[注記] 本稿は、通商産業省通商産業研究所の第8期研究プロジェクトの一つとして1994年〜 1995年に実施した研究を取りまとめたディスカッション・ペーパー(『日本の技術政 策:第五世代コンピュータの研究開発を通じて』通商産業研究所ディスカッションペー パー#95-DOJ-56)を要約したものである。論文作成に際しては筑波大学の小田 切宏之氏、通商産業省の近藤正幸氏を始め多くの方々から貴重なコメントを頂いた。ま た本稿執筆にあたり、市川照久氏、上田和紀氏、内田俊一氏、浦城恒雄氏、大野榮一 氏、岡松壮三郎氏、小川義久氏、勝山治夫氏、児西清義氏、佐藤繁氏、瀬戸屋英雄氏、 田中千代治氏、田中英彦氏、近山隆氏、角田周一氏、中島克人氏、中野正孝氏、渕一博 氏、古川康一氏、宮脇英文氏、山本眞一氏、山本昌弘氏、横井俊夫氏等数多くの方々に インタビューさせていただいた。心から感謝する次第である。なお、ありうべき誤りは 筆者の責に帰するものであることはいうまでもない。 (注1) 例えば、Kaplan[1972]、Johnson[1982]、Okimoto[1989]を参照せよ。 (注2) 吉川監修JCIP編[1994]を参照せよ。これは現在の日本の製造業の問題点 を的確に指摘した文献である。 (注3) 岡松 [1982]、Feigenbaum and McCorduck[1983]、渕・廣瀬[1984]、上 前[1985]、Motooka and Kitsuregawa [1985]、Feigenbaum, McCorduck and Nii[1988]、今岡[1989]、渕[1990]、Fransman [1990]、日経BP社編 [1991]、黒住[1992]、瀧[1993]、日本電子計算機編著[1994]、松田[1995] 等も詳しい。 (注4) Prolog言語とは、論理(一階述語論理)に基づいたAIプログラミング言語 で、もともとフランスで開発された(Feigenbaum, McCorduck and Nii [1988])。Programming in Logic の略。 (注5) 第1世代(真空管)、第2世代(トランジスタ)、第3世代(IC)、第3.5世代 (LSI)、第4世代(VLSI)と言われているが、これらを使ったコンピュータは すべてノイマン型と呼ばれるもので、処理の手順をプログラムに書くことによっ て、求める機能を実現するものである。 (注6) 並列推論とは、述語論理、例えば「Aという条件とBという条件を同時に満た せばC(C←A,B)」という「ホーン論理」を使用した並列論理型言語(本プ ロジェクトではKL1が開発された)を用い、複数の推論処理を同時に実行する ことをいう。 (注7) メーカーの中には自社の新事業展開のきっかけとして積極的に参画しようと考 えていた企業もあった。 - 129 - 通商産業省は、当初、補助金で本プロジェクトを遂行することを考えていた が、各企業が消極的であったため、全額政府負担の委託費で遂行することとし た。 (注8) 1981年10月の国際会議でも、あまりにも野心的で達成が困難な計画であるとの 批判も一部にあった。 (注9) (財)新世代コンピュータ技術開発機構は、1982年4月に設立された。 (注10) 通商産業省では技術開発予算を確保する際に、プロジェクトの構想段階では、 政府の経費を使わずに、外郭団体の研究会でプロジェクトの計画を練り、その結 果をもとに、国の一般会計の予算を要求する傾向がある。また、国の一般会計 は、シーリング等予算の制約があるため、第五世代コンピュータのように莫大な 資金を要するプロジェクトは、通商産業省では特別会計を利用するのが一般的で ある。 (注11) 当初10年間の予定であったが、後期に要素プロセッサ用チップの開発に難航し たため11年間となった。 (注12) 内田[1994]が詳しい。 (注13) 超LSI技術研究組合共同研究所では、各研究室において室長の出身企業の研 究者数を若干増やした。超LSI技術研究組合については、榊原[1981]が詳し い。 (注14) この内容は、(財)新世代コンピュータ技術開発機構の出身者に対するインタ ビューによるところが大きい。 (注15) 日本では理工系で5人のノーベル賞授賞者がいるが、いずれも、新しい事象の 発見、論文発表から15年以上経てからノーベル賞を授賞した。このように革新的 な技術は早々に評価できるのではない。 (注16) SCISEARCH (Institute for Scientific Information(ISI)が作成する、科 学・技術・生物医学及び関連分野の文献に関する国際的・学際的な情報データ ベース)を用い、分野を「コンピュータ分野」に限定し検索した。 (注17) 鉱工業技術研究組合は、1961年に制定された鉱工業技術研究組合法に基づき、 特定の研究課題について企業が研究者、資金を出し合い、共同で研究を行う非営 利の組合である(後藤・若杉[1984]、若杉・後藤[1985]、Saxonhouse [1985],Sigurdson[1986],Hayashi,Hirano and Katayama[1989]、児 玉[1991]、Odagiri and Goto [1993]が詳しい)。 (注18) 鉱工業技術研究組合は、共同研究を実施し、その成果を組合員が享受しあうと いう性格上、組合自体としては営利を目的とする営利法人ではないが、試験研究 を通じて組合員の共同利益を追求することを目的とし、不特定多数者のための公 益に関する事業を行うものでないから公益法人ではなく、中間的な性格を有する - 130 - 法人ということができる。 一方、財団法人は、民法第34条に基づいて設立される、営利を目的としない公益法人であり、特定の人間の利益を追求する主体ではない。 したがって、鉱工業技術研究組合のほうが、プロジェクトを遂行する際に、出 資企業の意向が尊重されるが、財団法人は、財団法人を運営している主体者の意 向が尊重されやすい。 (注19) 財団の名称を、第五世代コンピュータ技術開発機構とせずに新世代コン ピュータ研究開発機構としたことより明らかであろう。 (注20) この時の必要資金は派遣側が負担した。 (注21) 国別シンポジウム・ワークショップの事例としては、日米AIシンポジウム (4回実施、以下同様)、日仏AIシンポジウム(4回)、日瑞(伊)ワーク ショップ(7回)、日英ワークショップ(2回)等がある。 (注22) 『ICOT ジャーナル』は、原則季刊で、海外35カ国約626カ所に配布されてい る。1995年3月末現在で、日本語版は37号(各号1000部印刷)、英語版は41号 (各号1200部印刷)発刊されている。 (注23) 各国で資金を出し合いながら行う国際共同プロジェクトは、各国の財政事情に より、プロジェクト期問が延びる傾向にある。例えば、日米欧の宇宙ステーショ ン・プロジェクトも米国の財政事情により何度も延期している。 (注24) DARPAの管理のもと、大学及びメーカーに研究委託して行われた軍事色の 強い研究開発である。研究項目はいくつかあり、その一つが、人工知能システム の研究・開発であった。 (注25) Peck [1986] が詳しい。 (注26) 米国、日本に対抗してEC産業の競争力を底上げするための総合的な情報処理 技術の研究・開発助成プロジェクトである。 (注27) イギリスの情報処理に関する技術力を総合的に引き上げることを目指して作成 されたアルベイレポートに基づいて設けられた国家プロジェクトである。研究開 発すべき技術分野を、ソフトウェア工学、マン・マシンインターフェース、知的 知識データベースシステム、VLSIの四つにわけ、それぞれからなる独立したプ ロジェクトとして運営されている。 (注28) 横井[1985]を参考とした。 (注29) Krugman[1994]は、このような競争力の考え方を、「間違っているだけで はなく、危険である」としている。 (注30) 『日本経済新聞』1995年1月30日付けが指摘している。 - 131 -