JIPDEC AITEC NEWS
News on FGCS Technology and related activities by Research Institute for Advanced Information Technology(AITEC), the successor of ICOT

November 26, 1997
Issue #14

[目次]

[はじめに]

  秋も深まってきました。

  秋は、「食欲の秋」、「読書の秋」、「紅葉の秋」、「行楽の秋」と日本では
さまざまな言い方がありますが、その中で一番よく耳にされるのが、「実りの秋」
だと思います。

  春に撒かれた種が暑い夏を越えて、秋に実りをもたらす時、それは人々に大き
な喜びを与えます。

  最近、「ICOT OBの先生方の研究提案が政府支援の提案公募型研究に採択された!」
というニュースが次々にAITECに飛び込んできています。これらも第五世代技術の
一つの「実り」と言えるのではないでしょうか。

  そこで今回の AITEC NEWS では、政府支援の提案公募型研究に採択された ICOT 
OB の先生方の研究や成果を報告し、皆さんと共に、この「実り」の喜びを分かち
合いたいと思います。どうぞ、お楽しみ下さい。

  それでは、AITEC NEWS 第14号のHEADLINEをお伝えします。

                                                            (高橋 千恵)

【AITEC-NEWS HEADLINE】

1. KLICプログラミング・コンテスト終盤に突入 平成9年度の当コンテストもプログラムの応募を締め切り、いよいよクライマック スを迎えようとしています。今年度は、課題を発表した後、昨年に比べて「難しい」 とのご意見を各方面からお聞きしております。今年の課題作成に当たっては「KLIC の普及の段階から、一歩踏み込んだ課題にしよう」との方針を委員会で決めた結果 なのですが、普及という面からは参加者の多い方が望ましいわけで、来年度は再度 検討することになるでしょう。 このような状況で、実際に応募いただいた作品数は昨年と比べると大部少なくな りました。しかし作品は、いずれも高水準の作品ばかりだと、動作確認担当者の声 が聞こえてきます。これから各部門毎の審査担当委員による評価を行ない、受賞候 補作を選定し、12月中旬に予定されている委員会にて受賞作が決る事になっており ます。どうぞ、お楽しみに。 入選作品は決まり次第、今年も「KLICプログラミング・コンテストサイバー表彰 式」で発表致します。是非ご覧下さい。 URL: http://www.icot.or.jp/ (金田喜代史) (関連記事なし) 2. 第五世代プロジェクトで活躍した研究者、国の提案公募型研究でも活躍 ! 最近、文部省のほか通産省などの各省庁やその関連機関で、提案公募型の研究 制度が盛んになってきました。これらは、予算額も、1億から3億円と通常の大学 における一つのプロジェクトの予算としては大きいものとなっています。研究期 間は2年-3年と比較的短期間ですが、研究テーマを研究者側から提案できることか ら、人気の高い制度となっています。応募資格は制度により、大学や国公立研究 所の研究者に限るものや、これらの研究者とメーカの研究者がグループを作って 応募することを条件とするものなど、制度によって異なります。どれもが、競争 率は高く、10倍以上のものがほとんどと聞いています。 このような高い競争率の中、ICOT OBの先生やメーカの研究者、海外の協力者が グループを作り提案した研究テーマがいくつも採択されています。現在までに、 AITECの把握している限りでは、4件になりました。 採択時期の早い順序に並べると以下のようになります。 1)神戸大学の瀧和男先生のグループが、新エネルギー・産業技術総合開発機構 (NEDO)の平成7年度提案公募型・最先端分野研究開発において、「並列処 理を活用した省電力LSI向け設計自動化ソフトウェアの研究開発」という テーマで応募し採択。研究期間は平成7年11月より平成9年3月。 (記事 No.14-1) ) 2)岡山県立大学の横田一正先生(平成9年4月京都大学より移籍)が、文部省 の科学研究費重点領域研究の「メディア統合および環境統合のための高機能 データベースシステムの研究開発」という領域研究ににおいて、「エージェ ント型データベースシステムの研究開発」という研究テーマで京都大学神林 先生を重点代表者とするグループに加わり応募し採択。研究開始は平成8年4 月より。 3)東京大学の近山隆先生がリーダとなり、早稲田大学 上田和紀先生、三菱総合 研究所 藤瀬哲朗氏、 NEC情報システムズ 稲村 雄氏 、ブリストル大学 Steve Gregory氏, Rong Yang氏など、ICOT OB、および協力者を含むグループを作り、 情報処理振興事業協会「創造的ソフトウェア育成事業」に応募し採択。研究 テーマは「統合並列処理技術の開発」。研究開始は平成8年10月より。 (記事 No.14-2) ) 4)九州大学の長谷川隆三先生がリーダとなり、東京工業大学 新田克己先生、 九州大学 藤田博先生、神戸大学 井上克已先生、三菱総合研究所 白井康之氏、 ドイツのカールスルーエ大学のReiner Haehnle氏など、ICOT OBや協力者を 含むグループを作り、情報処理振興事業協会「高度情報化支援ソフトウェア 育成事業」に応募し採択。研究テーマは、「定理証明技術を応用した高度論 証支援システムの開発」。研究開始は、平成9年10月より。 (記事 No.14-3) ) これらの研究は第五世代プロジェクトで培った研究を基盤として、さらに発展さ せる内容のものが多く、第五世代コンピュータ技術の普及振興事業を実施している AITECとしては、大変うれいしいニュースです。このような提案公募型研究の成果が、 さらに発展を遂げ、日本の情報技術研究や産業のレベルアップに貢献することを切 に望むところです。 今回は、これらのうちの3件について、その研究実施状況や採択されたことにつ いての感想などを代表者の先生や研究者の方に書いて頂きました。 (記事とりまとめ: 内田俊一) 3. 慶應義塾大学で第2回「IFS講習会」開催 平成9年10月22日(水),23(木)、慶應義塾大学理工学部、矢上校舎にてKLICを中心 とした「IFS講習会」を開催いたしました。昨年に続き2度目の講習会でしたが、 学内外から30名程の参加がありました。 当日は2台のノートパソコンを持ち込み、携帯用PCプロジェクタに接続して従来 のOHPと兼用して講義を行ないました。 またノートパソコンから携帯電話を介して、AITEC内の並列マシンに入り、「並列 反復改善法を用いたアミノ酸配列のマルチプルアライメント」のデモも行ないました。 ノートパソコン上のアライメントワークベンチからリクエストを出して、並列マシン から返されてくる計算結果を随時表示したのです。 このようなデモのやり方は、「IFS講習会」としては初めての試みでもあり、事前 準備にかなりの工数をかけてデモが可能かどうかのチェックを致しました。 結果的には、携帯電話を用いた細い線を用いたデモでも、充分可能な事がわかり ました。参加者から積極的な質問も出て、盛況のうちに講習会を終えることが出来 ました。 講習会スケジュールは以下の通りです。 22 日 (水): 13:30 IFS について AITEC 相場 亮 13:50 IFS デモ - 遺伝子情報処理 - 情数研 田中 令子 < break > 14:45 KL1 入門 東京大 近山 隆 < break > 16:45 KLIC の使い方 MRI 白井 康之 23 日: (木) 13:00 KLIC プログラミング (1) 九州大 越村 三幸 (演習の出題も含む) < break > 14:30 KLIC プログラミング (2) MRI 藤瀬 哲朗 15:30 演習 16:30 クロージング 今後も、「IFS講習会」は続けてまいりますので、開催ご希望の場合には、 kaneda@icot.or.jp までメールで、または、 03-3456-1618 (担当:金田) までfaxでお問い合わせ下さい。 (関連記事なし) 4. 「平成9年度委託研究」決定 平成7年度からAITECが実施している並列処理/知識処理に関するソフトウェ アの研究開発を大学の研究者にお願いしております委託研究の平成9年度分が 決定しました。 今年度は、昨年度までと異なり、より多くの研究者の方にこの機会をご利用 いただき、ソフトウェアの研究開発を行なっていただくために、海外の大学に 向けても募集を行ないました。 その結果、日本を含め、6ヶ国の35人の方から37件のご提案をいただき ました。審査は、昨年度までと同様、外部査読者による査読に基づいて審査委 員会において実施しましたが、これまでにない激戦となり、審査委員会におい ても採否を巡り、慎重な議論が行なわれました。 最終的に、日本、アメリカ、イギリス、フランス、オーストリア、オースト ラリアの6ヶ国の19件のプロジェクトが採択となりました。これまでにない 多彩な顔ぶれとなり、昨年度まで以上の成果が期待されます。 また、平成8年度からは同じく審査の結果、3件が継続と決定し、今年度は 合計22のプロジェクトに研究開発をお願いすることとなりました。 それぞれのプロジェクトの詳細については、AITECのWWWページ (http://www.icot.or.jp/AITEC/FGCS/funding/itaku-H9-index.html")をご覧 ください。 (相場 亮) (関連記事なし) 5. KLIC 「3.002版リリース」 & 「東大にミラーサイト開設」のお知らせ KLIC3.002版 がリリースされました。このバージョンは基本的に3.001版の バグフィックス版になっています。 以下のURLにKLIC3.002版は置かれています。 ftp://klic.icot.or.jp/pub/klic/v3.0/klic-3.002.tgz (一次サイト) klic.tgz ftp://ftp.logos.t.u-tokyo.ac.jp/klic/klic-3.002.tgz(ミラーサイト) klic.tgz /pub/klic/v3.0/klic-3.002.tgz (ミラーサイト) klic.tgz この版から、配布サイトが変更になり、また数も増加しました。特に日本の 大学関係の方は、SINETに接続されているftp.logs.t.u-tokyo.ac.jpからftpする ことをお勧めします。 注意: 共有メモリ版では、依然として致命的なバグがあります。よって、 以前の版(2.00x版)の共有メモリ版をお使いの場合には、この版へ updateしないようにしてください。 (関田 大吾(KLICタスクグループ, 三菱総合研究所)) (関連記事なし) 6. AITECのWWWページの改修 AITECのWWWページの構成を大幅に変更しました。 いつもご覧いただいておりますAITECのWWWページも大変に複雑な構成となり、 URLも長くなってご迷惑をおかけしておりましたが、今回、構成を手直しする とともに、英語ページを中心に充実を図りました。それに伴い、AITECのWWW ページへリンクを張っていただいている方は、これまでのURLは多くの場合 変更になりますので、ご面倒ですが、新しいURLにお直しください。その際、 新しいページのURLがご不明の場合には、私共(www-admin@icot.or.jp)にまで お問い合わせください。 (相場 亮) (関連記事なし) ========================================= T H I S I S S U E ' S A R T I C L E S ========================================= -------------------------------------------------------------------- 1. 国の提案公募型研究制度の実施と、ICOT OBやICOT関係者の活躍レポート -------------------------------------------------------------------- 最近、文部省のほかにも通産省、科学技術庁などの省庁やそれらの関連機関が提案 公募型の研究制度を実施しています。 最近、注目されたものは国の補正予算をもと にした公募型研究です。 特に、一研究テーマあたりの予算額が一億円以上であり、 大学等とともに会社も応募できるものもあり、注目を集めました。 投資分野としては、従来の公共事業にかわり、情報通信の分野が今後の我が国の重 点投資分野であるとの認識が強まり、大学や国研、情報産業への投資が以前に比べ、 優先的に扱われました。この投資の一部は提案公募型の研究制度として運用され、多 くの大学やメーカの研究者、技術者が応募しました。 このようなオープンかつコンペテティブな提案公募型の制度は、欧米では普通に行 われているものの、我が国では大規模に行われたことはなく、今回の各省庁や関連機 関の実施した提案公募型研究制度は、今後の我が国の国の支援する研究開発制度の根 幹を変える試金石になるものと考えられます。 この提案公募型研究制度に、ICOT OBやその関係者がグループを作り応募し、現在、 AITECが把握している範囲では、従来より行われていた文部省の重点領域研究も含め て、4件が採択されました。その概要は、HEAD LINEで、紹介した通りです。 ここでは、これらの公募に採択された先生方に、その研究テーマや研究の現状、提 案するにあたってのご苦労などを書いてもらいました。 これらの先生方の経験は、 後に続く皆さんの参考になることでしょう。 では、神戸大学 瀧先生、東京大学 近山先生、そして、九州大学 長谷川先生の3つ のグループの研究について、ご紹介致しましょう。制度や研究開始時期などは、HEAD LINEをご覧ください。 1)神戸大学 瀧先生のグループの研究紹介 a) 研究テーマ: 並列処理を活用した省電力LSI向け設計自動化ソフトウェアの 研究開発 b) 研究者: 瀧和男、沼昌宏,中條拓伯,八杉昌宏(神戸大学工学部) c) 研究期間: 平成7年11月から平成9年3月。 d) 研究の目標、背景など: 近年急速に普及し始めた携帯用情報機器がさらに高度化し発展するためには, 電力消費の極度に少ない高性能なLSIがなくてはならない.このようなLSIの実 現には,超低消費電力向きの新しい回路構成方式とともに,その回路方式に適 合した高性能な設計自動化ツールの研究開発が必要不可欠である. 本研究は,従来のCMOS技術では達成不可能な超低消費電力ディジタルLSIを実 現するための,高性能設計自動化ソフトウェアを研究開発するものである. 本研究による主な技術革新は次の2点である. 第1は,従来のCMOS LSIを置き換えるだけの,超低消費電力特性を有するLSI (電力削減率 75\%〜90\%,従来比)を設計可能にすることである.提案者らは, 近年注目されているパストランジスタ論理を改良した新方式(SPHL)により,目 標とする低電力特性がほぼ得られることを実験的に確認した.ところがパスト ランジスタ系論理は人手設計では満足な設計結果が得られず,計算機による高 度な設計支援が必須となる.本研究では,上記SPHL方式の低電力特性を最大限 に引き出すべく,論理合成とレイアウトを一体化した新手法に基づく設計自動 化ソフトウェアを実現することで,先に述べた第1の技術革新を可能にするも のである. 技術革新の第2は,上記設計自動化ソフトウェアを並列計算可能なソフトウェ アとして実現し,並列計算機を利用することでLSI設計期間の飛躍的短縮を可 能にすることである.従来この種のソフトウェアは,並列実行で高速化するこ との難しさが指摘されてきた.本研究では,第五世代コンピュータプロジェク トの並列・並行プログラム技術を適用することで,並列度/スケジュール特性 /負荷バランスの向上による優れた高速処理性を実現し,上記第2の技術革新 を可能にするものである. 本ソフトウェアは,製造に必要な情報をすべて含んだLSI設計結果を出力し, 評価と技術移転の容易さを実現する.また評価用LSIを設計・製造し本ソフト ウェアの機能と性能を確認する. e) 採択の感想や研究成果など: 通常の研究予算に比べて額が二桁ほど大きいので,普通なら学科か学部単位 でなければ購入不可能な高額の並列計算機を導入することができ,本テーマ を含めて三つの異なる研究テーマにおいて貴重な研究道具としてフル稼働さ せている.当研究室の研究活動にとって,時期的にもジャストフィットのた いそう有難い研究公募であった. LSI設計に関する研究は,長年関心を持ちながら取り組めなかったテーマであ ったが,ICOT在籍中の1988年から,LSI設計自動化(LSI CAD)の並列処理を手 始めとして徐々に研究をスタートする好運に恵まれた.神戸大に移ってからは CADだけでなく,ようやく実物のLSI設計に携わるチャンスがめぐってきた.低 消費電力LSI設計技術は,シャープにいる大学同期の人間がしきりと勧めること から,それならということで勉強を始めたものが本格的な研究に発展したもの である. 低消費電力LSIの技術もその設計自動化ソフトウェアも,まったくのゼロから の出発と未知への挑戦であったが,ICOTでたたき込まれたパイオニア精神に よって、再び大いなる活躍の場を得ることとなった.先端のハード技術とその 設計を支える並列ソフト技術の開発という構図は,今から思えばミニICOTプロ ジェクト的に見えなくもない. 評価用LSIとして試作したのは,市販の標準的組み込み用8ビットマイクロプロ セッサ(ザイログ社Z80)と外部仕様完全互換,内部構造は低消費電力向きに 完全新規設計というものになった.開発したソフトウェアを用いて全体の6割 強を設計し,ソフトウェアの機能・性能を確認した.試作LSIの処理速度は市販 品と同等でありながら,消費電力は市販品の約4分の1に低消費電力化するこ とに成功した.このLSIは,現在最先端プロセスで再設計中であり,年末には 携帯電話等の組み込み用途向けにシャープから製品化される予定である. ICOTの余勢を駆って1年半で駆け抜けたミニプロジェクトであったが,十二分 にエンジョイさせていただいたように思う.感謝! 2)東京大学 近山先生のグループの研究紹介 a) 研究テーマ: 統合並列処理技術の開発 b) 研究者: 近山 隆 (東京大学)、村尾 裕一 (東京大学)、小林 英恒 (日本大学)、 上田 和紀 (早稲田大学)、仁木 直人 (東京理科大学)、 稲村 雄 (NEC情報システムズ)、藤瀬 哲朗 (三菱総合研究所)、 Steve Gregory, Rong Yang (ブリストル大学) c) 研究期間: 平成8年10月から平成10年2月。 d) 研究の目標、背景など: これまでに実用化されている並列計算機システムの多くは、データ並列処理技 術を中心に設計されおり、タスク並列処理に基づくものは実験機が中心であっ た。高性能の並列処理を行うためには、両種の並列処理を統合し、相互の欠点 を補い長所を引き出す必要がある。本提案では、データ並列実行とタスク並列 実行の統合処理を効率よく行うために、その間の「同期機構」と「データ受け 渡し機構」に関しての言語機構の構築と実装技術の構築を行う。 具体的には、第五世代コンピュータプロジェクトで設計された並行並列論理型 言語KL1をコーディネーション言語 (他の言語などで記述されたソフトウェア 間の連携をとり協調動作させる役割を負う言語) として用い、FortranやCなど で記述されたデータ並列処理プログラム間でタスク並列的な協調動作を させる。 このために、第五世代コンピュータの基盤化プロジェクトで開発されたKL1の 汎用計算機上の処理系KLICに拡張を施し、要素を分散配置した配列を論理的に 単一の配列として扱い、必要に応じて自動的に要素の再配置等を行なう機構、 それらを用いた他言語ルーチンによる処理を並列に行なう機構、このような処 理を効率的に自動負荷分散する機構を開発する。また、構築した機構を実際に 適用して大規模組合せ最適化、大規模数式処理の応用ソフトウェアを開発し、 機構の妥当性・効率性を検証する。 e) 採択の感想や研究成果など: 第五世代コンピュータプロジェクトで開発された諸技術は、プロジェクトの目 的であった知識情報処理システムの構築以外の局面にも広く適用できるものが 少なくない。本プロジェクトもKL1の柔軟な並行処理記述機能に着目してその 拡張を目指すものであり、第五世代コンピュータプロジェクトにおいてKL1, KLICの設計・開発にあたった研究者たちを中心に、その技術の可能性を認めた 他の研究者たちと共に提案したものである。 従来の計算機技術体系とは若干異なる考え方に基づいている第五世代コン ピュータ技術は、通常の計算機技術とは相容れない特殊な技術のように見られ がちである。今回の提案にあたっても、従来から他分野で用いられてきた 技術と融合させることによって、第五世代コンピュータ技術が真に汎用的な 大規模計算技術を構成する上で重要な技術であることを理解していただくのは 容易ではない面があった。 幸いにしてこのプロジェクト提案が採択されたのは、大規模数値計算技術など との連携においても第五世代コンピュータ技術が高い価値を持ち、それを広く 適用していける可能性を認めていただけたわけで、プロジェクトに参加して研 究開発にあたったものとしては大きな喜びである。今後並列処理技術・知識処 理技術の計算機技術における重要性が高まっていく中で、第五世代コンピュー タプロジェクトの残したさまざまな有形無形の要素技術は、他の諸技術と連携 しながらさらに発展していくものと期待している。 3)九州大学 長谷川先生のグループの研究紹介 a) 研究テーマ: 定理証明技術を応用した高度論証支援システムの開発 b) 研究者:長谷川隆三 (九州大学大学院)、新田 克己 (東京工業大学大学院)、 藤田 博 (九州大学大学院)、井上 克已 (神戸大学)、 白井 康之 (三菱総合研究所)、Reiner Haehnle (カールスルーエ大学)、 小松 弘 (本間小松法律事務所) c) 平成9年10月から平成11年1月(予定) d) 研究の目標、背景など: ICOT で開発された new HELIC-II は、法的推論システムとして内外の高い 評価を得たが、一方でこうした論証支援システムを実用的なものにするた めの問題点や課題 (定理証明の理論的基盤、法理論との関係、推論モデルの 拡張、ユーザインターフェースなど) もまた同時に明らかにすることと なった。 また、同じくICOT で開発された定理証明システム MGTP は、並列実行を 含む高い効率性を実現し、有限代数(準群)の未解決問題を解くなど、数学 の定理証明問題や制約充足問題において成功をおさめたが、実用上のアプ リケーションに取り組む機会が少なく、その有用性を定理証明コミュニティ 以外に示すことができないでいた。 本提案では、これら2つのシステム開発を通じて培われてきた経験/技術を 融合(具体的には、論証支援を行なう推論エンジンとして MGTP を利用)し、 またルール間優先、ヒューリスティック探索、探索制御、制約解消など、 推論エンジンを実用化するために必要となる技術開発を新規に行ない、 法律の知識ベースを専門家とともに開発して、実用的な論証支援システムを 構築することを目的とする。 論証支援システムにおいて、定理証明技術は高機能化を実現する上での 理論的なバックグラウンドとなるだけでなく、その高効率性により、より 大規模な推論を必要とする論証をも可能にすると期待される。 e) 採択の感想や研究成果など: ICOT で研究開発を行なってきたテーマが、外部からも有望な技術基盤で あると認められ、評価されたことは、大変喜ばしいことと考えている。 法的推論や定理証明の技術は、それぞれの研究分野においては、相応の評 価を得てきたが、今後、ICOT の技術成果がより世の中に普及し、実用的 なものとして巣立っていくためには、各要素技術だけでなく、それらを融 合した技術開発を行ない、実用性を明確に示していく必要がある。 今回のプロジェクトによって、実用性という側面での ICOT の成果を広く 普及させたいと考えている。 提案にあたっては、 ・ICOT で開発された法的推論や定理証明システムは、それぞれの分野に おいては国内ではトップレベルの位置にあるもので、内外の高い評価を 得ていること。 ・論証支援システムは、「マルチエージェントによる交渉」の機能も有し、 それ自体の産業界における応用領域も広いこと。 ・定理証明は、単に数学の問題を解くだけでなく、問題解決システムとして 有望な技術であること。 ・理想的なトイ問題のみを扱うのではなく、常に実用的な応用イメージを 持って開発を進めていくこと。 などを強調した。 本プロジェクトは、ICOT 終了後も互いに研究交流を行なってきたメンバー から構成されている。短い期間ではあるが、メンバー全員で協力して、充実 したプロジェクトとなるよう努力したいと考えている。 (記事とりまとめ: 内田俊一)

[編集後記]

以上、AITEC NEWS 第14号、いかがでしたか? 政府支援の提案公募型研究に採択された、ICOT OB の先生方の研究や成果の報告は 楽しんで頂けたでしょうか。 今後も AITEC NEWS では、AITEC の回りにある、さまざまな活動や、研究、成果な どを皆さんに報告していきたいと思います。又、何か「皆さんに知らせた方がいい」 というものなどがありましたら、是非、 aitec-news@icot.or.jp までお知らせ下さい。 では、また近い日に皆さんにお会いする日を楽しみにしています。(^_^)/ ☆*********************************************************************☆ AITEC NEWS Issue #14 編集・配布 AITEC NEWS編集グループ   佐藤真紀子 高橋千恵 相場 亮 河西和美   武田 浩一 鳥居良春 佐藤 博 内田俊一 発行 1997年11月26日    財団法人 日本情報処理開発協会 先端情報技術研究所    東京都港区芝2丁目3番3号 芝東京海上ビル2F    TEL :03-3456-3191 FAX :03-3455-4877    e-mail: aitec-news@icot.or.jp    URL : http://www.icot.or.jp ☆*********************************************************************☆

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