ICOT TODAY Issue #11

February 16, 1995



[目次]





[はじめに]

1995年は、誰も予想だにしなかった大きな災害で幕を開けることになってしま いました。 被災者の方々には、心からお見舞を申し上げます。

21世紀まであと 5年をきったというのに、現代の進んだはずの技術は自然の猛 威の前には何の力もなく、頼りのライフラインも呆気なく切断されてしまいま した。

小学生の頃の図工の時間、「21世紀の自分の生活を描いてみましょう」という 課題が出ました。その頃は、21世紀という「未来」にはどんな夢でも叶う気が して、家では自在に言葉を喋るロボットが代わりに宿題をやってくれて、出か ける時には、行きたい所を言うだけでそこへ自動的に連れていってくれる自家 用ヘリコプタに乗って行く... そんな絵を描いたことを覚えています。

その 21世紀が、もうほんの 5年先に近付いているというのに、あの頃夢見た 友達のようなロボットも、自家用車のようなヘリコプタもない。それどころか、 大地のひと揺れで、文明はあっという間にぺしゃんこになってしまう...。

けれども、自然の前で何の威力も発揮できなかったのも現代の技術なら、今度 はそれを復興させるのも技術の力です。今回の悲しい経験によって、技術自身 も一段と強くなり、進歩していくはずです。 また、魔法のようにある日突然、 夢を現実にかえることは出来なくても、その基になる地盤をしっかりと踏み固 め、その上に花を咲かせる地面を作るのも、技術開発の大切なところだと思い ます。

技術の進歩と言うのは、実はとても地道で、地味なものなのかも知れません。 だからこそ大切に、あきらめず、少しずつ積み上げていかなくてはいけないも のなのかも知れません。

さて、ひとつずつ技術を積み上げて進んできた ICOTのプロジェクトも、いよ いよ終わりに近付いて来ました。ICOT研究所は、予定通り 3月末にクローズし ます。残る期間も 2ヶ月をきり、研究員もサポート部隊も、最後のまとめに忙 しい毎日を過ごしています。

ICOTという母体がなくなった後、今まで築き上げてきた第五世代の技術は、 ICOTフリーソフトウェアは、一体どうなるのでしょうか...? そういう疑問を お持ちの方も多いと思います。今号の ICOT Todayをお読みになることで、そ の答え、あるいはヒントを得て頂ければ幸いです。

浪越徳子

それでは、ICOT Today 第 11号、最近の ICOT関連ニュースの Headlineからお 伝えします。


[ICOT TODAY HEADLINE]

1. FGCS'94 盛況のうちに終了

ICOT Today誌上でお伝えしてきました通り、ICOT最後の国際会議である FGCS'94を、昨年 12/13(火)〜16(木)の 4日間に亘って開催致しました。お蔭 様で予想を上まわるたくさんの方々にご参加頂き、参加者総数は 642名、その 内、海外からは 35名の方が参加して下さいました。

前半 2日間の成果報告会、後半のワークショップとも、特に海外からの参加者 の方々に好評で、皆さん楽しんで頂けたようなので、関係者一同喜んでいます。 参加状況は以下の通りご報告致します。

                         =====================
                          FGCS'94 参 加 状 況
                         =====================

              12/13登録   12/14登録   12/15登録   12/16登録    合   計
--------------------------------------------------------------------------
賛助会員等     260 (23)     60 (0)     67 (1)     12 (0)       399 (24)

学      生      50 ( 3)     12 (0)     33 (0)      4 (0)        99 ( 3)

一      般      19 ( 4)      6 (1)     16 (3)      1 (0)        42 ( 8)

プ  レ  ス       6 ( 0)      0 (0)      0 (0)      0 (0)         6 ( 0)

ICOT研究員他    85           8          3          0            96
--------------------------------------------------------------------------

合      計     420 (30)     86 (1)    119 (4)     17 (0)       642 (35)

                                            (注):( )内は海外参加者

                   =================================
                    FGCS'94 ワークショップ 参加状況
                   =================================

     ワークショップ名                                      参加者数
--------------------------------------------------------------------------
W1: Parallel Logic Programming                                 83

W2: Automated Theorem Proving                                  51

W3: Heterogeneous Cooperative Knowledge-Bases                 116

W4: Fusion of Molecular Biology and Knowledge                  53
           Information Processing
W5: Application of Logic Programming to Legal Reasoning        55

W6: Parallel and Distributed LSI-CAD                           61
--------------------------------------------------------------------------
       合         計                                          419

                                (注):複数のワークショップ参加者を含む

なお、FGCS'94において発表された ICOT研究開発に関する論文は、WWWのICOT ホームページ、Proceedings of FGCS'94にてご覧頂けます。どうぞ http://www.icot.or.jp にアクセスしてみて下さい!

その中の内田研究所長の論文をお読みになると、後継プロジェクトの研究開発 内容とともに、第五世代技術の今後の方針についてご理解頂けると思います。 この ICOT Todayでも、第五世代技術や ICOTフリーソフトウェアが、ICOT解散 後どのような運命をたどるのかについて、内田所長に簡単にお話して頂きまし た。そちらも是非お読み下さい。(記事 No. 11-1)

2. 最後の KLIC講習会 九大で開催

1/23(月)、24(火)と、九州大学において最後の KLIC講習会が開催されました。 受講者の方々は学生さんを中心に、計 31名にのぼりました。

平成 5年 12月に東京をスタートして全国をまわり、米国オレゴン大学まで出 張した KLIC講習会。どの会場でも、皆さん KLICにとても興味を持って下さり、 熱心に講習を受けていらっしゃいました。第 8回目の今回で講習会は終了しま すが、今まで講習会に参加して下さった方が、今度は KLICを広めて下さると いいな、と担当者一同望んでいます。(記事なし)

3.ICOTの研究論文、研究報告が CD-ROMにまとまりました!

FGCS'94に参加頂いた方にはご案内しましたが、ICOTの発足時から今日までの すべての研究論文 (TR)、研究速報 (TM)(約 2,100件)を、この度 4枚の CD-ROMにまとめました。

CD-ROMは、ISO-9660でフォーマットされており、各論文/速報の本文はイメー ジデータ (GIF形式)で、表題や著者名等の関連情報は CSV形式およびプレーン テキストで格納されています。

当初は、FGCS'94参加者の皆様に限定配布させて頂く予定でしたが、会議に参 加出来なかった方からも是非、というご希望がありまして、今回、若干刷り増 しをして、FGCS参加者以外の方にも無料で配布させて頂くことになりました。 といいましても数に限りがあり、期限を過ぎてのお申込分は有料とさせて頂き ますので、この機会に是非お申込み下さい。下記の要領でお願い致します。 (記事なし)

                               記

1. 申込方法:	以下の申込書に必要事項をご記入の上、メイルにて
                irpr@icot.or.jp 宛にお申込み下さい。

2. 費    用:   無料

3. 締め切り:   平成 7年 2月 28日(火)

4. 発送時期:   まとまり次第、発送させて頂きます。

ICOT-Web読者のために増刷しました。お申し込みについての詳細はこちらをご 覧下さい。

4. ICOT紹介ビデオで、最新応用システムを肌で感じてみませんか ?!

TR, TMの CD-ROMと同じく、FGCS'94参加者の方々にはご案内しました通り、 ICOTの研究開発状況を紹介するビデオ「第五世代コンピュータ技術」を作成致 しました。

このビデオでは、並列推論マシン PIM、および汎用計算機上の KL1言語処理系 KLIC、また、代表的な応用システムの最新版について紹介しています。それら のシステムの動作状況をランタイム・モニタの画面を用いてビジュアルに表示 することで、数百台のプロセッサ上で具体的に動作するところが実感でき、単 なる説明ばかりではなく、楽しみながら見て頂けるようになっています。新し いコンピュータ技術の学習用、教育用などにも最適だと思いますので、是非ご 利用下さい。

ビデオは全体で約 35分、解説は日本語です。また、形式は VHSです。

こちらも CD-ROMと同じく、今回、ICOT Today読者の皆様に限定無料配布を致 しますので、下記の要領でお申込み下さい。(記事なし)

                               記

1. 申込方法:	以下の申込書に必要事項をご記入の上、メイルにて
                irpr@icot.or.jp 宛にお申込み下さい。

2. 費    用:   無料

3. 締め切り:   平成 7年 2月 28日(火)

4. 発送時期:   まとまり次第、発送させて頂きます。

ICOT-Web読者のために増刷しました。お申し込みについての詳細はこちらをご 覧下さい。

5. さよなら PIM

FGCS'88で公開した ICOTのデモ・ビデオの中で、当時の瀧室長(現神戸大学助 教授)が Multi-PSIを指さしながら、

「私の可愛い息子のようなものです」

とおっしゃっていました。息子のように可愛い ? よく言うことをきく ? 時に はだだをこねる ? ...そんなにまで愛着のあるこの四角い箱は一体なにものな んだ ?!?! ICOTに入りたてでこのビデオを見た私は、このセリフを聞いてそう 思ったものです。あぁ、あの頃は若かった...(そうでもないか...:-))

その Multi-PSIを雛型として、さらに研究開発を進め、幾多の苦難を乗り越え て ? FGCS'92で稼働、公開に漕ぎつけた、ICOTの最終目標マシンが PIMでし た。このPIMを使って、ICOTの並列定理証明器は世界最高の処理速度を達成し ました。

ICOTの研究員やメーカの方々が心血を注いで作った PIMたちですが、彼らも ICOTでの役目を終え、今度は学生さんたちや大学の先生方の研究に役立つよう にと、様々な大学へ旅立つことになりました。

現在、東大、北陸先端大、京大、九大、国立科学博物館等へと送られ、それぞ れの場所で、次の世代を担う研究者、技術者の育成にもうひと頑張りすること になりました。(記事なし)

では、Headlineでご紹介した中から、今号は以下の記事をお届け致します。


ICOT無償公開ソフトウェア(IFS)の育成とネッ トワーク上の仮想研究所

ICOT研究所長 内田 俊一

1. 研究基盤化プロジェクトもいよいよ終了

第五世代コンピュ−タプロジェクトの後を受けて開始された「研究基盤化プロ ジェクト」も、最後の年に入りました。

その技術目標である汎用マシン上のKL1処理系KLICの開発と、それを使って並 列処理や知識処理のツールや応用ソフトウェアを、Unix環境へ移植する作業も 順調に進んでいます。KLICは、すでに、ほとんどのワークステーションや一部 のパソコン上で動作可能となり、さらに、国産機を含む市販の並列マシンへの 移植も急ピッチで進められています。また、その普及のための活動も、KLIC講 習会や大学での講義など精力的にこなしました。その努力のかいもあって、 KLICユーザは、国内、海外ともに急速に数を増やし 500人を越え、そろそろ 1000人に手が届くところかと思います。

市場のコンピュ−タ技術も、並列・分散処理技術を主流とする時代を迎え、並 列サーバやネットワークが頻繁に話題となっています。このような追い風を受 け、ICOT無償公開ソフトウェア(IFS)の利用者数も順調な伸びをみせています。 このようにして、「研究基盤化プロジェクト」は、当初の目標を達成し、最後 の無償公開ソフトウェアを公開したのち、平成7年3月をもって終了できる見通 しが立ちました。

それとともに ICOT研究所も、研究員がそれぞれの出向元に帰ったり、大学へ 移ったりし、クローズします。では、ICOT研究所がなくなったあと、第五世代 技術は、どのようにして存続していくのでしょう?

第五世代技術の中核は、ICOT無償公開ソフトウェアとしてまとめられ、公開さ れています。とはいえ、ソフトウェアは誰かによって保守され、かつ、改良さ れていかなければ、すぐに死んでしまいます。また、ICOT内に蓄積されている マシン類や研究ツールに関するノウハウ、また、資料化されていない知識など は、どうなるのでしょうか?

これらの問題は、研究基盤化プロジェクトの成功の見通しが立ち、市場の技術 が急速に並列・分散処理に向い、第五世代の技術が大いに役立ちそうな状況が 明確になってくるとともに、重要な検討課題となりました。

第五世代プロジェクトは、この13年間、大規模並列処理技術と知識処理技術を 結び付けた新しいコンピュ−タ技術を求めて、ひたすら努力を重ねてきました。 このような努力をしたプロジェクトは、世界広しといえども他にはありません。 市場のコンピュ−タ技術の主流が、並列・分散処理を中心に据えたものとなっ た現在、第五世代技術は、時代を先取りしたメジャーな技術になったといえま しょう。

2. 第五世代コンピュ−タ技術のさらなる普及と育成

このような背景から、ICOT研究所がなくなった後も、第五世代技術をさらに普 及させ、将来のコンピュ−タの中核技術に育て上げるような方策を考えてみま した。

具体的には、IFSの保守と改良が、まず挙げられます。KLICのような、大勢の 人に使われ、土台となるソフトウェアの保守と改良は、是非ともやらなければ ならないものです。そして、その他のソフトウェアも、いろいろな場所で研究 ツールや研究材料として使ってもらうために、保守や改良が必要です。

たとえば、知識表現言語 Quixoteは新しい知識表現言語として注目され、法律 の知識表現などの研究ツールとして使われ始めています。しかし、Quixoteは、 KL1と比べれば生まれてからまだ日も浅く、その仕様や実装方法など今後も研 究すべきことは多々あります。ですから、保守の対象というより、まだ研究対 象であるといえましょう。同様のことが、そのほかの多くのIFSのソフトウェ アについても言えます。並列定理証明システムMGTPや法的推論システムnew Helic-IIなどです。

このように考えると、IFSとして公開されているソフトウェアは、ほとんどが、 多くの研究すべき点をもつ先端的なソフトウェアであり、多くの人に使って貰 うための保守とサービスを行なう一方で、何らかの形で研究が継続されること が望ましいわけです。完成度の高いKLICでさえ、そのコンパイラの最適化技術 などは、まだ研究すべき点が多々あるといえましょう。研究が継続できれば、 まだ書きものとしてまとめられていないノウハウや経験なども移転し、さらに 発展させる可能性が開けます。

3. コンピュ−タネットワーク上の仮想研究所

幸いなことに、このプロジェクトは、その研究開発に従事していた人の中から、 世界に通用するような多くの研究者や技術者を生み出しました。それらの中の 30名位の人は、大学に移籍して活躍しています。また、後継プロジェクトの終 了に伴い、新たに大学に移る人もいます。

このような人達に、ICOTで行なっていた研究を継続してもらったり、新たに IFSを発展させたり、また、IFSをツールとして使う研究を行なってもらうこと を考えました。ICOTで使っていた並列推論マシン(PIM)のようなツールも、そ のような大学へ移設して使ってもらえば、さらに多くの技術が移転できます。

これらの人々は、地理的には日本各地に散らばることとなります。しかし、今 やネットワークの時代。日本のコンピュ−タネットワークは、米国に比べ遅れ ているとはいえ、電子メイルやファイル転送による情報交換は自由にできます。 また、ネットワークの一部を強化すれば、マシンの相互利用も可能となるでしょ う。我々は、ICOTの中にいるときでさえ、電子メイルで用件を伝えあっている わけですから、お互いの距離が少し伸びたと思えばよいわけです。

そのように考えれば、親会社に復帰したICOTの研究員や海外の研究者も、IFS の保守と育成の事業に参加してもらうことが可能です。こうして、インターネッ ト上の拡大ICOT仮想研究所の構想が生まれました。

現在、少額の予算を要求し、ICOTで用いているIFSのファイルサーバや汎用並 列マシンの一部を維持し、IFSの配布センターを準備しようと考えています。 ここには、小人数のソフトウェア技術者もおき、KLICなどの保守作業やユーザ サービスなどの作業を行なうことを考えています。このセンターが、拡大ICOT 仮想研究所の「おへそ」ということになります。

ここは、仮想研究所に参加している人々が定期的に集まって、IFSの改良や拡 張に関する技術情報の交換や、IFSを種とする新たな研究についての議論をす る場所にもなります。予算の余裕があれば、研究テーマごとに、シンポジウム やKL1で書かれたプログラムのコンテストなどを開催してもよいでしょう。

このようなIFSの保守と育成の事業が実現することになったら、また、ICOT TODAYや WWWサーバによって、皆さんの協力と参加を呼びかけたいと思います。 その時には、また、ご協力をお願い致します。


[MESSAGE FROM THE EDITORIAL DESK]

ICOT Today 第 11号、いかがでしたか ?

次号は、以下のような内容を予定しています。

  1. 続・Quixote入門
  2. ICOT研究所クローズにあたって
ご期待下さい。

次号で ICOT Todayはひと区切り。IFSの育成や配布は今後も続きますので、ま た新たな Newsletterで皆さんにお目にかかることもあるかも知れませんが、 FGCS後継プロジェクトの ICOT Todayとしては、次号で最終号を迎えることに なります。

そこで、「ICOT 13年に何を想うか」あるいは「ICOT Todayへの感想」を募集 致します!!

募集といっても、主に私が読んで楽しみたいだけなのですが、:-) 他の皆さん にも読んでもらいたいな〜、というものがあれば、是非 ICOT Today最終号に 載せさせて頂きたい(匿名でも OK。載せる場合は必ず了解をとります。)と 思いますので、どしどしお寄せ下さい。(どんな内容でも熱烈歓迎!!!!!)

お待ちしております!


ICOT TODAY	Issue #11
  編集・配布	海外渉外広報担当グループ( IR&PR-G )
        内田俊一  相場 亮  成田一夫  兼子利夫  浪越徳子
        仲瀬明彦  白井康之  田中秀俊  坂田 毅
  発行    1994年 8月
        財団法人 新世代コンピュータ技術開発機構
        東京都港区三田 1-4-28 三田国際ビル 21F
        電話: 03-3456-3195	FAX: 03-3456-3158
        e-mail: irpr@icot.or.jp

www-admin@icot.or.jp