の世界からもっと大規模な没入環境へと移行するでしょう。このような3次元(3-D)技術は、データ検証を含む多くの分野で有用なものであることが、既に証明されています。データ検証の場合では、3次元表現は、従来の2次元の描画よりも、地球物理学のデータ・セットの異常値や無形の属性をより速く直観的に強調することができます。

 

5.12 共同作業と製造のための可視化とバーチャル・リアリティ
   (Visualization and virtual reality for collaboration and manufacturing)

 NISTは産業界と協力して、3次元可視化技術および最新の共同作業ツールが、企業の製造工程や工場操業の改善にどのように役立てるか検討しています。研究者たちは、VRMLを使用して、バーチャル世界の物理的ダイナミクスと相互作用し、そして可視化しています。また、遠隔のユーザーが設計や技術解析に参加できるような仮想の共同作業スペースを作っています。2000年度には、NISTは、VRMLの「ミラー・ワールド(mirror world)」を開発しました。これは、ユーザーが実世界の装置の状態を管理し、監視できるものです。既存のカメラ・インターフェイスがJINI環境で拡張されており、これは、ユーザーがプロセスを容易にかつ直観的に管理し、監視できるようにする追加のサービスを可能にします。

 

5.13 ニュートロン研究用のWebベースのツール
   (Web-based tools for neutron research)

 NISTの研究者たちは、NISTのニュートロン研究センター(Center for Neutron Research)にますます多くのアクセスを提供するために、インターネットの能力を拡張しています。このセンターは、ユニークな国の利用者設備であり、ニュートロン・ビームを使用した材料研究用の最新の計装技術を開発しています。また、外部の研究者がインターネット経由でその設備を使用した実験と得られたデータの解析に参加できる手段を開発することによって、民間企業にも利用可能にしています。

 

6.Webベースの情報資源(Web-based information resources)

6.1 数学関数のデジタル図書館
   (Digital Library of Mathematical Functions, DLMF)

 2000年度、NISTは、応用数学の高等関数に関する、認定された参照データと関連情報のデジタル図書館の開発を開始しました。それらの関数は、天文学、大気のモデリング、水中音響のような様々な分野の科学計算や解析で、技術者、科学者、および統計家を支援するものです。
 NISTの数学関数のデジタル図書館(DLMF)は、Web上で公開され、その体系は、意味論ベースの表現、メタデータ、対話機能、および内部/外部リンクから構成されます。これは、数学データベースの簡単な照会と検索と抽出、公式の検証と発見、ルールの自動生成、対話型の可視化、要求に応じた独自データ(custom data on demand)、およびソフトウェアと評価済みの数値処理方法論へのポインタなどのユーザー要求をサポートします。特殊関数を展開して解析する数学者とそれらを利用する科学者や技術者の間の交流を促進する上で、オンライン資源が期待されています。
 米国、英国、フランス、オランダ、オーストリアから、世界のトップクラスの数学者がこのプロジェクトに参加しており、中核となる素材の多くを開発しています。NISTは、編集の調整を行うとともに、無償の公開資源としてWebサイトを開発し維持しています。NSFから一部資金援助を受けたこのプロジェクトは、2003年度には完全に機能することが期待されています。DLMFは、1964年発行の米国規格基準局(NBS, National Bureau of Standards [現在のNIST])の旧数学関数ハンドブックの後継にあたり、その2倍以上の技術情報が網羅されると期待されています。

 

6.2 治療法ガイドラインのリポジトリ
   (Clinical practice guidelines repository)

 米国健康医療研究品質局(AHRQ, Agency for Healthcare Research and Quality)は、米国ヘルスプラン協会(American Association of Health Plans)および米国医学会(American Medical Association)と協力して2000年度にWebベースのNGC(National Guideline Clearinghouse)の開発を継続して行いました。NGCは、実証に基づく治療法のガイドラインの公に利用可能な電子リポジトリであり、医療専門家が患者に施す治療の質の向上を助けることを目的としています。500を越える治療法のガイドラインが、医師の専門グループ、医学協会、管理医療計画、連邦および州の機関その他に提供されてきました。
 NGCの主要な構成要素としては、ガイドラインおよびその開発に関する体系的な要約;複数のガイドラインを並べ特性を比較するためのユーティリィティ;類似トピックスをカバーするガイドラインの統合と類似点・相違点の強調表示;利用可能な場所でのフルテキスト形式のガイドラインへのリンクおよび/または印刷コピーの注文情報へのリンク;治療法ガイドラインに関する情報交換のための電子フォーラム「NGC-L」;および、ガイドラインの開発方法、実装、および利用に関する注釈付きの参考文献一覧があります。
 何千ものガイドラインに最終的に索引が付けられて、それによって、何百ものトピックに関する重要な推奨事項や評価に迅速にアクセスすることが可能になります。個々の医師やその他のサービス提供者は、医療判断や患者のカウンセリングに役立てるために、広範な情報源を閲覧して評価することができるようになります。健康医療システムや統合配布システムは、それらの提供者ネットワークにおいて、ガイドラインを採用したり、あるいは適用するために、これらの情報を利用することでしょう。さらに、教育機関は、NGC情報をカリキュラムや生涯教育活動に取り入れることができるようになります。

 

6.3 地表風解析システム(Surface wind analysis system)

 NOAAの大西洋海洋気象研究所(AOML, Atlantic Oceanographic and Meteorological Laboratory)の地表風解析システムは、世界中の海洋を網羅する船舶、ブイ、衛星、および航空機、そして、沿岸地域から得られる本質的に異なった多様な気象観測データを解釈同化し、矛盾のない一貫した風域に合成するための研究ツールであり、天気予報および防災における重要な新機能を提供しています。このツールは、これらのデータをほとんどリアルタイムで入手して、専門家に、解釈する利用可能データに代わる、テキスト表現による代替情報を提供するために、最先端のコンピューティングと通信を利用しています。NOAAは、プロトタイプのデータベース・スキーマの実装、Webインターフェイスをもつオブジェクト指向の運用研究と危機管理の製品の開発、そしてプラットフォームに依存しない効率のよいプログラミング技術の研究を行っています。
 研究者たちは、数年の間、このシステムを使用して予報担当者に試験的な風域ガイダンスを提供してきました。また、ハリケーン上陸時の風の観測分析では、NOAAの国立ハリケーン・センター(National Hurricane Center)のハリケーン専門家と協力してきました。システムのアウトプットは、危機管理のコミュニティで使用されているGISシステムの中の、FEMA(米連邦緊急管理庁)のHAZUS(hazard loss estimation, 危険による損害推定)の風モジュールと連動できるようにフォーマット化されます。

NOAAの太平洋海洋環境研究所(Pacific Marine Environmental Laboratory)の研究者たちは、太平洋の中の断層崖(escarpments)や稜線(ridges)や海山(seamounts, かいざん)が、深海での津波の伝播にどのように影響するかを理解すること、および、津波伝播の正確なシミュレーションに必要な海底地形の精度と分解能を決定することのために、研究を行っています。この作業の最初の焦点は、アラスカ/アリューシャン(Alaska/Aleutian)・サブダクション・ゾーン(Subduction Zone, 沈み込み帯)で発生して、ハワイに向かって南方に伝播する津波に焦点を当てています。1997年12月5日のカムチャツカ津波が、ここでシミュレートされています。

 

6.4 Webベースのバイオインフォマティクス・データベース
   (Web-based bioinformatics databases)

 バイオインフォマティクス分野における最近の進歩は、何十万もの生物種、何百万ものDNA配列、および何万もの遺伝子に関する大規模な生物学データのセットを作り出してきました。NISTの共同的な研究所である先端バイオテクノロジー研究センター(Center for Advanced Research in Biotechnology)を通して、NISTは、これらのデータを管理と、高分子の実験研究および計算研究の進展を助けるために、2つのWebベースのバイオインフォマティクス・データベースを開発しています。1つは分子識別用であり、もう1つは高分子構造用です。
 分子識別用データベースは、薬設計や化学的選別において有用です。これには、目標分子と反応分子の対、各々の特性、およびそれらの相互作用という構造が含まれ、実験結果の提供や内容(content, コンテント)の照会(query)のために、インターネットを通してアクセスが可能となります。
 高分子用データベースは、NISTが1999年以来所有してきたタンパク質データバンク(Protein Data Bank)を基にして拡張しています。構造バイオインフォマティクス共同研究所(Research Collaboratory for Structural Bioinformatics)の参加者として、NISTは、信頼性と一貫性を向上させるために、このコンテンツに対する評価アルゴリズムを開発、改良、および適用する作業、および新しいデータベース管理システムへの移行の作業を行っています。

 

7.識別とセキュリティ(Identification and security)

7.1 Akenti: 安全な環境での共同研究
   (Collaborating in a secure environment)

 公的研究機関と私的研究機関の間のコミュニケーションの増進を目的とした共同研究技術では、いろいろな参加者の移り変わる役割や要求に対応するのに十分な柔軟性があり、十分かつ適切なセキュリティが求められます。
 Akentiは、LBNLが開発したセキュリティ・モデルおよびアーキテクチャで、高度に分散されたネットワーク環境において拡張性のある(スケーラブルな)セキュリティ・サービスを提供しています。この目標は、中央の執行者や職務権限を必要とすることなくアクセス管理ポリシーを提示して強制することです。Akentiが管理する資源は、情報、処理、あるいはコミュニケーションの機能、または科学機器のような物理的なシステムです。Akentiのモデルは、DOEとNASAで採用されています。

 

7.2 管理のゆきとどいた共有: 安全な共同研究環境
   (Controlled sharing : The secure collaboratory)

 DOEのLBNL(Lawrence Berkeley National Laboratory)およびSNL(Sandia National Laboratories)の研究者たちは、ディーゼル機関燃焼の共同研究所を作る上で、セキュリティ・ツールを開発してきました。それによって、様々な全国の研究所、ディーゼル関連企業、および大学間でのデータや資源の共有管理が可能になっています。これらのセキュリティ機能によって、科学者たちは、安全にデータを共有することができます。また、研究所は、強力なコンピューティング資源や機器への外部からのアクセスを許可することができます。共同研究所では、メンバーは公開鍵インフラストラクチャ(PKI, public key infrastructure)の認証によって識別されます。また、資源にはアクセス・ポリシーが割り当てられて、共有資源へのアクセスが管理されます。

 

7.3 指紋と顔写真の標準(Fingerprint and mug shot standards)

 異なるコンピュータ化されたシステムにまたがる指紋および顔写真イメージの電子的な比較と照合に関しては、1960年代に研究開発が始まり、NISTおよび米連邦捜査局(FBI, Federal Bureau of Investigation)は、共同研究を発展させて、指紋と顔写真のイメージの取り込みと保存のための標準と仕様の開発、およびそれらのイメージの処理技術の評価を行うためのデータベースの作成を行ってきました。
 指紋およびその他の個人識別データを交換する電子的な手段が、これらの情報の従来のハード・コピー形式にとって代わります。したがって、防護対策が確立されて、情報の信憑性と整合性が確保されなければなりません。2000年度から、NISTは、個人の指紋とデジタル署名が入っているスマートカードを個人識別としてリアルタイムでスキャンされる人の指紋イメージと組み合わせて使用するシステムを開発します。これによって、電子レコードの作成者の信憑性の検証を行います。このシステムは、正当なデジタル署名の保管記録とトランザクションの電子署名を使用して、そのレコードの信憑性とそのデータが生成後、改変されていないことを確認します。

 

7.4 ヒューマンID(Human ID)

 NISTの研究者たちは、デジタル・ビデオによる個人の識別(ID)技術を発展させる研究を行っています。ベースラインとなる顔認識システムの開発の最初のステップとして、NISTは、最初のサポート・ベクトル・マシン(SVM, support vector machine)顔認識システムを開発しました。これは、以前の認識方法に比べて認識エラーが2分の1に減少しています。DARPAとの協力によって、NISTは、このヒューマンID(human ID)判定の作業を拡大して、さらに複雑なビデオ認識の作業も加えました。2000年度、NISTは、次の活動を開始しました。

 

8.分析と生産性向上のためのツール
  (Tools for analysis and productivity)

8.1 医療の品質と能力(Health care quality and performance)

 AHRQは、CONQUEST(COmputerized Needs-oriented Quality measurement Evaluation SysTem)の開発を継続しました。これは、ユーザーが医療品質の尺度および医療能力の尺度を収集して評価することを可能にするツールです。医療能力の尺度は、適切性、安全性、効率性、適時性、および力量などのような、医療サービスの提供の評価を助けるツールです。これらの尺度によって、提供者グループ内での時間経過にともなう比較、提供者グループや組織間での比較、および目標と実行結果との比較を可能にします。この方法は、比較される医師全員に一律に指定され適用されなければならないので、まず、比較可能とするためにデータ収集と分析のための詳細な仕様を開発し、テストしなければなりません。CONQUESTは、2つのデータベースを使用します。1つは、多種多様な組織から得られたおよそ1,200の尺度で53の尺度セットからなるものであり、もう1つは、57の医療条件からなるもので、これらは共通の言語によってリンクされています。
 CONQUESTは、データベースの中にある能力尺度(performance measures)に関する情報源、特定の条件とそれを経験する人口に関する情報源、および尺度(measures)の価値を比較し評価するためのツールとして使用されます。これによって、AHRQは、医療能力評価尺度に関する知識をさらに普及させ、医療能力評価の効率を向上させることが可能になります。

 

8.2 検索エンジンの評価(Evaluating search engines)

 1992年以来、NISTとDARPAは、検索エンジンを評価する継続的なワークショップであるTREC(Text REtrieval Conference)を後援してきました。TRECの基本的な仕事は、大量のテキスト(約 2 GB)を検索し、特定のテスト問題集に答える文書のランク付けリストの作成です。
 TRECプロジェクトの実績は、以下のとおりです。

 最も最近のTRECプロジェクトには、16か国からの66の学術、産業界、および政府のグループが参加しました。

 

8.3 ソフトウェアの有用性テスト(Software usability testing)

 ビジネス用ソフトウェアのテストでは、有効性、効率性、および顧客満足度などの品質に関する情報を生成します。NISTのコンピュータ科学者たちは、企業がどのようにソフトウェア・テストを報告するかの標準化、および「共通フォーマット」のデータが潜在的購入者にどれほど役立つかの測定を行うことによって、ソフトウェアの有用性を促進するためのプロジェクトをスタートさせました。
 このような標準化によって、会社は、貧弱な設計のソフトウェアや特定の仕事に向かないソフトウェア購入してしまうことによる生産性低下と莫大な訓練費用支出を回避することにより、多大な金額の節約が可能となるでしょう。このプロジェクトには、米国の多くの最大手ソフトウェア生産社及び購買社が参加しています。例えば、ボーイング、コンパック・コンピュータ、イーストマン・コダック、Fidelity Investments、ヒューレット・パッカード、マイクロソフト、State Farm Insurance、およびサン・マイクロシステムズなどです。

 

8.4 Webサイトの有用性ツール(Web site usability tools)

 使える(usable)Webサイトは、産業界にとって、電子商取引販売の増大、労働生産性の向上、およびコストやユーザーのフラストレーションの軽減のために、きわめて重要です。しかしながら、有用性(usability)測定の従来の方法は、コストが高く、時間を要し、労働集約的なものでした。NISTは、Webサイト設計者や開発者がサイトの潜在的な有用性の問題を分析するのを助け、有用性の専門家(usability professionals)のサイト評価のスピードアップを助けるためのツールを開発しています。NISTの研究者たちは、これらのツールを洗練化し、次世代のWeb開発用および有用性テスト用ツールに組み込むために、産業界と協力して作業を行っています。

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