新世代コンピュータ技術開発機構と同様の研究 をしているヨーロッパにある半官半民のD研究 所の研究者10名を抽出して比較した(表5) (注16)。結果をみると、(財)新世代コンピュー タ技術開発機構の一人当たりの収録件数はA大 学B学科に次いで二番目であるが、論文引用数 をみると(財)新世代コンピュータ技術開発機構 のそれがずば抜けて多い。これを見る限り、 (財)新世代コンピュータ技術開発機構の研究成 果は、この分野の研究活動に相対的にかなり大 きな影響を及ぼしていたということができよ う。 (2)国際貢献の観点 (財)新世代コンピュータ技術開発機構の国際 貢献の評価を行う前に、(財)新世代コンピュー タ技術開発機構と超LSI技術研究組合の組織 上の違いを明らかにしておく。(財)新世代コン ピュータ技術開発機構を超LSI技術研究組合 のような技術研究組合(注17)ではなく、財団 法人とした理由は、以下の三点が考えられる。 @技術研究組合は、試験研究を通じて組合員の 共同利益を追求することを目的としているた め、本プロジェクトのように国際貢献も念頭に 置いている基礎研究プロジェクトでは、より独 立性の強い財団法人という組織が適当であると 考えられたこと(注18)、A技術研究組合は設 立時の目的を達成すると解散してしまうので、 過去の知識が蓄積されない恐れがあることか ら、財団法人として永続的に知識を蓄積できる 組織とすることが妥当と考えられたこと、B第 五世代コンピュータ・プロジェクトの後継プロ ジェクトも引き続き当該財団で研究開発を行う ことが可能となることからも、財団法人が適当 であると考えられたこと(注19)、等が挙げら れる。以上のことから、(財)新世代コンピュー タ技術開発機構が発足した当初から国際貢献を 念頭においた組織作りをしていたことがうかが える。 では、実際に本プロジェクトはどれだけ国際 的に貢献しているのであろうか。国際貢献の度 合いをみる客観的な指標は存在しないが、本稿 では積極的に海外の研究者の受入れを行ってい るか、あるいは、得られた情報を海外に対して 表5 ICOT研究者の研究成果と引用度数 研究者 収録件数 論文引用数 1 4 23 2 9 44 3 10 18 4 22 41 5 5 25 6 1 13 7 3 34 8 1 48 9 0 5 10 9 171 11 5 14 合計 69 436 1人当たり平均 6.3 39.6 組織等 収録件数 論文引用数 (摘出者数) 計 1人当たり平均 計1人当たり平均 ICOT(11名) 69 6.3 436 39.6 A大学B学科(8名) 70 8.8 171 21.4 国立C研究所(12名) 33 2.8 309 25.8 海外D研究所(10名) 29 2.9 184 18.4 (参考)分野がComputerの件数は167,398件、内Japanは7,178件の 文献が収録されている(1995年2月末)。 (注)収録件数とは、「SCISEARCH」に登録されている文献数。 論文引用数とは、例えばICOTの研究者の著作物(収録件数に 数えられている文献とは限らない)を引用しているComputer関 連の文献数。 SCISEARCHに収録されている文献データは1974年〜1994年 の20年間に公刊されたもの。 (出所)DIALOG情報検索サービス「SCISEARCH」 - 123 - 十分公開しているか、という二つの観点から論 じてみたい。前者については、@(財)新世代コ ンピュータ技術開発機構へ来訪した外国人の推 移、A海外研究者招聘数の推移等をみる。後者 については、Bソフトウェア及びTR、TMを 海外へどのように公開しているか、C海外の研 究機関とどのような研究交流を行っているか、 という観点から論ずる(図4参照)。 @(財)新世代コンピュータ技術開発機構へ来 訪した外国人の推移 まず(財)新世代コンピュータ技術開発機構へ 来訪した外国人の推移をみると、初年度でさえ 海外からの来訪者が150人にも及び、海外での このプロジェクトへの関心の高さがうかがえる (表6)。特に1985年頃は世界的なAIブーム となり海外のマスコミ等の来訪も多かった。大 学、産業、専門家の来訪者数は、安定的に推移 しており、海外の研究者の注目度が継続して高 いことが分かる。(財)新世代コンピュータ技術 開発機構の方針として、来訪希望者は国内外問 わず、受け入れることとしていたことも関係し ていよう。 A海外研究者の招聘数の推移 次に(財)新世代コンピュータ技術開発機構 へ招聘された海外研究者の推移を表7に示す。 海外研究者招聘制度は、(財)新世代コンピュー タ技術開発機構が資金を出し、毎年7〜8名の 第一線の海外の研究者を約1ヵ月招聘し、意見 交換及び共同研究を行うことを目的に作られ た。表7をみるとアメリカを始め方々の国々か ら毎年招聘されていることが分かる。プロジェ クト前期では、ロジック・プログラミングの分 野で先駆的な研究を行っていた大家を招聘し、 同機構側が勉強するという色合いが濃かった が、中期以降は同機構の研究成果が具体化され るにつれて、招聘した第一線の活発な若手研究 者と対等の立場で活発な意見交換をするケース が多くなった(岩田[1991])。 上記以外にも、(財)新世代コンピュータ技術 開発機構では、米国国立科学財団(NSF)、仏 国国立情報処理・自動化研究所(INRIA)、英 国貿易省(DTI)の情報工業通産局(IED)と 図4 研究交流と研究開発成果の普及の枠組み - 124 - の間で派遣研究員の受入れに関する覚え書きを 結んでおり、6ヵ月から1年間の期間で研究者 の受入れを行った(注20)。 Bソフトウェア、TR、TM等の海外への公 開方法 ソフトウェアに関しては、内外に無償で利用 を認め、公開している。図5に無償公開ソフト の使用件数(インターネットのアクセス回数) の推移を示す。1995年3月1日現在で無償公開 ソフトの使用件数は約14000件に及びアメリカ を中心に数多くの国々で利用されている。 一方、プロジェクトの切れ日毎には研究成果 表6 海外からの来訪者数の推移 FY アメリカ カナダ フィンラ イギリス オースト フランス ドイツ スウェー その他 合計 ンド ラリア デン 1982 - - - - - - - - - 150 1983 98(25) 13( 4) - 26( 6) - 9( 4) 10( 0) 24( 0) 52( 2) 232( 41) 1984 92(69) 31(27) 27(26) 25(10) 13(11) 15( 9) 18(15) 13( 7) 39(26) 273(200) 1985 84(77) 23(11) 19( 8) 48(29) 6( 5) 29(19) 39(31) 63(58) 127(26) 438(264) 1986 82(63) 17(16) 7( 4) 23(18) 4( 3) 42(40) 45(40) 35(24) 77(19) 312(227) 1987 40(37) 25(22) - 24( 8) 5( 1) 36(36) 26(14) 37(31) 52(24) 245(173) 1988 62(49) - - 21(11) 11( 8) 17(15) 8( 5) 6( 5) 72(47) 197(140) 1989 68(59) - - 19(10) - 5( 3) 44(44) 24(23) 106(64) 266(203) 1990 81(41) 17(10) 5( 0) 32(23) 7( 5) - 20( 8) 4( 4) 35(21) 201(112) 1991 44(40) - - 8( 8) 5( 5) 6( 6) 53(22) 7( 7) 61(45) 184(133) 1992 19(14) - - 3( 3) 6( 4) - 4( 4) 3( 3) 55(37) 90( 65) 1993 12( 9) 2( 2) - 2( 2) 4( 1) - 2(21) 4( 3) 14( 9) 40( 28) (注)ICOTへの海外からの訪問者数を数えた。()内は、大学、産業、専門家の合計。 1982年度の内訳はデータの制約上不明。 (出所)新世代コンピュータ技術開発機構『事業報告書』各年度 表7 ICOTの海外研究員受入数の推移 1982 1983 1984 1985 1986 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 合計 アメリカ 2 1 2 2 3 2 1 2 5 4 4 2 2 32 イギリス 0 4 2 2 1 1 2 1 2 0 1 0 0 16 フランス 0 0 1 0 0 1 2 0 0 1 0 0 0 5 イスラエル 1 1 2 0 0 0 1 0 0 1 0 0 0 6 ドイツ 1 1 0 0 0 1 0 3 1 2 1 0 1 11 カナダ 1 0 1 1 0 0 0 1 1 1 0 0 0 6 スウェーデン 0 1 0 0 0 1 2 0 0 2 2 0 0 8 イタリア 0 0 0 0 0 1 1 0 0 0 0 0 0 2 オーストラリア 0 0 0 1 0 0 0 0 0 0 4 0 0 5 オーストリア 0 0 0 0 1 0 0 0 0 0 0 0 0 1 オランダ 0 0 0 0 0 0 0 1 0 0 0 0 0 1 ポルトガル 0 0 0 0 0 0 0 0 0 1 0 0 0 1 合計 5 8 8 6 5 7 9 8 9 12 12 2 3 94 (注)1990年までは岩田[1991]、1991年以降は新世代コンピュータ技術開発機構の資料による。 ICOTには海外研究者招聘制度があり、これはICOTが毎年7〜8名の第一線研究者を約1ヵ月間招聘し、意 見交換や共同研究を行う制度である。 (出所)岩田[1991]、新世代コンピュータ技術開発機構の資料による - 125 -