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4.わが国における情報技術開発の重点分野選択指針

 本調査研究では、情報革命以降の情報技術革新を的確に捉えるための情報技術の新たな構成と基軸を示し、その中での技術開発領域を検討してきた。最後に、そこから考えうるわが国における情報技術開発の重点分野選択指針を示す。



4.1 重点分野設定の基本的考え方

研究開発の重点化の必要性
 安定成長、成熟時代においては、研究開発投資の効率性・有効性が問われる。アメリカを先頭とする世界的な情報技術開発競争の中で、フルラインで取り組み、全領域で良好な研究開発成果を達成することは現実的に難しい。何らかの考え方、戦略に基づき重点分野を明確化し投資を集中することにより、わが国の情報技術開発の成果を高め、情報産業の競争ポジションを向上させることができる。

技術開発領域に関する基本的認識
 本調査では、情報革命に伴う情報技術の適用領域の拡大等によって、従来の情報技術の中核部分だったデバイス、コンピュータ、周辺装置、ネットワーク等を総合的に「プラットフォーム」として捉え、今後技術革新の高度な発展が期待される「コンテンツ」「ユーザインタフェース」をそれと同列に位置づける構成を提示し、その各領域において想定される技術開発分野を検討した。これらの技術分野に対して、わが国の重点分野を考える上で、まず第一に次のような基準が基本として考えられる。

その結果、領域レベルに関しては、次の点が指摘できる。



4.2 各構成領域の重点分野選択指針

 以上のような基本認識に基づき、各技術領域ごとに重点分野選定の指針を示す。

●プラットフォーム
 プラットフォームに関する基礎研究においては、前述のように、アメリカの長期にわたる研究が先行しており、アメリカの状況をフォローしながら、キャッチアップしていかなければならない分野が多い。研究成果が開示されていたり、Linuxのようなオープンソース化されているものについては、それらを導入し、改善型研究を行っていくというアプローチが可能であり、わが国が得意としている方法でもある。
 一方、短期的な技術開発では、情報家電、携帯電話、ゲーム機器、工作機械といったわが国が強みを持ったコンポーネントを活かしていける可能性がある。この点に関しては、産業界に負うところが多いが、国としても規制緩和や競争促進、標準化支援等の施策を積極的に行うことによって、日本発の次世代型プラットフォームを開発することを支援できる。

●コンテンツ
 わが国は、ゲーム機器、ゲームソフトの分野では世界的に高い競争力を有している。今後良質なコンテンツを作る上では、ハイパフォーマンスコンピュータを援用したコンピュータグラフィックスの応用が重要となり、ゲーム機器等のエンターテイメント系コンテンツ開発用ミドルソフトでわが国がリーダーシップを握ることは可能である。
 また、わが国は、アジア文化圏、漢字文化圏の中で最も高い技術力と経済力を有している。そこで、漢字及び多文化・多言語を扱うためのコンテンツ作成・管理・活用のための技術開発を行い、これらの文化圏に貢献していくことが望まれる。マルチバイト系文字コード、フォントに関わる処理技術、アーキテクチャ開発等が求められる。
 知識の管理は、言語処理、テキスト処理、概念検索といった要素技術に加え、人間及び集団がどのように知識を創造し、管理、活用しているかという知識管理プロセスモデルが重要となる。わが国における知識創造プロセスや、組織的品質管理に関する研究実績を活かした技術開発が求められており、知識管理のための要素技術及びミドルウェアの開発も重点分野の一つとなろう。
 コンテンツに関しては、要素技術や方式の研究開発だけではなく、現存する様々なデータを電子的表現化(ディジタル化)するコンテンツ作成技術や作成環境の研究開発、商用化、普及促進のためのインフラとなるコンテンツ作成やそのデータベース整備も重要な政策課題といえる。言語処理、知識処理のための辞書・シソーラスや、地図情報等の整備を支援することも国の役割といえる。

●ユーザインタフェース
 ユーザインタフェースでは、コンピュータシステム内で行われる複雑な処理結果をいかにわかり易く人間に伝達するかというコンピュータから人間に向うインタフェースの高度化が先行している。仮想現実(VR)などがそれに当たる技術であり、この分野の研究ニーズは今後ますます高まると思われる。
もう一つは、人間からコンピュータへ向かうインタフェースである。ここでは知識処理技術が中核技術の一つであり、わが国の人工知能研究の実績を活かせる分野である。今後は感性情報処理、マルチモーダル等非言語系の情報処理の重要性が高まり、これらは非英語圏であることの弱みが影響しない分野でもある。
また、パッケージング技術や、材料技術等の優位性を活かしたウェアラブルコンピュータの開発が重点となると考えられる。