JIPDEC AITEC NEWS
News on FGCS Technology and related activities by Research Institute for Advanced Information Technology(AITEC), the successor of ICOT

February 12, 1999
Issue #21

目次

はじめに

「1999年」が明けて、早1カ月以上が過ぎました。世紀末だからでしょうか、
日本の経済がうまくいっていないからでしょうか、例年にも増して、さまざまな
思いを抱いて「1999年」を迎えられた方々が多かったのではないでしょうか。

さて、今年はどんな年になるのでしょうか。欧州では、ユーロが誕生し、欧州の
経済統合という新しい時代を迎えました。欧州統合とは比べものにはなりません
が、ここ、AITECでも、今年小さな局面を迎えます。

それは、主に大学への委託研究を中心に、4年間続けてきた第五世代技術普及振
興事業が3月末をもって終了することです。この委託研究の目的は、作成者本人
以外にもツールとして役立つソフトウェアの開発でした。しかし、わが国の大学
では、プログラムの作成は卒業論文や修士論文の副産物的な位置付けとされ、作
成した本人にしか使えないプログラムが多いという実情があります。

このため、委託研究の開始当初は、使用説明書の記述が不十分であったり、プロ
グラムの操作が複雑だったり、なかには動かないプログラムが納入されるという
こともありました。しかし、その都度、改善の要求を繰り返し徐々に作成者以外
にも使えるプログラムが増えてきました。

このような、「ソフトウェアを育てる文化」は、情報産業には必須です。また日
本の大学にはその文化を根付かせる努力がまだ必要のようです。

そんな中でAITECの委託研究は終了しますが、幸いなことに、第五世代コンピュ
ータ技術の一つであるKLICを中心に、「ソフトウェアを育てる文化」を育み
ながら、活動していこうという「KLIC協会」が誕生します。

21世紀には、高度情報化社会が到来します。そのような環境の中では、並列に
より速く、正確により知的な情報処理が求められ、それらを兼ね備えたKLIC
の重要性はきっと高まることでしょう。

「1999年」が欧州経済統合にとって、記念すべき年になったように、21世
紀から日本のソフトウェア産業を振り返った時に、一つの転換期になっている、
「1999年」をそんな年にしたいものです。

それでは、AITEC の活動をお伝えする、AITEC NEWS 第21号の Headline を
お知らせします。
                              (高橋 千恵)


【AITEC-NEWS HEADLINE】

1. 平成11年のAITECの活動について 新年を迎え、内田所長から今年度末に予定されている組織変更を含め、今年の AITECの活動と、今後についてご案内させて頂きます。                             (記事 No.21-1) 2. KLIC協会の設立について KLICや関連ソフトウェアの利用・保守・改良を行ないながら、さらなる発展を 目指すボランティア活動の中核組織として「KLIC協会」が設立されることにな りました。 どのような組織なのか、どのような活動を行なうのか、発起人代表の一人であ る、東京大学の近山先生に「KLIC協会設立趣意書」と共に、ご説明頂きました。 KLICやこのような活動に興味がある方など、是非皆さんご覧下さい。                             (記事 No.21-2) 3. 平成10年度委託研究成果報告会予告 今年も委託研究の成果報告会を行ないます。     日程:平成11年3月11日(木)、12日(金)        (11日夜に懇親会)     会場:芝パークホテル(東京都港区芝公園) 今回は最後の成果報告会であり、今年度はソフトウェアをより使いやすくする ためのブラッシュアップをお願いした委託研究も含まれ、最終的にどのような ソフトウェアが出来上がってくるのか楽しみです。是非、報告を聞きにいらし て下さい。 詳しいプログラムなどは、近日中に次号AITEC NEWS でお知らせします。 また、12日の17:00〜19:00には、同じ会場でKLIC協会設立総 会が行なわれます。KLIC協会にご賛同頂ける方、興味のある方などはご参 集下さい。                             (関連記事なし) 4. 第五世代デジタル・アーカイブについて AITEC NEWS本号にもありますように、平成10年度が終了する平成11年3月末を もってこれまで行っていたようなIFSの改良や拡張、大学への拡大IFSの開発研 究の委託、KLICコンテストのような普及活動は終了します。それに伴い、IFS や委託研究で作成いただいたソフトウェアなどを第五世代コンピュータ関連の 様々な資料と共に、「第五世代デジタル・アーカイブ」として公開する予定で す。 ソフトウェアにつきましては、まずKLICに代表されるような今後も皆様に維持・ 改良していただけるものと、そうではないが資料として価値があるものとに分 類します。前者につきましては出来れば研究を進めておられる皆様の方でソフ トウェアや関連のWWWページを公開していただき、このアーカイブからはそれ を参照するという方法が、最も良いと考えております。後者につきましては、 ICOTおよびAITECに蓄積されてきた写真や論文などと共に、ひとつの「資料」 として公開するつもりです。特に論文や写真につきましては皆様に簡単にご利 用いただけるようにすることも公開の目的のひとつです。 今後、ソフトウェアの維持・改良をしていただける研究グループの方々には、 順次メールでお願いすることになるかと思いますが、これまでIFSや委託研究 成果ソフトウェアをお作りいただいた方の中で、「私もソフトウェアを手元で 改良していきたい」とお考えの方はぜひAITECまでご一報ください。 3月末まで、現状のホームページからデジタル・アーカイブへの移行に伴いま して、いろいろとお願いすることもあるかと思いますが、ご協力のほど、よろ しくお願い致します。                               (相場 亮)                             (関連記事なし)

【THIS ISSUE'S ARTICLES】

1. 平成11年のAITECの活動について 先端情報技術研究所 内田俊一 平成11年も年が明けたと思ったら、早くも2月の声を聞くに至りました。 皆さんの多くが年度末に向けて仕事のピッチを上げておられることと思います。 先端情報技術研究所(AITEC)は、今年の3月末で、設立から4年度目を終えること となります。AITECは設立当初から4年を一区切りと考え、その活動計画を立てて きました。ということで、平成10年度は、これまでの4年間の活動をまとめると 共に、今後の研究所の存続を含めた役割や活動方針を再検討してきました。 これまでも御案内致しましたが、AITECは2つの事業を行い、このための種々の 活動を行ってきました。 一つは、わが国の情報技術、特にソフトウェア技術の「研究開発の仕組みや制度の あり方の調査研究」です。 これは米欧に比べ遅れをとっていると言われている情 報技術の開発や情報産業の国際的競争力の強化を意図したもので、わが国の仕組み や制度の改革すべき点を明らかにしその改革を提言しようとするものです。 二つ目は、第五世代コンピュータ技術の普及振興で、特にその主要な成果である ICOTフリーソフトウェア(IFS)の改良・拡張、さらに大学へ委託しての新たなIFS (拡大IFS)の開発、及びインターネットを利用したそれらの配布やKLICコンテスト などの広報活動などです。 一つ目の調査研究は、通産省の機械情報産業局に置かれた「わが国の国が支援する 情報技術開発のあり方の検討会」に、その議論の元となる基礎データを提供すると 共にその予備的検討など検討会の支援を目的としていました。 このための活動として、情報技術の分野でわが国に先行している米欧諸国の国が支 援する研究開発の仕組みや制度、さらに実施されているいろいろなプロジェクトの 技術動向などを調査してきました。 この結果、わが国の研究開発の仕組みや制度 が急速な技術進歩や社会制度の変化に対応できておらず、米欧に比べて大きな遅れ を取っていることが明らかとなってきました。 今年度はこのような米欧諸国の研究開発の仕組みや制度、運営方法についての調査 結果を参考として、わが国の研究開発のこれまでの足取りと現状の仕組みや制度を 調査、整理し、その問題点をまとめ、可能なものは改善策を提言する予定です。 これまでの調査結果は関連資料も含め報告書としてまとめ、その内容は当研究所の ホームページで公開しております。(http://www.icot.or.jp ) このような調査結果は、機械情報産業局に置かれた上記検討会へ議論のための基礎 データとして提供され検討会がまとめた報告書にも反映されております。 このような調査活動と並行して、平成11年度以降の技術調査事業をどのように 進めるかについての再検討も行われ、現在のところ、今後のわが国の情報技術開発 の計画立案や運営、重点技術分野などに関して、さらに具体性をもった調査を継続 して行うような方向で議論が進んでいます。 その一方で、第五世代技術の普及振興事業は、これまで行っていたようなIFSの改良 や拡張、大学への拡大IFSの開発研究の委託、KLICコンテストのような普及活動は 終了し、IFSや拡大IFS、第五世代技術関連の論文、資料などのインターネットでの 公開のみ継続する予定です。 しかし、幸いなことに、IFSの中核となるKLICや並列定理証明や法的推論などの 研究は大学へ移ったICOT OBの教授、助教授などの皆さんが中心となり、これに親元 のメーカに帰社した研究者も参加しボランティア的に継続、発展しております。 このほど、KLICの研究をリードしていた東大の近山先生が中心となり、KLIC協会と いうKLICを中心とする第五世代技術のさらなる発展を図ることを目的とする学術 団体が設立されることとなりました。 AITECの第五世代普及振興部は本年3月末を もって廃止となりますので、その後の普及振興活動はこのKLIC協会に実質的に引き 継いでもらう予定でおります。現在、AITECでは、IFSを始めとする第五世代プロ ジェクト関連の論文や資料を再整理するとともに電子化し、歴史的資料として公開 するための作業が進行中です。 汎用の超並列型のマシンは、当初の我々の予想より世の中への普及が遅れ、最近に なって、大学や研究所に導入されるようになってきました。 世の中のコンピュー タの利用形態もサーバ・クライアント型のシステムが主流となり、その中心である サーバとして、強力な超並列型マシンの需要が高まっています。 このような超並列型のマシン用の並列言語として、KLICは世界レベルで見ても数少 ない実用的なものの一つとなっており、やっと第五世代技術の実用化の時代が到来 したといえましょう。 AITECは、このKLIC協会の設立をバックアップしております。AITECは大学への委託 研究の発表会を例年通り3月11日(木)、12日(金)の2日間にわたり、芝パークホ テルにて開催しますが、KLIC協会の設立総会もこの2日目の3月12日(金)の夕方に 芝パークホテルで開催予定となっております。 KLIC協会は、ボランティア中心で活動し、大学、国研、産業界の研究者、技術者が 集い、KLIC及び関連する第五世代技術の改良、拡張、普及活動を行うことを目的と しています。会員の皆さんの貢献により、パブリックドメインソフトウェアである KLICをより強力で実質的なツールとすべく活動していくことが期待されます。 具体的には、本AITEC NEWSのKLIC協会へのお誘いの記事をお読みください。 以上のように、AITECの第五世代技術の普及振興業務はIFS配布程度となり、その実 際的な普及振興はKLIC協会へ引き継がれることとなります。 引き続き皆様のご援 助、ご協力をお願いします。 このようにして、AITECは今後は技術調査事業を中心とするよりコンパクトな研究所 となります。 今、わが国は省庁の改編などを含め、その組織も大きな変革が計画 されており、その技術開発も従来の護送船団方式が時代遅れとなり、米国流のオー プンでかつコンペテティブな競争型社会への変貌せざるを得ない状況となっていま す。 企業も従来の家族主義的経営から、米国流の経済重視の合理的経営に移行せざるを 得ない状況にあります。これまでの年功序列の制度や社員を家族の一員としてその 福祉や定年後の生活保障の一部までも引き受けていた従来の経営を根本から変え ざるを得なくなり、世界でトップクラスの製品を作れる企業だけが生き残れるという 厳しい状態となります。 このような状況では、国の果たす役割も大きく変わり、大企業重視の政策から、 ベンチャー企業や新技術をもった中小企業を支援し、新産業を育成するとともに、 大学においても起業家精神を持った学生を育てることが求められます。 このような時代の節目にあたり、AITECは、政府と産業界の狭間に位置していること から、その間の円滑な意志の疎通を促進し、政府と産業界の新しい関係を構築し、 情報産業の発展に寄与するような有用な情報提供や提言を行っていきたいと考えて おります。 皆様のご援助、ご協力のほど、いつもながらお願いする次第です。 2. KLIC協会の設立について 東京大学 工学系研究科 電子情報工学専攻 近山 隆 第五世代コンピュータ・プロジェクトにおいて設計された並行並列論理型プロ グラミング言語KL1は、並列推論マシンPIMなどのプロトタイプ・ハードウェア 上の処理系開発、その上での実験的応用ソフトウェアの研究開発などを経て磨 かれ、第五世代コンピュータの基盤化プロジェクトでは汎用並列マシンをター ゲットとした処理系KLICが開発されて、今日ではICOTフリーソフトウェアをは じめとする多くのソフトウェアシステムのベースとして、また知識処理システ ムの基盤となる並列記号処理システムの研究の題材として、国内はもちろん海 外の研究者にも広くお使いいただいています。 内田所長による記事「平成11年のAITECの活動について」にもありますように、 このたびAITECの第五世代技術の普及振興業務がIFS配布程度に限定されること になりました。このため、KL1やKLICの研究・開発に携わってきた私どもとし ては、せっかく広がった研究コミュニティの中心となる組織がなくなることに 危惧を感じてきました。 そこで、KLICの保守・改良にあたってきたグループのメンバーで相談してきた 結果、このたびKLICや関連ソフトウェアの利用・保守・改良を行ないながら、 さらなる発展を目指すボランティア活動の中核組織として「KLIC協会」の設立 を提案させていただくことになりました。この間AITECの皆様にはさまざまな 相談にのっていただきましたが、このAITEC NEWSにその設立趣意書を掲載させ ていただけることになりました。 AITECの平成10年度委託研究成果報告会と日程を合わせて、来る3月12日の 17:00より、委託研究成果報告会と同じ会場の芝パークホテルにおいて、 このKLIC協会の設立総会を開催する運びとなりました。このKLIC協会はKLICの 保守・改良のみにとどまらず、KL1やKLICの利用者と開発者が出会い、交流し ていく場として、研究および利用のコミュニティを拡げていく原動力となれれ ば、と考えております。下掲の趣意書をご一読いただき、その趣旨にご賛同い ただける皆様のKLIC協会への幅広いご参加をお願い申し上げる次第です。 なお、KLIC協会は当分のあいだ、会費は無料とし、純粋なボランティア組織と して運営する予定でおります。入会の資格も、協会の活動にご協力いただける ことだけが条件です。近くKLIC協会のウェブページも www.klic.org (ドメイ ン名は取得済) に用意する予定でおり、さまざまな連絡はこのページあるいは 電子メイルのメイリングリストを通じて、電子的に行なっていくつもりでおり ます。 この件についてのお問い合わせは、下記までお寄せいただければ幸いです。     近山 隆     東京大学 工学系研究科 電子情報工学専攻     電話 (03) 3812-2111 内線 6658     ファクス (03) 5802-3332     電子メイル chikayama@logos.t.u-tokyo.ac.jp -------------------------------------------------------------------------             KLIC協会設立趣意書                     発起人代表   渕 一博                             内田 俊一                             近山 隆 人間の知的活動の様々な局面において計算機システムによる支援が実現しつつ ある時代を迎え、知識処理の重要な一側面である記号処理に対する機能・効率 両面からの要求は急速に高まりつつある。一方、並列計算機やネットワークの 普及は実際に高機能・高性能な記号処理システムの構築を可能にしている。こ のため、記号処理のための記述が容易で効率の高いプログラミング言語および その処理系の必要性はますます高いものになってきている。 並行並列論理型言語KL1は、(財)新世代コンピュータ技術開発機構(ICOT)を中 心に実施された「第五世代コンピュータ・プロジェクト」において、こうした 要請に応えるべく設計されたプログラミング言語である。その汎用機上の処理 系KLICは、その後の「第五世代コンピュータの研究基盤化プロジェクト」にお いて開発され、フリーソフトウェアとして公開されている。知識処理技術の重 要性が高まる中で、KL1とKLICは、徐々に、しかし着実に研究者社会に浸透し てきており、今後のプログラミング言語研究および各種応用分野において、こ の言語および処理系の持つ役割は拡大しつつある。KLICはその効率・記述力・ 移植性などから、今後のより高度なソフトウェアのインフラストラクチャとし て重要なものとなりうる。 KL1およびKLICの円滑な発展のためには、研究者・技術者・利用者間が連携し、 利用経験や関連研究成果を集約し、言語や処理系の整然とした改良・保守・普 及の中核となる機関の存在が望ましい。ICOT解散後今日に至るまで、(財)日本 情報処理開発協会 先端情報技術研究所(AITEC)が、第五世代技術の普及振興事 業の一環として改良・普及活動を実施し、KL1およびKLICについての研究・利 用コミュニティの中核的役割を果たしてきたが、この活動は今後ICOTフリーソ フトウェアや第五世代プロジェクトの技術資料の配布に限定されたものとなる。 そこで、研究・利用コミュニティの新たな中核となり、KL1とKLICの普及とさ らなる発展の中心とすべく「KLIC協会」の設立を提案する。KLIC協会は、会員 相互の協力を通じたKL1言語とKLIC処理系の改良・保守・配布を行なうと共に、 研究会やセミナーの開催などを通じた言語・処理系・利用の新たな技術の交流 や新たな利用者への教育など、会員の諸活動を支援する活動を企図している。 KL1言語とKLIC処理系の研究者、技術者および利用者諸氏の参加と協力を、こ こに呼びかけるものである。

編集後記

以上、AITEC NEWS 第21号、いかがでしたか? 上記でお知らせした通り、第五世代技術普及振興部がこの3月で終了します。 そのため、年度末の仕事に加えて、マシンの移動、不要物品の処分、部屋の明け 渡しのための作業など、例年の年度末に輪をかけて、大ワラワ (@_@;;) です。 第五世代技術普及振興部の活動もあと2カ月ばかりとなりましたが、今年度の委 託研究の成果物の公開、成果報告会の開催、KLIC協会の誕生、第五世代技術 の記録の公開など、重要な仕事が山積しています。いろいろご協力をお願いする 向きもあると思いますので、最後までよろしくお願い致します。 また、近日中にAITEC NEWSで成果報告会の詳しいプログラムなどをお知らせしま す。お楽しみに。(^^)/~ ☆*********************************************************************☆    AITEC NEWS Issue #21    編集・配布 AITEC NEWS編集グループ      佐藤真紀子  高橋千恵  相場 亮  河西和美      武田 浩一  鳥居良春  佐藤 博  内田俊一    発行 1999年2月12日       財団法人 日本情報処理開発協会 先端情報技術研究所       東京都港区芝2丁目3番3号 芝東京海上ビル2F       TEL  :03-3456-3191  FAX  :03-3455-4877       e-mail: aitec-news@icot.or.jp       URL  : http://www.icot.or.jp ☆*********************************************************************☆

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