資料4.第5世代のコンピュータ調査研究報告書


本報告書は、昭和54年度から2ヵ年の予定で開始された、1990年代に実用化されるべきコンピュータ・システム(第5世代コンピュータ)についての調査研究のうち、第2年度の全体報告書であり、調査研究の検討成果の全貌についてまとめたものです。

【項目】

  1. 調査研究の目的と昭和55年度活動経過
  2. 第5世代コンピュータ・プロジェクトの背景と意義
  3. 第5世代コンピュータ・システムの機能と目標
  4. プロジェクトの進め方と体制
  5. 分科会活動成果概要

【概要】

「1. 調査研究の目的と昭和55年度活動経過」では、 「1.1 調査研究の目的」において、
  1. ハードウェアに関する問題意識
  2. ソフトウェアに関する問題意識
  3. 基礎理論に関する問題意識
  4. 社会ニーズに関する問題意識
を挙げ、1990年代に実用化されるべき、新しいコンピュータ(第5世代コンピュータ)に関する研究開発を積極的に推進する必要性を述べ、昭和54〜55年度の2ヵ年にわたって行われた、第5世代コンピュータの調査研究の目標を明かにしています。

また、「1.2 調査研究の進め方」においては、

  • 1.2.1 調査研究の年度別目標
  • 1.2.2 調査研究の体制
  • 1.2.3 分科会の調査研究課題
を明かにすることによって、調査研究の進め方を説明しています。

最後に、「1.3 調査研究の経過」において、昭和55年度の主な活動経過を図示しています。


「2. 第5世代コンピュータ・プロジェクトの背景と意義」では、 「2.1 社会的要請」として、
  1. 低生産性分野の生産性向上
  2. 国際競争力の確保と国際的貢献
  3. 省エネルギー、省資源問題の解決への援助
  4. 高齢化社会への移行
を挙げ、社会的側面から、第5世代コンピュータに求められているものを 説明しています。

次に、「2.2 現在のコンピュータ・システムの問題点」として、近年のコンピュータ技術の特色を挙げ、それに対して、コンピュータをとりまく周辺技術の進歩やユーザ要求の変化に対応して、

  1. 非数値データの処理と、それらを実現する新しいアーキテクチャ。
  2. 並列処理による、高速化。
  3. 分散処理システムの実現。
  4. 新しい応用に対応した、アーキテクチャの多様化。
が新しいコンピュータには必要であることを述べています。

「2.3 技術基盤の熟成と新技術に対する期待」では、 1990年代のコンピュータに導入すべき主要なシーズ技術として、

  1. VLSI技術
  2. 高速素子技術
  3. 通信技術との融合
  4. 並列処理技術
  5. ソフトウェア技術
  6. 人工知能技術・パターン認識技術
が説明されています。

「2.4 第5世代コンピュータ・プロジェクトの目的と意義」では、 まず、1990年代に生じると予想されている社会的ボトルネックを解消することに役立ち、現在のコンピュータでは満たすことのできない基本的な機能を総括して、第5世代コンピュータに要求される機能を以下の4つに要約しています。

  1. コンピュータの知能レベルを高め、人間の良き協力者としての親和性を高めること。
  2. 人間の代替をする能力や人間にとって未知の分野を開拓する場合の支援能力を持つこと。
  3. 各種の形態の情報が必要に応じて簡単に即時に入手できること。
  4. 未知の状況をシュミレートすることにより新しい知見を得ること。

次に、少し立場をかえ、ユーザに近い立場からより具体的に第5世代コンピュータに求められる機能を5つ列挙し、説明しています。

  1. 専門知識がなくても利用できる使い易い機能
  2. 判断・意思決定が可能な人間の代替としての機能
  3. 多様な業務に適用できる柔軟な構成を可能にする機能
  4. プログラミングを容易にする機能
  5. 信頼して便利に使うことのできるシステム機能

最後に、第5世代コンピュータの研究開発プロジェクトの役割と効果について、次の4つを列挙しています。

  1. このプロジェクトを通して、コンピュータ技術の開発面で我が国が世界で先導的な役割を果たすことになる。
  2. 1990年代の社会を豊かなものにする上に大きな波及効果がある。
  3. 未踏分野の開拓を通じて人類社会の進歩へ積極的に貢献すること。
  4. 先導的研究開発体制の実験


「3. 第5世代コンピュータ・システムの機能と目標」では、 まず、 「3.1 機能に対する要求」において、 総合的立場からみた第5世代コンピュータの機能に対する要求を以下のようにまとめています。
  1. マシンのインテリジェンスを向上し、人間のよきアシスタントとなり得る使い易いコンピュータ
    1. 音声、図形、画像、文書などによる入力機能
    2. 自然言語による会話型処理能力
    3. 知識を蓄積し、それを活用する能力
    4. 学習・連想・推論機能
  2. ソフトウェア作成負荷の軽減
    1. 要求仕様記述による処理の自動化
    2. プログラムの検証を可能とする言語の実現と適合するアーキテクチャ
    3. プログラミング環境の改善と知的インタフェースの実現
    4. 既存ソフトウェア資産の活用
  3. 社会的ニーズに対応する総合的機能・性能の向上
    1. コスト・パフォーマンスの向上
    2. 軽量コンパクトなコンピュータ
    3. 新しいアプリケーションに対処しうる高速・大容量なコンピュータ
    4. 多様化と適応性の向上
    5. 高信頼性機能
    6. 高度な機密保護機能

「3.2 目標とイメージ」においては、

第5世代コンピュータ・システムは、従来のコンピュータの技術的制約を克服し、1990年代に要求されるであろう高度な機能に対応し得る革新的な理論と技術に基づく知識情報処理指向のコンピュータである。

と述べ、
  • 3.2.1 基本概念
  • 3.2.2 ソフトウェア・システムの構成要素
  • 3.2.3 ハードウェア・システムの構成イメージ
を図を用いて、分かり易く説明しています。

「3.3 研究開発課題」では、7グループ26課題からなる第5世代コンピュータ・システムの研究開発課題を表に示し、研究開発のすすめ方の概念図も示されています。


「4. プロジェクトの進め方と体制」では、まず、 「4.1 研究開発推進の基本的条件」において、本プロジェクトの持つ性格を次のように明かにしています。
  1. 先導的・創造的な研究開発を目指すプロジェクトであること。
  2. 長期的視野に立ったプロジェクトであること。
  3. 1990年代における基幹産業に育つことが想定されるコンピュータ産業全般に渡る幅広い分野を対象としたプロジェクトであること。
  4. 国際的視野に立ったプロジェクトであること。

次に、このような性格を持った本プロジェクトを、円滑に推進する上で注意する事項を次のように列挙しています。

  1. 需要・経済性とのバランスをとりながら野心的な目標を設定する。
  2. 中間目標等は、堅実なものから野心的なものまで複数もうけ、並行して実施し、プロジェクトの初期段階では、年度毎に評価を行ない、研究課題の整理・統合をはかる。
  3. 研究努力に対する評価と研究成果に対する評価は、明確に区別する。
  4. 基本目標や思想を明確にし、確固たる指導体制を長期に渡って維持する。
  5. 人材を官・産・学の全分野から広く結集できる体制を確立する。
  6. 4.のトップダウンと共に、研究員全員のコンセンサスを得るよう努力するなど、ボトムアップのアプローチもとり、我が国の国情に合った指導体制を確立する。
  7. 前世代のコンピュータから、第5世代のコンピュータへの移行が円滑に推進されるようあらゆる面から配慮する。

これらを念頭におき、「4.2 望ましい研究開発体制と運用方式」では、次の項目に関し、本プロジェクトの望ましい研究開発体制と運用方式について述べています。

  1. 指導理念の一貫性
  2. 研究目標の設定
  3. プロジェクトの体系化
  4. 人材の確保
  5. 中核組織の役割
  6. 国際協力


「5. 分科会活動成果概要」では、 昭和54、55年度の2年間の分科会活動成果の概要が記されています。

「5.1 社会環境条件およびシステム化技術研究分科会」では、 まず、「5.1.1 本分科会の活動成果の概要」において、主に以下の活動が行なわれたことが記述されています。

  1. 1990年における日本の望ましい社会像を設定し、これに至る過程において予想され、解決すべき主なボトルネックの把握。
  2. 1.のボトルネックを解決するために、第5世代コンピュータにどのような機能が期待されるか検討。
  3. 2.の機能がどのようなインパクトを社会などに与えるか、波及効果の調査。
  4. 第5世代コンピュータのシステム化技術と、それを支援する技術を検討。
  5. 第5世代コンピュータ・プロジェクト運営のために、プロジェクト・マネジメント・システムの内外の事例研究。
そして、「5.1.2 社会環境条件研究分科会の活動成果」で、上記1.が詳しく記述され、「5.1.3 システム化技術研究分科会の前期活動成果」では、上記2.が、「5.1.4 システム化技術研究分科会の後期活動成果」では、上記3.4.5.が詳しく述べられています。

「5.2 基礎理論研究分科会」においては、 まず、問題意識を「5.2.1 問題意識」で述べ、その問題意識のもと、基礎理論研究分科会は

昭和54年度:
"知識情報処理システムに向けて"という大きな方向づけと、その方向を目指すシステムのイメージ化、それを構成する技術要素の基礎的な検討
昭和55年度:
知識情報処理が第5世代であるという想定のもとに、システム・イメージの具体化、研究・開発課題の設定と詳細化、研究・開発手順等、知識情報処理システムの実現への構想の明確化
のように活動が行なわれたことが、「5.2.2 経過」に述べられています。次に、「5.2.3 知識情報処理システムに向けて −第一年度の活動成果−」で、システムのイメージや設定された研究課題を明かにすることによって、昭和54年度の活動を述べています。そして、「5.2.4 知識情報処理システムの実現を目指して −第ニ年度の活動成果−」で、システムの構成図が示され、研究開発課題及び実現手順を詳細化した、55年度の活動が述べられています。

「5.3 アーキテクチャ研究分科会」では、 まず、「5.3.1 調査研究活動の概要」において、

  • 調査研究の目標
  • 昭和54年度調査研究活動
  • 昭和55年度調査研究活動
  • 調査研究の方法と経過
がコンパクトに、箇条書きされています。そして、「5.3.2 昭和54年度の成果概要」「5.3.3 昭和55年度の成果概要」で昭和54、55年度の調査研究成果を詳しく述べ、最後に「5.3.4 研究開発課題の整理」で昭和54、55年度の2年間にわたる調査研究を研究開発課題で整理し、研究開発の目標と開発ステップ、開発のすすめ方と研究体制に関し、検討したことが述べられています。