並列推論研究への本格的展開

後期3年間への跳躍台

ICOT・研究所所長 / 渕 一博



中期プロジェクトの最後の年にあたる1988年5月の第6回「第五世代コン ピュータに関するシンポジウム」は、残された3年間で当初の目標が達成でき るかという「鼎の軽重」を問われる性格を自ずと持つことになった。当初、目 標設定で一大議論があった「従来技術の延長・改良路線を行くか、未踏の次世 代革新技術路線を進むか」で後者を選択した正念場を、後期プロジェクトを目 の前にして迎えることになる。そして、並列推論というかたちの純粋なキーワ ードに絞っていくことになる。

中期計画最後の年

 午後に始まります成果発表のご説明に先立ちま して、総論的なことを若干お話しさせていただき たいと思います。このプロジェクトは、先ほど来 のご紹介のように、現在、中期の段階の最後の年 になっています。来年度から3年間、後期計画に 入っていくという想定です。計画は前、中、後と 非常に散文的な名前づけですが、気持ちとして は、三段跳びの各段階に当たっているのではないか と思います。ホップ、ステップ、ジャンプと行っ て、最後の10年のゴールを節目をつけながら達成 していきたいという気持ちです。

 幸いにして、これまで6年ほど、このプロジェ クトの研究開発に携わった研究者、あるいは協力 していただいた技術者の方々、ICOTの研究所の なかだけではなくて、ICOT研究所を取り巻く多く の研究者、技術者の方々のおかげできました。そ ういう人たちの協力を、うまく成果に結びつけて きたというのは、少し手前味噌ですが、このプロ ジェクトの設定というものがよかったのではない かと思っております。

 このプロジェクトは世界的にも注目されている ものですから、いろいろな評判もあります。国内 はどうかわかりませんが、ときどきは外国の研究 者のなかから、ICOTは問題があるようだがどう なのかと、半ば同情と期待をこめて、非常に致命的 な難問に突き当たっていることを期待されるわけ です。当然ながらプロジェクトでも何でも物事 を進めていくときには問題はあるわけです。いろ いろな問題を解決しながらそれなりにやっていく わけで、そういう種類のことはいっぱいあります が、致命的な問題、大間題はありません。そう申 し上げると、ややがっかりされたような気もしま す。

 周りからの失敗期待というか、失敗願望もなく はない。片方には、ものすごい成果をあげてとい う過大な期待があり、両方の期待の狭間にあるわ けです。とりあえずは非常に中庸を得ています。 世の中が引っくり返ることも、まだできていませ んが、片や、当初から計画していることを大幅に スケールダウンするということではなく、ほぼそ の目標を達成してきていると思います。

並列推論がキーワード

 これから中期の最終年度、国際会議等をやって、 うまく節目をつけたいと思っていますが、そのあ と、後期3年計画。これも先ほどの続きで言いま すと、いよいよプロジェクトも後期ですが、どの ようにまとまりをつけるのかと、心配のあまりに いろいろ聞かれますが、私としては、非常にマク ロな目標は、当初、掲げたとおりでいいと思って います。その目標が中期現在ですでに達成してし まっているというほどおめでたい話ならば、これ はサラサラッと、今年を入れて4年もかけずにま とめればいいわけですが、幸いなことに、非常に 重要な問題をこれからやる。そういう問題を持ち 越すようになっているといっていいと思います。 そういうことで言いますと、これまで6年間、あ るいはあと1年は、実は最後の後期段階の本当の 眼目の研究開発のために、しっかりした準備をや ってきたと思っていいと私自身は思っています。 準備というと、何かいかにもさぼっているように 聞こえるかもしれません。しかし、準備というも のがあって、そこに成果が花開くという目で見ま すと、これまで前期、中期を通していろいろやってきた ことは、立派な土台になっていると思います。そ の土台を踏まえて、後期という展開でいけるので はないかと思っている次第です。

 このプロジェクトをどのように特性づけられる かは、いろいろな表現があると思います。新しい 情報処理のコンピュータ技術の基本を作るのは、 これでいいですが、比較的わかりやすいというの で、フレンドリであるとか、だれにも違和感なく使える とかいったスローガンもあげますが、もう少し技 術論的に言いますと、私は最初からそちらの表現 を取り続けていますが、一言で言いますと、並列 推論がこのプロジェクトの基本的なキーワードで す。並列と推論、あるいは並列推論というのは、 当初からの話です。この目標に向かって準備が整 ってきて、これから1年弱、それから後期の3年 間をかけて並列推論の基本技術ができるのではな いかと思います。

中期は並列推論研究の基礎づくり

 いろいろな研究が論文の形になっています。それ がメインの成果ですが、わかりやすい例で言いま すと、前期段階では、逐次型推論マシンPSIを開 発しました。あるいはその上のオペレーティングシス テム、SIMPOSというものを論理型言語を使っ て作りました。もちろんそのほかの自然言語とか、 あるいはプログラム基礎論という研究もあったの ですが、そういう時代だったのです。

 前期を非常に大まかに言いますと、そういう研 究用のツールを作る、あるいはその後の研究の ための基礎研究的な勉強をするという段階でし た。これが前期の3年間であったといっていいと 思います。その段階は手前味噌で言いますと、ま あまあの成果をあげて通過しました。

 中期は、前期の成果を踏まえて研究を展開して いますが、たとえばそのうちの一つは、並列論理 型言語、あるいは推論をべースにしたソフトウェ ア技術、あるいは知識情報処理システムの雛型と いうことであったわけです。中期というものを位 置づけるとすれば、並列推論の研究ができるため の基礎を作ることをやってきたといっていいと 思います。実物は、まだ非常に大きいのでこの会 場には持ち込んではいませんが、マルチPSIとい う本当の並列推論マシンの一つ手前ですが、並列 ベースのソフトウェアの研究をするための土台と してのマルチプロセッサ、一応64台のマルチプロ セッサですから、まあまあの並列を持っているも のもできてきました。あるいはその上でのPIMOSと いう並列マシンのためのオペレーティングシステ ムの構想もまとまってきた段階にあります。

 その上の層の研究で言いますと、論理型言語の 上でのプログラム変換であるとか、あるいは自然 言語の意味論のモデルの展開とか、今日、明日に かけてお話しするようなことをあげることができ ると思います。

まず並列推論マシンのモデルに取りかかる

 後期の並列推論のいちばん下のレイアーはマシ ンアーキテクチャということで、並列推論マシンの ハードウェアモデルに、前期、中期でやっていた 知識ベースマシン的なアーキテクチャも統合した 意味での並列推論マシンのモデルに取りかかります。

 何百、何千台とプロセッシングエレメントをつな ぐだけではなくて、技術的にいちばんポイントに なると思われますのは、そういうものをうまく使 いこなすことで、先ほどの猪瀬博先生のお話ですと 情報分割等を含めた並列のマシン環境をどうオー ガナイズしていくかというソフトウェア的な研究 です。

 これまでの研究は、だいたい普通の逐次型マシ ンの上のシミュレーションレベルです。

 ご存じのようにシミュレーションは、実時間に 比べて何十倍、場合によっては何千倍遅くなるわ けです。たったそれだけかということですが、実 マシンでたとえば1日かかるぐらいの大仕事があ ったときに1000倍すると3年間かかるというわけ で、シミュレーションで3年かけるのと、1日で すむ違いはべらぼうな違いです。そのへんのけた の問題は大間題です。

 ですから、これまでも研究してきましたが、本格 的な並列推論のソフトウェアの研究は、マルチ PSIのような土台ができる今年から始まる。さら に新しい研究環境もできるわけですが、そういう ものができたあとの展開を私としては大いに期待 したいと思います。人間は環境に支配されるわけ で、並列の研究だって頭がよければシミュレーショ ンレベルでできるなどとおっしゃっている若手、古 手の研究者がいっぱいいらっしゃいますが、私は、 それは単なる観念論にすぎないと思っています。

 本当に環境ができたときは、人間は非常にすご い力を発揮することが多いわけです。私はそれを 期待しているわけです。天才でなくても創造的な ことができると思います。技術史とか科学史をひ もとけば、なぜか後世、天才と呼ばれる人も生ま れてきている。だけど、そのほかに何十人、何百 人の秀才たちも控えているということは、すぐ見 えてきます。別に天才を待たなくても創造は十分 可能です。そのためには、しっかりした研究環境が 必要です。その準備も着々と整ってきているとい ってよろしいかと思います。

 そんなことで、いまの段階は後期に跳躍するた めのしっかりした足固め、あるいは踏み台という もので、少々、乱暴に踏みつけても揺るがないよ うな土台ができてきつつある段階だと思っている 次第です。

不器用だが本音を保つ

 並列推論という設定は、簡単なスローガンです。 プロジェクトの始めから、あるいはこのプロジェ クトの6年間をかけても繰り返し言っていることで す。簡単なスローガンですが、しかし、これはど こかから借りてきたスローガンではなくて、コンピ ュータの技術、あるいは情報処理の技術の基本に ある歴史的な展開段階を十分に踏まえている。あ るいはほかの要素技術とのかみあいをいろいろ分 析したうえで、ぐっと絞っていった最後のキーワ ードです。そういうキーワードが作れるとい うことは、逆に言いますと、技術がたぶん近いう ちに新しい段階に進化発展していく、飛躍的に進 化していくことを表しているのではないかと思い ます。

 並列推論というのは、技術的なキーワードですが、 情報処理に対するいろいろな社会的なニーズ、技 術的なニーズ等々と、非常に整合性よくつながっ ていく。どのような役に立つのかという物語を展 開するとすれば、それも十分可能なのです。 

 研究プロジェクトですから、当然、危険性もあ るわけで、危険性も可能性も両方とも正直に言う。 その上で理解を得てやっていかないとうまくいか ない。研究内容自体に非常に難しい冒険的なこと があるわけですから、口先で甘いことを言ってい て、しかも高度な研究ができるというほど人間は 優秀にはできていないと思います。

   そういう観点で言いますと、このプロジェクト をまがりなりにもやってこれたのは、関係のいろ いろな方のご理解、ご支援、あるいは研究者、技 術者の努力ということがあります。一方では、中 心にある理念というものを頑固に持ち続けてきま した。昨年はこれを不器用なプロジェクトだと申 し上げたと思いますが、不器用に、理念的なもの、 あるいは本音というものを保ってきたことが、摩 擦も起こしたようですが、研究を6年間育ててきた 枠組みとしてあるのではないかと思います。

 そういうことで考えてみますと、プロジェクト、 特にナショナルプロジェクトをどう設定するかで すが、何でもやるように設定するのは必ずしもい いことではない。一つの中心的な理念が立つ、統 一理念が立つ、その枠で研究計画も立て、あるい は運営方針も決めることが、本来必要です。幸い にして、このプロジェクトはそういう理想に近い 線でこれたと思います。

民間に任せるものは任せる

 この6年間に研究計画の見直しを進めてまいり まして、時期ごとにテーマの整理、あるいは切り 離しもやってきたこともよかったのだろうと思い ます。よくお前のところのプロジェクトはこうい うテーマをやっているかとか、これはやっていな いのかと聞かれます。それは大事な問題だけれど やらないと言うと、実に残念な顔をされて、こん な大事なことをやらないのはけしからんというよ うなことがけっこう多くて、そういうものを単純 に足し算しますと、一つのプロジェクトで世の中 のすべてをやらなくてはいけないことになってし まいますが、それは不可能です。

 あるいは逆に言いますと、世の中はもっと広い わけで、いい意味での分業も行われる。そういう ことの上にも乗っかってきていると思います。今 年はそれほど言わなくていいようですが、人工知 能に関するブームがあって、皆さんいろいろ勉強 して、特にエキスパートシステム系は、一部実用 になるというので努力が始まったのが数年来の状 況です。現在のコンピュータの上に立つエキスパ ートシステム自体は、ICOTというか、FGCSで はやらないという表現の仕方もしてきました。こ れは別に現用機の上でのAIシステムの価値を減 ずるものではないわけです。

 私の言い方が悪いのか、けなしているように聞 こえるといって叱られますが、そうではなくて、 そのレベルのものは、たとえば日本では、すでに 民間企業のレベルで十分展開できるし、むしろそ うしたほうが伸びるということです。そういう体 験からも、将来の並列推論をべースにした知識情 報処理に対するフィードバックは期待できます。 現在レベルのものを全部一つのプロジェクトに取 り込んでやらないと、われわれの狙っているゴー ルが達成できないかというと、そうではない。世 の中全体としてはそうなるわけですが、プロジェ クトとしては、この部分は、まさに民間の活力と いうか競争、あるいは生々しい現場とのつながり に任せていいという割り切りです。

延長・改良か未踏の新技術かの選択

 これは、たぶん昨年と一昨年ぐらいの話題でし たが、今年はちょっと状況が変わっているかと思 います。時間がないので、うまく展開できるかわ かりませんが、一つ、右のほうの話題がある。そ の代表格は坂村健さんのトロン計画です。トロンと 第五世代プロジェクトはどのような関係があるのか というようなことを聞かれることもあります。短 い時間で表現しますと、また誤解を招くかもしれ ませんが、トロンが目指すところは、表面的には、 五世代プロジェクトのキーワードとよく似ていま す。皆が使いやすいものだというようなこともあ ります。そういうところで実は同じ理想を追求す るものであるといっていいわけです。坂村さん自 身、第五世代プロジェクトの準備段階では、非常に アクティブな委員の一人であったわけです。

 ご存じのように、第五世代プロジェクトを発足さ せるとき大きな別れ道があった。その一つは従 来技術の延長、あるいは改良です。その路線をと るのか、あるいは従来技術は、もうある程度土台 ができて、世の中でどんどん技術が進む。そこに 任せておいては、未踏であり、あるいは危険である かもしれませんが、次の技術を目指すかという 大きなブランチがあったのです。トロンあるいは ほかのいくつかの名前をあげることができますが、 それらは、準備段階でどちらをとるかという議論 のあとで、プロジェクトとしては、切り離してお いてきた部分です。

 これは世の中としては大事な部分でもあるわけで、 それを切り捨てたことのマイナスもあるかと心配 していたのですが、幸いなことに、坂村さんほか、 がんばっていただいて、そういう路線の継承で計 画を作って、それが世の中の人の賛同を得て進 んでいる。私にしてみれば、やや心配であったこ とが、別の方策で埋められるかもしれないという 部分に相当しています。

 技術論的にいいますと、トロン的なOSである とか、あるいはトロンチップは、ご存じのように 現在の技術から飛躍的に離れたものでなくて、む しろ着実に少し改良している。いまの技術でもも う一度OSあるいはチップから再構成すれば、こ んなにすっきりいくという話です。過去のしがら みを負っていろいろなものをくっつける汚らしい 技術に、いまなっているのを、もう一度整理すれ ばどうかという発想と位置づけていいのではない かと思います。そういう意味では、非常に意味が ある。そういうことができれば、現在のフォン・ ノイマン的な技術というのも、まだ可能性が残っ ていますし、その可能性をもう少し有効に使うこ とができる。そういう位置づけでいいと思ってい ます。

第五世代とニューロコンピュータ

 今年のもう一つの話題は、トロン的なものが右 翼的な話題であるとすると、左翼的なものだと思 いますが、ニューロコンピュータブームが出てき ています。この動きをどのように位置づけるか。

 第五世代プロジェクトを進めるにあたって、従来 路線をほかのところに任せてというので、切り離 しているわけですが、もう一つ切り離している部 分があります。これはパターン認識的な問題、そ ういう研究テーマ、およびそれを支えるアーキテ クチャという問題は別に切り離している。現在の コンピュータ、あるいは第五世代でいう並列推論マ シン、これはハードとソフトを含めてですが、記 号処理技術の体系として考えているわけです。で すから大前提は記号という情報があり、その記号 的な情報をどう扱うかということです。

 ところが、ご存じのように、記号がどこにある かというと、頭の中にあるし、コンピュータの中 にもあるようですが、世の中のどれが記号かと いうのはわからない。むしろ、そこにあるのは、 物理的な画像であったり、音響であったりします。 それが観測者によっていろいろ組織化されて、初 めはぼやけた何らかのパターンがさらに集約され て、こういう記号というように、だんだんと抽象 化されていくという過程です。そのパターン認識 的な部分は、記号化をする過程です。記号化する 過程が記号による記号過程であるのか。何か哲学 的な言葉の遊びになりますが、そういう問題があ るわけで、この二つは非常に両方とも大事だし、 密接に関連していますが、同じアプローチではい けない、進めることができないだろうというのが、 私の主張であったわけです。

 ということで、そこのところも実は横に置いて あった部分ですが、私の位置づけではニューロコン ピュータ的なものは、その部分に相当する非常に 新しいおもしろそうな動きではないかと思います。 パーセプトロン的なものが、極端におとしめられ ていた時期が長く続いて、それに対する復活とし て、いまは逆に異常に期待を持たれていると思う のです。第五世代のなかで取り上げるには、時間的 な問題としてもそぐわないと思うのですが、こう いう技術の見直し、あるいは研究が行われること は、私個人としては、期待しています。

 ただ非常に大事だと思うのは、技術の現状は正 確に見たうえで、そういうものをバックアップす るような体制がないといけないということです。 すぐにでももうかる、株が上がるというようなこ とで、そういう研究開発が続けられるとすれば、 かなり早く挫折するだろうと思います。しかし、 それを超えて、バックアップすることができれば、 やはり大きな可能性を秘めているものだと思いま す。技術論的に言うと、たまたま、バック・プロ パゲーションとか、その他のテクニックがあって、 ブレークスルーがあったのですが、人間あるいは 動物からすると、まだごくローカルなモデルであ ることは、やっている人は全部ご存じだと思います。

 脳の中はだれも見たことがないのですが、やは りある程度構造化されている。機能分化されてい るということは結果的には明らかです。これが遺 伝子情報で構造化されているのか、いまのニュー ロコンピュータふうにモニョモニョとやっているう ちに、ここは言語野であり、ここは視覚野という ように分かれてくるのかは、だれもわかりません。 しかし、分子生物学者は脳の構造に対する遺伝情 報の影響を追求しようとしているわけで、そうい うものとのつながりも大事だと思います。

 いまのフラットなニューロモデルは、うまくい く部分が見つかったことは非常にすばらしいこと ですが、それがすべてではないと思います。

われわれは革新的な技術を担う

 そういうことで、AIブームというものに取り 囲まれて、いろいろ聞かれたこともありますし、 最近では、片方におけるトロンの順調な進歩、あ るいはニューロコンピュータの台頭ということで 聞かれることが多いのですが、私としては、心配 な部分が減ってくる。ほかのだれかがうまくやっ てくれればいいなと思っていた部分に、なかなか いい動きが進んできたと評価する次第です。

 第五世代プロジェクトというのは、何もかもやる プロジェクトではなくて、われわれが狙う技術の いちばん革新的なところ、その中心を攻めるとい う気持ちで、後期はさらにやっていく。中期段階 までですと、逐次型的な技術で、これは研究方法 諭上は、当然使っていいわけですが、中間目標と して、そういうものも含まれていましたが、後期 からは並列推論というかたちの純粋なキーワード に絞っていく。その上でハードウェア・アーキテ クチャ、それから基本的なソフト、知識プログラ ミング等々と呼んでいるような並列プログラミン グ、あるいは並列マシンのためのオペレーティン グシステム、それから自然言語処理の意味論モデ ル、これも並列と言いたてなくとも、本来的に自 然な並列性があるだろうと思いますので、それを 発見することもしなければいけないわけです。

 人間とのインタフュースにかかわるもの、ある いはそういうものをべースにした2、3のもの、 典型的なしっかりした規模の実証的なもの、アプ リケーション分野から問題を拾ってきて、基本技 術にフィードバックするような問題を手がけてみ る。このようにすっきりした計画にしてやれれば いいのではないか。そうすれば、6年前に立てた 目標はかなり野心的ですが、その中心的な部分、 本当の目標は達成される可能性は十分にあると思 います。ただ、そのようにうまく整理できるか。 世の中は整理しすぎるといろいろ摩擦も起こるわ けですが、そのへんの妥協の度合が少ないほどプ ロジェクトの結果はいいと思います。逆も言える わけで、妥協度がある限度を越せば、たぶん当初 目標は絶望的になるかもしれない。しかし、その ように悲観的に考える必要もないと思います。

 最後ですが、私としては、この6年間で、ある いは今年度を含めて目標達成のための十分な土台 ができつつあると思っています。手がけることは、 絞り込んでまさに核中の核の非常に大事な一つだ ろうと思います。そういうことで、皆様には、さ らにこのプロジェクトの内容、進め方などにご理 解をいただいて、ご協力、あるいは応援等をいた だければ幸いです。