前任者等が行っていた研究を引き継ぐよりも、
できれば自分独自の研究をしたいという願望が
強いため、前任者の蓄積を意図的に引き継がな
い傾向もあった。
b)  放任主義
  各人の自助努力に任せられた部分が大きかっ
たので、一部の人間だけが伸び、それ以外の人
は成長しない、悪い意味での放任主義の弊害が
でる。
c)  指揮系統の不明確さ
  室長以下のチームリーダークラスが指揮命令
系統で、どの程度権限を持ちえるのかが不明確
であった。また、チームリーダーは主に民間企
業から来た出向者が勤めていたが、同業他社の
出向者に対して遠慮する面もあり、必ずしも十
分なリーダーシップを発揮できない状況があっ
た。
4. 第五世代コンピュータ・プロジェクト の研究成果の評価
技術政策において最も重要な評価の視点は研 究成果そのものであるが、当該プロジェクトは 国際貢献の観点でも重要な役割を示したので、 以下では当該プロジェクトについてこの二点か ら評価する。 (1) 研究成果の観点 第五世代コンピュータ・プロジェクトのよう な大規模なプロジェクトに、プロジェクトが終 了してすぐに、技術的な評価を加えるのは難し い。ここでは(財)新世代コンピュータ技術開発 機構の研究成果の一つである論文数を整理する ことにとどめ、当該プロジェクトの最終的な技 術評価は 後世の研究に 委ねることとする(注 15)
  (財)新世代コンピュータ技術開発機構では、
論文を研究論文(TR:Technical Report)
と 研 究 速 報(TM:Technical  Memo-
randum) に分けて発表している。表3のとお
り、1995年3月末現在でTRは914件、TMは
1457件発表されている。
  表4に学会等で発表した件数の推移を示す。
データの制約上 1986年以降のデータしかない
が、主要学会全体で2240件投稿されている。特
に、情報処理学会、日本ソフトウェア科学会、
電子情報通信学会、人工知能学会への投稿件数
が多い。また、海外の学会等においても数多く
の論文が発表されている。このように(財)新世
代コンピュータ技術開発機構から国内外を含め
数多くの論文が発表された。渕前所長等研究所
の幹部は、 国内外での学会発表を 奨励してい
た。もちろん前述の国際貢献の一環という趣旨
からであったが、学会は、発表を聞いた第三者
からの客観的な評価を聴き、議論することで研
究をさらに進めるための重要な機会でもあった
からだ。
  提出された論文数は、その個別の論文が優れ
ているか否かに関わらず、一つの研究成果とし
てカウントされてしまう。したがって研究成果
の「質」も考慮に入れた客観的な評価といいが
たい。そこで一つの評価基準として論文引用数
を検討してみた。論文引用数とは、ある論文が
他の文献によって引用された件数を数えたもの
であり、個々の論文がその後の研究にどれだけ
の影響を与えたかを示す一つの指標と考えるこ
とができる。より客観的に判断するため、(財)
新世代コンピュータ技術開発機構に8年以上在
籍していた人間11名と日本のA大学B学科(コ
ンピュータ関連)所属の教授、助教授、講師8
名、同じく国立のC研究所のコンピュータ関連
の研究に従事している研究者12名、海外で(財)
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