渕一博記念コロキウム
『論理と推論技術:四半世紀の展開』

2007年10月20日(土) 9:00〜18:00
慶應義塾大学三田キャンパス東館6階 G-SEC Lab (地図

主催:渕一博記念コロキウム組織委員会
協賛:人工知能学会,日本ソフトウェア科学会,情報処理学会

プログラム・講演概要・講演スライド

コロキウムトップページへ

9:00〜 9:30受付
9:30〜 9:40開会の辞
9:40〜10:40《基調講演》『渕一博の思想:なぜ論理だったのか?』 (スライド
林 晋
京都大学大学院 文学研究科 現代文化学専攻 情報・史料学専修 教授

第五世代コンピュータ・プロジェクトが開始された1982年から四半世紀が経過 した.渕はなぜ論理を中心とした新しい情報のパラダイムを目指したのだろう か?渕は第五世代コンピュータ・プロジェクトで何を目指そうとしたのだろう か?
渕や(講演者を含む)多くの計算機科学研究者の予想と異なり,この四半世紀 は「PCとネットの時代」となった.それは単なる「伝統的アーキテクチャ」 の普及・大衆化の時代ではなく,社会と情報通信技術の関係が本質的に変化し た時代であった.偶然か必然か,1980年代は,他の分野においても,この社会 (人間)と技術の関係の変化,そしてそれに伴う「技術」への視点の変化が始 まった時代である.工学者 Stephen Kline の言葉を借りて,それを敢えて一 言で言ってしまえば,「線形プロセス」からの脱出の時代であったといえる.
渕が第五世代コンピュータを発進させた80年代初頭とは,そういう大変革の鳥 羽口の時代だったのである.このような歴史観のもとで,「思想を持った研究 者」あるいは「研究企画者」としての渕が「論理という結論」に到達する軌跡 を追い,その歴史的位置付けを試みるとともに,日本の科学技術が誕生以来抱 え続けている問題に言及したい.

10:40〜11:10休憩
11:10〜11:40『非単調性と帰納論理を取り入れたことで論理プログラミングは どう変わったか?』 (スライド
井上 克巳
国立情報学研究所 情報学プリンシプル研究系 教授

第五世代コンピュータが本来目標とする姿は考える機械であった.このために, 述語論理を基本とする論理プログラミングを採用した.初期の論理プログラミ ングでは,確定節により知識を記述し,演繹推論による証明手続きを持ってい た.しかし確定的知識しか表現できず,推論機能が演繹のみであることは,現 実的な知識表現と推論のためには限界であるとされていた.こうした問題点を 克服するために,1980年代後半から1990年代における論理プログラミング研究 において,不確定・不完全な情報の扱い,矛盾した知識の更新の問題,デフォ ルト推論・仮説推論・帰納推論などの非演繹的推論のための拡張理論が提案さ れた.2000年代に入ると,これらに加えて制約プログラミングの概念とも融合 した解集合プログラミングが論理プログラミングの一つの顔にまでなった.最 近では,帰納論理による説明が科学分野への応用において重視され始めている. 本講演では,こうした一連の流れが実は第五世代プロジェクトにおける研究と 大いに関係しており,現在でも論理プログラミングが考える機械の実現に深く 関わっていることを解き明かす.

11:40〜12:10『記号的統計モデリングの世界を探る』 (スライド) (PRISM homepage
佐藤 泰介
東京工業大学 大学院 情報理工学研究科 教授

過去5年の間にベイジアンネットを中心とする不確定性情報処理の中に 論理概念が持ち込まれ,統計的関係学習(SRL, statistical relational learning)という従来の属性ベースの機械学習の限界を打 破する新しい研究分野が出現しつつある.そこでは,論理推論,確率計 算,統計学習が一体となった確率モデリングを目指し,(非単調)論理 プログラム,グラフィカルモデル,関係データベースなどに基づく様々 な方式が提案され,各種言語が実装されつつある.講演では論理と確率 を統合した不確実情報処理の観点からSRLの流れを解説する.

12:10〜12:40『帰納・発想論理プログラミングとスキルサイエンス』 (スライド
古川 康一
慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 教授

現在急速に発展を遂げつつある論理プログラミングの2つの拡張,すなわち, 帰納論理プログラミング,発想論理プログラミングは,それぞれ機械学習およ び常識推論のための強力なツールを提供していると考えられる.この事実は, 第五世代コンピュータプロジェクトの中心理念である述語論理の応用範囲のさ らなる拡大を意味している.本講演では,帰納論理プログラミングおよび発想 論理プログラミングの「スキルサイエンス」への応用について述べる.スキル の解明にとって,その言語化が大きな役割りを果たすが,帰納論理プログラミ ングは,プロのパフォーマンスデータを入力として与えることによって,それ らの帰納的一般化によるルールの抽出を可能にする.一方,発想論理プログラ ミングは,そのシステムが持つ仮説生成能力を利用することによって,奏法の 提案や,スキル診断などのフレームワークを提供できると考えられる.本講演 では,チェロのスキル解明を例に取って,これらのアプローチを概観する.

12:40〜14:00昼食休憩
14:00〜14:40『モデル生成型定理証明系MGTPの要素技術』 (スライド
長谷川 隆三
九州大学大学院 システム情報科学研究院 知能システム学部門 教授

Prologで簡潔に記述されたSATCHMOの登場に触発され,KL1をベースにモデル生 成型並列証明系MGTPを開発した.MGTPは256台のPEからなるPIM/m上で200倍以 上の台数効果を示し,準群の未解決問題を解くことに成功した.MGTPには連言 照合の冗長計算除去や支持集合の導入等,SATCHMOにはない改良が施されてい る.本発表では,KL1の変数や頭部単一化を活用したMGTP 実装技術の誕生史を 紐解くとともに,探索空間削減手法の開発やFPGAによる証明系の実現等,その 後の進展を辿る.

14:40〜15:10『非数値並列計算の動向と展望』 (スライド
中島 浩
京都大学 学術情報メディアセンター 教授

FGCS のスタートから四半世紀を経て,当時は「確信的夢想」であった百万ス ケールの並列処理は,すでに手の届くところまで近づいている.また当時は常 に議論の対象であった並列処理の有効性についても,現在では常識あるいは必 然として捉えられるまでに至っている.一方このような並列処理の隆盛下にあっ て,FGCS が目指した並列記号処理は,あるいは並列「非」数値処理に範囲を 広げても,TFLOPS/PFLOPS を競う並列数値処理に比べて影が薄く,むしろ FGCS 当時よりも相対的地位が低下しているようにさえ感じられる.本講演で は,こうした状況がどのような技術的問題に起因するのか,FGCS が追求した 並列処理技術とはどのような関係にあるのか,また今後の並列処理技術は非数 値処理にどのように貢献しうるのかなどについて,主として並列システムアー キテクトの視点から議論する.

15:10〜15:40『ゲノムと論理:論理推論はバイオインフォマティクスを超えられるか?』 (スライド
小長谷 明彦
理化学研究所 ゲノム科学総合研究センター ゲノム情報先端技術研究グループ プロジェクトディレクター

ヒトゲノム解析プロジェクトが終結し,個人のゲノム情報を活用する時代に突 入した.ゲノム情報の活用には,ゲノム,トランスクリプトーム,プロテオー ムといった網羅的な実験データを集めるだけでは不十分であり,遺伝子に関す る様々な知識を集約し,整理し,生命現象をモデル化する必要がある.論理推 論を用いたゲノム情報活用の例として,Semantic Web技術に基づく薬物間相互 作用検出システムについて紹介する.

15:40〜16:10休憩
16:10〜16:50『21世紀のチューリングマシン ― 多様化した計算概念の統合』 (スライド
上田 和紀
早稲田大学 理工学術院 情報理工学科 教授

第五世代プロジェクトの目標とされた並列推論技術の研究開発の中核概念となっ たのは並行論理プログラミング言語である.並行論理プログラミングは,証明 探索を柱とする論理プログラミングから見れば spin-off 技術であるが,並行 計算 (concurrency) の立場から見れば,チャネルモビリティをはじめとする多 くの際立った特徴をもつ計算モデルである.並行論理プログラミングはその後 制約プログラミングと結びついて並行制約プログラミングを生み,さらに制約処 理記述言語CHRを生んだ.また,プロジェクト終了後も継続して概念整理を進 めた結果,プロセス計算との関係も明らかになってきた.これらを踏まえて講 演者は,1960年代以降数多くの提案がなされてきた非逐次的計算モデルの大統 合を目指した体系LMNtalを開発してきた.本講演では,非逐次処理のための 計算モデルとプログラミング言語の視点から,四半世紀の技術展開や相互波 及効果をデモを交えて紹介する.

16:50〜17:20『制約に基づく言語処理から制約なしの言語処理へ』 (スライド
松本 裕治
奈良先端科学技術大学院大学 情報科学研究科 教授

1980年代に隆盛を極めた制約に基づく文法観はHPSGという形で整理され,語彙 化という流れの源となった.制約に基づく文法は,言語の規則性を美しく写し 取る事には大きな成功を修めたが,言語処理の根本的な問題である「曖昧性」 の問題と例外事象に対して破綻しない「頑健性」の問題を解決することはでき なかった.90年代に入って盛んになった統計的言語処理と語彙意味論の台頭は, いずれも語彙化という同様の道をたどりながら,これらの問題を解決する術を 求めてきた過程ととらえることができる.「語彙化」を切り口にして,上記の 二つの問題がどのように解決されようとして来たか紹介する.

17:20〜17:50『分散制約推論:マルチエージェントシステムの基盤技術』 (スライド
横尾 真
九州大学大学院 システム情報科学研究院 知能システム学部門 教授

複数の自律的な主体(エージェント)が存在する場合,これらのエージェント の行動の間には,共有資源等の制限から生じる制約が存在することが通例であ る.分散制約充足問題は,協調的なエージェントが,エージェント間の制約を 満足する行動の組合せを探索する問題であり,分散資源割当,分散センサネッ トワーク,分散スケジューリング等の,マルチエージェントシステムにおける 様々な応用問題を表現できる一般的な枠組である.本講演では,分散制約充足 問題の定式化,アルゴリズム,応用事例について概観する.

17:50〜18:00閉会の辞
18:30〜 懇親会

Last Update: 2007-10-04