ヒューマンインターフェース特論レポート 「理想的な Human-Computer Interaction」(白井先生宛て) 600P031-4 高木祐介 ---------------------------------------------------------------- 参考文献 ---------------------------------------------------------------- Ken Kahn, ToonTalk. http://www.toontalk.com/ キャスティ,「ケンブリッジ・クインテット」,新潮社. 中島梓,「コミュニケーション不全症候群」,筑摩書房. フレイザー,「金枝篇」,岩波文庫. ---------------------------------------------------------------- 人間とコンピュータの相互作用 ---------------------------------------------------------------- 理想的な相互作用は、相互理解の上に成り立ちます。 相性が悪いせいで相互作用がうまく行かないこともあり得ますが、 それは相互に深く理解しあった上で初めて分かることです。 特に人間とコンピュータの相互作用は歴史が浅く、 相性の問題以前に相互理解が不足している面が大きいと思われます。 従って、人間とコンピュータの相互作用(端的にはコンピュータ の対人インターフェース)を向上させるために、まず両者の 特性を認識し、その関わりについて考察する必要があります。 これ以降、まずコンピュータの特性、人間の特性を順に挙げ、 次に両者の理想的な相互作用について考察します。 ---------------------------------------------------------------- コンピュータの特性 ---------------------------------------------------------------- 少なくとも現在のデジタル・コンピュータはプログラムによって動き、 データ入出力によって外部と相互作用を行ないます。 プログラムはプログラミング言語によって記述されます。 GUIなどのプログラミング環境も存在しますが、 最終的にはプログラミング言語(機械語)に翻訳されます。 また、データは形の決まった入出力を通され、 コンピュータとプログラムによって扱われます。 チューリングマシンは全ての計算可能関数を計算することができます が、人間が計算結果を知るにはテープに書き出された数を数える必要 があります。実際のコンピュータは画面に数字を書き出したり、 その数の意味を人間に分かりやすく文字やGUIで表現したりします。 すなわち、コンピュータが理解できるものは形式的に表現された データです。コンピュータはコンソールやスイッチやセンサーなど から定型の信号を受け取り、定型データとして処理し、出力します。 人間の気持ちなどのような「言葉で表せないもの」は、 コンピュータに理解させることはできません。 そこで、コンピュータが理解できるものを増やそうとして、 ルールを書き換えて学習する人工知能の研究が行なわれてきました。 例えば、変換ルールを人間が与えるだけでなく 利用傾向によって変換の優先度が変わる日本語入力があります。 一方で、様々な概念を形式的に表現する研究も行なわれました。 制御構造、データ構造、変数、型、スコープ、オブジェクト、 入出力ストリームなどは本来のコンピュータが持っておらず、 仮想計算機と高級言語によって導入された概念です。 エージェント、デザイン・パターン、GUIなどはまだ成熟しておらず、 形式的とは言えないか、既存の概念モデルに適合していないものです。 例えば、外部との通信は入出力によって表現されますが、 文字入出力とGUIは同レベルで抽象化されているとは言えません。 私は主にUnix (Linux, Solaris) を使っていますが、Netscape Navigatorのフォントは1バイト文字と2バイト文字を個別に 設定させられます。また、使用する端末やログインしたホスト によってフォント・サイズを適切に変更しないといけません。 このような理論的でない現実の細かい不備が対人インターフェース の分かりづらさに大きく響いていると思われます。 ---------------------------------------------------------------- 人間の特性 ---------------------------------------------------------------- コンピュータに対して人間は、自分でルールを書き換える学習機械 です。あまり形式的でないデータでも扱えるように見えますが、 それは学習していないことを深く考えずに扱うことでもあります。 コンピュータはある意味で絶対に間違えませんが、 人間が間違うのは間違ったデータを扱う能力があるからです。 学習していない概念を扱う時、人間はアナロジーによって その概念を既存の概念モデルに強引に当てはめます。 また、アナロジーは新しい概念を打ち出す時にも大きな役割を 果たします。アナロジーには常識が大きく影響し、 普通人間は常識に従おうとします。 常識を知らなかったり複数の常識が衝突したりすると混乱が生じます。 卑近な例を挙げれば、move命令を持つアセンブリ言語があります。 普通人の感覚だとmoveしたものはmove先へ移動し、 move元からはなくなるものだと思いますが、 move命令は元のデータを「移動」先へコピーするだけです。 このような不適切な概念は淘汰されていくでしょう。 人間は法則よりも事例を重視し、特徴を列記するよりも 全体像をなんとなく把握した時に理解したと感じます。 あるものを理解した時、 人間の頭の中にはそのものの概念モデルができています。 インターネットで情報が広く流通するようになり、自分の情報 が知らないところで出回るデジタル・クローンの問題が指摘 されていますが、これは人間が概念モデルを作り上げてしまう ことの結果です。(ヴァーチャル)アイドル、小説、漫画、 ドラマ、アニメーションなども現実と異なる仮想空間の リアリティ(共有された概念モデル)と言えます。 現実と仮想現実の衝突、 あるいは自分の現実と他人の現実の衝突によって混乱が生じます。 例えば、メール相手の認識を誤って、教授宛てのメールを研究室の ホームページ管理者のアドレスへ送ってしまうことがあります。 誤った仮想現実が作られるのを防ぐために、 情報リテラシーの啓蒙が必要です。 「近頃の日本は間違っている。コンピュータで解決策を考えてよ。」 と言う人はまだ実在します。 電車や駅で携帯電話を使っている人が嫌がられるのは、 物理的な近傍と相互作用しないからです。 携帯電話の使用が迷惑なのではなく、現実を共有しないことが迷惑 なのです。その意味で、大声の通話が迷惑だとすれば大声の会話も 車内放送も同様に迷惑です。私は車内は静謐であるべきだとは 思わず、静かな車両とうるさい車両を分けるべきだと思いますが。 逆に、本を読んでいる人に話しかけるのは、 相手の仮想現実を現実で打ち破ることになるかも知れません。 私は家では常に本を読んでいたし、最近では常にコンピュータに 向かっています。しかし、本やコンピュータはメディアであって、 扱う情報は趣味だったり、勉強や仕事だったりします。 家族は対象となる仮想空間を理解できないので、 私が休日にレポートなどを書いていると 遊んでいるのだと解釈し、ちょっかいをかけてきます。 このような家庭ではSOHOは現実的ではありません。 ---------------------------------------------------------------- 理想的な、人間とコンピュータの相互作用 ---------------------------------------------------------------- 理想的な相互作用には相互理解が欠かせないと始めに書きました。 コンピュータに触れることが特別なことでなくなるためには、 人間とコンピュータだけでなく、人間同士の理解も欠かせません。 そのために、仮想現実を共有することが必要になります。 例えば、AIBOはマニアの玩具ではなく、 普通の人がロボットと承知しながらも愛玩するペットでした。 本や漫画は普通1人で読むため、テレビやビデオのように 共有できる仮想現実より暗いと思われます。 ビジネス教育で利用されるロールプレイやOJT (On the Job Training)は現実に重なる仮想現実です。 [金糸篇, デカルト, カント, ウィトゲンシュタイン] 透明性すなわち理解/制御/予測のしやすさは、 コンピュータの仮想現実を人間が学習しやすいことの尺度となります。 入出力の例示によるプログラミング/デバッグの研究があります。 また、人間はアナロジーによって学習を行なうので、 人工気配などメタファによる入出力は受け入れやすいでしょう。 文字より図表、デジタル時計よりアナログ時計の方が直観的です。 視覚以外の情報も助けになります。 例えば、現在のコンピュータは重い処理をさせると 頑張っているのか死んでいるのか区別できませんが、 頑張っている時は何らかの補助情報を発すると良いでしょう。 理想的なコンピュータ環境は、 完全なカスタム端末(携帯、カード、parasiteなど)、 公衆端末(公衆電話、自動改札、自動販売機など)、 環境(家電、街灯、信号機など)への極分化だと思われます。 Windowsは確かに現在最もフレンドリーなインターフェース を持っています。それはGUIやスタートボタンとか、キーボード でもそれなりに操作できるとか、OSとネットワークや アプリケーションの融合とかに留まらず、結果的に インターフェースの概念モデルを共有させたことにあります。 Windowsを使い慣れた人がLinuxを使って「スタートメニューに エクスプローラがないよ」などと言うのは、カッターが目の前に あるのに「ハサミがない」と探し回るのに似ています。 必要な機能を持つ道具についての知識がなく、 機能と道具との適切な関係モデルが確立していない訳です。 この場合、エクスプローラが固有名詞でなく一般名詞であれば 問題は起こりません。「雷おこし」など圧倒的なシェアを 持つ固有名詞は、しばしば一般名詞となります。 i-modeに代表されるカスタム端末においては共通語 (フレームワーク)の確立に留まらず、インターフェースの カスタマイズがより重視されるようになるでしょう。