ICOT Free Software ニュースレター

平成5年1月27日 第5号

[Table of Contents]




[はじめに]


  ICOT Free Softwareは,海外向けには昨年の8月7日に,日本国内向けには昨
年の9月7日に公開を開始して以来,おかげさまでのべ500人以上の方からのア
クセスがあり,計2000件以上のファイルが転送されました.

  今回のニュースレターでは,来年度以降のICOT無償公開ソフトウェアの公開
体制,ならびにICOTの活動に関してご案内します.

  すでにご案内の通り,第五世代コンピュータプロジェクトは1982年度より開
始され,1992年度末で11年間のプロジェクトを終了することとなりました.こ
のあとを受けまして,今年の4月より,2年間の予定で「第五世代コンピュータ
の研究基盤化プロジェクト」が発足します.ICOT無償公開ソフトウェアに関す
る業務,新たなソフトウェアの無償公開については,来年度以降,この第五世
代コンピュータの研究基盤化プロジェクトで対応することとなりました.



[第五世代コンピュータの研究基盤化プロジェクトについて]


  第五世代コンピュータの研究基盤化プロジェクトは,上にもご案内しました
通り,1993年度より1994年度までの2年間実施される予定です.この第五世代
コンピュータ技術の基盤化プロジェクトの主な目的のひとつは,第五世代プロ
ジェクトで培われてきた並列知識処理技術の普及にあります.

  第五世代コンピュータプロジェクトで研究開発されてきた並列知識処理技術
を用いた数多くのKL1プログラムは,ICOT無償公開ソフトウェアとして公開さ
れてきました.しかし,現在のところ,このようにして公開されたKL1プログ
ラムの実行には,逐次推論マシンPSI-III,あるいは並列推論マシンPIMが必要
となります.ICOT無償公開ソフトウェアの中には,「PSI-IIIのためのKL1擬似
並列システム」がありますが,これを利用するためには逐次推論マシン
PSI-IIIが必要となります.また,「UNIXマシン上のKL1プログラミング環境
PDSS」も公開されていますが,この上で動作可能なKL1プログラムは,処理速
度,機能の面から,きわめて小規模なものしか実行させることが出来ません.
したがって,PDSSはKL1言語の学習には使えるものの,無償公開ソフトウェア
として公開されているようなシステムを実行させることはできませんでした.
したがって,ICOT無償公開ソフトウェアとして公開されているKl1プログラム
を,お手元で実行させることは大変難しい状況でした.

  そこで,第五世代コンピュータの研究基盤化プロジェクトにおいては,この
ような技術普及のボトルネックを解消すべく,KL1言語処理系,並列オペレー
ティングシステムPIMOSをはじめとするKL1プログラミング環境をUNIXベースの
逐次および並列型の汎用マシン上に移植します.このKL1処理系は,KL1からC
へコンパイルする方式を採用する予定で,ハードウェアやオペレーティングシ
ステムへの依存度をできるだけ低くするよう設計されます.このKL1プログラ
ミング環境も,ICOT無償公開ソフトウェアとして公開します.

  現在この処理方式の評価のための処理系を開発中で, 1993年4月にはリリー
スできる予定です.  これはあくまで言語処理方式の専門家が使用するための
もので, デバッグ機能などの開発環境は持っていませんので, 応用プログラマ
向けのものではありません.

  ある程度のソフトウェア開発環境を整えた最初の処理系は,1993年の9月に
リリースされる予定です.この版では,ワークステーション等の逐次型の汎用
マシン用ながら,PDSSと比較して10倍以上高速な処理系となる予定です.

  1994年の4月以降,並列型の汎用マシン用の最初の処理系がリリースされる
予定です.この処理系は,機種に依存した機能を使わないものとなります.さ
らに,その後,機能拡張と改良を予定しています.

  これらのUNIXマシン上の処理系は,並列推論マシンPIM上で動作するKL1言語
とほぼ互換性を持った仕様になる予定です.したがって,これまでICOT無償公
開ソフトウェアとして公開してきたプログラムの基本部分はこれらの処理系上
でも動作する予定です.ただし,逐次推論マシンPSIのオペレーティングシス
テムSIMPOSの機能を利用した入出力部分については,UNIXの機能を利用するよ
うに書き改める必要があります.

  このような第五世代技術のUNIXマシン上での展開と共に,第五世代コンピュー
タの研究基盤化プロジェクトにおいては,第五世代コンピュータプロジェクト
の成果を継承し,次のような知識プログラミングソフトウェアとその応用技術
に関する研究開発を行います.

1) 知識表現言語と知識ベースの管理技術

	知識ベースの管理技術に関しては,並列非正規データベース管理シス
	テムKappa-Pをもとに,UNIX上に移植されたKL1言語処理系上で効率良
	く動作するシステムと,並列推論マシンPIM上で動作するきわめて大
	量のデータを扱うことのできるシステムの実現を目指します.
	このような知識ベース管理システム上で,論理とオブジェクト指向に
	基づく知識表現言語Quixoteの研究開発を行います.この研究テーマ
	では,より高速な処理を目指し,言語仕様,実装方式の検討を行いま
	す.これによって演繹オブジェクト指向データベースを実現し,遺伝
	子情報処理,自然言語処理といった各種応用への展開をはかります.

2) 制約プログラミングや定理証明などの高次推論の技術

	制約プログラミング技術に関しては,より高速な処理と,より高度な
	問題解決を目指して,並列制約論理型言語GDCCの言語仕様,実装方式
	に関する研究を行います.さらに,制約パラダイム自身の応用を探る
	とともに,制約論理型言語に関する理論的検討を行います.

	また,モデル生成による定理証明器MGTPに関しては,並列推論マシン
	PIMの持つ能力をフルに発揮できるような,より高速な定理証明器の
	実現を目指します.またさらに,MGTPをもとにした,新しいプログラ
	ミング言語への展開をはかります.

3) 遺伝子情報処理や法的推論システムなどの新しい知識処理の応用技術

	遺伝子情報処理においては,DNAを構成する核酸の配列や,タンパク
	質を構成するアミノ酸の配列を求める問題である配列の解析,タンパ
	ク質がどのような立体構造をしているかを調べる問題である立体構造
	解析,遺伝子に関するさまざまなデータベースを統合する問題である
	データベースの統合といった問題があります.配列の解析においては
	実際のデータを解析する試みに着手しつつあり,立体構造解析におい
	てはタンパク質の立体構造を分類することにより,立体構造が知られ
	ていないタンパク質の構造の予測問題に取り組みます.さらに,デー
	タベースの統合に関しては,知識表現言語Quixoteを用いて分子生物
	学の知識を記述し,その記述能力を検証します.

	また,法的推論システムにおいては,演繹,帰納,類推といった,さ
	まざまな推論が利用されている裁判などにおいて法律家が行う推論の
	過程を分析し,法的推論のモデル化を試みます.さらに,法的推論シ
	ステムを構築するための基盤技術の開発を目指します.

  これらの研究テーマについて,研究開発活動の中で試作されるKL1プログラ
ムもICOT無償公開ソフトウェアとして公開します.

  以上のような,KL1プログラミング環境のUNIXマシンへの移植,ICOT無償公
開ソフトウェアとして公開済みのKL1プログラムのUNIX上のKL1言語処理系への
順次移植,第五世代コンピュータの研究基盤化プロジェクトにおいて試作され
たKL1プログラムの公開を通じて,第五世代プロジェクトで展開してきた並列
知識情報処理技術を広くご利用いただけるようになります.

  第五世代コンピュータの研究基盤化プロジェクトの発足決定に伴い,ICOT 
無償公開ソフトウェアに関する業務,海外研究交流および広報活動を担当する
「海外渉外・広報担当グループ」が結成されることになりました.このグルー
プは,当面,ICOTの内田,相場,成田,浪越の4人によって運営される予定で
す.第五世代コンピュータの研究基盤化プロジェクトに関するお問い合わせそ
の他につきましては,海外渉外・広報担当グループまで,原則としてe-mailで

                       irpr@icot.or.jp

までお願いします.海外渉外・広報担当グループで出来得る限りお答えしたい
と考えています.

  なお,今後,このような技術普及や第五世代コンピュータの研究基盤化プロ
ジェクトの活動などについてのお知らせは,このICOT Free Software ニュー
スレターを通じて行う予定です.



[ユーザーグループ結成について]


  ICOT 無償公開ソフトウェアとして公開されているソフトウェアに関し, ユー
ザグループを結成し, そのソフトウェアに関する研究, 改良, 改版等を行いた
いとお考えの方がおられましたら, 本ニュースレター末尾の無償公開ソフトウェ
ア担当まで, メールでお知らせ下さい.

  お申し出の内容を, メール, ニュースレター等で告知の上, それに対する反
応を連絡します.

  また, 改版を行った結果, 他のユーザにも有用であると判断され,さらにご
希望があれば無償公開ソフトウェアのFTPサーバーに登録します.



[Common ESPの問い合わせ先]


  Common ESPに関する問い合わせは,下記(株)AI言語研究所までお願いします.


	〒247  神奈川県鎌倉市大船 5-1-1
	       三菱電機株式会社 情報電子研究所 内
	       株式会社 AI言語研究所
	       研究管理部

	       e-mail: cesp-request@air.co.jp
	       FAX:    0467--48--4847



[ICOT無償公開ソフトウェア担当窓口]


  本ソフトウェアに関するお問い合わせ, ご連絡などは原則としてe-mailでお
願いします. また本ニュースレターはe-mailで配布しておりますので, 新規購
読ご希望の方, バックナンバーをご希望の方は, e-mailアドレスを次の宛先ま
でご連絡ください.
			ifs@icot.or.jp

  なお, e-mailがご利用になれない場合, お問い合わせの節は以下の宛先まで
郵便またはファックスでご連絡ください.

	〒108  東京都港区三田 1丁目4番28号
	       三田国際ビル 21階
	       (財) 新世代コンピュータ技術開発機構
	       無償公開ソフトウェア担当
	       FAX : 03--3456--1618

  また, 無償公開ソフトウェアの一覧については, 「ICOT無償公開ソフトウェ
ア一覧 (A4版142ページ)」をご覧下さい. もし, この冊子がお手もとに無い場
合には, 住所をご連絡いただければこちらから郵送いたします.

  皆様のお近くに, ICOT無償公開ソフトウェアに興味をお持ちの方がいらっしゃ
いましたら, 上記窓口までご連絡ください. 同一覧を郵送し, 今後, 本ニュー
スレターを継続してお送りします.

www-admin@icot.or.jp