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(8)情報技術研究開発(IT R&D):2000年〜
 2000年2月に発表された、米国の2001年度予算案に見られる情報技術研究開発計画を概観する。
 予算案の中でクリントン大統領は、1999年から起こした21世紀基礎研究ファンド(21st Century Research Fund)を強調しており、その要求額は428億9,500万ドルになっている。これは研究開発費予算全体(853億3,300万ドル)の50%であり、非軍事研究としては過去最大の前年比増額(29億ドル)要求となっている。このファンドの狙いは、NIH、NSF、DOEでの基礎研究を中心に、コンピュータ、通信、エネルギー、環境等分野で、基礎と応用の相互に関連する領域の研究開発を組み合わせて、成果を増幅するようなバランスの取れた資源の投資を行うことである。
 この21世紀基礎研究ファンドをベースに、科学技術イニシアチブが構成されている。主な特徴は、1)基礎研究の強化と連邦政府研究ポートフォリオのバランス、2)大学ベースの基礎研究の強化、3)NSTCによるマルチエージェンシ研究イニシアチブの推進である。この3)で強調されているのが、新たに加わったナノテクノロジ、バイオベースのクリーンエネルギーとともに情報技術への支援増加である。
 この情報技術については、過去10年間にわたって実施されてきたHPCC計画(NGIを含む)と、2000年度予算から盛り込まれたIT2計画を合併して、情報技術研究開発(Information Technology Research and Development)という新しい計画名称になっている。これはHPCC計画とIT2計画の差異についての理解・認識に混乱があったことを是正するためと国家経済会議の上級スタッフは述べている。この計画ではIT2計画に8億2,300万ドル、NGIに8,900万ドルを含む総額で23億1,500万ドル(35%増)の予算を要求している。特にIT2計画の額は対前年比で166%の増額となっており、科学技術イニシアチブの中でも、二番目の伸び率である。

図表2.14 NSTCイニシアチブ予算要求額(単位:百万ドル)
予算項目
FY1999
FY2000
FY2001
増分
(%)
情報技術研究開発(IT R&D)
  情報技術イニシアチブ(IT2)
  次世代インターネット(NGI)
1,301
-
105
1,721
309
86
2,315
823
89
35
166
3
ナノテクノロジ研究
247
270
495
83
クリーンエネルギ(生物ベース製品とバイオエネルギ)
195
196
289
47
重要インフラ防衛研究開発
450
461
606
31
大量破壊兵器配備研究開発
320
473
501
6
省庁連携教育研究イニシアチブ
30
38
50
32
気候変動技術イニシアチブ
1,021
1,099
1,432
30
新世代乗用車パートナシップ
235
226
255
13
エコシステム課題のための総合科学
630
657
747
14
地球規模変化の研究計画
1,657
1,701
1,740
2
合 計
6,086
6,842
8,430
23
(注)上位5項目が情報技術分野に関連する。

 IT R&Dの政府機関別の予算額内訳を下表に示す。NSFやDODの増額が目立つ。

図表2.15 IT R&D予算要求額(単位:百万ドル)
政府機関
FY2000
FY2001
増分(%)
DOC(NOAA,NIST)
36
44
22
DOD(DARPA,NSA,URI)
282
397
41
DOE
517
667
29
EPA
4
4
0
DHHS(NIH,AHRQ)
191
233
22
NASA
174
230
32
NSF
517
740
43
合計
1,721
2,315
35

 IT R&Dの2001年度の重点分野としては、以下の11テーマがあがっている。
  1. 最先端コンピューティング開発チーム
  2. 最先端コンピュータモデリングとシミュレーション用インフラ(NSF)
  3. より信頼性の高いソフトウェア
  4. データの格納、管理、保存(NASA)
  5. インテリジェントマシンとロボットネットワーク(NASA)
  6. ユビキタスコンピューティングと無線ネットワーク(DARPA、NSF)
  7. 情報のセキュリティとプライバシーの管理・保証(DOD、NIST)
  8. 未来世代コンピュータ
  9. 広帯域光ネットワーク(DARPA)
  10. 社会、経済、労働力への情報技術の関わり合い(NSF)
  11. 新世代研究者の教育と訓練(NSF、DOE、NIH)

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