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3.8 思想的背景並びに結論:「公平なアクセス」か「個別企業の利益」か

 「2000年技術移転商業化法(TTCA)」の制定趣旨においても、政府予算が生み出す技術の民間移転を通じて、個々の企業が商業的に成功することがいかに国民経済や国家の国際競争力にプラスか、を強調している。
「連邦政府の技術をライセンシングするにあたっては、国民の諸権利を擁護するという公共政策上の要請、企業が連邦政府の発明を製品化してくれるよう奨励すること、そして全体の仕組みをより一貫性ある簡素なものにしていく、ということのバランスをとらなくてはならない。」

“Federal technology licensing procedures should balance the public policy requirements of protecting the rights of the public, encouraging companies to develop existing government inventions, and making the entire system more consistent and simple.”

「米国議会は連邦政府の技術移転をより『企業にやさしい』ものにしようと主張してきた。なぜならば、政府所有の発明を効果的に商業化するためには、私企業に付加価値ある膨大な資源を投入してもらうことが不可欠だからである。この商業化は、今度は新たな雇用を生み出し、我が国が国際市場で競争していく能力を大いに高めてくれるのである。」

“Congress has advocated initiatives making federal technology transfer more ‘industry friendly,’ because government-owned inventions could not be commercialized effectively without the significant resources and value-added input of private industry. This commercialization, in turn, can create new jobs that would boost our nation’s ability to compete in the global marketplace.”
 (出典:Technology Transfer Commercialization Act of 2000、Section by section review, Section 2 Congressional Findings より抜粋。下線はMuse Associates。)

   今回の調査を総括すれば、次のような思想が米国政府の知的資産政策とその商業化政策のバックボーンに存在することが明らかとなる。すなわち、「国家の国際競争力の源泉すなわち国家経済力の基本は、個別企業の市場競争力である」という認識が確固たる信念として存在している。この信念に基づいて、国家の研究開発支援が積極的に個別私企業の利益となるような構造を是としている。なぜならば、個別企業の発展は、1)政府の財政的支援に対する税収という形での投資回収と、2)新規雇用の創出という結果を通じ、国家並びに国民の利益となる、と考えられているからである。すなわち、政府による研究開発支援は誰のため?という問題への解答を明確に持っているといえる。

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