JIPDEC AITEC NEWS
News on FGCS Technology and related activities by Research Institute for Advanced Information Technology(AITEC), the successor of ICOT

July 10, 1997
Issue #11

目次
  1. はじめに
  2. 編集後記

はじめに

台風が2度も上陸した前代未聞の6月が過ぎ、そろそろ梅雨明けが待ち遠しい頃
となりました。新年度も4カ月めに入り、皆さんのお仕事も忙しさを増している
ことと思います。

わが国では、ご存知のように政府の行政改革推進の方針を受けて、各省庁に
おける機構改革がいろいろと行なわれ始めています。通商産業省の中でも
ボーダレス化対応などの重要課題に対応するため、部局横断のプロジェクト
チームの導入や25課の廃止、24課・担当の新設などが行なわれました。この
ような変革は、私たちの仕事にも徐々に影響を及ぼしてくるものと思われます。

しかし、現在のところAITECでは、以下にご紹介するように今年度の委託研究の
審査や前回の特集号でお知らせしたKLIC プログラミング・コンテストの開催準備
などで職員一同、忙しく過ごしています。

特に今年度の委託研究の募集に対しては、海外を含め、たくさんの大学の研究
者の方から応募をいただき、一同、嬉しい悲鳴をあげています。KLICプログラ
ミングコンテストも海外からの応募があることと予想されます。IFSの普及事業
もいよいよ本格的に海外へ展開を始め、ボーダレスの様相を呈してきました。

それでは、AITEC NEWS 第11号のHEADLINEをお伝えします。

                                                            (佐藤 真紀子)

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 A I T E C  N E W S  H E A D L I N E
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1. 第五世代普及振興部長の小川さん、中央情報教育研究所総務部長に栄転
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第五世代コンピュ−タプロジェクトにその準備時期より参加、その後ICOTに
出向し、第五世代プロジェクト、およびその後継プロジェクトと13年の永き
に渡りプロジェクトを支え、さらにその終結後はAITECにおいて第五世代技術
の普及振興事業の指揮をとり、多くのICOT関係者から「ICOTの主」、「第五
の屋台骨を支えた男」として信頼を集めていた小川さんが、JIPDEC傘下の
中央情報教育研究所(CAIT)へ5月12日付けで総務部長(兼調査企画部長等)と
して異動しました。
   
CAITは、情報処理技術を担う人材育成やその教育のあり方等の調査研究を目的と
する研究所で、近年の情報技術の変革に沿った新たな方向付けが求められている
と聞いています。その指揮官としての期待を背負っての異動といえるでしょう。
第五世代プロジェクト関係者を代表して小川さんのこれまでの貢献に感謝すると
ともに、新しい職場での活躍をお祈りしたいと思います。

なお、当研究所第五世代普及振興部長には、山次(やまつぐ)和男さんが就任しま
した。関係者の皆さん、ご指導のほどよろしくお願いします。
                                                   	     (内田俊一)
                                                  
                                                        (関係記事 なし)


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2. 平成9年度委託研究の審査結果発表!!				
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6月27日に平成9年度の先進的ソフトウェアに関する委託研究テーマ決定のための
審査委員会が行われ、22件の研究テーマが決定しました。

今年度は公募の対象を海外にも広げたこともあり、採択予定件数の約2倍の応募
がありました。わが国の情報技術は、ソフトウェア分野において欧米に遅れを
とっており、「使われるソフトウェア」の研究開発がより強く求められるように
なっています。今回の海外も含めた委託研究は、国内の研究者にとっても良い
刺激になるものと考えられます。

また、オープンな公募による研究予算の配分方式が広まってきたことは、研究者
が自分の研究を世に問うチャンスが増えるとともに、その内容が一層厳しく問わ
れる時代に突入したことを示しています。研究者の方々の奮起を期待します。

                                                         (記事 No.11-1)



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3. -- 知的ソフトウェア資源の創造と共有のメカニズム調査のポイント報告 --
   アメリカの研究公募プログラムにおけるプログラム・マネージャの役割
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皆さんはプログラム・マネージャ(PM)という言葉を聞いたことがありますか。
日本でもここ数年、公募方式による研究開発支援プログラムが話題となって
いますが、そうした研究開発支援プログラムの運営担当官がPMと呼ばれる人
達です。

AITECは昨年秋、米国政府が実施している情報技術の研究開発支援の現状を
調べるため、DARPA(国防高等研究計画局)やNSF(全米科学財団)などを訪問
しました。これらの機関は、研究開発支援プログラムの実施において既に50年
もの歴史をもっています。(この調査についてはバックナンバーの第6号でも
紹介しましたので、御覧下さい。)

その時の面談調査を含む調査研究の詳細は報告書(「知的ソフトウェア資源の
創造と共有のメカニズム」調査研究報告書:平成9年3月)をご覧頂くとして、
ここではこの訪問で特に印象に残ったPMの役割についてご報告します。

                                                          (記事 No.11-2)



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4. 技術調査部、平成8年度の活動結果を8種の資料にとりまとめ、順次公開中
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平成8年度より活動を本格化させた技術調査部は、以下の資料をとりまとめ、
H8-8、およびH8-1からH8-3までを準備が整い次第、順次Webで公開していく
予定です。現在、各資料の概要をまとめたH8-8が公開されておりますので

     http://www.icot.or.jp 

から、技術調査事業のページをご覧下さい。

  H8-1: わが国が行う情報技術研究開発のあり方に関する調査研究(平成9年3月)
  H8-2: ペタフロップスマシン技術に関する調査研究(平成9年3月)
  H8-3: ネットワーク及びAI関連新技術に関する調査研究(平成9年3月)
  H8-4: 米国における政府系研究予算の戦略的決定・執行体制(平成9年3月)
  H8-5: 米国情報産業における研究成果の製品化・市場創造プロセス(平成9年3月)
  H8-6: 日本における情報技術関連研究開発プロジェクト(平成9年3月)
  H8-7: 情報関連産業への国の投資による経済効果予測(平成9年3月)
  H8-8: 平成8年度調査活動報告概要(平成9年6月)

                                                         (関連記事 なし)


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 T H I S  I S S U E ' S  A R T I C L E S
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1. 平成9年度委託研究の審査結果発表!!
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AITECは、第五世代コンピュータプロジェクトにおいて開発された技術の中核
である「並列記号処理技術」および「知識処理技術」をより一層発展させ、普及
させる事業を行っています。

この事業の一環として、ICOTフリーソフトウェア(IFS)をベースとした公募方式
による先進的ソフトウェアの委託研究を平成7年度より実施してきました。
平成9年度については、このほど委託研究の審査が終了しましたので、その経過
をご紹介します。

まず、昨年度から2年計画で実施されていた5件の委託研究については、第1回
審査委員会において3件の継続を決定しました。

今年度の新規研究テーマについては、国内22件、海外15件、合計37件の応募が
ありました。これらは、48名の研究者による査読を経た後、第2回審査委員会に
おいて採否が審議され、19件の採用が決定しました。今回の新規提案の募集には、
海外からも多数の応募があり、約2倍という高い競争率となりました。

その結果、平成9年度の委託研究件数は、平成8年度からの継続テーマ3件に平成
9年度の新規提案19件を加え、合計22件となりました。

海外からの研究提案については、手続きが済み次第、ホームページで各研究テー
マの内容を公開する予定です。

以下に国別の応募および採用件数と採用テーマをご紹介します。

    国別         応募     採用
    日本         22件      13件

    海外         15件      6件
     米         8件      2件
     英         2件      1件
     仏         1件      1件
     豪         2件      1件
     露         1件      0件
     オーストリア    1件      1件


*** 平成9年度 委託研究 採用テーマ (22件)***  (順不同、敬称略)
 
  1) 平成8年度からの継続テーマ(3件)

   1.「学習機構内蔵型プログラミングシステムの開発」
    (佐藤 泰介、東京工業大学)

   2.「パターンに基づくビジュアル並列プログラミング環境」
    (柴山 悦哉、東京工業大学)

   3.「動的に変化する状況における法的推論システムの研究開発」
    (東条 敏、北陸先端科学技術大学院大学)

  2) 新規採用テーマ (19件、* は2年計画)

    *1. 汎用並列マシン上のMGTPと高度推論機構の開発
    (長谷川 隆三、九州大学)

     2.  KL1プログラム静的解析系
    (上田 和紀、早稲田大学)

     3. 要求駆動スケジューリングによるKL1実装方式の研究
    (近山 隆、東京大学)

    *4. KL1のスレッド実行の高速化
    (中島 浩、豊橋技術科学大学)

     5. klicとJavaのメッセージインターフェースに関する研究
    (田中二郎、筑波大学)

     6. 階層連立1次方程式のための効率的解消系の開発
    (松岡 聡、東京工業大学)

     7.  MGTPにおける推論制御と探索問題への適用
    (井上  克已、神戸大学)

    *8. Distributed Constraint Solving for Functional Logic Programming
    (Bruno Buchberger、RISC-Linz(オーストリア))

     9.  制約処理系を利用した図形描画システム
    (五十嵐 健夫、東京大学)

    10. 並列アクティブデータベースにおけるI/O処理の高速化
    (横田 治夫、北陸先端科学技術大学院大学)

    11. 移動ロボットの並列協調制御ソフトウエアの研究開発
    (溝口 文雄、東京理科大学)

    12. WEB-KLIC: A Concurrent Logic-based Unified Framework for
       Internet Programming
    (Gopal Gupta、New Mexico State University (米))

    13. GUIdeLA: A Constraint Language and System for Constructing
       Graphical User Interfaces
    (Neng-Fa Zhou、九州工業大学 (Yale Univ.に滞在中))

    14. COPLAS, a Conditional Planner with Sensing Actions
    (Jorge Lobo、University of Illinois at Chicago (米))

   *15. 帰納論理プログラミングによるデータマイニングエンジンDatagol 
         の研究開発
    (古川 康一、慶應義塾大学)

    16. Anytime Hypothetical Reasoning
    (Aditya Kumar Ghose、University of Wollongong (豪))

   *17. IFS日本語(形態素)解析パッケージ・配布プロジェクト
    (佐野 洋、東京外国語大学)

    18. Concurrent Cooperative Parallel Solvers (CCOPS)
      (Frederic Benhamou、LIFO, Universite d'Orleans and INRIA 
         Rocquencourt (仏))

   *19. Applying Constraint Logic Programming Languages for Modelling
       Multi-objective Decision Making under Uncertainty
    (John Darlington、Imperial College (英))

                                                         (茂呂 知明)
            
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2. -- 知的ソフトウェア資源の創造と共有のメカニズム調査のポイント報告 --
   アメリカの研究公募プログラムにおけるプログラム・マネージャの役割
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日本ではここ数年、公募方式による研究開発支援プログラムが実施されるように
なってきました。以前は公募方式による研究開発支援といえば、文部省による
科学研究費(科研費)など限られたものしかありませんでした。しかし、現在
では、科学技術庁傘下の科学技術振興事業団(JST)による「戦略的基礎研究推進
事業」や通商産業省傘下の情報処理振興事業協会(IPA)による「創造的ソフトウェ
アの育成事業」などの研究開発支援プログラムが実施されています。

AITECは昨年秋、DARPA(国防高等研究計画局)やNSF(全米科学財団)などを訪問
し、公募による研究開発支援において既に50年もの歴史をもつアメリカで、研究
開発支援プログラムがどのように運営されているかを調査しました。

この調査では、DARPAのプログラム運営担当官である「プログラム・マネージャ
(PM)の役割」が特に印象に残りました。事前調査の印象では、PMの役割は研究者
というよりも管理職のようでした。そのため、PMになることは研究者にとって、
現役から退くことを意味するのではないか、という先入観がありました。

しかし、実際にDARPAの現役のPMやPM経験者と話してみると、彼らの印象は現役
を引退した元研究者とは程遠いものでした。PMは研究管理者であるとともに、
第一線で活躍する研究者でもあるのです。

DARPAのPMは研究開発支援プログラムを立ち上げ、運営・管理を行なうため、常
にその研究分野の動向を見守るとともに、最先端の知識を身に付けていることが
必要です。プロジェクトの開始にあたっては、各PMが企画したテーマを内部の
会議で発表し、厳しい討議を経た後、行き残ったテーマだけがプロジェクトと
して立ち上がります。研究提案の審査は査読者によって行なわれますが、最終的
な採否はPMに一任されています。

さらに、PMは自分の担当する研究実施者との意見交換やクレーム処理のため、
業務の30〜50%が出張で費やされるそうです。このように、プロジェクトを成功
に導くためには、立ち上げの段階からプロジェクト終了に至るまで多大な情熱と
才能が要求されます。

こうした激務により、ほとんどのPMは2〜4年の任期の終りには「燃えつきた
("burn out" )」状態になってしまうそうです。しかし、その一方で、「大学
で必ずしも優秀とは限らない学生を率いて研究を行なうよりも DARPAのPMとして
全米でトップの研究者を率いて自らの研究上のアイデアを実現する方がずっと
やりがいがある」と大学の助教授からPMに転じ、元の大学に教授として復職した
PM経験者は、熱っぽく語っていました。このように、PMは研究管理者である以上
に研究グループのリーダとしての役割が大きいようです。そして、このあたりに、
PMになる動機やそのインセンティブがありそうです。

当然、DARPAのPMというキャリアは研究者としての評価を高めるものとなっており、
実際、面談した大学の研究者のなかには、PMを経て大学に戻り、学部長や研究セ
ンタ長に昇格している例もありました。

一方、NSFは広範な基礎研究の支援を主眼としており、提案者がテーマを決めて
応募する方式の研究に比重を置いているため、運営しているプログラムはDARPA
ほどニーズ指向ではありません。PMに関してもDARPAに比べると研究管理者として
の役割が大きいようです。しかし、現役の研究者がPMを務めているのはDARPAと
同様で、実際、NSFのあるPMによれば、「PMは良いマネージャである以前に優れた
研究者でなければならない」とのことです。

日本では、研究の進捗管理や予算配分などを考える研究管理者はいても、研究
内容についての深い知識も持った現役の研究者であるPMは存在しないように
思われます。公募による研究開発支援プログラムをより効果的に運用していく
ためには、日本でもPMのような強いリーダシップをもった研究者兼管理者が必要
だと痛感します。日本におけるPM育成の一つの方法として、産学連携を強め、
人材の交流を図ることも緊急の課題ではないでしょうか。

なお、この調査は平成8年度(財)機械システム振興協会からの受託事業である
「新世代知的ソフトウェア資源の創造と共有に関する調査研究」の一環として
行なったものです。平成9年3月には報告書をまとめていますので、関心をお持ち
になった方は aitec-news@icot.or.jp まで御連絡下さい。

                                                         (佐藤 真紀子)


編集後記

以上、AITEC NEWS 第11号、いかがだったでしょうか? 委託研究の審査やKLICプログラミング・コンテストの開催など、AITECは イベント続きで大忙しです。しかし、これも審査を引き受けて下さる 方々やコンテストの課題作りから運営にまでご協力下さる方々があって こそのことで、皆さんのご尽力に感謝の気持ちでいっぱいです。 今後も、AITEC NEWSでは読者の皆さんのお役に立ちそうな情報をできるだけ タイムリーにお知らせしていきたいと思いますので、どうぞご期待下さい。 また、どなたかお知り合いの方にもAITEC NEWSを送ってほしいとご希望の方 や送付先に変更がある方、送付不要の方は、 aitec-news@icot.or.jp までお知らせ下さい。内容に関するご意見、ご感想、ご要望なども大歓迎です。 それでは、AITEC NEWS 第12号でまた皆さんにお目にかかれる日を 楽しみにしています。(^^)/~ ☆********************************☆ AITEC NEWS Issue #11 編集・配布 AITEC NEWS編集グループ   佐藤真紀子 高橋千恵 相場 亮 河西和美   武田 浩一 鳥居良春 佐藤 博 内田俊一 発行 1997年7月10日    財団法人 日本情報処理開発協会 先端情報技術研究所    東京都港区芝2丁目3番3号 芝東京海上ビル2F    TEL :03-3456-3191 FAX :03-3455-4877    e-mail: aitec-news@icot.or.jp    URL : http://www.icot.or.jp ☆********************************☆

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